4) メキシコにおける調査結果
メキシコシティにて80人の専門家を調査対象とし、その専門家が派遣された受入機関に対して質問票による調査を実施した。調査対象となる派遣専門家は1998年4月以降派遣され、2000年11月末までに帰国した専門家とした。主な調査項目は、同一案件への専門家の長期的派遣の妥当性、現地ニーズと専門家の能力・専門性の適合性、語学力の問題、専門家評価の問題点(事前の審査・選考から事後の評価まで)、費用対効果、専門家の支援体制、待遇の問題である。
(1) 調査概要
調査票配布数: | 80件(長期専門家:28件、超短期・短期専門家:24件) |
回答者: | 専門家受入機関の元C/P |
調査票回収数: | 54件 |
回収率: | 67.5% |
(2) 以下の5つの視点により、各設問項目を分析した。各視点の区分は以下の通り。
カテゴリー | 文中表記方法 | 回答者数 | % | |
期間別 | 1ヶ月未満 | 超短期 | 12 | 23.1 |
1ヶ月以上 1年未満 | 短期 | 12 | 23.1 | |
1年以上 | 長期 | 28 | 53.8 | |
スキーム別 | プロ技 | プロ技 | 48 | 88.9 |
個別専門家派遣 | 個別 | 6 | 11.1 | |
派遣省庁別 (旧名称) |
通商産業省 | 通産省 | 21 | 38.9 |
農林水産省 | 農水省 | 5 | 9.3 | |
労働省 | 同左 | 10 | 18.5 | |
運輸省 | 同左 | 0 | 0 | |
環境庁 | 同左 | 3 | 5.6 | |
上記以外の省庁 | その他 | 3 | 5.6 | |
国際協力事業団派遣 | JICA | 12 | 22.2 | |
所属別 | 国家公務員・地方公務員・特殊法人 | 公務員 | 19 | 35.2 |
民間・自営・無職 | 民間 | 34 | 63.0 | |
国際協力事業団 | JICA | 1 | 1.8 | |
事業区分別 | 計画・行政 | 11 | 20.4 | |
鉱工業 | 20 | 37.0 | ||
社会福祉 | 1 | 1.9 | ||
商業・観光 | 1 | 1.9 | ||
人的資源 | 11 | 20.4 | ||
農林水産 | 5 | 9.2 | ||
保健・医療 | 5 | 9.2 | ||
その他 | 0 | 0 |
1. 同じ派遣機関から派遣されている回数(何代目の専門家であるか)
長期専門家の設問対象者28人中21人が回答しており、「1回」が61.9%と最も回答が多く半数以上を占めている。
検定*1によって有意差がみられたのは、「所属機関別」と「事業区分別」であった。詳細を分析すると、「所属機関別」の場合、「民間」では「1回」が80.0%を占めているのに対し、「公務員」では16.7%と最も回答が少ない。また、「事業区分別」の場合、「計画・行政」「鉱工業」では「1回」が100%なのに対し、それ以外では「2回」「3回以上」の回答も含まれ、「商業・観光」では「3回以上」が100%を占めている。(詳細は添付資料参照)
2. 引継ぎ期間(実態)
3名の長期専門家に関して受入機関(元のC/P)が回答した中で、2人が「引継ぎ期間は充分にあった」、1人が「引継ぎ期間はある程度あった」と回答している。
3. 専門家のTORの変遷
3名の長期専門家に関して受入機関(元のC/P)が回答した中で、2人が「前任者と引継ぎ者のTORには充分なリンクがあった」、1人が「前任者と引継ぎ者のTORのリンクは非常に弱かった」と回答している。
4. 専門家派遣の目的の明確性
3名の長期専門家に関して受入機関(元のC/P)が回答した中で、2人が「明確な目的はなかった」、1人が「明確な目的があった」と回答している。
5. 専門家派遣を要請した機関(人物)(複数回答可)
28人の長期専門家に関し受入機関から25人の回答があり、半数以上の56.0%が派遣要請を行った機関は「b. 日本大使館/JICA在外事務所」であると回答している。次いで「a. 所属組識」(36.0%)、「d. 任期を終える前の日本人専門家」(23.4%)という順に回答数が多い。全体的に日本側から要請があげられるケースが多い。
6. 専門家候補者決定後の派遣受入の拒否(可否)
これは、専門家候補者が受入側にとり適格者でないと判明した場合を想定した質問である。28人の長期専門家に関し受入機関から23件の回答があり、半数以上の56.5%が「c. 拒否できない」と回答している。次いで「a. 拒否できる」が30.4%を占めた。
7. 専門家の専門性・能力と受入機関のニーズのマッチング
ニーズのマッチングについて、「5. 非常にマッチしていた」~「1. 全くマッチしていなかった」の5段階評価で、全体の平均値は4.5であり、専門家の専門性・能力は受入機関のニーズと概ねマッチしていたという評価であった。「5. 非常にマッチしていた」と68.5%が回答しており、「4. ほぼマッチしていた」(18.5%)と合わせると、9割弱がニーズとの適合を認めていることがわかる。
検定*1によって有意差がみられたのは、「派遣省庁別」「事業区分別」であった。「派遣省庁別」の場合、「通産省」「JICA」等では「5. 非常にマッチしていた」が8割以上を占めるが、「労働省」では2割であった。「事業区分別」の場合も、「計画・行政」「鉱工業」等では「5. 非常にマッチしていた」が8割以上を占めるが、「人的資源」では3割弱であった。
7-2. ニーズがマッチしていない場合の考えられる原因(複数回答可)
(設問7で、「c. ある程度マッチしていた」「d. あまりマッチしていなかった」「e. 全くマッチしていなかった」と回答した人のみを対象とした設問である。)
設問7で「c」「d」「e」と回答した人数は7人であった。ニーズのミスマッチの原因として42.9%の回答者が「a. 専門家の専門性・能力に関する情報が不足していた(情報不足)」と、情報の「量」面での不足を指摘している。次いで多かったのは、「b. 専門家の専門性・能力に関する情報が間違っていた」「d. 専門家の能力や専門性が期待した以下(期待はずれ)だった」「e. その他」(3者ともに同じ回答数)で28.6%が回答している。
7-3. ニーズがマッチしていない場合のJICAへの報告方法(複数回答可)
(設問7で、「c. ある程度マッチしていた」「d. あまりマッチしていなかった」「e. 全くマッチしていなかった」と回答した人のみを対象とした設問である。)
設問の対象者7人中6人が回答した。その中で、ニーズのミスマッチが判明した場合、「a. 特別何もしなかった」が50.0%と半数を占めており、次いで多かったのは「d. その他」(33.3%)で、JICA事務所へ相談するような行動は少なかったことがわかる。
7-4. ニーズがマッチしていない場合のJICAのリアクション(複数回答可)
上記と同様に設問の対象者数は7人であり、そのうちの1人が回答した。JICAのリアクションとしては、「c. その他」であった。
8. 専門家の専門性・能力と受入機関のニーズのミスマッチ解消に向けての提言(複数回答可)
最も回答が多かったのは、「b. 受入機関が2~3人の候補者から選考できるようなシステムを導入する」であり、回答者数の86.1%がこれを支持している。また、11.1%は「a. 専門家が決定される前に、受入機関のニーズをダブルチェックする」をニーズのミスマッチを防ぐ手段として有効であると考えており、情報提供の必要性は非常に高いといえる。
9. 専門家の言語能力
専門家の言語能力に対する評価は、「5. 非常によい」~「1. よくない」の5段階評価で、平均値が3.9であった。最も回答が多かったのは「5. 非常によい」の37.0%であり、次いで「4. よい」の27.8%であった。比較的、言語能力の評価は高いといえる。一方で、「1.よくない」「2. あまりよくない」と評価された専門家も計11%程度存在する。したがって、一部の専門家の語学力には問題があると言えよう。
検定*1の結果より派遣省庁別、所属機関別において、専門家の言語能力に有意差があると判定できる。具体的には、「JICA」「通産省」「環境庁」においては、専門家の言語能力の評価が高い(平均4.0以上)。また、「民間」では半数以上の52.9%が「5. 非常に良い」と評価されているのに対し、「公務員」では「3. 普通」が最も多く36.8%となっている。(統計データの検定結果は添付資料を参照)
10. 専門家とのコミュニケーションの頻度
専門家とのコミュニケーションの頻度は、比較的高い数値を示している。回答数が最も多かったのは、「5. 公式な会議は毎週開く/非公式な意見交換等はほぼ毎日行う」(71.2%)で7割以上が頻繁に専門家とのコミュニケーションを図っている。次いで多かったのは、「4. 公式には月2回/非公式には週に2~3回」の15.4%であった。
検定*1により、「派遣期間」によってコミュニケーションの頻度に差があるという結果を得た。「超短期」「短期」では、共に回答者の100%が「5」と回答したが、「長期」では約半数の53.6%が「5」と回答した。
また、同様に「派遣省庁別」「事業区分」においても、コミュニケーション頻度に差があるとの結果を得ており、それぞれ「通産省」(平均4.9)や「鉱工業」(平均5.0)などで非常に高い回答を得ている。
11. 専門家が将来再度派遣される場合の当該専門家への言語能力面でのアドバイス
これは、言語能力に関するより率直な評価を引き出すための質問である。最も多い回答は「5. 新たな準備は必要ない」(46.3%)であり、半数近くの受入機関は、専門家の言語能力に対して問題を感じていない。また、「1. 同じ人物を推薦しない」(1.9%、1機関)「2. 数ヶ月の言語のトレーニングが必要」(9.3%、5機関)を合わせても11%程度であり、上記の項目9.と同程度の評価結果が出ている。
検定*1により、所属機関別における「言語に関する対応・提言」内容に差があるという結果が得られた。「民間」では、61.8%が「5. 新たな準備は必要ない」というレベルであるが、「公務員」では47.4%が「3. 月一回程度のトレーニングが必要」だと認識されているケースが多い。(検定結果の詳細は添付資料を参照)
12. JICAに対する専門家の評価報告
14(27.5%)の受入機関が専門家の評価についてJICAへフィードバックしているが、37(72.5%)の受入機関は実施していない。
12-2. 受入機関による専門家の評価への関与
設問12で、「a. JICAへ専門家の評価結果を報告している」と回答した人のみ本設問に回答。
設問対象者14人中、全員が「a. 充分な評価ができていた」と回答した。
12-3. 専門家の評価をJICAへ報告していない場合の見解
設問12で「b. JICAへ専門家の評価結果を報告していない」と回答した人のみ対象とした設問。
設問対象者37人中、全員が回答し、そのうちの86.5%が「a. 評価をすべき」であると考えている。その一方で、「b. 評価を実施する必要はない」(13.5%)いう回答もある。
12-4. 専門家評価制度への提言(複数回答)
評価の提言として、最も多かった回答は「a. 日本側との共同で記入する専門家の専門家の実績に関する評価シートの導入」(66.0)であり、7割近くの受入機関が評価シートの導入に関心をもっている。次いで多かったのは「c. 日本側と共同で評価を実施する」(24.5%)であった。
13. 日本以外からの専門家との比較
「e. 日本以外から専門家を受入れていない」という回答が一番多く、98%であった。それ以外には「d. わからない」が2.0%のみであった。
14. 専門家派遣事業の効果(長期専門家派遣と他のスキームとの比較)
(本設問は長期専門家(28人)のみを対象としている。)
a. 長期専門家は1チーム5名で構成される短期派遣チームより効果的であるか
設問対象者28人のうち17人が回答し、「a. 長期専門家の方が効果的」(58.8%)が「b. 短期専門家の方が効果的 」(41.2%)を上回っている。
b. 長期専門家はUS$150,000相当(註:長期専門家の1年間の派遣費用)の機材供与あるいは補助金より効果的であるか
設問対象者28人のうち20人が回答し、90%が「b. 機材供与/補助金の方が効果的」と回答している。また、残りの10%が「a. 長期専門家の方が効果的」と回答している。
c. 長期専門家は日本で5人のC/Pの研修を行うより効果的であるか
設問対象者28人のうち14人が回答し、85.7%が「b. 日本でのC/P研修のほうが効果的」と回答している。また、残りの14.3%が「a. 長期専門家の方が効果的」と回答している。
15. 専門家派遣事業の成果(複数回答可)
成果として77.8%の回答者が「d. C/Pの知識・技術レベルの向上」をあげている。次いで「e. C/Pのモチベーションの増加」の66.7%、「a. マニュアル・ガイドラインの作成」の48.1%であった。
16. 専門家の受入機関への貢献度
5段階評価で全体の平均値は4.0で、回答数では「4. かなり貢献した」と評価した回答者が50.0%と最も多かった。次いで多かったのは「5. 非常に貢献した」の32.7%である。「3. 貢献した」「2. あまり貢献しなかった」にもそれぞれ13.1%回答している。「1.全く貢献しなかった」は、最も少ない3.8%であり、全体的に貢献度は比較的高いといえるが、一部の専門家の資質や実績には問題がある。
また、検定*1では、スキーム別、派遣省庁別、所属別、事業区分別によって優位差はみられなかったので、各区分別で貢献度に対する差があるとはいえない(詳細は添付資料参照)。
*1註: | 「検定」とは正確には、「統計的仮説検定」のことである。ある仮説が正しいかどうかを統計学的に判定するための手法であり、例えば「2つの集団の身長の平均値が同じかどうか」などの仮説が正しいかどうかについて結論を導き出す。また、仮説を採択するかどうかを調べるために、一定の基準を設定する。これが有意水準であり、ここでは95%とした(α=0.05:同じような状況下で検定を行うと20回に1回は決定を誤る危険性があることを意味する)。仮説検定には様々な手法があるが、ここでは順位尺度の場合用いられるノンパラメトリック検定を活用し、グループ間で分布の度合に差があるかどうかを検証した。比較したいグループが3つ以上ある場合は、Kruskal-Wallisの順位和検定を使用し、比較したいグループが2つの場合は、Mann-Whitneyの検定を使用した。従って、ここでは派遣期間別、派遣省庁別、所属機関別、事業区分別ではKruskal-Wallisの順位和検定を、スキーム別ではMann-Whitneyの検定を活用した。 |