3) フィリピンにおける調査結果
マニラで80人の専門家を調査対象とし、その専門家が派遣された受入機関に対して質問票による調査を実施した。調査対象となる派遣専門家は1998年4月以降派遣され、2000年11月末までに帰国した専門家とした。主な調査項目は、同一案件への専門家の長期的派遣の妥当性、現地ニーズと専門家の能力・専門性の適合性、語学力の問題、専門家評価の問題点(事前の審査・選考から事後の評価まで)、費用対効果、専門家の支援体制、待遇の問題である。
(1) 調査概要
調査票配布数: | 80件(長期専門家:24件、超短期・短期専門家:56件) |
回答者 | 専門家受入機関の元C/P |
調査票回収数: | 64件 |
回収率: | 80% |
(2) 以下の5つの視点により、各設問項目を分析した。各視点の区分は以下の通り。
カテゴリー | 文中表記方法 | 回答者数 | % | |
期間別 | 1ヶ月未満 | 超短期 | 29 | 45.3 |
1ヶ月以上 1年未満 | 短期 | 7 | 10.9 | |
1年以上 | 長期 | 28 | 43.8 | |
スキーム別 | プロ技 | プロ技 | 48 | 75.0 |
個別専門家派遣 | 個別 | 16 | 25.0 | |
派遣省庁別 (旧名称) |
通商産業省 | 通産省 | 7 | 10.9 |
運輸省 | 同左 | 13 | 20.3 | |
農林水産省 | 農水省 | 9 | 14.1 | |
建設省 | 同左 | 5 | 7.8 | |
厚生省 | 同左 | 4 | 6.3 | |
上記以外の省庁 | その他 | 11 | 17.2 | |
国際協力事業団派遣 | JICA | 15 | 23.4 | |
所属別 | 国家公務員・地方公務員・特殊法人 | 公務員 | 33 | 51.6 |
民間・自営・無職 | 民間 | 30 | 46.9 | |
国際協力事業団 | JICA | 1 | 1.6 | |
事業区分別 | 計画・行政 | 4 | 6.3 | |
公共・共益 | 22 | 34.4 | ||
鉱工業 | 5 | 7.8 | ||
社会福祉 | 0 | 0.0 | ||
商業・観光 | 1 | 1.6 | ||
人的資源 | 6 | 9.4 | ||
農林水産 | 14 | 21.9 | ||
保健・医療 | 11 | 17.2 | ||
エネルギー | 1 | 1.6 | ||
その他 | 0 | 0.0 |
1. 同じ派遣機関から派遣されている回数(何代目の専門家であるか)
長期専門家の傾向は、「1回」が42.9%と最も回答が多く回答者数の半数を占めている。「2回」「3回以上」ともに28.6%であった。検定*1によって有意差がみられたのは、「派遣回数と推薦省庁」であり、詳細を分析すると、「運輸省」「その他の省庁」では他の省庁よりも派遣回数が「2回」「3回」と多くなる傾向がみられる。また、反対に平均派遣回数が比較的少ないのは、「通産省」等となっている。(詳細は添付資料参照)
2. 引継ぎ期間(実態)
8名の長期専門家に関して受入機関(元のC/P)が回答した中で、その半数が「引継ぎ期間はほぼ充分あった」と回答している。
3. 専門家のTORの変遷
8名の長期専門家に関して受入機関(元のC/P)が回答した中で、その半数が「前任者と引継ぎ者のTORには充分なリンクがあった」と回答している。次いで回答が多かったのは、「ある程度リンクがあった」の25.0%であった。
4. 専門家派遣の目的の明確性
7名の長期専門家に関して受入機関(元のC/P)が回答した中で、全員が「明確な目的があった」と回答している。
5. 専門家派遣を要請した機関(人物)(複数回答可)
設問の対象となる長期専門家28人のうち、60.7%が派遣要請を行った機関は「a. 所属機関」であると回答しており、要請主義の特色が出ているといえる。次いで「b. 日本大使館/JICA在外事務所」「d. 任期を終える前の日本人専門家」が23.4%となっており、相手国の実施機関のみならず、日本側からも要請があげられるケースが2割強あることがわかる。
6. 専門家候補者決定後の派遣受入の拒否(可否)
設問の対象となる長期専門家28人のうち24人が回答した中で、その半数が「a. 拒否できる」と回答している。次いで「b. 拒否できるが実際には困難」が約4割を占めた。
7. 専門家の専門性・能力と受入機関のニーズのマッチング
ニーズのマッチングについて、「5. 非常にマッチしていた」~「1. 全くマッチしていなかった」の5段階評価で、全体の平均値は4.4であり、専門家の専門性・能力は受入機関のニーズと概ねマッチしていたという評価であった。「5. 非常にマッチしていた」と57.8%が回答しており、「4. ほぼマッチしていた」(23.4%)と合わせると、約8割がニーズとの適合を認めていることがわかる。派遣期間別等の5つの角度からの検定*1を行ったが、派遣期間別、スキーム別、派遣省庁別、所属別、事業区分別の差はみられなかった。
7-2. ニーズがマッチしていない場合の考えられる原因(複数回答可)
(設問7で、「c. ある程度マッチしていた」「d. あまりマッチしていなかった」「e. 全くマッチしていなかった」と回答した人のみを対象とした設問である。)
設問7で「c」「d」「e」と回答した人数は12人であった。ニーズのミスマッチの原因として50%の回答者が「a. 専門家の専門性・能力に関する情報が不足していた(情報不足)」と、情報の「量」面での不足を指摘している。次いで多かったのは、「d. 専門家の能力や専門性が期待した以下(期待はずれ)だった」と33.3%が回答している。
7-3. ニーズがマッチしていない場合のJICAへの報告方法(複数回答可)
(設問7で、「c. ある程度マッチしていた」「d. あまりマッチしていなかった」「e. 全くマッチしていなかった」と回答した人のみを対象とした設問である。)
12人全員が回答した。その中で、ニーズのミスマッチが判明した場合、「b. 書簡を送付した」「c. 口頭でJICA職員に伝えた」等の形でJICAに対しアクションを起こすという回答が65%を超えている。一方「a. 特別何もしなかった」(25.0%、3機関)という受入機関も少なからず存在するが、過半数の受入機関が何らかの対応をJICAに求めたことが分かる。
7-4. ニーズがマッチしていない場合のJICAのリアクション(複数回答可)
上記と同様に設問の対象者数は12人であり、そのうちの6人が回答した。JICAのリアクションとしては、「c. 専門家を補完した」(50.0%)が最も多く、次いで「c. その他」(33.3%)であった。その他の内容は、「専門家の最終的な選定はJICAが行っているので、専門家の交代は不可能だとNEDAから報告を受けた。」というものであった。1件だけではあるが、「b. 専門家を交代させた」という措置をJICAが取ったケースもあることがわかる。
8. 専門家の専門性・能力と受入機関のニーズのミスマッチ解消に向けての提言(複数回答可)
最も回答が多かったのは、「b. 受入れ機関が2~3人の候補者から選考できるようなシステムを導入する」であり、回答者数の7割以上がこれを支持している。また、5割は「a. 専門家が決定される前に、受入れ機関のニーズをダブルチェックする」を、ニーズのミスマッチを防ぐ手段として有効であると考えている。「c. 候補者に関するより詳細な情報の提供」にも約4割が回答しており、情報提供の必要性は非常に高いといえる。
9. 専門家の言語能力
専門家の言語能力に対する評価は、「5. 非常によい」~「1. よくない」の5段階評価で、平均値が3.5であった。最も回答が多かったのは「4. よい」の30.6%であり、次いで「3. ふつう」の27.4%であった。「よくない」との回答はわずか1.6%であるが「2. あまりよくない」と回答した受入機関が19.4%あることから、専門家の言語能力に関する評価は高いとはいえない。
検定*1の結果より事業区分別において、専門家の言語能力に有意差があると判定できる。具体的には、「計画・行政」においては、専門家の言語能力の評価が高く(ほぼ4~5の間)、鉱工業ではその評価は低く、ほとんどが「2」と評価されている。(統計データの検定結果は添付資料を参照)
10. 専門家とのコミュニケーションの頻度
専門家とのコミュニケーションの頻度は、比較的高い数値を示している。回答数が最も多かったのは、「5. 公式な会議は毎週開く/非公式な意見交換等はほぼ毎日行う」(55.4%)で半数以上が頻繁に専門家とのコミュニケーションを図っている。次いで多かったのは、「3. 公式には毎月/非公式には毎週」の17.9%、「4. 公式には月2回/非公式には週に2~3回」の16.1%であった。検定結果*1により、派遣期間別、スキーム別、派遣省庁別、所属機関別、事業区分別によるコミュニケーションの頻度には差はみられない。
11. 専門家が将来再度派遣される場合の当該専門家への言語能力面でのアドバイス
これは、言語能力に関するより率直な評価を引き出すための質問である。最も多い回答は「5. 新たな準備は必要ない」(42.9%)であり、約4割の受入機関は、専門家の言語能力に対して問題を感じていない。また、「1. 同じ人物を推薦しない」(6.3%、4機関)「2. 数ヶ月の言語のトレーニングが必要」(6.3%、4機関)を合わせても12%程度であり、ここだけでみると、専門家の語学力に関する評価はそれほど厳しくない。
検定*1により、事業区分別における「言語に関する対応・提言」内容に差があるという結果が得られた。「計画・行政」「農林水産」分野では、専門家の言語能力に対する提言は「ほとんど何もない」というレベルであるが、「鉱工業」分野では「ある程度のトレーニングが必要」だと認識されているケースが多い。(検定結果の詳細は添付資料を参照)
12. JICAに対する専門家の評価報告
15(26.8%)の受入機関が専門家の評価についてJICAへフィードバックしているが、41(73.2%)の受入機関は実施していない。
12-2. 受入機関による専門家の評価への関与
設問12で、「a. JICAへ専門家の評価結果を報告している」と回答した人のみ本設問に回答。
設問対象者15人中、「a. 充分な評価ができていた」と回答したのは10機関(66.7%)であり、「b. 評価はあまり充分ではなかった」と回答したのは5機関(33.3%)であった。
12-3. 専門家の評価をJICAへ報告していない場合の見解
設問12で「b. JICAへ専門家の評価結果を報告していない」と回答した人のみ対象とした設問。
設問対象者41人中、40人が回答し、そのうちの80.0%が「a. 評価をすべき」であると考えている。その一方で、「b. 評価を実施する必要はない」(10.0%)「c. わからない」(10.0%)と2割が回答している。
12-4. 専門家評価制度への提言(複数回答)
評価の提言として、最も多かった回答は「c. 日本側と共同で評価を実施する」(32.8%)であり、約3割の受入機関が日本側との共同評価に関心をもっている。次いで多かったのは「a. 日本側との共同で記入する専門家の専門家の実績に関する評価シートの導入」(26.6%)、「b. 言語能力に関する選考基準を上げる」(23.4%)であった。
また、自由回答の「d. その他」では、以下の回答があった。
13. 日本以外からの専門家との比較
「e. 日本以外から専門家を受入れていない」という回答が一番多く、76.3%であった。次いで「b. JICA専門家の方がパフォーマンスがよい」という回答が13.6%と多かった。
14. 専門家派遣事業の効果(長期専門家派遣と他のスキームとの比較)
(本設問は長期専門家(28人)のみを対象としている。)
a. 長期専門家は1チーム5名で構成される短期派遣チームより効果的であるか
設問対象者28人のうち18人が回答し、「a. 長期専門家のほうが効果的」(22.2%)という回答が「b. 短期専門家のほうが効果的」(16.7%)という回答をうわまわっているが、最も多かったのは「c. わからない」(61.1%)であり6割以上を占めている。
b. 長期専門家はUS$150,000相当(註:長期専門家の1年間の派遣費用)の機材供与あるいは補助金より効果的であるか
回答者の41.2%が「US$150,000相当の機材供与や補助金のほうが長期専門家よりも効果的だ」と回答している。次いで35.3%が「c. わからない」と回答している。
c. 長期専門家は日本で5人のC/Pの研修を行うより効果的であるか
4割の回答者が「日本で5人のC/Pを対象としたC/P研修のほうが効果的だ」と回答している。また4割の回答者が「c. わからない」と回答している。
15. 専門家派遣事業の成果(複数回答可)
成果として75.0%の回答者が「d. カウンターパートの知識・技術レベルの向上」をあげている。次いで「e. カウンターパートのモチベーションの増加」の42.9%、「a. マニュアル・ガイドラインの作成」であった。
16. 専門家の受入機関への貢献度
5段階評価で全体の平均値は3.8であるが、回答数では「5. 非常に貢献した」と評価した回答者が39.3%と最も多かった。次いで多かったのは「4. かなり貢献した」の26.2%である。「3. 貢献した」「2. あまり貢献しなかった」にもそれぞれ13.1%回答している。「1.全く貢献しなかった」は、最も少ない8.2%であり、全体的に貢献度は比較的高いといえるが、一部の専門家の資質や実績には問題がある。
*1註: | 「検定」とは正確には、「統計的仮説検定」のことである。ある仮説が正しいかどうかを統計学的に判定するための手法であり、例えば「2つの集団の身長の平均値が同じかどうか」などの仮説が正しいかどうかについて結論を導き出す。また、仮説を採択するかどうかを調べるために、一定の基準を設定する。これが有意水準であり、ここでは95%とした(α=0.05:同じような状況下で検定を行うと20回に1回は決定を誤る危険性があることを意味する)。仮説検定には様々な手法があるが、ここでは順位尺度の場合用いられるノンパラメトリック検定を活用し、グループ間で分布の度合に差があるかどうかを検証した。比較したいグループが3つ以上ある場合は、Kruskal-Wallisの順位和検定を使用し、比較したいグループが2つの場合は、Mann-Whitneyの検定を使用した。従って、ここでは派遣期間別、派遣省庁別、所属機関別、事業区分別ではKruskal-Wallisの順位和検定を、スキーム別ではMann-Whitneyの検定を活用した。 |