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2) タイにおける調査結果

バンコクで110人の専門家を調査対象とし、その専門家が派遣された受入機関に対して質問票による調査を実施した。調査対象となる派遣専門家は1998年4月以降派遣され、2000年11月末までに帰国した専門家とした。主な調査項目は、同一案件への専門家の長期的派遣の妥当性、現地ニーズと専門家の能力・専門性の適合性、語学力の問題、専門家評価の問題点(事前の審査・選考から事後の評価まで)、費用対効果、専門家の支援体制、待遇の問題である。

(1) 調査概要

調査票配布数: 110件(長期専門家:46件、超短期・短期専門家:64件)
回答者 専門家受入機関の元C/P
調査票回収数: 76件
回収率: 69.1%

以下の5つの視点により、各設問項目を分析した。各視点の区分は以下の通り。(追加調査として新たに長期専門家受入機関30件に配布し、回収した12件の質問票には設問2~8は含まれていない。)
  カテゴリー 文中表記方法 回答者数
期間別 1ヶ月未満 超短期 19 25.0
1ヶ月以上 1年未満 短期 28 36.8
1年以上 長期 29 38.2
スキーム別 プロ技 プロ技 61 80.3
個別専門家派遣 個別 15 19.7
派遣省庁別
(旧名称)
文部省 同左 23 30.3
通商産業省 通産省 17 22.4
建設省 同左 11 14.5
厚生省 4 5.3
運輸省 5 6.6
上記以外の省庁 その他 10 13.2
国際協力事業団派遣 JICA 6 7.9
所属別 国家公務員・地方公務員・特殊法人 公務員 42 55.3
民間・自営・無職 民間 33 43.4
国際協力事業団 JICA 1 1.3
事業区分別 計画・行政 8 10.5
公共・共益 20 26.3
鉱工業 3 3.9
社会福祉 1 1.3
商業・観光 0 0.0
人的資源 17 22.4
農林水産 15 19.7
保健・医療 11 14.5
エネルギー 0 0
その他 1 1.3

1. 同じ派遣機関から派遣されている回数(何代目の専門家であるか)

長期専門家の設問対象者29人中27人が回答しており、「3回以上」が77.8%と最も回答が多く回答者数の8割弱を占めている。次いで18.5%が「1回」と回答している。また検定*1では、スキーム別、派遣省庁別、所属別、事業区分別によって有意差はみられなかったので、各区分別で派遣回数に差があるとはいえない(詳細は添付資料参照)。

2. 引継ぎ期間(実態)

10名の長期専門家に関して受入機関(元のC/P)が回答した中で、前任者と後任の専門家の引継ぎ期間について「2. 短期のブランクがあった」と40.0%が回答した。次いで「4. ほぼ充分であった」と30.0%が回答した。

3. 専門家のTORの変遷

10名の長期専門家に関して受入機関が回答し、40%が「5. 前任者と引継ぎ者のTORには充分なリンク(関連)があった」と回答している。次いで回答が多かったのは、「4. ほぼ充分なリンクがあった」の30.0%であった。

4. 専門家派遣の目的の明確性

10名の長期専門家に関して受入機関が回答し、80%が「a. 専門家の派遣には明確な目的があった」と回答している。

5. 専門家派遣を要請した機関(人物)(複数回答可)

設問の対象となる長期専門家17人のうち、25.9%が「派遣要請を行った機関は『b. 日本大使館/JICA在外事務所』である」と回答している。次いで「a. 所属機関」(22.2%)、「d. 任期を終える前の日本人専門家」(11.1%)という順に回答数が多い。全体的に日本側のイニシャティブで要請があげられるケースが目立っている。

6. 専門家候補者決定後の派遣受入の拒否(可否)

設問の対象となる長期専門家17人のうち16人が回答した中で、62.5%が「b. 拒否できるが実際には困難」と回答している。次いで「a. 拒否できる」が25.0%占めた。

7. 専門家の専門性・能力と受入機関のニーズのマッチング

ニーズのマッチングについて、「5. 非常にマッチしていた」~「1. 全くマッチしていなかった」の5段階評価で、全体の平均値は4.2であり、専門家の専門性・能力は受入機関のニーズと概ねマッチしていたという評価であった。回答者の35.5%が「5. 非常にマッチしていた」と回答しており、「4. ほぼマッチしていた」(48.4%)と合わせると、約8割がニーズはマッチしていたと回答している。派遣期間別等の5つの角度からの検定*1を行ったが、派遣期間別、スキーム別、派遣省庁別、所属別、事業区分別の差はみられなかった(詳細は添付資料参照)。

専門性・能力と受入機関のニーズのマッチング

7-2. ニーズがマッチしていない場合の考えられる原因(複数回答可)

(設問7で、「c. ある程度マッチしていた」「d. あまりマッチしていなかった」「e. 全くマッチしていなかった」と回答した人のみを対象とした設問である。)

設問7で「c」「d」「e」と回答した人数は10人であった。ニーズのミスマッチの原因として40%の回答者が「a. 専門家の専門性・能力に関する情報が不足していた(情報不足)」と、情報の「量」面での不足を指摘している。次いで多かったのは、「b. 専門家の専門性や能力に関する情報が間違っていた」(30.0%)であり、情報の「質」の問題点も指摘されている。

7-3. ニーズがマッチしていない場合のJICAへの報告方法(複数回答可)

(設問7で、「c. ある程度マッチしていた」「d. あまりマッチしていなかった」「e. 全くマッチしていなかった」と回答した人のみを対象とした設問である。)

10人が回答した。その中で、ニーズのミスマッチが判明した場合、「a. 特別何もしなかった」「d. その他」が共に60.0%であり、特にJICA事務所へ相談するような行動は取られなかったことがわかる。「その他」の具体的な内容としてあげられているのは以下のとおりである。

  • C/PはJICAへ報告したかったが、部長(executive)は報告することを嫌った。
  • 口頭でorganizerに伝えた。
  • 専門家に適合するように作業計画を変更した。

7-4. ニーズがマッチしていない場合のJICAのリアクション(複数回答可)

上記と同様に設問の対象者数は10人である。ニーズのミスマッチが発生した場合、前問の回答より、C/PはJICAへ対応を求めるアクションを取っていないので、本設問で30.0%が「a. 特別何もしなかった」と回答していると考えられる。70.0%が「d. その他」と回答しており、その具体的な内容は以下のとおりである。

  • JICA側が専門家は活動目的に合った人を派遣したと確認した。
  • JICAへは報告せず、問題についてJICA職員に(非公式に)話しただけである。したがって効果は何もなかった。
  • 何も変化なかった。
  • 短期間の派遣ですぐに新しい専門家が交代で派遣されてきた。
  • 専門家と個人的によい関係を構築していたので、その専門家の交代は望まなかった。

8. 専門家の専門性・能力と受入機関のニーズのミスマッチ解消に向けての提言(複数回答可)

最も回答が多かったのは、「b. 受入機関が2~3人の候補者から選考できるようなシステムを導入する」であり、回答者数の79.4%が支持している。また、34.9%が「c. 候補者に関するより詳細な情報の提供」をニーズのミスマッチを防ぐ手段として有効であると考えている。「a. 専門家が決定される前に、受入機関のニーズをダブルチェックする」にも31.7%が回答しており、情報提供の必要性は非常に高いといえる。

ニーズのミスマッチ解消に向けての提言

9. 専門家の言語能力

専門家の言語能力に対する評価は、「5. 非常によい」~「1. よくない」の5段階評価で、平均値が3.4であった。最も回答が多かったのは「3. ふつう」の42.2%であり、次いでの「4. よい」(26.6%)「5. 非常によい」(17.2%)であった。その一方で、「1. よくない」(5機関)「2. あまりよくない」(4機関)と評価された専門家も計15%程度存在する。したがって、一部の専門家の語学力には問題があると言えよう。

専門家の言語能力

また検定*1により、派遣期間別、スキーム別、派遣省庁別、所属機関別、事業区分別による専門家の言語能力に差があるとはいえない(詳細は添付資料参照)。

10. 専門家とのコミュニケーションの頻度

専門家とのコミュニケーションの頻度の平均値は3.7である。回答数が最も多かったのは、「5. 公式な会議は毎週開く/非公式な意見交換等はほぼ毎日行う」(52.5%)で半数以上が頻繁に専門家とのコミュニケーションを図っている。しかし、次いで多かったのは、「1. 公式な会議は隔月以下/非公式にはほとんどなし」であり、19.7%と比較的高い数字を示している。今回調査を行ったケースでは、コミュニケーションの頻度が高いか低いかの極端なケースが現れている。

専門家とのコミュニケーションの頻度

検定*1により、派遣期間によってコミュニケーションの頻度に差があるという結果を得た。回答者の分布がコミュニケーション頻度が高いほうへ偏っているのは「短期」であり、次いで「長期」であった(詳細は添付資料参照)。

また、同様にスキーム別においても、検定*1の結果より専門家とのコミュニケーション頻度に差があるという結果を得ており、「プロ技」のほうが頻度が高い。

11. 専門家が将来再度派遣される場合の当該専門家への言語能力面でのアドバイス

これは、言語能力に関するより率直な評価を引き出すための質問である。最も多い回答は「5. 新たな準備は必要ない」(68.2%)であり、専門家の言語能力不足について、約7割の受入機関は、専門家の言語能力に対して特別な問題を感じていない。その一方で、「1. 同じ人物を推薦しない」との回答が12.1%・8機関あり、上記の項目9.よりも派遣専門家の語学力に対する厳しい評価結果が出ている。

検定*1によって、スキーム別では言語に関する専門家への提言内容に差があるという結果が得られた。プロ技に対しては、「新たな準備は必要ない」の回答が多いが、「個別」のほうでは「3. 月1回程度のライティング等のトレーニングが必要」の回答した比率が多い傾向にある。

12. JICAに対する専門家の評価報告

2つ(3.3%)の受入機関が専門家の評価についてJICAへフィードバックしているが、58(96.7%)の受入機関は実施していない。

12-2. 受入機関による専門家の評価への関与

設問12で、「a. JICAへ専門家の評価結果を報告した」と回答した人のみ本設問に回答。

設問対象者2人中、「a. 評価は充分なものだった」と回答したのが1機関、「b. 十分な評価は実施しておらず、日本側と共に専門家派遣について評価する必要がある」と回答したのは1機関であった。

12-3. 専門家の評価をJICAへ報告していない場合の見解

設問12で「b. JICAへ専門家の評価結果を報告していない」と回答した人のみ対象とした設問。

設問対象者58人中、57人が回答し、そのうちの89.5%が「a. 評価をすべき」であると考えている。その一方で、「b. 評価を実施する必要はない」(3.5%)「c. わからない」(7.0%)という回答もある。

12-4. 専門家評価制度への提言(複数回答)

評価の提言として最も多かった回答は「c. 日本側と共同で評価を実施する」(51.3%)であり、半数以上の受入機関が日本側との共同評価に関心をもっている。次いで多かったのは「a. タイ側と日本側との共同で記入する専門家の実績に関する評価シートの導入」(43.4%)であった。

13. 日本以外からの専門家との比較

「e. 日本以外から専門家を受入れていない」という回答が一番多く53.5%であった。次いで「b. JICA専門家の方がパフォーマンスがよい」「c. ほぼ同じ」「d. わからない」がそれぞれ14.1%であるが、「a. 日本人以外の専門家」という回答も4.2%あった。

14. 専門家派遣事業の効果(長期専門家派遣と他のスキームとの比較)

(本設問は長期専門家(29人)のみを対象としている。)

a. 長期専門家は1チーム5名で構成される短期派遣チームより効果的であるか

設問対象者29人のうち25人が回答し、「b. 短期専門家のほうが効果的」(48.0%)が「a. 長期専門家のほうが効果的」(32.0%)を上回っている。「c. わからない」という回答も20.0%を占めている。

b. 長期専門家はUS$150,000相当(註:長期専門家の1年間の派遣費用)の機材供与あるいは補助金より効果的であるか

回答者の44.0%が「US$150,000相当の機材供与や補助金のほうが長期専門家よりも効果的だ」と回答している。次いで32.0%が「c. わからない」と回答している。

c. 長期専門家は日本で5人のC/Pの研修を行うより効果的であるか

70.8%の回答者が「b. 日本で5人のC/Pを対象としたC/P研修のほうが効果的だ」と回答している。また16.7%の回答者が「a. 長期専門家のほうが効果的」と回答している。

15. 専門家派遣事業の成果(複数回答可)

64.5%の回答者が「d. C/Pの知識・技術レベルの向上」を成果としてあげている。次いで「e. C/Pのモチベーションの増加」の28.9%、「b. 調査報告書」(23.1%)であった。

16. 専門家の受入機関への貢献度

5段階評価で全体の平均値は3.0であるが、回答数では「4. かなり貢献した」*2と評価した回答者が32.3%と最も多かった。しかし、「1. 全く貢献しなかった」と22.6%が回答しており、「2. あまり貢献しなかった」という回答者も12.9%存在することから、貢献度については高い評価を得ているとは言えない。また検定*1では、スキーム別、派遣省庁別、所属別、事業区分別によって有意差はみられなかったので、各区分別で貢献度に対する差があるとはいえない(詳細は添付資料参照)。

受入機関への貢献度

*1註: 「検定」とは正確には、「統計的仮説検定」のことである。ある仮説が正しいかどうかを統計学的に判定するための手法であり、例えば「2つの集団の身長の平均値が同じかどうか」などの仮説が正しいかどうかについて結論を導き出す。また、仮説を採択するかどうかを調べるために、一定の基準を設定する。これが有意水準であり、ここでは95%とした(α=0.05:同じような状況下で検定を行うと20回に1回は決定を誤る危険性があることを意味する)。仮説検定には様々な手法があるが、ここでは順位尺度の場合用いられるノンパラメトリック検定を活用し、グループ間で分布の度合に差があるかどうかを検証した。比較したいグループが3つ以上ある場合は、Kruskal-Wallisの順位和検定を使用し、比較したいグループが2つの場合は、Mann-Whitneyの検定を使用した。従って、ここでは派遣期間別、派遣省庁別、所属機関別、事業区分別ではKruskal-Wallisの順位和検定を、スキーム別ではMann-Whitneyの検定を活用した。
*2註: 5段階評価を行うために実際に用いられた質問文と回答は以下のとおりである。
(質問文)「もし当該専門家があなたの機関に派遣されていなかったら、あなたの機関や部署に何か違いはありますか?」
5. 非常に貢献した:「例えば彼が開発したマニュアルやシステム、あるいは彼が移転した技術が使えず、日常業務に大きな問題が生じたであろう。」
4. かなり貢献した:「日常業務にある程度問題が生じたであろう。」
3. 貢献した:「日常業務に少し問題が生じたであろう。」
2. あまり貢献しなかった:「日常業務に特に問題はなかったであろう。」
1. 全く貢献しなかった:「マイナスの影響は全くなかったであろう。」


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