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要約

第1章.専門家派遣事業の現状

  • 専門家派遣事業実績(経費と人数)は、ほぼ一貫して増加し続けており、99年度には経費実績で411億円、派遣人数は過去最高の4003人となっている。99年までの派遣総数は5万8509人である。

  • これを様々な角度でみると、スキーム別ではプロジェクト方式技術協力1(以下「プロ技」)専門家が最も多く(52.2%)、事業区分別では、農林・水産分野に対する派遣が最も多い(25.5%)。期間別(長期・短期)では1980年代及び90年代に派遣された専門家総数4万7889人のうち、短期専門家が76.8%と圧倒的に多い。所属分類別では、1990年代に派遣された3万0445人の専門家のうち民間等の出身者と公務員等の出身がほぼ同じ割合となっている(前者48.7%、後者46.3%)。推薦省庁別についても同様に90年代では、74.1%と大半が中央省庁からの推薦を受けており、中でも農林水産省推薦の占める割合が14.9%と最も多い。

  • 1990年代の専門家派遣実績 (合計3万0445人) を地域別でみた場合、アジア地域に派遣された専門家が突出して多く、全体の60.2%を占めている。また、アジア地域は、公務員等出身の専門家派遣数・割合、短期専門家の占める割合、そして省庁の推薦を受けた専門家の占める割合が最も大きい。中南米地域は、派遣人数の割合が19.9%とアジアに次いで大きく、農林・水産分野における派遣割合が比較的大きい。中近東地域の占める割合は8.9%であり、他地域と比べた場合、民間等出身の専門家の割合が最も大きくなっている。アフリカ地域の場合も占める割合は小さく7.3%であるが、プロ技専門家及び長期専門家の割合が、他地域と比べた場合最も大きい。

  • 今回現地調査の対象となったタイ・フィリピン・メキシコの3国に対する専門家派遣は、概ね所属する地域(アジア・中南米)と同様の傾向にある。

第2章.専門家派遣事業に関する評価調査の結果

1)専門家を派遣している省庁に対する質問票調査(主に長期専門家を対象とする)の結果

 18省庁を対象に質問票を配布し12省庁より回答が得られ、以下の諸点が明らかになった。

  • 専門家派遣の目的と役割:各省庁にとって「日本のODAに対する貢献」に加え、「優良なプロジェクト形成への支援」が専門家派遣の重要な目的や役割となっていることが確認された。
  • 選考要件と語学:専門家を選考する要件としては、語学力は重視されており各省庁は、派遣する専門家の語学力は概ね高いと考えている。ただ、後で見るように受入機関側においては日本人専門家の語学力はやや低く評価されており、認識のギャップがある。各省庁のより高い問題意識が求められる。
  • ニーズの適合性:各省庁は、派遣する専門家が途上国側のニーズに概ね適合していると認識しているものの、専門家受入機関に対する聞き取り調査の結果を考えた場合、先方のニーズを把握することに未だ改善の余地はある。
  • 中間評価・事後評価:各省庁は何らかの形で、中間・事後評価を実施しているものの、徹底して行なわれているとは言えず、評価手法の改善・確立の必要性が感じられる。
  • 貢献度:各省庁は派遣された専門家の貢献度は高いと認識している。ただ、途上国の受入機関側の認識とはギャップがあり、日本側は現状に満足すべきではない。
  • 現在の派遣制度の問題点:人材の不足や人材確保の難しさを訴える省庁が多いものの、必ずしも明確な対策は示されておらず、JICAによる公募制や短期専門家(技術費付き)登用など人材確保のための具体策を推進する必要性は高い。
2)専門家受入機関に対する聞き取り調査結果

 タイで5機関、フィリピン・メキシコで各4機関へインタビューを実施した。

  • 専門家の貢献度に関する受入機関の評価は概ね高く、専門家の専門性・能力と受入機関のニーズの適合性についても概ね満足しているが、多少のミスマッチが生じるケースもあるという結果であった。
  • 長期専門家が継続して派遣される場合の引継ぎ期間はある場合とない場合が混在していたが、受入機関側としては引継ぎには特に問題ないとの認識であった。
  • ミスマッチの解消に向けては、日本側と受入側で十分な情報のやり取り(受入機関のニーズの詳細な確認、TORの内容等)を行うこと、A1フォーム2の改善、B1フォーム3の内容および送付時期の改善等の提案が挙げられている。また、複数候補者からの選考についても強い要望がみられる。ただし、メキシコでは、こうした提案はほとんどなかった。
  • 専門家の語学能力に対する評価は「中」程度(タイ)、「中」~「高」(フィリピン)、「高」(メキシコ)であり、語学審査の基準を上げることには賛成という意見もある。
  • 専門家の評価(モニタリング)については、賛成であり受入機関も参加したいという意向が伺える。日本側と共同でモニタリング・評価のシートを記入する方式への賛同も強い。
  • 専門家派遣費用の部分負担*に関しては、特にフィリピン・メキシコで聞き取りを行なっていたが、賛成もしくは容認の意見が多かった。
    *註: 専門家派遣の必要性をより明らかにする、あるいは将来共同で評価を行なう際に相手国側により適切に評価してもらうためにごく一部分(総経費の5%~10%)であるが、受入機関にも専門家派遣費用の負担をしてもらうという制度を提案した。

3)質問票調査結果

 タイでは110件調査票を配布し、76件の回答を得た。フィリピン・メキシコではそれぞれ80件調査票を配布し、64・54件の回答を得た。

  • 専門家の受入機関に対する貢献度について、タイでは5段階評価の平均値が3.0であり、フィリピンでは3.8、メキシコでは4.0であった。
  • 専門家の能力・専門性と受入機関のニーズのマッチングに関しては、いずれの国においても「ほぼマッチしていた」という結果が得られている。ミスマッチ解消に向けての提言としては、3ヶ国共「受入機関が複数の候補者から選考できるようなシステムを導入する」ことを最多数の回答者が支持している。
  • 派遣された専門家の語学能力に対する評価は、5段階の平均値で、タイでは3.4、フィリピンでは3.5、メキシコでは3.9であった。
  • 専門家に対する評価につき、タイにおいては、JICAに対して評価報告を実施している機関はほとんどない(96.7%が実施していないと回答)が、その9割が「評価をすべき」と感じている。フィリピンにおいても、7割以上の機関はJICAに対する専門家の評価報告を実施しておらず、その8割が「評価をすべき」と感じている。さらにメキシコにおいても、やはり7割以上の機関はJICAに対する専門家の評価報告を実施しておらず、その8割以上が「評価をすべき」と感じている。

第3章 専門家派遣事業に関する問題分析

 今回の調査では、専門家受入機関・派遣機関・派遣専門家等に対するアンケートやインタビューなどの各種の調査により、全体的な傾向としては、「専門家派遣事業は概ね成功裏に実施されているものの様々な改善されるべき問題点もある」ことが明らかとなった。
具体的には、

  • 専門家の派遣が、受入先の機関やあるいは当該分野・セクターにとり、十分に効果を上げていない(=相手側の重要な問題が解決されない、重要な課題が実現されない)場合がある。
  • 他方、今回日本側の専門家を派遣している省庁に対する質問票調査でも海外における調査と同様な専門家派遣の効果に対する質問をした結果、5段階の自己評価点(15省庁の平均値)で4.2であり、対象3ヶ国における受入機関側の認識(5段階評価で3.0~4.0)との間に多少のずれが認められる。
さらに上記の「専門家の派遣が、受入先の機関やあるいは当該分野・セクターにとり、十分に効果を上げていない場合がある」という状況を招いている直接的な原因としては、以下の4つの大きな問題点があると思われる。

1. 相手側のニーズに合った分野・専門性と技術力のある専門家が派遣されていない場合がある。
【原因】
a. A1フォームに書かれている内容が明確ではなく、情報量が不十分である。
b. B1フォームの受入機関への到着時期が実際の専門家の赴任に近すぎ、相手側が事実上専門家候補者の適否を審査できない。
c. B1フォームの内容自体が、専門家候補者の適否を審査するには不十分である。

2. 語学力や異文化対応力・社会性などの面で派遣される専門家の資質が不十分な場合がある。
【原因】

a. 専門家の選考プロセスに改善の余地がある。
b. 現行の派遣条件を与件とした場合に需要に対する十分な人材の供給がない。

3. 専門家及び相手側に具体的な成果実現のモチベーションあるいは成果実現のための計画性が不足している。
【原因】

a. C/Pも参加した形での専門家派遣事業のモニタリング・システムがない。
b. 専門家派遣事業の目標管理が制度化されていない。

4. 日本側での専門家の派遣準備が十分になされていない、あるいは受入機関側で専門家の十分な受入体制が整っていない場合がある。

専門家派遣事業に関する問題系図(PDF)

第4章 専門家派遣事業に関する改善提言

各種分析の結果として、望ましい専門家派遣事業の構成要素として以下の6項目を提案する(主に長期専門家を想定している)。

望ましい専門家派遣事業のあり方とは、
  1. 相手国にとり重要と思われる技術協力の分野・セクターで、
  2. 協力の必要性が高くかつ専門家の受入体制の整った相手方機関に対し、
  3. 専門家派遣(個別派遣もしくはプロジェクト方式技術協力)が協力の形態として最もふさわしいと思われる状況で
  4. 適切な専門家が派遣され、相手方のC/Pとの協同作業により、
  5. できるだけ効率的な形で、
  6. 相手方機関の重要な問題が解決されたり、重要な課題が実現される
ことである。

以上の望ましい専門家派遣事業のあり方を実現するための具体的な提言は以下の通りである。

重点課題1. 「国別援助計画」「国別事業実施計画」に沿った形での専門家派遣の推進

ODA全体の効率化のために、専門家派遣事業を個別に検討するのではなく、いわゆる「プログラム・アプローチ」4に基づき重要な開発課題の実現に向けて他の事業と一体化して検討する必要がある。現在具体的には、外務省作成の「国別援助計画」及びJICA作成の「国別事業実施計画」に沿った専門家派遣を行なう形で進められているが、こうした姿勢を徹底する必要がある。

重点課題2. 受入機関の専門家に対するニーズの明確化

なぜ当該専門家が必要であるかという受入機関のニーズを事前に期待効果の面で明確に示すと共に必要とされる専門家に対する要件をより明確に出させる。

【短期的導入対策】
  • 既存のA1フォーム(専門家派遣要請書)に記載されていないが必要と思われる項目に関する専門家受入機関による情報提供を徹底させる
  • B1フォーム(派遣専門家経歴書)の全ての項目への記入を徹底させ、かつ早期に受入機関に提示する
  • 複数候補者制度(受入機関に複数の専門家候補者を提示する)を検討する
    註:本改善策は、重点課題の4.にも対応する
【中長期的導入対策】
  • 専門家派遣に必要な全ての費用のうちごく一部分を専門家受入機関にも負担させる制度を導入する*
  • A1フォームの内容を先方のニーズが明確になるよう充実させる
  • 派遣専門家評価委員会(仮称)による評価体制を導入する(詳細要検討)

重点課題3. 専門家事業の目標の明確化・評価の適正化

専門家の派遣をひとつの事業としてとらえ、専門家派遣事業の評価を専門家自身の評価とは切り離して行う。評価に際しては、事前に目標を明確に設定することによる目標管理を導入するとともに、専門家本人やJICA事務所の視点だけでなく受入機関の見方を反映した日本側と相手側との共同評価を行う。

【短期的導入対策】
  • 専門家派遣事業の目標を明確化する
  • 事前・中間・終了時の3時点で専門家事業評価を実施し、作業を日本側だけでなく相手方と共同で行なう
  • 専門家事業評価と区別した形で専門家自身の評価を実施する

重点課題4.専門家の派遣準備の充実

新たに長期専門家が派遣される場合には、JICA在外事務所が受入機関を訪問し専門家の受入体制の確認を十分に行う。また、JICA在外事務所が無い国については、大使館主導により(必要に応じてJICA駐在員と共に)適切な事前準備を行なう。JICA本部は、新規派遣であるかどうかにかかわらず、専門家派遣の適切な事前準備を行なう。

【短期的導入対策】
  • 専門家の事務所や執務のための機材の状態など受入体制の確認をJICA在外事務所がより徹底して行なう
  • 派遣前研修の評価をしっかり行ない研修内容をさらに充実する

重点課題5. 語学力や専門性などの総合的に質の高い専門家の確保

専門家の審査基準の明確化・適正化により質の高い専門家が選定されるようにし、公募・登録制度の充実により高い能力を有する専門家の母集団の拡大を図るとともに、実績を残した専門家に対しては再登用を促進する。また、専門家の派遣待遇の改善によっても優秀な専門家の母集団の拡大を図る。

【短期的導入対策】
  • 専門家選定における審査項目と審査方法を省庁派遣の場合もJICAが行なっているレベルに合わせる
  • 専門家の選定において、同一案件に対して省庁推薦の候補者とJICA推薦の候補者の両者を比較検討できるようにする
  • 公募・登録制度の積極活用(人数を増やす)
  • 専門家の供給源を多様化する(外国人や現地専門家の活用・国内援助人材の育成)
  • 短期専門家(技術費付)の積極活用(人数を増やす)
  • 優良専門家に対する優遇制度を導入する(手当の改善など)
【中長期的導入対策】
  • 専門家の報酬を減り張りのきいたものにする(職務の困難度や人材需給を反映した木目細かな報酬制度にする)

なお、次ページの「専門家派遣事業のあるべき姿実現に向けての重点課題と対策」は、第4章全体をまとめた図である。

さらに、次々ページの「専門家派遣事業の問題点と改善に向けての対策」は、第3章(問題分析)と第4章(改善提言)とを統合し整理したものである。

専門家派遣事業のあるべき姿実現に向けての重点課題と対策(PDF)

専門家派遣事業の問題点と改善に向けての対策(PDF)



1 個別の技術協力形態である(1)技術協力専門家の派遣、(2)機材の供与、(3)研修員の受入、(4)青年海外協力隊員の派遣のうち(1)~(3)を組み合わせた技術協力の複合形態を示す。

2 途上国政府がわが国に対して、技術協力(JICA実施)の要請を行なう場合に、要請の具体的な内容や相手国の負担事項などを記載するために用いる書式のうち、専門家派遣において使用されるもの。

3 専門家派遣(JICA実施)に関する開発途上国からの要請に対して、相手国に専門家候補者の氏名、年齢、最終学歴、職歴、派遣可能時期などを回答するための書式。わが国政府から相手国への正式回答書(口上書)に添付される。

4 援助実施に際して、個々の具体的なプロジェクトの実施だけでなく、関連する複数のプロジェクトを有機的に組み合わせて実施するアプローチ




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