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1.2.6. 農村生活向上(ドッソ県ガヤ郡)

(1)派遣概要

相手国 ニジェール国
国別事業実施計画重点分野 農業農村基盤整備と砂漠化防止(2001年度)
開発課題 農業農村基盤の整備(2001年度)
協力プログラム 農業農村基盤整備支援(2001年度)
派遣開始時期 1998年7月14日 ~ 現在2代目隊員活動中
ミニッツ調印  
業種名 果樹、野菜、栄養士 各1名
相手国実施機関 農業牧畜省ガヤ郡農業局 → 果樹、野菜
公衆衛生省ガヤ診療所 → 栄養士
プロジェクトサイト ドッソ県ガヤ郡
裨益対象 地域住民
PDM  
 目 標 ドッソ県ガヤ郡において、野菜・果樹の栽培および栄養・衛生の教育等に対する技術指導、普及活動を通じて農村等地域住民の生活向上に寄与する。
 個別活動目標 果樹:ガヤ郡の果樹および農業生産状況を把握し、果樹栽培の技術・知識を農民に普及し、生産性の向上に寄与する。
野菜:農民に対する野菜栽培の技術移転を行い、農業収入の向上に寄与する。また社会的弱者の生活・経済状況の改善に努める。
栄養士:診療所において栄養・衛生にかかる啓蒙教育を実施し、栄養・衛生の知識や意識の向上に努める。また、診療所敷地内での野菜栽培(展示菜園・調理法紹介)および低栄養児患者の母親に対する洋裁指導と補助(現金収入向上)を行う。
 成果(活動分野) 成果1:雨期におけるキャベツ栽培が農民に普及される。
 活動1-1:雨期における試験的キャベツ栽培の実施
 活動1-2:雨期キャベツ栽培普及にかかる協力体制の構築
 活動1-3:試験農家(6家)に対するキャベツ栽培指導
(ドッソ1名、ガヤ2名の3隊員による合同計画)
 活動1-4: (5号報告書)

成果2:農村女性グループにトウモロコシ(換金作物)栽培を指導し、新たな現金収入向上の手段が紹介される。
 活動2-1:女性グループへのトウモロコシ栽培指導
 活動2-2:収穫物の販売
 活動2-3:次栽培用に優良種子の選定(長野県およびメキシコから種子を分譲)

成果3:農村女性の稲の脱穀作業を軽減するために脱穀機が紹介される。
 活動3-1:脱穀機の試作機の製作(ドッソ市工作隊員との共同作業)
 活動3-2:脱穀機の紹介

成果4:障害者に対する自立支援活動が実施される。
 活動4-1:ガヤ郡における障害者の実態調査
 活動4-2:障害者による果物シャーベットの販売
 活動4-3:識字教育の実施
 活動4-4:栄養指導・衛生教育の実施

成果5::ガヤ郡の果樹および農業生産状況が明確になる。
 活動5-1:果樹栽培にかかる現状把握
 活動5-2:果樹の品種から流通までの現状把握

成果6::果樹栽培の技術・知識が農民・知識住民に普及される。
 活動6-1:ぼかし肥を試作
 活動6-2:果樹のモデル苗畑の運営
 活動6-3:対象村(コウトゥンブ村)に苗木生産組合を設立
 活動6-4:対象村(コウトゥンブ村)の苗畑での苗木生産を指導
 活動6-4:対象村(コウトゥンブ村)の苗木を販売
 活動6-5:対象村(ベング村小学校)での苗木栽培

成果7:低栄養児の栄養改善と栄養・衛生教育が実施される。
 活動7-1:低栄養児の母親に対する栄養デモンストレーションの実施(週1回)
 活動7-2:退院後の低栄養児家庭訪問
 活動7-3:栄養・衛生ポスター・紙芝居の作成と実施
 活動7-4:各村の診療所への教育用教材(ポスター・紙芝居)の配布
 活動7-5:Femme Relaisへの栄養・衛生指導と教育
 活動7-6:入院患者への衛生教育
 活動7-7:入院患者への配給メニューの検討

成果8:病院敷地内にデモンストレーション用菜園を作り、野菜栽培を実施、また野菜の調理法が紹介される。
 活動8-1:野菜隊員の協力のもと、菜園を造成
 活動8-2:各種野菜を栽培し、病院内で提示
 活動8-3:菜園の収穫物を患者の献立に使用
 活動8-4:菜園の収穫物の調理法を紹介
日本側投入実績  
 協力隊員 帰国隊員:果樹1名、野菜1名、栄養士1名、計3名
活動中隊員:果樹1名、野菜1名、栄養士1名、計3名
 車輌等 バイク
 隊員支援経費
(主な機材等)
果樹:不明、野菜:不明、栄養士:不明
合計:不明
果 樹:苗木、育苗ポット、栽培管理資材費、農薬防除用品、燃料費 他
野 菜:
栄養士:調理用品、紙芝居作成用文具、野菜の種他栽培用品、裁縫道具 他
 研修員受入 0 名
ニジェール側投入実績  
 カウンターパート 農業牧畜省ガヤ郡農業局 1名
公衆衛生省ガヤ診療所 1名
 青年海外協力隊隊員
 住居費用
ガヤ郡長 月額 不明 CCF(月額)
 予算措置総額  
国内支援体制 技術顧問室
他の日本のODAとの関係 なし
他のドナーとの関係 なし
(調査団作成)


(2)5項目評価

1)妥当性

 ドッソ県ガヤ郡は、ニジェール川沿岸に位置し、また年間降水量が800mm程度は確保されるため、ニジェール国内では農業環境に恵まれた、国内随一の農作物の生産基地となっている。特に野菜と果樹の栽培は盛んで郡外向けにも生産販売されている。このため、本地域に対する農業隊員(野菜隊員と果樹隊員)2名の派遣は地域住民のニーズに適ったものといえ、また農業を行う上での自然環境が比較的恵まれていることは、農業隊員の知識・技術レベルを活かす場が多くある地域への派遣であり、本地域の派遣は妥当であったといえる。

 一方、栄養士隊員が派遣されたガヤ診療所はガヤ郡最大の医療施設となっており、ここでの栄養・衛生教育指導は拠点的な意味で普及効果が高い機関への派遣だったと言える。さらに農業隊員の協力で行った診療所敷地内での野菜の展示栽培とその収穫物の調理法紹介・入院患者の食事への利用も協力隊隊員ならではの協力活動であり、配属先の資金不足に悩みながらも、「低栄養児の栄養改善」という課題を中心に様々な活動に取り組める場が与えられたと言える。

 ガヤ郡への初の協力隊派遣であったため、当初隊員達は配属先の協力隊事業への理解不足から活動が停滞した時期もあった。しかしながら、「食」という共通課題から活動経過の中で農業隊員と栄養士隊員がゆるやかに協力し、各隊員の各活動に熟度を増す結果をもたらしたことは、本地域への3職種3名の派遣が有効であったといえる。また最終裨益者である農民や地域住民に目を向け、各隊員が決め細やかに現状を把握し、彼らのニーズに根ざした活動計画を立て、それに応えた協力を行ったことにより、隊員一緒に活動した農民(やる気のある農民)の満足度は高い。このため、隊員の活動計画は一部の受益者のニーズにある程度合っていたといえる。

 しかしながら、本件の要請が現場レベル(ガヤ郡農業局およびガヤ郡診療所)から出されたものであるため、省庁レベル(農業省および家族保健省)では具体的な活動内容が十分に把握されていなかった。また当時のJICA国別事業実施計画では、このガヤ郡への3名の隊員派遣は「農業農村基盤整備支援」という協力プログラムの中に位置づけられていた。しかしながら、派遣されている隊員達の活動内容は隊員個人の自主性に任されていたため、特に協力プログラムでの目的が意識されずに自由に活動が行われていた。このため、隊員活動としては何ら問題はないが、協力プログラム(=日本側の援助方針)という位置付けから考えた場合には、この派遣の妥当性は非常に低いものとなる。

2)有効性

 ガヤ郡への派遣はグループ派遣ではないため、活動目標は各隊員がそれぞれに有し、共有もしていない。また3名とも初代隊員であるため、現状を把握するのに多くの時間を費やす結果となっている。このため、国別派遣計画に基づいた派遣目標“ドッソ県ガヤ郡において、野菜・果樹の栽培および栄養・衛生の教育等に対する技術指導、普及活動を通じて農村等地域住民の生活向上に寄与する”から隊員の活動目標をみた場合、あまりにも派遣目標と隊員個人の活動目標とに差があり、その有効性は非常に低いと判断せざるを得ない。

 しかしながら、各隊員の成果として、雨期キャベツ栽培の実施、果樹苗木の販売、低栄養児への指導等は、現在後任隊員の指導の元で継続されており、住民への技術移転も一部ではあるが実施されつつある。また、配属先の協力隊事業に対する理解度、期待度は高まっており、後続隊員の活動を促進させるプラスの要因を多く残している。

3)効率性

 本派遣は、前述したように果樹、野菜、栄養士の異なる職種の隊員が同地域にほぼ同時に配属されたケースである。「食」という共通課題とうまく結びつき、特に意識することなく互いの活動を補完しあう協力を行うことで効率性の向上に寄与している。例えば、栄養士が所属する病院で、野菜隊員と果樹隊員がそれぞれ菜園と果樹栽培を行い、収穫物の栄養素を示しながら、調理法を患者に紹介するなどの活動が行われていた。また初代隊員でありながら、各隊員が積極的に農民や地域住民のニーズを把握することに努め、後任の隊員を意識して活動していることも効率性を上げた要因といえる。

 しかしながら、目標設定はあくまでも個別隊員のレベルで行われているため、一定の方向性を見据えた活動、または結束力という点では、JICA事務所による何らかの指導があれば、効率性が大幅に向上した可能性もある。現地調査の結果から購入機材はほぼ問題なく使用されている。

4)インパクト

 ガヤ郡への協力隊派遣は現在2代目が活動中であり、その歴史はけして長くない。また、短期間で活動の成果が見えない分野でもあり、初代隊員が蒔いた種が実際に目に見える形となるには時間がかかるであろう。しかしながらガヤ郡知事を始め、隊員の地道な活動に対する評価は高い。活動に対するマイナス評価は語学力(コミュニケーション)のみである。これは、隊員の活動が彼らの専門分野や業務範囲に留まることなく、ガヤの住民との対話を大切にしながら活動してきた賜物であると推測できる。初代隊員が築いた人材ネットワークは後任隊員にも引き継がれ、後任隊員の活動の効率性に大きく貢献している。残念なことはガヤ郡での住宅の確保が非常に困難であることから当該地域への隊員を増加させることは困難であるとJICA事務所より聞いている。

 しかしながら現在の活動の基礎を築いたというインパクトは大きいといってよい。

 一方、社会的弱者である、障害者や女性グループをターゲットとして、一時的に冷凍果実の販売などの活動を本地域で行っているが、活動は全く継続されていない。これについては社会的弱者に期待を与えながら、離任とともに活動が停止しているため、ある種の負のインパクトを彼らに与えたと考えられる。

5)自立発展性

 PRSPの中で、“農業の多様化”が政策的に指示されていることから、野菜や果樹栽培は今後注目される分野であり、開発政策的には問題はない。また、「栄養摂取」や「衛生教育」の問題はガヤ郡だけでなくニジェール全体に共通する大きな課題であることから、これも政策的な問題はない。

  1. 果樹:苗畑の自立発展性
     前任者が協同組合と共に立ち上げたコウトゥンブ村苗畑は現在も運営されている。しかしながら前任者と後任者では技術の得意分野に差があるため、現在の隊員は技術面ではなく、苗畑の運営面でのサポートを中心に活動を支援している。後任者によれば技術面に若干の問題(苗木の混作)はあるが、いずれ自立発展していける方向にある。
     ベング村小学校での苗木栽培は、現在行われていないが、かわりに学校菜園を現隊員が校長先生の依頼で作り、課外授業(APP)の教材として有効に利用されている。

  2. 野菜:雨期キャベツ栽培の自立発展性
     前任者の帰国後、後任者の派遣まで7ヶ月以上かかってしまったため、後任者による現況把握がまだ十分にされていないこと、またガヤ郡は昨雨期に記録的な豪雨に見舞われており、前任者が実施した雨期キャベツの収穫状況については不明。ただし、後任者は前任者が築いた人脈を非常に高く評価しており、これを有効に利用しながら活動範囲を広げており、今度の活動が期待できる。

  3. 栄養士:低栄養児への指導
     前任者が残した栄養指導の紙芝居や衛生教育の教材を後任者が利用し活動を継続している。野菜の展示菜園も続けられている。また前任者の活動を引き継ぐだけでなく、村への巡回指導など新たな試みをカウンターパート機関と協議(主に交通手段の確保)しながら行っている。

  4. 総合
     共通する課題として、人材不足、頻繁な転勤および財政問題(給与未払いや活動資金不足)等から協力隊の活動がカウンターパート側に移転される状況には到っておらず、マンパワー的な活動が中心となっている。しかしながら、今年の植樹祭(8月3日)では、ガヤ郡診療所において果樹、野菜、栄養士の3名の隊員が協力してセミナーを催す計画(植樹、高栄養植物の種類・栽培法の紹介、調理法の紹介など)を立てている。カウンターパート側をどこまで巻き込めるかが今後の課題となるであろうが、ニジェール事務所側はこの3名の自主性を尊重しつつ、活動の成果に期待をしている。


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