1.2.4. 就学前教育
(1)派遣概要
相手国 | ニジェール国 |
派遣目的 | 就学前教育 |
派遣開始時期 | 1991年4月~2002年2月 |
派遣職種 | 幼稚園教諭 |
相手国実施機関 | 基礎教育省 |
調査対象サイト | マラディ県・ザンデール県 |
裨益対象 | 当該地区内の就学前児童 |
PDM | |
上位目標 | 地域内の小学校就学率の向上 |
活動目標 | 新たな技法(情操教育)の導入による就学前教育内容の充実 |
成果(活動分野) | 現地幼稚園教師が情操教育の重要性を理解し、実践する。 活動:担当地域内の幼稚園巡回指導を行う。/手遊び・指遊びの指導を先生に行う。/簡単なおもちゃ作りの紹介を行う。/体を動かす遊びの紹介を行う。/教諭を対象としたセミナーを開催する。 |
日本側投入実績 | |
協力隊(職種別) | 幼稚園教諭 9名(内1名はUNV) 保育士2名 |
協力隊機材援助(百万円) | |
単独機材供与(百万円) | |
研修員受入 | 受入実績あり |
ニジェール側投入実績 | |
カウンターパート | 国内2箇所の視学官事務所の視学官および教育指導官 |
国内支援体制 | 技術顧問1名 |
他の日本のODAとの関係 | 特になし |
他のドナーとの関係 | 特になし |
1)妥当性
ニジェール政府の打ち出している「就学前教育の充実による初等教育への就学率の向上」に合致した派遣であるため計画の妥当性は高い。また、ニジェール政府は幼稚園を初等教育の準備段階として位置づけ、一貫したフランス語教育をこれまで行なってきたが、同国内でも就学前のフランス語教育に固執する教育方針には疑問の声が高まっており、就学前教育の現場において新たな教育手法を提示していくことも妥当である。さらに、現地の幼稚園教諭の多くは元小学校教諭であり、就学前教育の専門的な知識は有していないなかで、日本での幼児教育の経験を有する隊員達の活動は有益である。
隊員の持ち込む日本の幼児教育は情操教育を主眼としたもので、その受入先は隊員の活動範囲に限られるが、現場を中心として教師たちに受入られつつある。しかし、情操教育を主体とする幼児教育の重要性が浸透していくためには、就学前教育に対する相手国と日本との考え方の違いをすり合わせていく作業が今後も必要である。
2)有効性
幼稚園での就学前教育の充実を目指し、隊員各自がそれぞれに活動の目標設定を行なっている。活動当初は多くの隊員が日本とニジェールの就学前教育の概念的な違いという壁に当たり、活動目標の設定に問題を抱えていたが、フランス語教育を主体とした幼児教育のあり方に疑問を持った隊員達が、ニジェールの幼稚園で行われていない情操教育の導入が必要であるという考えに至り、現場の幼稚園での活動を中心に幼児教育に情操教育の概念を取り込ませることを目標に活動を行ってきた。この目標達成は、段々に達成されており、一部ではあるが情操教育の必要が認め始められている。しかし、頻発する同僚たちの異動や退職により、その活動が阻害されている。
3)効率性
1991年に派遣が開始され、これまでに11名の隊員が活動を終了している。隊員の配置状況は文部省幼稚園監督局に1名、国内に2箇所ある監督局に各1名合計3名で、文部省配属隊員と地方監督局配属隊員との連携により効率的な活動が可能となっている。また日本へのカウンターパート研修の受入は日本の幼稚園教育を目の当たりにした現地幼稚園教諭が隊員の考えを現地側へ正確に示す助けとなり、活動の効率性を高めているといえる。また、同分野の隊員で組織されている幼稚園教諭分科会で活動上の情報を共有していることも効率性を高めている。
しかしながら、ニジェール国側の全面的な協力を得るには到っておらず、協力隊の活動と平行させて、プログラム(施策)立案レベルへの何らかの助言が必要な時期ににきている。
4)インパクト
現地調査や隊員の報告書から、日本の幼稚園で当たり前に行われている情操教育を、ニジェールの仏語教育中心の幼稚園に導入していくことは、当初隊員達が想像していた以上に苦戦を強いられることになった。これは、多くの幼稚園教師は、小中学校を退職したベテラン教師であるため、自身の教育方針が正当性を強く主張したために、隊員との間で軋轢が生じたためである。しかしながら、日本への研修や隊員の地道なアプローチにより、情操教育に対する理解は進んでいる。これは各隊員が現地語のハウサ語を解し、日本の情操教育をニジェール版に適合させ、現地の人々の生活に根ざした活動を行なった結果による。協力隊員達の現場レベル(幼稚園)での活動は、上位目標である就学前教育の質的向上、および現地幼稚園教師達の情操教育に対する理解を深めていくことに貢献しており、そのインパクトは高い。これまでの隊員達の活動成果を活かしていくためには、今後はニジェール国との協力関係の強化に目を向けていくことが必要である。
5)自立発展性
ニジェール国の就学前教育に対する考え方は「初等教育の準備段階」という理解であったが、現場レベルにおいては着実に、情操教育や遊びの重要性に対する理解が進み、変化がおきている。これは隊員達の活動もさることながら、周辺の西アフリカ諸国においても共通の流れが起きており、その情報が流入したことにより、基礎教育省内にもこれまでの仏語教育重視の方法を疑問視する動きがあることによる。
しかしながら、現段階では、高齢の幼稚園教諭や限られた監督局の職員から有望な人材を探し、カウンターパートとて共同で活動し、新しい幼児教育の概念普及に対する活動をおこなっており、このままのペースでは、この活動が自立発展していくためには膨大な時間と労力が必要である。つまり、現時点では協力隊の派遣が中止されれば、一気に活動の志気が下がり、もとの教育方針に戻ってしまう可能性が大である。