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1.2.3. 技術訓練センター

(1)派遣概要

相手国 バングラデシュ
プロジェクト名 技術訓練センター
協力期間 1981年~現在
事業部門 教育(国別実施計画に記載なし)
相手国実施機関 労働人的資源省
プロジェクトサイト (1)German Technical Training Center(2)Mirpur Technical Training Center
裨益対象 TTC指導員
PDM
 上位目標 TTC卒業生の就職率が向上する
 プロジェクト目標 TTCの指導員の指導技術が向上する
 成果(活動分野) 成果1:コンペティションの開催を行う。
成果2:指導者養成を行う。
成果3:全国一斉トレーニングを実施する。
成果4:マニュアルを作成する
日本側投入実績  
 協力隊 39名
 現地業務費(円) 全体投入を明確に出すことは不可能
 特別機材費(円) 全体投入を明確に出すことは不可能
 カウンターパート研修 研修実績はあるが、本派遣の枠で何名派遣されたかは不明。
バングラデシュ側投入実績  
 カウンターパート 配属先の職員がカウンターパートとなっているが、全体の人数は不明
国内支援体制 技術顧問(1名)
他の日本のODAとの関係  
他のドナーとの関係 特になし
(調査団作成)


(2)5項目評価

1)妥当性

 国内に11校あるTTCに対しては、これまで20年以上の期間で120名以上の隊員が派遣され、隊員の活動の中心はTrainer's Training(指導者の養成)に限られている。今回ケーススタディではダッカ・ジャーマン・職業訓練センターとミルプール職業訓練センターを対象とした。ここには、これまでに39名の隊員が派遣され、その職種は婦人服、電気機器、電子機器、冷凍機器・空調、配管、溶接、図学など多種に渡る。バングラデシュ国の開発政策と協力隊の派遣が一致していたかを明確に示すデータはないが、開校当時は国内や周辺国(アラブ諸国)で技術者へのニーズが高く、職業訓練センターで育成された人材は海外への出稼ぎとして活用したい、という政府方針とも合致して妥当性は高いものであった。しかしアラブ諸国の経済危機により、技術者のニーズは減少し、養成された人材は国内向けのものとなったが、国内においても養成された人材をすべて受け入れるほどの労働市場もなく、また国内に対する労働市場調査に基いた人材育成が特に配慮されてこなかったため、卒業後も仕事が見つからない卒業生を多く出しているのが現状である。

 また、1995年より卒業生に対して中等教育学力証明の受験資格が与えられたため、技術者としての就職を望むものよりも進学のためのステップとして職業訓練センターを受験するものが増えてきた。これに応じて一般教養と専門技術の授業の割合がそれまでの2:8から逆転して8:2となった。つまり、技術的な面での人材養成に対するニーズが変化しており、派遣当時と比較すれば、技術系職員に対する技術移転のニーズは下がる傾向をたどっている。しかしながら長期に渡る派遣の中で、職業訓練センターの相手国での位置付けの変化に派遣計画は対応していない。

2)有効性

 派遣計画での具体的な目標設定はされていないが、一番明確な指標は卒業生の就職率である。しかしながら、職業訓練センターにおいては生徒の就職率を全く把握しておらず、どの程度の就職率なのかその達成度を測ることはできない。

 また、センター長のインタビューでは、「多くの卒業生が仕事を見つけている」と話していたが、隊員の報告書からは実際には多くの卒業生が無職のままであるとされている。この就職率の問題は、多くの隊員達が問題視しており、再三にわたり就職率の把握を実施することを組織の上層部に提言してきた。しかしながら実現には到っていない。この組織の問題は、隊員の活動の阻害要因ともなっており、指導者層にいくら指導をしても、なかなか職業訓練センター全体の改善には結びつかず、隊員達の大きな課題となっている。隊員が理想とするのは、バングラデシュ国の労働市場にあった技術者を養成し、就職まできちんと面倒を見ていくシステムが確立された職業訓練センターである。しかしながら、現在の職業訓練センターは、技術を本当に必要としている生徒か否かもわからず、ただ技術を教え、卒業生を生産しているだけの学校となってしまっている。

 指導員たちの育成に関しては、既に多くの指導員が研修生として日本で基本的な技術の取得を済ませ、長年の隊員との交流から、隊員との信頼関係も高まっている。現在は隊員たちの指導の下で授業プログラムを作成し、いかに効率的に授業を行うかについて研究を続けている。

 つまり、これまで隊員の配置された各部門の指導員たちへの技術指導としての成果はほぼ達成されているが、その成果が職業訓練センター全体としては十分に機能していない。

3)効率性

 効率性は低かったといえる。なぜなら、協力隊事業として、職業訓練センターの技術向上にニーズを見出し、派遣を継続するのであれば、上位機関の労働人的資源省と協議し、職業訓練センターの新たな位置付けに基づいた派遣がなされ、また就職率の把握を徹底することや労働市場に適した技術カリキュラムを作成することにも積極的に関与していくべきであった。バングデシュ国において、技術者層人材は、まだまだ不足している。適切な労働市場の調査に基づいた技術者養成がなされれば、職業訓練センターのニーズは今後高まると考えられる。

4)インパクト

 センターの技術指導レベルはかなり高いものとなっている。指導員たちのインタビューでは「何をどうやって教えたら良いのかわからず、授業も予定通り開くこともできなかったころに比べると今はとてもやりがいを感じている。彼らは私たちより早く学校に来て、率先してプログラムの作成をしてくれた。今は皆がそれに倣って早く学校へ来ては授業の準備をしている。何よりも彼らとやっていると目標を示してくれるので楽しい」という発言が多くあった。また、隊員達の有する技術・知識をバングラデシュ国に受入れられる技術・知識へと適応させたこと、また仕事に対する真剣な取組み姿勢を示してきた隊員達のインパクトは大きい。このためカウンターパートレベルでは、隊員達との友好関係から日本に対する親しみも強く抱いている。

 しかしながら、バングラデシュ国における訓練センターの役割が曖昧となってきているため、隊員達が指導員達に与えたインパクトが十分に活かされていない。

5)自立発展性

 今回の現地調査によると、1995年の教育制度改革により、職業訓練センターの位置づけ変わり、それに対する不満は所長を始め、職員の多くが共有している。彼らの多くは、以前のように技術中心のカリキュラムが必要であると考えているのである。しかしながら、入学する生徒の多くは、学力証明を目的としており、職業としてスキルを身に付けることは望んでいない。この傾向は、職業訓練センターの方針が変わらない限り、増加していくと見られ、協力隊員の派遣に関係する技術科目で、隊員達より技術を学んだ指導員達が生徒達を指導する場は狭まっている。

 20年間で120名以上が派遣されている全職業訓練センターの派遣については、これまでの成果に対する総合評価が必要な時期にきている。今回行なった2つの職業訓練センターの評価調査からは、隊員達の技術移転は進んでいるが、その成果が組織の壁にぶつかり、自立発展性を著しく阻害している、ことが結論としていえる。今後は、隊員との20年間の成果を活かし、職業訓練センターの自立発展を目指すより戦略的な派遣計画の策定が必要である。

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