1.2. ケーススタディの5項目評価
以下に、ケーススタデイの結果を5項目評価で示すが、派遣概要で提示されている内容は国別派遣計画、隊員の報告書や関連資料から抜粋または要約して今回評価のために調査団が便宜上作成したものである。
(1)派遣概要
相手国 | バングラデシュ国 |
国別事業実施計画重点分野 | 農業・農村開発と生産性向上 |
開発課題 | ジェンダーの視点からの農村開発における技術協力の推進 |
協力プログラム | 女性と開発プログラム |
派遣開始時期 | 1986年12月 ~ 2000年6月 |
ミニッツ調印 | |
業種名 | シニア、手工芸、市場調査、婦人子供服、在庫管理、経済 |
相手国実施機関 | バングラデシュ農村開発局(BRDB) |
プロジェクトサイト | ダッカ、ジョイデプール、ライプーラ、ルプゴンジ、タンガイル、シャシャ、シレット、パブナ、カリアコイル、モニランプール、シレットキラ、ホムナ |
裨益対象 | 農村女性 |
PDM | |
目 標 | カルポリ展示販売所を活用し、手工芸品の生産・販売を通じた農村女性の生活向上に寄与する。 |
個別活動目標 | (隊員の配属先、職種、業務内容などにより異なる) |
成果(活動分野) | 成果1: BRDBの事業に参加するバ国の貧しい人々によって生産される手工芸品の展示と販売が行われる。
成果2:バ国の貧しい人々の製作による手工芸品の販売面での促進がされる。 成果3:バ国の貧しい人々の雇用機会の拡張がされる。 成果4:バ国の貧しい人々の現金収入が向上する。 成果5:農村婦人の家内工業への参加が奨励される。 成果6:生産品の広報、展示会の企画および国内市場・国外市場への販売促進がされる。 成果7:効果的な販売システムの提示により独立した事業として成立する。 |
日本側投入実績 | |
協力隊員 | シニア 5名、手工芸 31名、市場調査 2名、婦人子供服 4名、在庫管理 1名、 経 済 2名 計46名 |
車輌等 | |
隊員支援経費 (主な機材等) |
推定7,814,585タカ(約270万円) |
予算総額 | 4,340,000タカ |
研修員受入 | 0 名 |
バングラデシュ側投入実績 | |
カウンターパート 協力隊員住居費用 |
第一次:店舗およびスペースの提供、公共料金の支払いおよび警備保障、車輌1台 第二次:店舗およびスペースの提供、公共料金の支払い |
予算措置総額 | 第一次:966,000タカ |
国内支援体制 | 技術顧問室 |
他の日本のODAとの関係 | なし |
他のドナーとの関係 |
1)妥当性
二つの方向性の異なる目標、「展示販売所の円滑な運営」と「組合員(農村女性)の支援」を両立させようとしたことで、結果として活動の長期化とともに本計画そのものの矛盾を生み出す結果となった。つまり、「展示販売所の円滑な運営」には、首都ダッカで他の類似店舗と販売競争しながら高品質の売れる手工芸品を店内に展示する必要があったが、「組合員の支援」のためには農村女性が作る手工芸品を出来る限り店内に置く必要があった。その一方で、農村女性の作る手工芸品の品質は思うように向上せず、ダッカ郊外の町工場で作成されるデザイン性の高い商品との質的格差か大きくなっていった。この矛盾は完全な軌道修正ができないまま計画が終了されている。
しかしながら、カルポリ計画立案は、協力隊員達の地道で、また農村女性の持つ能力を何とか生かそうという活動が実を結んだ一つの成果ともいえる。農村女性による伝統的刺繍(ノクシカタ)を何とか現金収入に結び付けられないか?という発想がバングラデシュ国初の女性隊員(1981年 野菜)から生まれ、この要請を受けて1983年に派遣された家政隊員にこれが紹介され、1985年に後任の家政隊員がこれを引継ぎ、独立採算を目指した活動が展開された。これがバングラデシュで初めて手がけられた協力隊員による手工芸プロジェクトであり、カルポリ計画は、このような協力隊員の活動がバングラデシュ国側に受入れられ、立案に到った背景がある。また、カルポリ計画が策定された1988年当初は女性組合員の手工芸品を販売する店が非常に限られていたため、より安定した現金収入の向上を目指すために展示販売所を設立する計画は妥当であったといえる。 さらに地域の社会的弱者である農村女性達のニーズとも合致した、計画であった。また、当時日本のWID(開発と女性)や女性のエンパワーメントに対する配慮がやっと進められようとしていた中では非常に先駆的な計画であったといえる。
但し、先に述べたように、派遣の長期化とともに達成しようとする成果が多様化し、目標や最終目標を不明確化させる結果となっている。またバングラデシュ国側の上位機関との計画調整にも不十分な点があった。このため計画のデザインには問題があったといえる。
2)有効性
2000年6月のカルポリ計画最終報告には、「700人~1000人のBRDB組合生産者に平均月収300タカ(約100円)をもたらしていると推測できる」とあるが、バングラデシュでは貧困家庭が1日に必要なお金は最低1US$と言われていることから、300タカでは1家族(貧困層)が1日暮らすのがやっとである。このため農村女性の生活向上を経済的側面だけで捕らえた場合には、その達成度はけして高いものとは評価できない。しかしながら、市場と直結した形で、組合員にトレーニングを行い、組織の育成、運営、管理という一連の流れを協力隊が築いてきた功績は十分に評価できる。
また、10年前には農村女性がダッカのBRDB事務所を直接訪問するなど考えられないことであったが、協力隊との活動を通じ、組合の女性リーダーを始めとし、農村女性の外出が容易になっている。農村女性の生活向上を社会的側面で捕らえた場合にはその達成度は極めて高いといえる。
3)効率性
カルポリ計画はプロジェクト型の派遣ではなく、複数の個別派遣隊員が自主的に結束して運営された計画である。そのため協力隊事業で実施されているグループ派遣あるいはチーム派遣とも異なる位置付けとなっている。それ故にカルポリ計画に携わった隊員達の活動は隊員自身の自主性が尊重され、カルポリ計画を強く意識し、首都と地方を行き来しながら活動した隊員と、それほど意識せずに現場で農村女性の指導に徹して活動した隊員、また販売所に配属された隊員とでは活動内容に大きな違いがある。しかしながら、隊員個人が自身の活動として課した目標に対する達成度は概ね高く、カルポリ計画に対する議論も隊員間で活発に行われた。
しかしながら、カルポリ配属隊員が計16名、BRDB配属手工芸隊員が30名、という投入が1988年1月~2000年6月の約13年間に渡り行われたにも関わらず、派遣目標が複数に渡り、その上位目標も明確であったとはいえない。当初計画段階で、明確な派遣目標が策定されていれば、同じ投入量でより高い成果が見込めたのではないかと考えられる。
4)インパクト
協力隊が派遣された地域において、農村女性がこれまで手にすることがなかった現金収入を得る機会が与えられたことにより、女性のエンパワーメント(家庭や地域社会での地位向上や発言権の向上)につながっている。また、家事しかできなかった農村女性が手工芸品の製作という仕事を得たことで、女性達は自信を持ち、また仕事を理由に外出ができるようになった。
また、隊員の活動に対し、農村女性や展示販売所の店員達の満足度は高く、個々の隊員達に非常に強い親しみを感じている。
5)自立発展性
2000年6月の支援終了後も、カルポリは現地スタッフにより運営されている。しかしながら、2000年の売上は5,830,420タカであったが、2001年の売上では3,701,063タカと大幅に減少している。一応黒字となっているが、カルポリと同規模の競争店が増えたことが原因との説明であった。また、現地スタッフから、BRDBはカルポリの順調な経営のみしか興味がなく、現在では組合員とのコミュニケーションが極端に減ったとの報告も受けた。
カルポリ展示販売所の存続は、BRDBの直轄店でもあることから今後も売上高が低迷しても、ある程度は継続されるであろうが、品質やデザイン性の低い組合員の生産品の割合が増える可能性は極めて低い。
また、BRDBには手工芸品の生産者育成システムがいまだに確立されておらず、協力隊の撤退後はこの部分に対する投入が完全にストップしている。これまで協力隊に完全に依存してきた部分であるだけに今後の自立発展性は低いと考えられる。