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第5章 提 言

今回評価調査の結果、導かれる提言は以下に示す通り。

5-1. 青年海外協力隊事業のプログラム(施策)目標の明示

青年海外協力隊事業の事業目標として、「A.相手国の社会・経済発展への寄与」、「B.国際交流・二国間関係の増進」および「C.日本の青少年の人材育成・日本社会への還元」の3つを明確に国内外に提示していくと同時に、政府事業としての基本理念やODA事業としての位置付けについても国民に対し具体的に示していく必要がある。

 国際協力事業団法において青年海外協力隊事業の目的は、技術協力を中心とした「A.相手国の社会・経済発展への寄与」とされているが、「B.国際交流・二国間関係の増進」および「C.日本の青少年の人材育成・日本社会への還元」についても相手国側と日本側の双方のニーズを考慮すると、すでに成果を出すことが期待された事業目標として成立する。また、この3つは一つ一つが独立した目標というより、それぞれが密接に結びつき、「A.相手国の社会・経済発展への寄与」に対する何らかの改善が図られれば、「B.国際交流・二国間関係の増進」および「C.日本の青少年の人材育成・日本社会への還元」に対してもプラスの相乗効果が与えられる。このため、A~Cの3つを事業目標として明確に提示し、協力隊事業の内容に反映させていく必要がある。

 協力隊事業の目標を国内外に明示することにより期待できる効果は以下の通りである。

  • 協力隊事業の主役である協力隊員達がそれぞれに抱く曖昧な協力隊事業に対する目標を明確にさせることにより、協力隊員自身のニーズと協力隊事業の目的の間にあるギャップが解消される。

  • 相手国側と日本側が期待する協力隊事業の効果を一致させることにより、相手国側のニーズと協力隊事業の目的にあるギャップが解消される。
 このように協力隊事業に与えているマイナスの影響を解消していくことで、協力隊員側が目標達成のために全力で対応していくことが可能となり、また相手国としても協力隊員の受入態勢を整備し易くなり、これまで生じていた相手国側と協力隊員側とのギャップも解消していくことにつながる。

 以上のように青年海外協力隊事業の目標を明確に打ち出すことは、協力隊事業の効率的かつ効果的な事業展開を促進させるための重要な鍵である。

(1)正確なニーズの把握のための要請背景調査

協力隊員の協力活動にかかる問題点の多くが、要請段階に起因している。このため、特に要請背景調査の実施方法について広く議論し、国内外の多様なニーズに応えることができるシステムを模索していく必要がある。

 「相手国の社会・経済の発展への寄与」に効率的かつ効果的に貢献していくためには、まずは現場で活動する隊員達の目標達成度を高めていく必要がある。隊員へのアンケート調査結果からは、配属先のニーズが高く、また隊員の活動計画や役割分担に対する明確な考え・認識が高い場合には、隊員の目標達成度が高くなる傾向となった。相手国のニーズを正確に把握していくためには、ローカルスタッフの育成・活用、要請背景調査に専念できる人員の登用、専門家との連携など要請背景調査を充実させる基盤整備から早急に対応していく必要がある。また在外大使館、JICA事務所および相手国側の受入機関や配属先と常時連携し、要請にかかる十分な協議を行うなど、相手国側および日本側の関係者を巻き込んだ参加型の要請背景調査を意識していく必要がある。その上で、隊員に求めるニーズは何か?隊員にできることは何か?を十分に議論し、共有意識を持っていくことも大切である。さらに帰国隊員を始め、専門家や現地関係者などの意見を幅広く集め、実際に反映させていくことが重要である。

(2)ニーズに正確に応えるための参加形態の体系化・弾力化

同じ職種の協力隊員であっても、協力隊への参加形態や配属先での位置付けなどの違いによって協力隊員の活動の特質に傾向が見られる。これまでの派遣実績を分析することで、隊員の活動の特質を体系化し、より効率的かつ効果的な派遣計画に反映させていく必要がある。

 協力隊事業の35年間という実績を踏まえ、協力隊員の参加形態・活動形態を明確にし、例えば指導型、マンパワー提供型、共同活動型により異なる隊員活動の特質を見極めた派遣実施を行っていくべきである。

 まず、マンパワー提供型は単なる人手不足の解消ではなく、相手国側が必要とするスキルを持った人材による労働力と技術の提供である。また、マンパワー提供型の活動は高い目標達成(活動に対する成果)を得られ易いという特徴をもっている。その一方で、マンパワー提供型の隊員は、カウンターパートや同僚に自身の技術・知識を移転していくことが難しいため、期待する上位目標への効果(インパクト)や自立発展性に対して成果を出していくことが困難であるという特色を併せ持つ。

 次に指導型は相手国が求める技術・知識レベルによっては協力隊事業への期待度に相違が見られ、国よっては減少傾向にある。しかしながら配属先や地域住民に対するインパクトは大きく、また自立発展性は高くなるという特徴を持つ。また指導型同様に共同活動型も相手国に対するインパクトや自立発展性が高い特色を有し、このことは相手国側のニーズだけでなく、協力隊員が自身の活動成果として期待するニーズでもある。その一方で、共同活動型の隊員の目標達成度は低く抑えられる傾向にある。

 今後もますます多様化していく要請に対応していくためにも、隊員の活動の特質を体系化し、効果的な派遣計画の立案に反映させていく必要がある。

(3)より効果的な派遣計画

"協力隊事業"に対する相手国のニーズや重要度は、国や地域により異なる。協力隊員の技術・知識レベルを見据えた上で、相手国の開発戦略や援助動向などに適合した国別派遣計画の策定を行っていく必要がある。

 上の(1)、(2)で述べた通り、協力隊事業の目的、形態を明確化し、より効果的な派遣計画を策定していけば、協力隊事業は相手国側および日本側のニーズに応えた事業展開が可能となる。また、その派遣計画は相手国の開発戦略や重要課題に合致した内容であることが望ましい。しかしながら、協力隊員達が派遣計画のみにとらわれることなく自由に相手国のニーズを開拓していく余地を設けることも必要である。相手国の重要課題に対する協力なのか、協力隊員達の活動の特性を活かした協力なのかなど、相手国の社会経済背景、日本側の援助方針および協力隊活動の利点などを計画段階から十分に考慮していくことが大切である。

 現在進められている国別派遣計画は、JICA全体としてある国やある地域に対してどういう分野を重点的に協力していくかを戦略的に策定した国別事業実施計画にできる限りそった形で整理がされている。しかしながら、すでにJICA内部で留意点として認識されているとおり、協力隊事業は、技術・知識のバラツキ、人材の確保、派遣時期等に不確定な要素が多々含まれている。もちろん協力隊の活動を国別事業実施計画のなかでの「JICA協力プログラム」として位置付けることが可能な部分については実施していくべきである。しかしながら、その一方で協力隊事業として独自に相手国の重要課題を抽出し、これに取り組んでいくべき姿勢も必要であると考える。また、この重点課題への取組みと結び付けて、応募者が多い文系職種が取り組める社会開発系の課題を抽出し、相手国に新たな職種を提示していくことは日本側のニーズとしても重要である。さらに相手国が抱える問題抽出には現地の貴重な情報を有する帰国隊員を積極的に活用し、国ごと、あるいは地域ごとに協力隊事業としての重点課題を提示し、派遣計画に反映させていくべきである。

 ニジェール国を例にすると、国別事業実施計画の重点分野が「農業農村基盤整備と砂漠化防止」、開発課題は「農業農村基盤の整備」、協力プログラムは「農業農村基盤整備支援」となっている。この位置付けで、ある郡に“野菜”と“果樹”の隊員が1名づつ派遣されている。しかしながら彼らの実際の活動は、小学校の“学校菜園”に重点がおかれている。これはニジェールの小学校を対象に教育の質の向上の一環で行われているAPP活動(実践的課外活動)を促進するもので彼らの活動は小学校の先生や生徒、生徒の親から高い評価を得ている。

 つまり、国別事業実施計画を基準にすると彼らの活動は重点分野に貢献しているとは評価できない。このため、場合によっては重点分野を先行させるのではなく、協力隊が活躍できるのは相手国の重点分野のどの課題で、そのためにはどのような派遣計画を策定すべきかという視点で検討をしていくべきかと考える。以下に例を示す。

例:A国では初等教育の質の向上として実用的な課外活動に取り組んでいる。ある野菜隊員がこの課外活動に注目しつつ学校菜園の運営に取り組み、その活動は先生や親達に好評である。これを受け、新規の要請開拓として“小学校における実用的な課外活動の充実”に焦点をあて、相手国側と日本側が協議を重ねる。結果、学校菜園だけなく、伝統楽器の演奏、昔話しの絵本の作成、環境教育の推進など色々なアイデアが提案された。在外事務所では、青少年活動隊員や環境教育隊員などを連携させた中長期的な派遣計画を策定した。

5-2.評価方針と評価手法の確立

協力隊事業に参加した多くの隊員が「評価を実施して、その結果を国民に知らせるべきだ」と考えている。今後、“評価”を協力隊事業の中に取り込んでいき、一般国民に評価結果を広く伝えていくと同時に、評価手法を改善し、より効果的な協力隊事業のために評価結果を的確にフィードバックしていくことが重要である。

 アンケート結果から、約8割近い隊員が「評価を実施して、その結果を国民に知らせるべきだ」と考えていることが明らかとなった。評価は(1)アカウンタビリティの確保、(2)援助の質の向上という大きな二つの目的を持つ。ODAの透明性や効率性に対する国内の要請はますます大きくなっており、評価の重要性は高まっている。この中で協力隊事業についても評価を行うことは有意義である。

 評価を行うことによって協力隊事業の活動を国民に対して広く知らせることができ、学んだ教訓を実施者にフィードバックすることでより効果的な協力隊事業の実施に資することができる。協力隊事業の評価は今回が初めてであるが、今後も引き続き評価を行っていき、評価手法の更なる改善に努める必要がある。

5-3.協力隊事業の日本社会への還元

「教えるものよりも教えられるもののほうが多かった」と感じている隊員は多い。この相手国の草の根レベルの情報や隊員が協力活動通じて体得した経験を、国民の国際理解教育や地方自治体の国際化に活用していくために、隊員の情報を蓄積し、広く公開できるシステム作りが必要である。また、日本の他の援助スキームへの積極的な活用も検討していくべきである。

 帰国隊員の経験を社会に還元するための取り組みとして、地方自治体の職員としての採用、教育現場での教員としての採用、またサーモンキャンペーンなどの国際理解教育・開発教育分野での活躍が挙げられている。しかしながら、帰国隊員達が2年間現地で生活しながら得たものは経験だけでなく情報もある。現時点では、この情報はほとんど有効活用されていない。隊員の情報は報告書に集約されているともいえるが、隊員報告書は事務局・在外事務所や後任者などに向けての報告の形式をとっており、情報としては活用し難い。このため、派遣国別や職種別に隊員達が有する現地の情報をタイムリーに蓄積・提供していくことが可能なシステム(インターネットなどを利用)を構築し、積極的に国民に公開、利用されていくべきである。同時に、隊員達が蓄積した情報が要請背景調査やその他スキームの調査にも活かしていくことが望ましい。

 また、例えば現職参加教員であれば、国際理解教育や開発教育の指導要領や教材の作成、資料提供など帰国後も積極的に情報提供に役立ってもらう体制作りも必要である。

5-4.協力隊員の人材育成および人材活用の促進

(1)人材育成

国際協力分野の仕事を希望する帰国隊員が多いにも関わらず、関連職につくことは容易ではない。現在の雇用状況を変えることは難しいことから、隊員の質の向上が必要である。すでに帰国後の支援については充実していく方向にあるため、活動期間中に援助手法に関する高い専門性や語学力の向上が目指せるような体制が必要である。

 国際協力分野への就職を希望するものが多いにも関わらず、なかなか関連職につくことができない状況がアンケート結果からも明らかになった。また、協力隊に参加したことによって、国際協力分野に興味を持ち、仕事として携わりたい意向を持つものも少なくない。しかしながら、国際協力関連の団体や民間企業の数は限られており、近年はODA削減等により雇用市場も他業界同様にかなり厳しいのが現実である。また、最近の傾向としては大学院への留学経験者や国際機関・国際NGO経験者の増加により企業によっては協力隊経験者以上に即戦力として歓迎する場合もある。つまり、協力隊OB/OG、留学経験者および国際機関経験者などが同じ土俵に立ち、人材としての“質”が競われることになる。この雇用状況を変えることは難しいことから、隊員の質の向上を目指していく必要がある。

 帰国隊員に対しては、すでに帰国後研修やセミナーが充実していく方向にある。しかしながら、活動期間中にはあまり目が向けられていない。このため、協力隊を2年間経験した者であれば、協力隊援助手法をマスターしているなど、協力隊事業の経験を生かした援助手法の開発に取り組み、隊員の質の向上に反映させていくべきである。具体的には、援助手法に関する高い専門性や語学力の向上に対する改善が求められる。この隊員の質的向上は就職問題だけでなく、隊員の活動を促進させる要因にもなる。

(2)人材活用

協力隊事業のODAとしての役割や協力隊事業の基本方針などを国民にわかりやすく提示しながら、帰国隊員達の現地での活動だけでなく、帰国後の人材活用についても国民に広報し、帰国隊員に対する適切な人材活用について広く議論されることが必要である。また帰国隊員に対する適切な社会からの評価は、帰国隊員達の受け皿の整備にもつながる。最終的には、国民に親しまれる国民参加型の青年海外協力隊事業として確立されていくことが望ましい。

 公共施設内や役所などで青年海外協力隊の応募広告を目にする機会は非常に多くなり、青年海外協力隊事業を広報する動きは以前に比べて活発に行われている。しかしながらが、事業に対する一般国民の認知度は未だに低いのが現状であり、国民にとっては協力隊事業がどのような方針で、何を目的としているのかも依然として不明確である。これは、一部の協力隊員の特筆すべき活躍のみを取り上げ広報しても、その情報は協力隊の極僅かな一面を示しているに過ぎず、国民に事業内容を納得してもらうには不十分なことを示している。

 青年海外協力隊事業の認知度をあげていくためには、協力隊事業の基本理念、方針、目標およびODAの中で期待される役割などをわかり易く国民に提示し、広く賛同を得ていくことが必要である。この基盤が十分に浸透してから、個々の隊員の活躍などを継続して紹介していくことも大切である。最終的には、国民に親しまれる青年海外協力隊事業となっていくことが望ましい。具体的には、協力隊経験者が地方の国際化に積極的に貢献することをある程度義務付け、その体制を強化していくべきである。昨年度より都道府県への配置が進められている国際協力推進員には原則として協力隊のOB/OGが配置されることになっているが、前述した広報活動を含め、何を基本方針として、何を目的に活動していくのかについても明確に提示していくべきである。例えば、協力隊の目的や協力隊員の活動を小中学校の国語や英語の教科書で紹介し、子供世代から協力隊事業に親しみを感じてもうらうことも検討できる。

 協力隊事業は、隊員の活動が地域住民、つまり相手国の一般国民と直接接点を持ちながら協力活動を行っているため日本の他の援助スキームと比較した場合、もっとも一般国民が理解し易いODA事業であるといえる。協力隊事業のODAとしての役割や協力隊事業の基本方針などを国民にわかりやすく提示しながら、帰国隊員達が自身の活動を広く国民に伝えていければ、国際協力活動が国民に身近な存在として理解されていくと考えられる。また、帰国してからの隊員の人材活用についてもクローズアップし、実際日本社会にどのような影響を与えることができるのか継続的に調査し、評価していく体制を整えることも必要である。協力隊事業について広く国民が理解し、帰国隊員が適切に社会から評価されていくことは、帰国隊員達の受け皿の整備にもつながる。 協力隊事業に対する国民の関心が高まり、協力隊事業に対する意見が積極的に議論されていけば、国民自身の手で国民参加型国際協力事業として確立し、人材の活用が日本社会の中で効果的に行われることが期待できる。

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