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4-1-3.青年海外協力隊事業のインパクトと自立発展性

(1)ケーススタディからの考察

 バングラデシュ国とニジェール国において行った計8件のケーススタディをインパクトおよび自立発展性の観点から評価した結果を表4-5に示す。

表4-5 ケーススタディの5項目評価の要約(インパクトと自立発展性)
国名 案件名 インパクト 自立発展性







カルポリ計画
(手工芸)
*** 女性隊員達が最終受益者(農村女性・組合員)に与えたインパクト(女性のエンパワーメント:女性の地位や発言権の向上)は非常に大きい。 また、隊員の活動に対し、農村女性や展示販売所の店員達の満足度は高く、個々の隊員達に非常に強い親しみを感じている。 ダッカ市内に同様の店が増加しているが、政府機関(BRDB)の直営店であることから展示販売所は継続される可能性は高い。しかしながら、組合員(農村女性)の生産品の質的向上(市場での競争力)が望めないことから、展示販売所の商品として発注は今後も減少していく可能が高い。そのため、最終受益者を基準にした場合、その自立発展性は非常に低い。
ダッカ子ども病院 ** 隊員達の活動姿勢通じ、現地の看護婦達に与えたインパクトは大きい。しかしながら、個々の隊員達の活動内容や方法によって、現地看護婦達が受けたインパクトに差異が生じている(例えば、現地看護婦に指示を与える立場で活動する隊員よりも、一緒に患者達の看護をしながら技術移転を行う隊員の方が、受入れられやすい)。また、個々の隊員達の活動内容や方法に一貫性がないことは、現地看護婦達に混乱を与えている。 ** 協力隊員達より看護技術、知識、看護の心構え、衛生観念を学んだ現地看護婦達は、今後もそれらを活かしながら仕事に取り組んでいくと思われる。しかしながら、病院全体としての取組みではなく、また看護婦間で学んだ知識を共有させていくシステムもないことから、限られた範囲での自立発展性といえる。
技術訓練センター ** 隊員達が一緒に活動してくれると、仕事に対する意欲が高まる、という意見が聞かれ、隊員達の活動姿勢は指導員達に少なからず影響を与え、隊員達に対する親しみも強い。しかしながら、バングラデシュ国における訓練センターの役割が曖昧となってきているため、隊員達が指導員達に与えたインパクトが活かされていない。 協力隊員達の主な活動は、指導員に対する技術指導やマニュアル作りであったが、訓練センターの役割が「技術者養成」から「進学学校」へ移行している中で、指導員達が隊員達より学んだ技術・知識の活用の場は狭まっている。そのため、訓練センターの位置付けに変化がない限り、その自立発展性は低い。





ポリオ対策 *** 隊員達のポリオ対策に対する村落活動は、医療機関へのアクセスが困難な辺境地における公衆衛生教育につながっており、非常に良いインパクトを与えている。また、この活動はニジェール国内で波及していく方向にある。 ** 本活動の派遣は2004年終了を目標としている。しかしながら、ポリオは撲滅された後も引き続き予防接種活動や監視活動が必要である。活動期間中に、地方医療組織の強化に貢献し、終了時点で、適切にニジェール国側に引継ぎができれば自立発展性の高い案件となる。
就学前教育 ** 協力隊員達の現場レベル(幼稚園)での活動は、上位目標である就学前教育の質的向上、および現地幼稚園教師達の情操教育に対する理解を深めていくことに貢献しており、そのインパクトは高い。これまでの隊員達の活動成果を活かしていくためには、今後はニジェール国との協力関係の強化に目を向けていくことが必要である。 ** ニジェール国の就学前教育は、これまで仏語教育中心であったが、協力隊員達が推進してきた情操教育を重視する世界的な潮流がニジェール国内にも浸透しつつあるため、協力隊員達が現地幼稚園教員に指導してきた成果が自立発展していく方向は見えつつある。
農村生活向上 ** 同一地域に異なる職種の隊員3名を派遣したことで、当地域の人々と隊員達とのネットワークを効率的に広げる結果となった。また、地域住民との良好な関係は、現在活動中の2代目隊員達の活動基盤を築くことにも貢献しており、初代隊員達が与えた地域住民へのインパクトの恩恵を受けている。 3名の隊員達は、個々の活動目標に基いて活動を行っており、連携した活動内容も意識されていない。個別の活動内容では、果樹隊員が行った苗畑の運営については住民自身の力で活動が行われているが、その他の活動については、隊員の離任とともに活動が停止している。また苗畑の運営も、後任者の専門性の違いから、十分なフォローは行われていない。




青少年活動 ** 地域に潜在するニーズを探るために、地域住民との信頼関係を築くことから活動を始めている。このため地域住民との真密度が非常に高く、また活動内容についても、地域住民の満足度が高い。しかしながら、隊員の知識や技術を地域住民に普及していくことは行われていない。 ほとんどの活動が、隊員の離任とともに停止している。この理由としては、隊員の活動内容が後任者に引き継ぐことを想定したものではなく、自己完結型の活動であったためである。この点から自立発展性は低い。
体育 *** 同一地域に派遣された隊員達が連携し、課外体育授業の一環として取り入れたバレーボ-ルの指導が、学校だけでなく、地域全体に受入れられ、現在も面的な広がりを見せている。また、カウンターパートや卒業生達がバレーボール技術の普及や指導に参加している。 ** 課外授業として始めたバレーボールについては、地域住民自身の手で継続されていく可能性がある。しかしながら、体育派遣の本来の目的は、ニジェール国の体育教育の充実と体育教員の養成である。この点については、ニジェール国側の人材不足が問題なため実現される可能性は低い。
注):上表の*印は四段階評価の結果を示す。基準は以下のとおりとした。
[***:インパクト(または自立発展性)が非常に高い、
 **:インパクトは高いが一部問題点を有する、*:インパクトは一部高いが問題点も多い、なし:インパクトが非常に低い]

以下に各ケーススタディの評価結果を総合的に考察した結果を示す。

(a) インパクト

 隊員の活動は、カウンターパートや最終受益者と日常生活の中でも直接触れ合いながら技術や知識を伝えていくため、隊員の活動姿勢に共感し、影響を受ける現地の人々は多く、隊員や日本に対する親しみも強く抱く傾向にある。また、隊員が現地の人々と直接触れ合うことで、彼らのニーズを発掘し、正のインパクトをもたらしたことが確認された。

 例えば、多くの女性隊員が参画したバングラデシュ国のカルポリ計画は、WID(開発と女性)や女性のエンパワーメントという概念がまだ日本の他の援助スキームには活かされない時期に、農村部に派遣された女性隊員(1981年野菜)が“社会的弱者である貧困女性の支援に伝統的手工芸品の生産が役立つのではないか”、という潜在的可能性に着眼し、生まれた案件である。このカルポリ計画における最大のインパクトは農村女性達の開発への参加とエンパワーメントである。村の外に女性が出ること、また首都ダッカに出向くことなど考えられなかった時代に、女性達は会議への出席や手工芸品の運搬のためにBRDB(バングラデシュ国農村開発局)を訪問している。また、手工芸品の販売により得た収入は、女性の家庭での発言権の向上に貢献している。こうした地域住民の潜在的可能性やニーズを汲み取った上で、正のインパクトを与える協力隊の活動は、協力隊事業が日本の援助スキームの中で果たしてきた一つの役割として評価される。

(b) 自立発展性

 今回のケーススタディからは、自立発展性が全体的に低い、という結果になった。この原因は前任者と後任者との活動の引継ぎの悪さと相手国と日本側の隊員に対する支援不足があげられる。

 ケーススタディの中ではバンラデシュ国のダッカ子供病院と技術訓練センターが一例となる。両ケースとも、JICAバングラデシュ事務所からは、「多くの協力隊員を長年に亘り継続派遣したにも関わらず、バングラデシュ国側に“自立”の兆しがみられない」としている。本調査団としても「配属先の満足度が高いにも関わらず、活動に不満や疑問を持つ隊員の割合が非常に多く、また協力隊員が出してきたいくつもの成果(マニュアル作成や職員研修など)が蓄積されず、隊員達が最終的に期待する組織の改善には結びついていない」との評価結果である。また、バングラデシュ国の技術訓練センターに派遣された隊員達は、技術訓練センターの改善にはバングラデシュ国内外の労働市場に合致したカリキュラムを策定し、技術者を養成することが重要なため、労働市場調査や卒業生の就職先や就職率を蓄積していくべきだと報告書の中で述べている。実際にセンター長に調査の実施を訴える隊員達も何人かいたが、聞き入れられていない。協力隊員の草の根レベルの活動を、組織全体に反映させ、組織を自立へと導いていくためには、ある程度在外事務所のフォローアップ(例えば、技術訓練センターの上位機関への提言や労働市場調査に対する支援など)が必要であると考えられる。隊員の草の根レベルの活動と、配属先の上位機関の協力が合致していけば、配属先の自立発展性に結びついていくはずである。

(2)隊員の活動状況 -インパクトと自立発展性-

 一般的に、協力活動がマンパワー提供のみに陥ると、配属先や同僚への技術移転が困難となり、インパクトや自立発展性が損なわれることにつながる。配属先や地域へのインパクトに対する調査では、マンパワー提供型は指導型や共同活動型に比べ、“カウンターパートの仕事への姿勢が改善された”(指導型22%、マンパワー提供型6.9%)、“住民の知識・技術・行動が改善された” (指導型25.2%、マンパワー提供型6.9%)、“同様の活動が他地域にも波及した” (指導型12.6%、マンパワー提供型0%)など、「相手国の社会・経済発展への寄与」に影響するインパクトが低く抑えられている結果となった。

 自立発展性(離任後も活動が持続していると思うか)に対する帰国隊員へのアンケート結果からも、マンパワー提供型が“はい(持続していると思う)”とする回答は17%に留まり、指導型の36%を大きく下回っている。マンパワー提供型は他の形態と比較すると、隊員が配属先を離れる=隊員が行っていた活動を停止、という事態になり易いといえる。

 多くの隊員の報告書から、「活動がマンパワーになっている」ことから抜け出そうとする傾向が見られた。一方、マンパワー提供型の弱点は、インパクトと自立発展性の低さである。隊員達がマンパワー提供的な活動から抜け出そうとする不満の原因はここにある。つまり、隊員達はこのインパクトや自立発展性をある程度目指しながら協力活動を行っているため、マンパワー提供型の活動を嫌う傾向を持つのである。慢性的な人材不足問題の解消手段として、途上国側では協力隊員にマンパワー提供型の活動を期待する傾向が増加している。このため、個々のマンパワー提供型の活動を、前任者と後任者の引継ぎの改善、日本側の活動支援や相手国側の積極的な協力により最終的には配属先の組織に与えるインパクトや自立発展性を高める派遣計画の策定が必要である。

(3)結果

 「協力隊の派遣は自己完結型で良い」「個別派遣に自立発展性を望むのは厳しい」という考え方もあるが、インパクトや自立発展性は、相手国の社会経済発展への寄与を考えた場合必要不可欠な要素である。今回の調査でも、バングラデシュ国カルポリ計画が、協力隊員の活動の中から生まれたという例をみても分かるように、協力隊の活動が正のインパクトや自立発展性をもたらす可能性があるにもかかわらず、それらが十分に活かされていないといえる。

 また、インパクトや自立発展性が低くなる傾向は、協力隊員の派遣形態のうちマンパワー提供型に特に顕著にあらわれている。マンパワー提供型活動に対するアンケートとケーススタディの結果を総合的に分析すると、マンパワー提供型の活動は指導型、共同活動型よりも高い目標達成(活動に対する成果)を得ることができ、配属先のニーズも高く、安定した職場環境を得られる一方で、隊員が期待する上位目標への達成(インパクト)や自立発展性に対して成果を出していくことが難しく、隊員が活動に不満を抱きやすい。これは、協力隊員と受入側の間で、協力隊事業に関する考え方に相違があることも一因となる。また、協力隊員の派遣形態別の分類は明示的には存在しない。このことも協力隊に対する双方の考え方の相違を生じさせる要因になっていると考えられる。

 マンパワー提供型の活動は、相手国のニーズの高さから今後も横這い、あるいは増加傾向にあると推定できる。このため、一つの活動形態として肯定的に見直していく一方で、組織やシステムの中でマンパワー的に活動する隊員の活動成果のインパクトを高め、持続させていく対策を、これまでの実績を踏まえ検討していく時期にある。例えば、協力隊事業では多くの教師隊員を派遣しているが、途上国の教師不足を補うための代用教員としてマンパワー提供型の活動となるケースは少なくない。しかしながら、教師隊員の派遣計画を相手国の教育セクターの政策や財政といったマクロ的な視点から戦略的かつ中長期的に立案していけば自立発展性につなげていくことは可能である。そのためには、まず協力隊にできることは何か?、実現可能な目標・上位目標のレベルはどこか?、そのために相手国および日本側に必要なことは何か?といった相手国のニーズとの整合性や計画デザインの精度(妥当性)を高めていくことが必要である。また、相手国の開発課題に効率かつ効果的に対応していくためには、どのくらいの期間や投入が必要なのか、また前任者から後任者への情報交換や経験の蓄積(効率性)を徹底させていくことも大切である。

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