事例2-3: JICA 家族計画・母子保健プロジェクト(フェーズI及びII)の事例
1.プロジェクトの特徴
JICAは、ルソン島中部リージョンIIIのタラック州にて、家族計画・母子保健活動を改善することを目的に、1992年から5年間に渡るプロジェクト方式技術協力を実施した。その後、フィリピン政府の、本プロジェクトの成果をより広い地域で波及させるための新たな協力要請を受け、1997年4月から5年間は、タラック州に限らずリージョンIIIの6州全体に広げていくことを課題とし、フェーズIIを実施した。2001年11 月には終了時評価調査団が派遣され、12月付けの報告書が提出されている。
その中で、本プロジェクトの特徴として2つの点が挙げられている。第一に、日本側の投入の効率性が評価されている。対象6州において、3名の長期専門家が3ヶ所の地方事務所に分かれて、それぞれ2州を担当するゾーンディフェンス方式が採用されて、効率的な活動管理と指導が行われたとされる。また、多岐にわたる活動を目的とした短期専門家を投入して、活動の見直しや改善を行い効率的な人材の投入がなされたと評価されている。第二に、プロ技以外の多様な在比日本大使館やJICAによるスキームを組み合わせるという柔軟性が評価されている。日本ODAの他のスキーム(無償資金協力・青年海外協力隊・開発福祉支援事業・草の根無償資金協力)を積極的に採用しただけでなく、日本NGO(AMDA・JOICEF)やローカルNGO(Luznet:母子保健分野関連の13のNGO からなる連合体)と連携を取ってきた。また、他国ドナーや国際機関(USAID・WHO・UNFPA)とも意見交換やカウンターパートの相互訪問など連携が取られていた。
プロジェクトの内容 | プロ技 | 無償 | 青年海 外協力 隊(FLI) |
JICA 開発福 祉支援 |
大使館 草の根 無償 |
NGOとの連携 | ||
日本の NGO |
ローカル NGO |
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(1)統合母子保健プログラム | 5歳未満児検診(UFC) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
保健所職員の訓練 | ○ | ○ | ○ | |||||
保健ボランティアの訓練 | ○ | ○ | ○ | |||||
センター・保健所機能の確立 | ○ | ○ | ||||||
(2)RH推進プログラム | RH関連教材の作成 | ○ | ○ | |||||
RHへの男性の巻き込み | ○ | ○ | ○ | |||||
思春期保健 | ○ | ○ | ||||||
IECの作成と配布 | ○ | ○ | ○ | |||||
(3)住民組織支援プログラム | 簡易トイレ製作 | ○ | ○ | ○ | ||||
保健ボランティア生計向上 | ○ | ○ | ○ | |||||
IECの作成と啓発活動 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
人形劇 | ○ | |||||||
村落協同薬局活動 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||
回転資金薬局経営 | ○ | ○ | ○ | |||||
NGO連合体 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
2.プロジェクトの概要
(1) 統合母子保健プログラム
医療従事者に対しては、州内でのUFC(5歳未満児検診)活動パイロット保健所の確立と持続のための支援、UFC活動推進保健所の拡大支援、医療従事者への再訓練支援、UFC活動関連機材供与等の支援が行われた。また、住民に対しては、乳幼児台帳・健診四半期報告導入支援、保健ボランティア育成訓練支援、母親教室の質の向上支援、結婚前学級の質の向上支援が行われた。
(2) 住民へのIEC(TV99)の作成と啓発活動
プロ技のプロモーション用VTR(13種類)や、住民への啓発活動用のVTR(14種類:TV99シリーズと思春期ビデオ)の作成支援を1993年より行った。特にタラック州では、1993年4月から2000年5月までの7年間、州保健局とJICAスタッフにより、毎週2回夜間ビデオショーが村の広場で娯楽映画の合間に実施された。家族や村議会議員、学校関係者や保健所関係者など幅広い層の住民の参加があった。2000年9月以降は、州予算を確保し事業が州保健局により継続されることになった。ビデオショーの実施方法は、日中、中学校での上映に変更された。
(3) 村落協同薬局
1994年6月よりNGOのSMBK(Samahang Manggawang Binhing Kalusugan:タガログ語で「健康の種共同体」)の協力により、タラック州で村落協同薬局の導入が開始した。これに対し、プロ技では人材育成・モニタリングのための資金を支援し、6市町村10箇所のパイロット村落協同薬局が設立された。1997年からは他の州へ支援を拡大し、特にZambales州では60箇所の村落共同薬局が設立された。タラック州では2001年10月の調査によると、1992年から本調査時点までに設立された村落協同薬局は全部で76件、当時運営されているものは45件であった。平均経営期間は約3年間。一番新しい薬局で3ヶ月、最長で5年間運営されていた。プロ技では2000年からプロジェクト終了までの2年間、関係機関を集めての合同ワークショップなど実施し、村落協同薬局が地方行政の中での組織的位置付けを確立(保健所の管理下)し、医薬品管理面・資金管理面において継続的支援体制が整うよう支援した。
3.効果・インパクトのNGO事業との比較
8月16日に、UFC活動推進のためのパイロット保健所(Capas II)、村落協同薬局(Balibago 1st)、Capas市内Dolores小学校のIECによる啓発活動を訪問した。その中で本事業のNGO事業と比べた効果・インパクトの特徴は以下の通り。
(1) 事業対象地域や投入が大きく1、効果の面的広がりが大きい。
例えば、UFC活動推進のためのパイロット保健所については、フェーズIIではパイロット保健所2を他地域まで広げることを目指しており、実際他町の保健所にも大変良い影響を与えた。具体的には、Capas保健所IIの保健所長が他の州のバギオ病院でワークショップを実施し、地域ベースでのUFC活動の展開に関する経験を提供したり、他町の医療従事者がCapas保健所IIを訪問する機会を提供したりした。このような形でパイロット保健所の効果は広い地域に広がった。
また、住民へのIECの「TV99を使った啓発活動」は1993年から2001年11月まで、延べ906回、VTRが上映された。多くの公立小学校では、VTRによる啓発活動は行われていなかったが、上映の需要があった。内容的にも適切であると学校側から評価された。現在学校側は、保護者の参加も呼びかけており、子供を通じての家族への波及効果とともに期待されている。実際の効果についても、州保健局スタッフによると、今年のデング熱患者数は、高雨量にもかかわらず数十件に留まっており、効果がみられるとのこと。これがTV99の効果であるという論は証明が困難であるが、これらの自信が州保健局スタッフにとって良いインセンティブとなっており、更にやる気を促している。
(2) 他の多様なODAスキームとの連携が可能である。
例えば、フェーズIより無償資金協力と連携が行われ、2001年4月、母子保健センター(州の母子保健の中核的役割を担う)・保健所・保健所支部を6州全体で83箇所設立された。
またIEC活動については、2001年1月からはRegionIII 保健省が無償資金協力による啓発用車両を使ってTV99啓発活動を開始し、これにより、このVTR上映活動は継続されている。
(3) NGOとの連携も可能である。
例えば村落協同薬局活動において、NGOとの連携が行われた。地方自治法施行後、保健所の医薬品は慢性的に不足しており、保健所を訪問した患者は処方箋を持ち、街の民間薬局で高い医薬品を購入せざるを得ない状況があった。従って村落協同薬局設立の効果は、薬をいつでも、近場で安価で、また保健所と連携しているため安心して利用できるようになったという大きな効果があった。さらに薬局からの収益により 保健所支部の修繕・椅子机のレンタル業、米の販売、マイクロクレジット等、会員への生活支援サービスを開始し、医薬品の販売利益をコミュニティーヘ還元し、地域の活性化にも大きく貢献している。
(4) 州政府の人材育成を行う。
直接的に住民を支援するのではなく、行政レベルの人材を育て、彼らが保健所指導を行っていくことを目的としている。
実際に、UFC活動推進のためのパイロット保健所については、保健局の指導のもとに、UFC活動が日常活動化している。また2箇所の保健所では、UFC活動推進のための医療従事者再訓練が独自の予算3を使う等して継続している。このように事業を各保健所で継続させるためには、州政府の人材による継続したモニタリングが必要である。今後地方分権が進んでいく中で、州政府の各町への影響力・指導力は弱くなりつつあり、今後の各保健所指導を効果的に行えるか懸念される。
(5) 保健省から各自治体への予算確保を求めることも可能である。
例えば、住民へのIECの啓発活動について、2000年9月に学校での活動に変更してから、学校からの活動への需要は高い。保健局は、現在は、機材運搬用車両費用も市町に負担の依頼をしている。実施者である州保健局だけが経費を負担するのではなく、依頼者側の経費負担も確保され、事業の継続の可能性が期待される。
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<タラック州保健局> | <パイロット保健所・Capas保健所II> |
1 日本側 長期専門家11名、短期専門家30名、研修員受入18名、機材供与 165,958,000円、ローカルコスト負担 156,762,000円 その他、相手国側 カウンターパート配置45名、土地・施設提供
2 JICAからの資金的支援は、人材育成(医療従事者と保健ボランティア)とUFC活動関連機材(乳幼児体重計・成人体重計・貧血検査キッド・教育教材)供与を実施した。
3 USAIDの地方政府支援プログラム“Matching Grants Program:MGP”の一つであるSentrong Siglaの助成金(米国のNGO“Management Science for Health”に委託され2000年から開始した。保健所サービスを判定するもので、行くつかの基準を満たすと、100万ペソの助成金が町に支給される。)を使用している。