事例2-2: AusAIDによるローカルNGO支援の事例
(社会経済プログラムの設立を通じたHIV/AIDS/STDの総合教育プロジェクト)
プロジェクトの概要:
AusAIDはPhilippines - Australia Community Assistant Program (PACAP)(ローカルNGO支援プログラム)の中で、男性の同性愛者のためのNGO支援を行っている。当プロジェクトは、ダバオ市1において、美容院と文化センター(バー)の設立と、マイクロクレジット融資を行う事業で1999年に申請が許可された。
成果として、300人の男性の同性愛者のための雇用創出、美容院での資料の掲示によるHIV/AIDS/STDに関する教育が期待されている。計画は3年からなり、1年目は美容院経営を軌道に乗せることと、マイクロクレジットの運用を目的とし、2年目は1年目が成功することを条件に、文化センター(バー)の建設が予定されている。今回の調査時点では、第2年目の資金が提供されるかどうかの検討中であった。プロジェクトは、実施NGOの組織能力強化、フィリピン国内での関連グループとのネットワーキング等の強化も目指している。
直接の裨益者(男性の同性愛者) | :1年目300人、2年目400人、3年目500人 |
間接の裨益者(一般市民) | :1年目1,000人、2年目2,000人、3年目3,000人 |
申請NGO | :IWAG Dabaw, Inc. 2(1995年に設立された) |
グラント額3 | :1年目1.65百万ペソ(約68,000A$)支払い完了。 現在2年目開始の検討中。 |
プロジェクトの成果:
(1) 美容室
― | 2001年3月に営業開始し、美容師のスタッフが2名いる。客は男性の同性愛者の人に限らず一般の人も対象にしている。何人かの顧客が定期的に来ているが、赤字経営が続いている。赤字削減のための努力はしており、2002年6月にも3回目の美容院移転をしたところである4。 |
― | 美容室の壁面と片隅の書棚にはHIVに関わるポスターや冊子が置かれていた。また、美容院の2階がIWAG Dabaw, Inc.の事務所兼、情報提供、交流の場になっており、メンバーや関心のある者が立ち寄れるようになっている。 |
― | IWAGは必要に応じて、保健省下のSocial Hygiene Clinic や USAID支援の Friendly Care , Davaoへの紹介を行っており、地域の中で連携を行っている。 |
(2) マイクロクレジット
― | 導入の理由は、彼らの経済活動の支援のほかに、お金を貸し、返済することを通じて価値観を変え、社会的責任を果たす行動規範を身に付ける教育を行うことであった。 |
― | 169,000ペソ(約7,000A$)が初期6ヶ月用の資金のために支払われた。IWAGのメンバーである26人に対して貸付が行われた。彼らの始めた企業の内訳は、美容院や、ソーセージなどの肉加工業、サリサリストアなどの小売業である。一人当たりの融資額は約10,000ペソである。財務マネージメントに関してワークショップを行う。 |
― | 融資担当者が1名おり管理している。融資審査の方法は、申請書5に基づく審査を行っている。審査に当っては貸付先事業の種類として、小売業よりも製造業の方がスキルが蓄積されるので望ましいと考えている。小売業に対する融資は全体で50%以下に抑えるようにしている。 |
― | 貸し出し資金の返済率がとても低い。 |
スキームの特徴:
(1) | 3年計画でNGOを支援する本プロジェクトは、組織的にも基盤体制がまだしっかりしていないNGOであっても、ゆっくり育てながらプロジェクトを行っていくというAusAIDの姿勢が見られた。つまり、1年目が上手くいけば2年目に、それが上手くいけば3年目に、プロジェクトの資金を提供するという方法を採用していた。これは単年度でなく、複数年度によるプロジェクト支援の方式として参考になる。 |
(2) | モニタリングが頻繁に行われるとして、AusAIDのプロジェクト担当者が、地域コーディネーターとして、一定の地区のプロジェクトをまとめて担当している。本プロジェクト担当者は、3ヶ月に1回はプロジェクトのモニタリングに出張している。このため、常にプロジェクトの進捗状況の把握、信頼関係の醸成、プロジェクトの軌道修正やプロジェクト継続支援の是非の検討等を可能にしていた。 |
(3) | NGO支援スキーム間の連携を図る当プロジェクトを、PACAPで支援することになったきっかけは、AusAIDがAusAID-NGO Cooperation Program (ANCP)を使って、1995から1997年にIWAGを支援していたことからである。今回の支援はそれを引き継いだ形であり、このようにオーストラリア本国のNGO支援とローカルNGO支援の間に連携が見られる。 |
(4) | NGOと地方自治体の関係を重視しているAusAIDは、NGOと地方自治体の連携を大切にしている。インタビューによると、「両者は競合するものではなく、同時並行的に支援していきたい」とのこと。PACAPのプロジェクトの申請書にも、住民参加(Local Participation)という項目があり、NGO事業とバランガイの計画との関連性を記載させており、住民組織と地方政府との関係を重視している。また、地方政府がどのようにそのプロジェクトの実施段階に関与するのか書かせている。 |
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<美容院にて> | <エイズ教育のパンフレット等の掲示> |
1 ダバオ市の8つのコミュニティーに1,200人の男性の同性愛者がいる。
2 在フィリピン日本大使館の草の根無償により車の支援を過去に受けている。
3 年度で500,000 ペソ~750,000 ペソ(但し、ケースによっては増額可能)カウンターパートは資金面でも33%以上の貢献をする必要がある。(現金またはその他)また、地方政府からの支援も歓迎するとしている。
4 当初20,000ペソの家賃負担が現在6,000ペソに軽減した。これは半分をPACAP資金から、半分をプロジェクトの運営利益から支払っている。
5 プロジェクトの計画や、親等の保証人からの保証書を提出する必要がある。簡易なものと見受けられた。