参考情報 2 他ドナー及び我が国ODAの事例
事例2-1： USAIDによるローカルNGOとの連携の事例
（フレンドリー・ケア・クリニック）
本事業は、USAIDが過去に支援した南米での成功例1をモデルとしてフィリピンでUSAID現地事務所の主導により実施されたもので、民間セクターの活用を通じた「質の高い家族保健サービスの実施」と「収益性の確保」という2つを目的としている。1999年4月に、USAIDの財政的及び技術的支援により、実施NGOである、Friendly Care Foundation, Inc. (FCFI) は設立された。FCFIの設立に当たり、フィリピンの政財界等の有力者が発起人に名を連ねているため、民間セクターによる活動であるが、国家プロジェクト的な色彩を持っていると言われている。
プロジェクトの背景としては、フィリピンでは保健所や公立病院などの公的保健医療施設では、基本的に家族計画や母子保健のサービスは無料で提供されている。しかしながらその利用者のうち約7割を占める中所得層および低所得層は、医療費を負担する能力もあり、また例えお金を払っても限られた内容の公的保健医療サービスよりも良い質のサービスを受けたいと希望している。一方、民間医療機関の場合は、医療費は非常に高く費用負担が困難な状況であった。
フレンドリーケアプログラムは、こうした公的保健医療サービスには満足していないが、高額な民間医療機関によるサービスへのアクセスが困難な利用者層に対して、彼らが利用したいと思わせるような家族計画及び母子保健を中心とする医療サービスを、彼らにも負担可能な適正な価格で提供することを目的としている。いわば無料の公的保健医療サービスと高額な民間医療機関の間に存在するニッチ市場をターゲットにした、市場原理に基づく保健医療サービスの提供であり、上記の2極化に対する新たな選択肢の提供である。
FCFIの重点目標は以下の4点が挙げられる。
- 低中所得者層に対して質が高く、かつ彼らに負担可能な適正価格で、家族保健サービスの提供システムを確立すること
- 無料の公的医療機関と高額な民間医療機関との間の隙間（ニッチ）市場を埋めるサービス提供を行う民間企業体を設立すること
- フレンドリーで、患者の親身になり、人間的な態度で保健医療サービスを提供するモデルを作る
- 10年後には100％の独立採算を目指す
この目標に沿って現場でサービス提供を行うのがFCFI傘下のフレンドリーケア・クリニック2である。フレンドリーケア・クリニックはフランチャイズ形式をとっており、FCFIはクリニック開設、運営指導、機材資金の支援などを行っており、ファーストフードチェーンのビジネスモデルを参考に、保健医療サービスの全国展開を目指すなどユニークな経営形態を取っている。フレンドリーケア・クリニックはエリアサービスセンター、中級サービスセンター、ベーシックサービスセンターの3つのタイプに分かれている。エリアサービスセンターは家族計画、母子保健に関する全ての医療サービスを提供し、手術施設も備えている。これは主にマニラ、セブ、ダバオなどの人口の多い大都市に置かれている。中級サービスセンターはエリアサービスセンターの機能をコンパクトにしたもので、外科手術施設はない。ベーシックサービスセンターは小規模クリニックで、家族計画、産婦人科、STD、AIDS/HIVなどの感染症などを扱っている。またフレンドリーケア・クリニックでは、診察や手術などの医療行為だけでなく、安全な母性、青少年や成人に対する性教育、STD、AIDS/HIVなどの感染症の予防教育などの教育プログラムも実施している。
スキームの特徴：
| (1) | 財政支援と技術支援を行うUSAIDによるFCFIへの支援は、主に二つの形態を通じて行われている。第一は、財団であるFCFIへの直接的な財政支援である。第二は、米国のジョンホプキンス大学公衆衛生大学院を通じて、事業計画、経営システム、コミュニケーション及びマーケティング計画、戦略、サービスの質とフランチャイズ方式、などに関して技術支援を行っている。 |
| (2) | 民益サービス支援を行うUSAIDがこのプロジェクトを通じて目指すものは、公的保健医療サービスを補完する民間セクターによる質の高い適正価格による保健医療サービスの提供であり、将来的にはモデルとしての公的セクターへの波及効果を狙っている。これは従来よりUSAIDが堅持している開発理念である、「民間セクター主導による」「市場原理に則った」「持続性のある」という考えに基づくものである。 |
| (3) | NGOをパートナーとして位置づける本プロジェクトの場合は、USAID現地事務所とNGOとの連携はCooperative Agreementの形態で行われており、NGO事業補助金とは支援形態が異なるものであり、両制度の比較から本調査に係わる直接的なフィードバックを得ることは、容易ではない。両者の大きな相違点は、USAIDのCooperative Agreement によるNGOとの連携は、基本的にUSAIDの開発戦略や個別の開発プログラムを実施するための担い手としてNGOを活用し、両者が協同で事業を進めている点である。NGOを支援の対象としてだけではなく、USAIDの戦略的パートナーとしての位置付けをしている。 |
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| ＜クリニック受付＞ | ＜診療待ちの様子・廊下＞ |
1 コロンビアのPro-Familiaという団体が実施しているプロジェクトをモデルとしている。
2 クリニックは2000年2月に開業したところである。