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事例2-4: JICA 「フィリピン・ミンダナオ平和特別地域保健行政」研修の事例

1.プロジェクトの概要

JICA国別特設「フィリピン・ミンダナオ平和開発特別地域保健行政」研修コースは、1998年度より2001年度まで4回実施され、合計で40名の卒業生を送り出している1。このJICA研修は、同地域2におけるミンダナオ・イスラム自治区3(ARMM: Autonomous Region in Muslim Mindanao)の保健行政官(保健婦を含む)を対象に、地方自治体の保健行政の向上のために、保健行政官のリーダーシップと意識向上、住民参加を視点に入れた計画・運営管理能力を身に付け、それを推進し、帰国後ネットワークを形成する事を目的に実施された。JICAは、2001年7月にダバオにて研修卒業生や関係者を招いて評価セミナーを実施し、当研修の中間評価を行っている。

(概要)

研修はJICA中部センターにて行われ、毎年10名の保健行政従事者を対象に、約1ヶ月の研修期間で実施された。また本研修はミンダナオにおいて、過去18年間に参加型マネージメント研修の実績のある、本邦NGOアジア保健研修所(AHI)に業務委託され、AHIが研修コーディネーターとして研修の準備、計画、実施を行っている。(カウンターパート:ダバオ医科大学プライマリーヘルス研究所(IPHC))2001年度の研修項目は、(1)住民参加型保健行政のための基本理念を理解した上で、それに基づいて研修員が自分の活動現場状況を的確に把握する(ワークショップ、講義)、(2)住民参加型保健行政の実施能力を育成する(ワークショップ、講義、見学)、(3)参加者の今後の当該分野におけるアクションプランを立案し、発表し、さらにコメントを得て最終化する、であった。

これまで行われた研修では、成果として研修員により参加型保健開発のための枠踏み(フレームワーク)が作られた。第4回目の研修では、さらにそのフレームワークと連携したアクションプランを、各研修員が立案することにより中身の充実を図り、それがイスラム自治区4州(ARMM)、ひいてはミンダナオ全体にまたがる保健システムに取り込まれることを意図している。

2.評価ミッション訪問内容

2002年8月20日にダバオにあるIPHCを訪問しインタビューを行った。また別の日に、研修卒業生であるDr. Samuel A Pahm(ARMM保健局:1998年度研修、現在、研修生同窓会(PHDF)の議長)及びDr. Henry Plaza(ミンダナオ保健局:2001年度研修)へのインタビューを行った。

3.効果・インパクトのNGO事業との比較

(1) 行政レベルで参加型開発の意義の理解、能力向上が行われる。

元研修員は徐々にではあるが、日本で学んだ参加型アプローチを取り入れた保健行政を、職場や地域で実践している。その中でも目立った効果としては、研修卒業生による同窓会組織NGOであるPHDF(Participatory Health Development Foundation)が設立されたことであろう。これは単なる元研修員の親睦のみならず、日本で学んだことを実践するために、お互いに励ましあい、情報の交換や共有を行い、各アクションプランを体系的に整理し、実行に移すための活動母体を目指している。また将来的にアクションプランを実行に移すための予算が地方行政に無い場合に、利用できる資金源を提供する可能性を持っている。

(2) 効果が保健行政システムの変革につながった。

元研修員を含む各州の保健行政官により、2000年4月、第一回イスラム自治区参加型保健行政推進会議が開かれ、PHDFがイスラム自治区保健省の新たなパートナーとして採用され、またPHDFの参加型保健開発のためのフレームワークの提案も、ARMMの4州にまたがる新たな枠組みとして採用することが決議された。このように、研修成果が保健行政システムの変革にあらわれた。

(3) 研修生の帰国後の活動に対して行政のサポートが得られる。

2001年4月に、JICA研修コースをめぐるステークホルダー会合が開かれ、PHDF、保健省ミンダナオ保健開発局、イスラム自治区保健局の役割の明確化が行われ、それらの各ステークホルダーが引き続きJICA研修を支援して行く方向性が確認された。

(4) ODAとの連携が可能である。

日本研修のフォローアップとして、JICAフィリピン事務所が中心となって、ミンダナオのダバオにおいて現地国内研修が2002年度より5年計画で開始されている。この現地国内研修は、元研修員が中心となって、彼らが日本で学んだことを現地に波及させることを目的としている。(AHIの現地カウンターパートのIPHCが研修コーディネーターとして係わっている4。)またDr. Pahmによれば、PHDFは今後JICAからの支援を受けて、開発協力を行う予定とのことである。このように、JICA研修が、他のスキームである国内フォローアップ研修へとつながった。

(5) わが国のNGOとの連携も可能である。

AHIという保健行政分野での人材育成で定評のあるNGOとの連携により進めてきたことにより、NGOの特性である「自立」「住民参加」の価値が効率的に研修へ反映され、参加者の意識改革にもつながっていると思われる。

最後に付言するが、本研修の効果については、人材育成は時間のかかる仕事であり、さらに保健行政組織や政策への波及効果は短期間に現れるものでないため、今後長期的視野でモニタリングをしながら見ていく必要があろう。


1 当初計画では1998年~2002年までの5年間の協力期間ということで進められてきたが、本研修の必要性が引き続き認められ、2003年度以降にさらに5年の延長を行うことが内定している。

2 ミンダナオ平和開発特別地域とは、ミンダナオ島西部を中心とした14州10都市を含む地域で、イスラム教徒の分離独立運動が1996年に終結したばかりであり、社会経済基盤や、特に保健・医療分野における指数はフィリピン全国平均を著しく下回っており、最優先開発地域として位置付けられている。

3 Maguindanao, Lanao del Sur, Tawi-tawi, Suluの4州のこと。

4 JICAとの契約上は、保健省ミンダナオ保健開発局(DOH-MHDO)を実施主体とし、ここからIPHCに研修業務の委託を取るかたちになっている。



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