事例1-3:(特非)金光教平和活動センターの事例
1.プロジェクトの概要
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<保育所> | <保育所> |
(団体の概要)
金光教は、1988年より直接的に世界の平和促進と南北問題に取り組んでいくために、金光教平和活動センターを設立した。当初よりフィリピンとタイにおけるストリートチルドレンの生活と教育を支援するための活動を行ってきた。1994年には広島集会からは分離され、「国際協力」と「国際交流」を中心にした活動を進め、1997年本格的な活動を始めた。現在はフィリピン、タイ、カンボジアにおいて、現地のカウンターパートとともに、都市スラムをはじめ貧困地域に住むストリートチルドレンなど、子供達の栄養補給、教育、衛生、また大人に対しては職業訓練をはじめとする自立支援を行っている。
フィリピンにおいては、1989年9月からShare and Care Apostolate for Poor Setters(SCAPS:フィリピン全国カトリック司教協議会NGO)をカウンターパートとして活動を開始した。1996年3月からは、SCAPS解散により、所属していた2名のスタッフと契約を交わし、現地法人 金光教平和活動センターインフォメーションオフィス(Konkokyo Peace Activity Center Information Office, Inc. (KPACIO) (マニラ市、マラテ地区)を設立した(10月にSECへの登録を完了した)。
具体的にフィリピンでは金光教は保健・啓発事業として、主に3ヶ所で小学校入学前の幼児(4歳から6歳)に対する栄養補給のための給食サービス、および健康管理のための生活指導の実施と、母親に対する保健・衛生知識の普及指導を行ってきた。この活動に対して、1997年から保健衛生事業としてのNGO事業補助金を利用している。その他にも、自立支援プロジェクトやストリートチルドレンのための活動も行い、人材育成事業として外務省NGO事業補助金を得ている。
2.2001年度 補助金事業(保健衛生事業)内容
プロジェクト名 | :保健・啓発プロジェクト(2001年度) |
補助金事業実施期間 | :1997年~2001年 |
ターゲットグループ | :主に幼児たち1 |
対象地域 | :マニラ市(2ヶ所)、マラボン市、セブ島マンダウエ市 |
活動の内容 | :3箇ヶ所での保健衛生事業。それ以外に、1999年からは小さなNGO団体との連携も進め、マニラ以外の山村漁村合計11ヶ所で貧困地域に住む子供達に対して、保健衛生事業と教育支援、保健衛生改善事業(ゴミ箱の設置、掃除用具の支給)を行っている。 |
補助金対象経費 | :3,107,000円(教材費、母子栄養給食費、現地補助員費、事業管理費) |
自己資金使用実績 | :5,733,720円(人件費、保健費、行事費、事業管理費、国内担当者渡航費、その他) |
現地カウンターパート | :Konkyokyo Peace Activity Center Information Office, Inc.)(KPACIO)
2名の専従スタッフ、2名のボランティア |
3.訪問内容
2002年8月15日マラボン市ポトレロ地区のEPDC プロジェクトを訪れ、8月26日(月)に現地事務所を訪問した。
(事業の背景)
金光教は1992年の夏から、旧カウンターパートのSACAPと連携して、ポトレロ地区のSAMAKABAという住民組織のメンバーの幼児23人を対象に保育所プログラムを開始し、教育と栄養補給プログラムを実施してきた。この地区は、周囲はゴムや鉄加工業等の工業地帯の個人所有地や公共道路の不法滞在の地域の中にあり環境は悪い。また、海抜0メートル以下の土地で、すぐに洪水や高潮の影響を受ける地区である。マラボンに住む人たちの月間平均所得2は、7,000ペソ以下の人が102家族(4,000ペソ以下が23家族)、7,000ペソ以上の人が22家族である。また、無収入で親戚へ依存している家族が6家族ある。つまり約78%の家族が7,000ペソ以下の生活をしている。また、法律上、彼らは土地の占有権を持っておらず、不法占拠者と見なされている。フィリピンでよくみられるが、土地に対して3人の所有者が権利を主張しており、誰の土地であるか定かでない。また、過去には、土地立ち退きの危機を経験している。同地区の大きな健康上の懸念は、公衆衛生状態が悪いことと、子供の発育不全である。調査時のインタビューでは保育所に通う80名のうち、5名が低体重児ということであった。
(活動内容)
同地区に小学校入学前の子供のための保育所を2ヶ所用意し、読み書き、簡単な数学を教えている。先生は保育所に通う幼児の親達であり、現在7人が教師として活動している。現在経験の深い5人に対してKPACIOから少額(3,000ペソ3)だが手当てを出している。先生は年2回、日本人スタッフよりトレーニングを受けている。ひとつの教室は、8畳ほどの広さで住居の一角を借りており、教室内には黒板と簡単な長机が2つとプラスティック製の子供用のいすが備えられ、片隅には体重計が置かれていた。トイレは室内にあるが、訪問時は壊れているため、近所の家のトイレを借りている状況であった。
一教室で1日に4回クラスを行っている。1回のクラスの対象者は20名、従って一日合計一教室80名が参加している。プロジェクト全体の受益者の数は160人である。参加者は毎週15ペソを支払う。各回ごとに母親たちが労働力を提供し給食サービスを行っている。給食サービスでは、ビーフン(お米の粉の焼きそば)を児童に出している。1回にかかる経費は約60ペソ(1人当たり2~3ペソ)、一月約5,000ペソ(240ペソ×20日)である。
96年以降、年1回の歯科検診と年2回の健康診断を行っている。公的医療機関に勤める医師がボランティアで協力してくれる。(2001年4月には、イギリスの歯科衛生士のボランティアの力を借りて、幼児たちの歯科検診や、歯の衛生指導を行った。)KPACIOとしてはボランティア医師に対して、食事を提供するのみで資金的負担はない。また、最近の活動として、週に3回ボランティアスタッフが家庭訪問を開始し、子供の予防接種実施状況の確認等、家庭の健康調査を行っている。これは、2001年6月から2002年5月までフィリピン国家ボランティア支援庁 (Philippines National Volunteer Service Agency) との連携により、イギリスのVoluntary Service Organization(VSO)から地域保健指導者としての女性が派遣されたことによって促進された4。
KPACIOでは、バランガイとの連携を重視し、最近では様々な許認可取得や、また、バランガイへルスセンターへの照会に際し、支援を得られるようになった。ただし、医師が彼らのように低所得者層に対しては同情的でなく、薬が充分無く、住民はあまり行きたがらない。その他にもNGOとの連携を行い、他のNGOの無料診療所のサービスを住民が受けられるようにしている。
現在の問題は、「教室が狭く、建物所有者に対して賃料が毎月1,500ペソ、電気代等で約350ペソかかる」ことであった。対策として、「地域内に住民組織が政府役人と企業家の資金援助を得て、住民が労働力を提供する形で建設した教会の礼拝堂を利用したい。教会の2階以上の建設がストップしているので、それをKPACの支援に自らで是非建設したい。」とのことであった。しかしこれに対して、彼らの問題を彼ら自信で解決させることを目的に、また、同じようにその土地も所有権の明らかでない土地のため、立ち退きの危機が常に有り、KPACIOは支援しない方針である。
(成果)
訪問したマラボン地区は約10年にわたり金光教が、ユニフォーム代、教材費、給食費等を支援をしている。保育所に通う児童数は97年は80人であったのが、98年以降対象児童を160人に伸ばした。この背景には、今まで保育所活動への意識が低かったが保育所活動が受け入れられ、地区の人口増5を背景に急増したとの回答を得た。現時点では、具体的にどのように健康状態が改善されたかのデータはないが、来年インパクト調査計画中とのことである。
給食サービスの効果は、健康状態に関する実際のデータやモニタリングの活動が2001年4月から1年間、イギリス人ボランティアの力を得ながら開始されたところである。彼女は調査報告書 (May 2002) を作成している。これは現在地域の健康状態に関する調査を行い、今後の取り組みに生かす、または今後のモニタリング体制を整えるために作成されたところである。
その他の効果としては、第一に先生達のトレーニング能力が向上し、カリキュラムが作成され、教育内容がより充実し、先生自身に自信がついたこと。第二は、金光教により地域における保育所運営の信頼性が高まったこと。第三は、長い活動継続により地域に関する保健衛生状態の調査活動にまで活動が発展したこと。第四は給食活動や教育活動に参加することにより母親達の喜びが増加したことである。
(自立発展性)
活動を持続させるために、住民組織の組織強化の必要性について強く認識していた。マラボンでの今後の活動についてのKPACIOの意見は、今後3年ぐらい支援を行い、それ以降は自力での存続を望んでいた。また、彼らから、教室にビデオ設備の設置、施設の向上等を望む声があるが、これについては支援できないと伝えているという。将来的には、子供への教育のみでなく、授産活動への支援へと活動を展開していきたいと考える。また、特にPO活動の持続可能性については非常に重視していた。例えば5年間支援を行った後は、現地への主体性の委譲可能性について考える等の時間軸で考えていきたいとのことであった。日本の補助金や国際ボランティア貯金寄附金配分金が無くなることには危機感を感じると述べていた。ただし、その方策として、イギリスのVSOを雇う等の持続可能性に向けての活動を行っている。このように、NGO活動について単なる慈善活動ではなくて地域開発ということを重視していると強調していた。
持続可能性の阻害要因としては、彼らの住む土地そのものが、法的に彼らの所有でないということがある。いずれ立ち退きを迫られるかもしれない土地に、教室を立てるのに支援するのは議論の必要があるとカウンターパートは認識していた。
(現地カウンターパートの体力)
金光教は現地カウターパートKPACIOに主導権を与え、日本側はカウンターパートから報告を受け、総合的に監理する体制をとっている。日本側とカウンターパートの連携は蜜であると思われた。現地カウンターパートは、日本からのスタディーツアーを受け入れている他、日本の外務省関係の事業補助金に関する評価調査(2000年)(フィリピン、モンゴル)を受け入れた経験がある。また、在比日本大使館のNGOとの連携協議にも参加しており、他のNGOとの連携を重視していると思われた。また、カウンターパートの活動方針として、保健衛生事業に関しては3つの住民組織(PO)を直接的に支援する形でプロジェクトを行っているが、NGOとPOの役割についての基本的考え方は、「NGOは財務的支援や技術的支援を行い、現地のPOを育て調整するもの」と考えていた。具体的には、支援しているPOは、そもそも土地代や法律問題の解決のためにできたNGOだが、金光教は教育、医療の面で支援を行っている。近年は11ヶ所で他のPOへの財務的支援を行っている。これはより業務量が少なく、広く支援が可能なため、多くの情報を得られることで有益だという。
1 受益者の数については第4章の表4-1参照。
2 VSO派遣員のレポートによる。また、国家の定める最低賃金が月間、7,750ペソ(250ペソ×31日)
3 金光教平和活動センターの支援を得る前は1人2,800ペソだったとのこと。
4 彼女の活動内容は、地域の健康状態を把握し、モニタリングを行うこと。地域保健教育、訓練のためのモジュールを開発すること。地域保健サービス提供のためのネットワーク作り、であった。特に2001年6月から9月には、地域の共通の健康に関する問題を見つけることを目的に、子供達の発育調査を保育所に通っている子供の両親168人を対象に、健康状態やその対処方法等多岐にわたる調査を行った。また9月から2002年2月にかけて、母親に対しても指導を行う必要があるため、健康維持促進プログラムを計画して、定期的に総合的な栄養指導研修会が開催された。そして、研修に参加できない家族が多いため、家庭訪問の重要性が提案された。
5 VSOのレポートによると、この地区の人口増については、80年代から住んでいる人が20家族で、90年代前半に27家族、90年代後半には15家族が移り住んでいる。2000年以降も6家族が移り住んでいる。