広報・資料 報告書・資料


事例1-2:(特非)地球ボランティア協会(GVS)の事例

1.プロジェクトの概要

マンダリオン地区保健センター メリーランド地区バランガイ・ヘルスセンター
<マンダリオン地区保健センター> <メリーランド地区バランガイ・ヘルスセンター>

(団体の概要)

地球ボランティア協会は、1992年6月、(財)精進教育促進協会が行ってきた国際協力事業を引き継ぎ、独立し設立された。本協会スタッフ及び関係者が、設立以前から個人的に又は団体として行ってきた活動、経験を結束し、より専門的な団体として活動することになった。

地球ボランィア協会では、貧困層について、最貧困層1(貧困層に占める割合約30%)、中間貧困層2 (同約60%)、企業家貧困層3(同約10%)の3つに分類し、ターゲットを最貧困層のすぐ上に位置する中間層にすべきとの立場のもとに開発協力を進めている。最貧困層については、事業の間接的な受益グループとして位置付け、プロジェクトをデザインする上で視野に入れている。この背景にある考え方は、(1)最貧困層への直接投入は、投入に見合った成果が得られず、その結果自立発展性が望めない、(2)他方、最低限度の生計手段を持つ中間層が生活改善をするのは、比較的、容易である、(3)彼らは最貧困層に接しており、事業の進め方次第では、雇用促進を始め、様々な波及効果を最貧困層にもたらし、全体を引き上げる可能性がある、(4)その結果、かえってより多くの最貧困層の生活改善が可能となる、というものである。

2.2001年度 補助金事業内容

地球ボランティア協会では、社会的に恵まれない女性と子供を対象に、保健医療、教育、生計事業に関する指導及びサービスを提供することにより、対象地域の人々の生活改善を促進することを目的に、ルソン島、ネグロス島、セブ島等、フィリピン内の20ヶ所において活動を行っている。GVSと現地カウンターパート(DAWV)との役割分担については、両者で長期計画に沿ったプロジェクトリストの協議を行うが、日本側は主にプロジェクトの投入計画、資金計画、技術サポートを行い、現地が具体的に活動計画を作成するように分担を行っている。日本人スタッフは2ヶ月に一度フィリピンを訪問し、定期的にモニタリングを行う。基本的には対象地域20箇所について、DAWVによる派遣ボランティアが毎月報告書を作成している。

プロジェクト名 :医療診療事業 等
補助金事業実施期間 :1998年から2001年度
ターゲットグループ :貧困家庭の3,500名(女性・子供)
対象地域 :ルソン島及びビサヤス島の20の貧困地域
補助金対象経費 :9,643,750円
自己資金使用実績 :15,682,305円
現地カウンターパート :Development Advocacy of Women Volunteerism Foundation Inc.(DAWV)

GVSの活動内容は3つからなる。第一に、活動の担い手となるボランィアと対象地区の共同体リーダーの育成を行っており、事業の中心として位置付けられている。ボランティアの募集、そしてボランティアに対して活動に必要な基礎的な保健医療、教育、コミニティ・デベロップメントの訓練を行う。その後、各ボランティアは対象20ヶ所毎に配置され、共同体活動の核となる対象地域住民による住民グループの組織化や、地区リーダーの育成を図る。

第二に、保健医療及び教育サービスの提供を行っている。対象地域20ヶ所に対して、定期的に医師団を派遣し、住民に対して保健・医療サービスを行う。また住民による保健ボランィアを育成し、保健指導を行う。教育面では、巡回教室、児童を対象にした個人指導や価値教育、母親を対象とした育児教育などを行う。

第三に、所得向上活動として、女性を対象としたマイクロファイナンスを行っている。

3.訪問内容

調査団は、2002年8月14日にケソン市マンダリオン地区(最近保健事業を始めたばかり)を、また2002年8月27日(火)にはパンパンガ州マバラカットにあるメリーランド再定住地区を訪問した。

(事業の背景)

a.マンダリオン地区(マイクロセイビングの活動は今年で7年目。保健事業は開始したばかり。)
ケソン市マンダリオン地区は、都市貧困地区であり、対象住民はマンダリオン地区の中のある通りに住む37家族である(事業対象者は地区の一部住民であり、全住民ではない)。GVSは組織化を支援し、メンバーに対して、小口預金とそれを原資としたマイクロファイナンスの活動を行っている。GVSでは定期的に会計士の資格を持つボランティアを派遣し、預金の回収と貸付、貸付債権のモニタリングを行う。フィリピンの貧困層ではもともと貯蓄の習慣がないため、GVSではグループ会員に対して貯蓄の効用、モラルハザードを防ぐための道徳教育などを含む価値教育を行いながら、貯蓄を奨励している。グループ会員は基本的に自己の貯蓄額に応じてローンを受けることができる。ローンの使途は、サリサリストア(雑貨屋)の開業や、運転資金、子供の学費、医療費などであるが、GVSでは所得向上につながる生計活動が促進されることを期待している。

b.メリーランド再定住地区(保健医療活動、教育活動、生計事業活動)
パンパンガ州マバラカットのメリーランド再定住地区4は、1991年6月のピナツボ火山噴火による被災民のために、SACOP(Social Action Center of Pampanga)が支援して作られた再定住地区である。住民によりMaryland Homeowners Association(メリーランド再定住地区の住民組織)が形成されている。当地区の人口は850人(176家族)で、いまだに多くの住民が失業状態である。

この地区には保健所(バランガイ・ヘルス・ステーション:BHS)が1ヶ所あり、バランガイヘルスワーカー(ボランティア、看護婦等の資格なし)が2名働き、助産婦が週に1回来る。月に一度BCGやポリオの予防接種、体重測定を行っている。薬については処方を行うのみで、近くのバランガイ薬局で購入する仕組みになっている。一番近くのマバラカの総合病院へは4~5キロの距離である。GVSは4ヶ月に一度、医師、歯科医、看護婦からなる巡回医療団(8名の医師、日本人ではない)を派遣し、無料で診療、歯科治療、薬剤の提供を行っている。そのほかには、月に一度ボランティアを派遣して、母親に対して授業(内容:良い母親とは、良い食事とは)、子供への授業(英語、数学、科学)を行っている。これに対して母親達は子供が賢くなったと評価をしていた。またバランガイヘルスワーカー(保健ボランティア)を支援し、対象住民のカルテの整理や住民データの作成を行っている。

(成果)

a. マンダリオン地区
マイクロセイビングによる生計事業については、GVSとしては7年以上支援し、女性グループが組織化され、継続的に活動が続けられている。しかしながら対象者は貧困家庭のため毎週の預金額も多くてせいぜい数十ペソ程度で、期待されるほどの預金量は集まっていない。一方、ローンの使途についてもサリサリストアなどの事業資金への融資はあるものの、子供の学費や家族が病気の際の医療費支払いのための融資案件も多く、実際に生計事業へつながっている融資は期待されたほど多くはないようである。しかし、その日暮らしの生活スタイルであった貧困層が、将来の教育や医療など広い意味での社会保障のための備えの機会を得たことは、プラスのインパクトとして評価できる。

都市スラム地区におけるマイクロファイナンス事業は、農村地区の場合5と比較して、住民が選択可能な生計事業が限られ、サリサリストアなどの雑貨商や屋台の飲食店、ベビータクシーなどの運転手などであるが、多くの場合、そのマーケットは飽和状態に近く、また不安定な職業でもある。今後は住民の生計事業開業の促進と、新たな生計事業の検討の支援も必要であろう。

b. メリーランド再定住地区
保健医療サービスについては、保健所では医師の診断や薬剤の提供がない現状において、4ヶ月に一度の巡回医療サービスは役立っている。ただし対象地域の選定の適切性について疑問があった。それは、政府及びいくつかのNGOの支援により、彼らは簡素ではあるが土地つき住宅が与えられ、町並みもゆったりとしており、都市スラムに暮らす貧困層と比べると、生活環境は恵まれている。また昔からその地域に住む地元住民の居住地域と比べても、生活インフラは恵まれており、新住民と旧住民との間に格差が生じており、両者の関係はあまり良好ではないと聞いた。特定地域に支援が行われる一方、その周辺地域との新たな格差を生じさせる結果を招いている。そのような状況の中で、はたしてメリーランド再定住地区の住民の生活改善を、GVSが引き続き支援することは、どれほどの優先課題であるのか多少疑問の残るところであった。この点については、現地カウンターパート(DAVW)も認識しており、支援方法や支援期間などの見直しを考えているとのことであった。

(自立発展性)

a. マンダリオン地区
マイクロセイビングによる生計活動では、組織化と小口預金の積み上げと、融資と生計事業の効果が、効果的に結び付けられる工夫が必要となろう。このままの状態では、あまり際立った前進は期待できないように思われる。今後はマイクロセイビングのグループ会員への情報提供、事業開始に必要な技術的な支援や、より有望な生計活動を見つけるための支援も必要であろう。そのためにも、GVS側の能力強化も期待されるところである。

b. メリーランド地区
現在はボランティアの活動が、他のNGOの活動を補完する形で行われている。今後、地域開発を担っていこうとするなら、地域住民の参加も巻き込んだ活動が必要であろう。

(現地カウンターパートの体力)

本事業は全国の20ヶ所の地域に対して支援を行っているが、組織の規模や活動内容を考えると、GVS及び現地カウンターパート(DAWV)が全ての対象地域における活動を集約、把握して、有効な活動を継続して実施して行くことが困難ではないかとの印象を持った。特に本事業のようなコミュニティ・デベロップメントの性格を有するプロジェクトの場合、綿密な計画や戦略の策定、十分なモニタリング体制、社会分析と変化に応じた柔軟な対応能力、などが事業実施の上で重要となる。GVSの戦略として多くの訓練されたボランティアを養成し、彼らを動員することにより活動に面的な広がりを持たせようとの考えは理解はできるが、一方で、現在の現地カウンターパートの専従スタッフは5名であり、またGVSの関与の方法も年に数回のモニタリングが中心であることを考えると、実効的な成果を上げるためにも、対象地域の絞込みや、プライオリティ付けの必要性を感じた。対象地域を広げすぎているがために活動が中途半端になり、マイナスの影響をコミュニティに及ぼす可能性が懸念される。加えて、事業実施体制や組織の能力に見合った対象地域及び活動領域の絞込みも、考慮の余地のあることころである。これらはプロジェクトの継続性にも大きく影響を与えるものである。

ボランティアを派遣して、活動を行っているが、一方で派遣ボランティアはプロジェクトのために割ける時間も限られている。例えばメリーランド再定住地区を担当する地区リーダー(GVSボランティア)が現場を訪問する機会は月1回程度であり、現地カウンターパート(DAWV)スタッフの訪問は数ヶ月に1回程度である。GVSが最終的に目指す住民組織の育成と能力強化、そしてコミュニティデベロップメントの姿がどのようなものであるかは明確でなかった。今後プロジェクトをどの程度まで深化させて行くのか、またその過程において、対象コミュニティへの関与の仕方や支援の方法を、どのように対応させて行くのか、工夫して行く必要があるように思われる。


1 ホームレス、路上生活者など最低限度の生活手段も持たない人々のことを指す。一般にスラム生活者の半数がこの層に属し、一時的には難民や被災者の大半がこの層に入る。(年収、約3万円以下)

2 最低限度の生計手段を持っている。特徴は、(1)貧困者の中で最も人口が多く、(2)家、土地、農地等の生活の手段を貧しいながらも持っている。(年収、約3万~5万円)

3 生活手段は、安定し始めており、種々のイニシアティブも窺える。もう一息で貧困ラインを越え自立発展していく層。(年収約5万円~7万円)

4 SACOPは医療巡回活動、栄養と衛生事業、授産活動(縫製工場)、奨学金の提供等をしている。その他の団体、University of the Philippines - Pahinungod、University of Satos Tomas Hospital、Philippines Children's Medical Center, Centro Escolar University, College of Dentistry等から医師、看護婦、歯科医師の派遣の支援を受けている。また、Museo Pambata (Museum of Children)は児童移動図書館活動を行っている。

5 農村地区の場合、養鶏、養豚などの家畜事業、農閑期を利用した家内手工業などである。



このページのトップへ戻る
前のページへ戻る次のページへ進む目次へ戻る