第4章では、目的の妥当性、プロセスの適切性および効率性、効果(目的の達成度等)について、検証する。
4-1 NGO事業補助金制度の目的の評価
本制度は第3章で述べたように、外務省とNGOとの連携という位置づけの中にあり、目的(1)「被援助国に対して、国家レベルの協力では対応が難しい、きめ細かな援助を可能にする」、目的(2)「本邦NGOの組織能力を強化する」という、2つの目的を有していた。ここでは、これらを目的の妥当性の視点から検討する。
目的(1)については、ODA大綱、ODA中期政策、我が国の国別援助計画という上位概念との整合性と、また、相手国のニーズとの整合性を検証する。目的(2)については、ODA大綱、ODA中期政策の上位概念との整合性を検討する。
4-1-1 目的(1)「被援助国に対して、国家レベルの協力では対応が難しい、きめ細かな援助を可能にする。」の妥当性
(1)上位概念(ODA大綱・中期政策・国別援助計画)との整合性
目的(1)の妥当性を検討する。
第一に、1992年6月のODA大綱によれば、「政府開発援助の効果的実施のための方策」の中で、「必要に応じ、他の先進国の援助機関、国連諸機関、国際金融機関、我が国の地方公共団体及び労働団体、経営者団体その他の民間援助団体等との適切な連携・協調を図る。特に、国際機関を通ずる協力については…(略)…。また、民間援助団体(NGO)との連携を図ると共に、その自主性を尊重しつつ、適切な支援を行う。」とされ、ODAとNGOの連携・協調が挙げられている。
第二に、1999年8月に作成された「政府開発援助に関する中期政策(ODA中期政策)」では、「基本的考え方」において、「開発効果を高めるためには、開発途上国、先進国、国際機関、民間援助機関(NGO)など、あらゆる主体の持つ利用可能な資源との役割分担と連帯を図る包括的取り組みが必要である。」とし、また「開発援助を進めていく上で、納税者である国民の理解や支持が得られるように、我が国の‘顔の見える’援助を積極的に展開し、被援助国においても我が国の援助に対する認識と理解の推進に一層努めることが必要である。・・・(略)・・・また、大学、シンクタンク、地方自治体、NGO等による国民参加型の協力の推進に努め、民間部門を含めた我が国自身の経験や、技術、ノウハウの一層の活用を図る。」と述べている。このように、NGOとの連携については、(1)開発効果を高めるため、そして、(2)国民参加型の政府開発援助を推進するためという2つの観点から必要性が認識されている。さらに、「ODAの実施にあたって」では「NGO等への支援及び連携」という項目が立てられ、「開発途上国に対する協力においては、貧困対策等社会開発面や環境保全分野での協力の比重が増すにつれ、住民に直接行き渡るきめ細かな援助への需要が増加している。その結果、民間援助団体(NGO)の果たす役割が重要となってきており、援助実施に当ってNGOとの連携の必要性が著しく高まっている。」とされ、きめ細かな援助への需要に応ずるためのNGO活動の重要性が述べられている。従って、この目的、「きめ細かな援助を行うため」は、ODA中期政策にも合致し、妥当である。
第三に、現在の我が国の対フィリピン援助政策との整合性であるが、外務省が作成している国別援助計画(フィリピン)(2000年8月3日)においても、NGO支援及び連携については、次のように指摘されている。「我が国援助の目指すべき方向」の項目の中で、「資金の有効活用の点から、円借款、無償資金協力、技術協力の一層の連携促進に留意する。また、民間資金、ODA以外の公的資金との役割分担や連携にも考慮する。」とされ、「援助実施上の留意点」の項目の中でも、「NGOとの連携」が掲げられている。このように、フィリピンにおいてNGO補助金の目的(1)は、上位概念との整合性が取れており、妥当性があるといえる。
(2)相手国のニーズとの整合性
NGO事業補助金制度の目的(1)「国家レベルでは対応が難しいきめ細かい援助を実施する」が相手国のニーズと整合しているかについて検討する。
フィリピンの保健セクターにおいては、第2章で述べたように、1991年に制定された地方自治体法(Local Government Code : RA 7160)により、保健行政が地方自治体である保健局に移管された。と同時に、同法律の中で、NGOを積極的に地方行政の中に取り組んでいくことが立法化され、NGOの地方行政での役割が期待されている。
1999年発表の保健改革アジェンダ1においても、保健セクターのパフォーマンス向上のために,地方自治体やNGO、その他の国家機関等との連携を図ることが述べられている。実際にも政府の保健医療に配分する予算が十分でなく、保健所等の医療施設において、人材確保や、質の高いサービスの提供が困難であるという問題が取り上げられており、地域の保健医療システムにおいてNGOが積極的に活動を行っている。これらの状況に鑑み、国家レベルでは対応の難しい、きめ細かな援助への需要が高いといえる。
従って、目的(1)は、フィリピンの保健セクターの現状に照らし合わせた場合、そのニーズに合致しているといえる。
4-1-2 目的(2)「本邦NGOの組織基盤を強化する」の妥当性
(1)上位概念との整合性
次に、本事業の目的(2)「本邦NGOの組織能力を強化する」とODA大綱、ODA中期政策等の上位概念との整合性を検証する。
ODAとNGOとの連携、支援の妥当性については、第一に、ODA大綱で述べられている。「政府開発援助の効果的実施のための方策」の中で、「必要に応じ、他の先進国の援助機関、国連諸機関、国際金融機関、我が国の地方公共団体及び労働団体、経営者団体その他の民間援助団体等との適切な連携・協調を図る。特に、国際機関を通ずる協力については…(略)…。また、民間援助団体(NGO)との連携を図ると共に、その自主性を尊重しつつ、適切な支援を行う。」とされ、NGO支援が掲げられており、目的(2)「本邦NGOの組織能力を強化する」は、これに整合し妥当である。
第二に、1999年8月のODA中期政策の「ODAの実施にあたって」において、以下の5つの配慮点が掲げられている。
(1) | 「NGO・外務省定期協議会」「NGO・JICA協議会」などを通じ、開発途上国においての活動を行うNGOとの情報・意見交換と対話の強化を図る。 |
(2) | NGOの援助活動に対するODAによる支援の拡充・強化に努める。 |
(3) | 事業委託を含めたNGOの人材やノウハウの活用を促進するなど、様々な形でNGOとの連携と協力関係を強化する。 |
(4) | 我が国のNGOの援助活動の実施基盤の強化を支援する。 |
(5) | ODAの実施に当たり、青年海外協力隊経験者やNGO活動経験者の活用を進める。 |
以上のようにNGOとの対話、支援策の拡充、連携の強化が掲げられ、さらに、NGOの実施基盤の強化、すなわちNGOの財政基盤、及び組織基盤の強化に対して支援を行うことが挙げられている。従って、目的(2)は、ODA中期政策に整合し、妥当である。
4-1-3 2つの目的の妥当性のまとめ
まず、目的(1)「被援助国に対して、国家レベルの協力では対応が難しい、きめ細かな援助を可能にする」は、ODA大綱、ODA中期政策、国別援助計画に整合しており、妥当であった。また、フィリピンの保健セクターにおいてもきめ細かな援助を実施することに対するニーズはあり、目的(1)はそれに対応するものであり、妥当であった。 次に目的(2)「本邦NGOの組織能力を強化する」については、ODA大綱、ODA中期政策にと整合しており、妥当であった。
以上より本制度の2つの目的は、妥当であったといえよう。
1 第2章P2-4参照。