2-1 フィリピンの政治経済情勢と国家開発計画
政治経済情勢
2001年1月に政権発足したアロヨ大統領は、2001年7月の施政方針演説において、貧困削減を政策目標として掲げ、その実現のため取り組む課題として次の4点を挙げている。
(1) | 社会良心を伴った21世紀に相応しい自由な企業活動理念の追求(経済の自由化・効率化):インフラ整備、生産性の向上、貯蓄率の向上、IT産業の振興等 |
(2) | 社会的公平を基盤とする近代化された農業セクターの育成(農漁業の近代化):農業・漁業近代化法の制定、農地改革の推進、ミンダナオ開発等 |
(3) | 社会的に均衡のとれた経済発展計画の追求(社会的弱者への配慮):税制改革、物価抑制、住宅建設、首都圏対策、中小企業の育成等 |
(4) | 政府と社会のモラル向上:汚職対策、国軍・警察の近代化、反政府勢力との和平交渉継続等 |
2001年11月には、フィリピン政府は上記の施政方針演説を反映した「中期国家開発計画(2001-2004)」を発表した(中期国家開発計画については後述)。
一方、フィリピン経済は、ラモス政権下(1992年~1998年)財政再建や規制緩和等の経済構造改革を推進しつつ、外資導入と輸出主導による高度成長を実現し、実質GDP成長率は、1993年の0.3%増から96年の5.7%増、97年の5.2%増と急速な成長を遂げた。97年7月のタイ・バーツに始まったアジア通貨危機はフィリピン経済にも打撃を与え、一時マイナス成長へと後退したが、1999年以降、農業及び製造業部門の復調を始めに、経済も回復基調に入り、1999年のGDP成長率が3.4%増、2000年はGDP成長率4.0%増、2001年はGDP成長率3.4%増と安定した成長を示している。1
2002年は堅調な民間消費に支えられて実質GDP成長率も4%台の安定成長が見こまれており、インフレ率も政府目標を下回る3%台の低水準を達成している。経常収支については輸出の不振により悪化したが、大型直接投資などによる資本収支の改善により、総合収支は小幅な赤字に留まっている。一方、上半期の財政赤字は1,197億ペソに上り、年間目標の1,300億ペソに迫っており、今後の赤字削減には、歳出カット、税制改革、内国歳入庁の運用改善等が求められている。2
国家開発計画
フィリピンの中期開発計画(1999年~2004年)は、開発計画のビジョンとして、社会的平等に基づいた持続可能な開発を目標として挙げ、これを通じて農村地区における貧困削減と所得不平等分配の改善の達成を目指している。具体的目標として、貧困層の数を1997年の人口比32%から、2004年までに約25~28%へ削減することを掲げている。また、貧困層の行政サービスへのアクセス機会の改善と、地域経済の振興も重要課題として掲げられている。そして上記開発目標を達成するための優先分野として、(1)農村開発の促進、(2)基本的社会開発サービスの提供、(3)競争力の強化、(4)インフラの持続的開発、(5)マクロ経済の安定化、(6)政府の改革、の6つを示している。
その後、アロヨ政権発足に伴い、上記の中期開発計画(1999年~2004年)の見直しが行われ、2001年に新たな中期開発計画(2001年~2004年)の策定が行われた。ここでは既述のアロヨ政権の4つの重点政策(経済の自由化・効率化、農漁業の近代化、社会的弱者への配慮、政治社会モラルの向上)に基づいて、13の中心課題を設定している。それらは、(1)マクロ経済の安定と公正を伴う持続的経済成長、(2)雇用機会の創出、(3)社会開発・人材育成、(4)社会的弱者の保護、(5)農業漁業開発・農村開発、(6)産業・サービスの競争促進、(7)観光開発、(8)官民協調の推進、(9)デジタル・デバイトの解消、(10)地域間格差の是正、(11)都市開発、(12)治安維持・ミンダナオ開発、(13)ガバナンスの改善、である。
1 フィリピン国家統計局データより。
2 フィリピン中央銀行データより。