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第8章 今後の我が国援助の課題と提言

8.1 重点分野への取り組み方針

今後の分野別援助方針・戦略にかかわる提言は第6章で述べたが、各分野の提言を要約すると以下のとおりとなる。

1) 教育分野
我が国は、「ニ」国国家教育計画、貧困地図を含むPRSP、他のドナーとの連携などを考慮して、具体的な援助戦略や目標値を立てて援助を実施することが望まれる。いくつかのスキーム(例えば技術協力と資金協力)を組み合わせて援助の有機的連携を図り、相乗的な援助効果をあげることも望まれる。有機的連携の実施にあたっては、技術協力の拡充を検討すべきであろう。教育セクターの技術協力は、青年海外協力隊が中心であったが、その他の技術協力スキーム(例えば開発調査)も組合せて、理数科教育など我が国の初中等教育分野の経験を活かす方策も検討することが一案と考えられる。

2) 保健医療分野
これまではプログラム・アプローチが取られておらず、何を目指した援助かが明確ではなかった。今後はサブ・セクターを絞り込んで支援を行うことが望まれる。また、保健省の財源不足から医療機材及び病院施設の維持管理が難しいため、セクター改革が定着し各病院が独立採算性を確立するまでは、フォローアップのための支援が必要であろう。技術協力により機材管理実施者への技術移転はもとより、破損機材の部品購入費の手当方法など、病院経営への助言も有効な支援である。他方、グラナダ県の病院と地域保健プロジェクトをモデルとして他地域へ展開することも望まれる。プロ技で実践している地域住民の参加によるPHC概念の推進は地域医療において欠かせない要素であり、他地域で活動する栄養士や村落開発普及員などの協力隊員との連携による展開も検討に値する。

3) 貧困対策分野
「ニ」国は農業国であるとともに水産資源に恵まれ、農業・水産業におけるポテンシャルは大きい。また、貧困層の7割近くが農村部に居住していることから、農業・水産業への支援は直接貧困層の所得向上に繋がる。我が国援助が、農業・水産業への支援を基盤とした貧困削減への貢献を目指すならば、技術的・資金の両面への支援が必要であろう。開発調査を利用して既存の母体で、組織・運営管理が問題なく行われている組合などを選び出した上で、マイクロ・クレジットの実証調査を行うことも一案である。また、同分野の案件採択に関しては、裨益対象人口がいかなるステータスにあるのかを十分に分析し、住民のニーズを吸い上げた上で案件の妥当性を確認することが貧困対策として重要である。

4) 道路・橋梁分野
既に整備が整いつつある幹線道路から未整備地方道支援への地方戦略性が必要である。そのためには特に社会経済的波及効果を狙い、地域社会の連結、商工業地区へのアクセス、輸出入の振興、農産物流通、国際間輸送などを考慮したマスタープランの作成等の支援が望まれる。また、基幹インフラ整備構想として中米ランドブリッジ構想(プエブラ・パナマ・プラン)があり、これには「ニ」国を縦断するパン・アメリカン・ハイウェイの整備が含まれている。本構想の実現は、近隣諸国からの輸出入の陸上輸送にとって重要である。本道路・橋梁分野は、我が国の技術水準の高い分野の一つであり、知識や経験が十分でない「ニ」国側技術者等に道路・橋梁の維持管理に係る技術移転を実施することは援助の波及効果が高いと考えられる。

5) 農業・農村開発分野
「ニ」国政府が掲げる食料自給の達成には農業生産性の向上が不可欠である。そのためには農業技術の知識と経験を有する国内大学・研究機関、中米地域の国際的調査・研究機関との連携が必要である。同時に、農牧省や農村開発庁等の農業関連機関を通じた農業技術の普及制度が、中小農民組合に至るような形で早急に確立されるべきである。また、マクロ経済的効果のある農業の比較優位性を考慮し、優位性の高い地域、農産物に集中した農業開発支援が望まれる。また食糧増産援助(2KR)で積み立てた見返り資金で、我が国が実施してきた諸完了事業に対して補完的に追加支援することも有効である。特に中小農民を対象にした小規模金融(マイクロ・クレジット)は、見返り資金や草の根無償援助などを利用して小規模金融を推進することは中小農民の農業生産性の向上及び生活環境の改善に有効である。

6) 水供給分野
「二」国における地域的な配水不均衡および都市・農村の地域間不均衡是正を図るため、全国水供給マスタープランが望まれる。実施機関であるENACALは、これまで健全な運営・管理を実施してきているが、今後の地方給水事業の展開に則し、組織・制度強化及び再編支援が必要となろう。また、生活環境改善(含む公衆衛生)、生計向上、環境保全プロジェクト等をセクター横断的に実施すれば、より効果的な援助効果が発現すると考えられる。

7) 防災分野
「ニ」国における総合的な防災体制は確立されていない。まず法制度において国・地域レベルで組織体制の強化に努めているものの、実施細則に関しては未確立な部分も多い。次に環境整備事業を実施するための指針となるハザード・マップや防災マップも作成されていない。治山・治水・砂防、河川・灌漑流域管理、森林保全・造成事業、気象・水文、火山活動・地震観測体制等の整備、情報通信技術の活用による早期警戒システム整備等に重点を置いた計画が早急に必要とされる。最後に防災事業を実施するには「ニ」国の技術レベルでは難しく、早急な人的資源開発が必要とされる。かかる3点に援助を必要とする。

8) 民主化支援
1990年の民主化以降11年が経過し、「二」国の民主化は定着しつつある。よって今後は、民主化の深化と確立に向けて、法制度整備に係るアドバイザーの派遣や法の実施を行える組織造りへの支援が必要とされる。また、法制度の整備とその実施、モニタリング体制の確立はガバナンス強化にも繋がる。特に援助の透明性を確保するために、我が国は専門家を外務省経済関係・協力庁などに派遣し、モニタリング実施体制を整えることが望ましい。

9) 経済安定化支援
「ニ」国の財政赤字・貿易赤字や低投資効率の解消、国外からの援助への依存体質の改善にはドナーの長期支援策が必要とされる。我が国としては、対外債務の削減、投資効率の向上、財政赤字の縮小などマクロ経済改善のための包括的かつ一貫性のある支援プログラムを作成し、「ニ」国の経済成長安定化を支援すべきであろう。また、インフラの復興・拡充を進めつつ、『資本主義マインド』の再生、『起業家精神』の育成および雇用創出に結びつく中小ビジネス起業のための支援プランを作成すべきである。カリブ海と太平洋に接する好立地条件のため、インフラ整備がなされれば直接投資も増えよう。将来、拡大北米自由貿易圏やカリブ地域の自由貿易圏に本格的に取り込まれることを視野に、民間資金誘致策を国家経済戦略として考え、投資促進実施機関や研究機関の拡充することが必要である。

今後の重点分野の設定については以下の2点について付言したい。

1) 重点分野の体系化
これまで我が国援助の重点分野は、大きく4分野に分けて行われてきた。この4分野は「ニ」国が開発・発展ニーズに合致している。しかしながら、広い範囲での支援は、各分野での薄い支援に繋がりやすい。これまでに実施されてきた我が国援助は第6章で見たように各分野を隈なく網羅する一方、それぞれの案件から抽出された教訓が活かせるような次期案件形成に至っていない。また、プロジェクト間の連携を念頭とした案件形成が行われてもいない。よって、今後は限られた援助資源の有益性を最大化することを目指し、より具体的な分野に絞込んで重点分野として設定する必要があろう。

また、我が国の援助戦略は「ニ」国の開発計画に則したものでなければならない。「ニ」国の貧困削減戦略ペーパー(SGPRS)は実質的な「ニ」国開発計画であり、SGPRSから作成した開発目標の体系図は図8.1-1に示すとおりである。これまでの我が国の支援は本体系図に則していることが本図から確認できる。今後も同様に「ニ」国の政策に合致した支援を行っていくためには、援助重点分野を決定した後、戦略目標、中間目標、プログラム/プロジェクト目標に体系化し、実施することが望ましい。

2) セクター・プログラムアプローチ
今後はPRSPに則して重点分野を設定し、その分野における課題点を整理し援助ニーズの順位付けを行った上で、我が国の援助戦略を打ち立てることが望ましい。これまでの要請主義による個別案件採択アプローチから、プログラム・アプローチの中での案件の位置付けを確認しつつ案件採択していくことが重要である。個別プロジェクト採択に当っては対象人口の属性を明確に整理・設定し、プロジェクトの方法論を煮詰めた上で最も効果的な援助形態を決定することが必要となろう。特にODA予算は削減傾向にあり、より効率的・効果的な援助の方法が不可欠となった。このためには本アプローチの採択と個別案件要請主義からの脱却が必要とされる。

図8.1-1 ニカラグァPRSPの政策目標体系図(PDF)



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