6.4 民主化・経済安定化
(1)現状と課題
「二」国における民主化は、1990年に大統領選挙が行われ、政権が野党連合に平和的に移行した時点から始まるとされる。その後のチャモロ政権、アレマン政権を経て、「二」国における民主化は定着しつつある。最も民主化が評価されている点は、公正な選挙の実施であろう。また、公正な社会活動の新たな動きとして、消費者保護運動も活発化し始めている。
(a)政治的自由化
サンディニスタ政権時代には、政権は左傾化を強めるとともに穏健派を排除し、ローマ=カトリック教会と対立し、言論の自由を制限していた。民主政権に移行し、政治的自由化が促進されたことにより、チャモロ政権の初めの3年間は政情が安定しなかった。その後、社会全体の民主化が進み、政治的自由は定着してきている。
(b)国民の政治参加
1996年選挙では20歳から24歳までの若者の80%が投票し、選挙権がありながら投票しなかった国民はわずか4%であったとの報告がある11。このように国民の政治への参加度は高い。また、1990年、1996年、2001年に行われた大統領選挙では、そのいずれにおいても大きな混乱もなく民主的かつ公正な選挙が行われた。1996年選挙では、26の政党が合法的に参加したが、2000年11月の地方選挙では4党に削減された。二大政党が選挙民の90%の支持を集めたとされる。
(c)司法制度
1995年の憲法改正によって、民主化の方針とその体制は示され、司法制度改革が行われた。しかし、司法機関についての国民の信頼度は未だ低い。1999年に行われた社会調査12では、国民の66%が「同国に健全な司法制度が欠けている」と考えており、同年に行われた別の調査13では74%が「同国では資産の多い国民ほど罪を免れ罰則も軽い」と答えている。
(d)刑務所制度
中南米人権委員会(CODEHUCA)は、基本的人権に係る問題として刑務所制度をあげている。問題点は、過剰収容、受刑者には何の労役も課されていないこと、ベッド数の不足(受刑者の56%以上が床に寝ているという)、施設の維持修復の遅れ、栄養不良(必要なカロリーの50%しか与えられていないという)、劣悪な衛生状態、警察官による権力の濫用、原因不明の死亡、疾病、司法手続きの遅滞などである。受刑者の大半は、「国選弁護人が裁判で何もやってくれない」ため手の打ちようがないと訴えている14。
国連が勧告している収容規制では、刑務所ごとに500人とされているが、1999年以降の「二」国における刑務所全体の収容能力はその限界を4%超えている。一部の刑務所では53%も超過しており(ブルーフィールズ)、マタガルパでは15%の超過、エステリでは14.5%の超過、フイガルパでは12.5%の超過となっている。また、刑務所制度では医療が引き続き深刻な問題になっており、予算不足で薬品を購入できないため、刑務所への薬品の供給はNGOの寄付に頼ったり、受刑者の家族からの差入れに頼っている。2000年には、病院への計画通院が5,672件、緊急通院が119件、病院への照会が762件報告されている。診療所での治療は39,344件、精神科での治療は1,785件となっている。
(e)不動産をめぐる争い
過去20年間の社会政治的変化により複雑化した不動産所有問題は、社会構造を歪め事業機会と経済成長の可能性を損なっている。財産に関する紛争解決手段の内容には限界があり、国の登記制度や財産の調査制度にも大きな欠陥があるとされる。
1990年4月以降、土地の再集中化と大土地所有制の復活に向けた動きが開始された。80年代の農地改革で約11万2千世帯に解放された210万ヘクタールの土地のうち、コントラ15による農地改革の過程では79%以上が影響を受けたと一部の調査は指摘している。
財産上の争いの結果として、元所有者とは別に新しい所有者が出現することになった。新しい所有者による主張が誠実なものか否かが問題になっている。同一の不動産に対し異なる不動産権を主張する例も見られる。また、土地への侵入も一連の問題の一部として発生している。新たな法律が制定され財産問題への解決が試みられているが、仲裁には5,000コルドバから25,000コルドバの費用がかかるため、失った土地を取り戻したり紛争解決手続きを続行する上で、その恩恵を受けられるのは資産のある者だけに限られている。これまでのところ仲裁に諮られたのはわずか33件で、仲裁裁判所に付託されのは3件を数えるのみである。また、SGPRSによれば、財産関連の法律はあるものの内容は不十分で、深刻な土地問題に焦点をあてた登記の法制化が必要と指摘されている。
(f)治安
治安は一部の地域を除いて良好だと言われている。治安機関としては国家警察が存在し、政党色と党派を排した男女合わせて6,000名の警察官で構成される。しかし、職員の削減、低い給与水準、組織内での汚職、民間部門との癒着などの問題を抱えている。また、1985年以降の犯罪発生件数は増加傾向にあり、2000年の年間犯罪発生件数は75,779件で、前年比3.9%増を示した16。そのうち5件に1件が強盗事件であった。NGOグループ「エティカ・イ・トランスパレンシア」が実施した調査によれば、市民にとっての最大の脅威は組織的犯罪と犯罪者であると答えている17。
また、国民の安全に係る問題として、地雷除去がある。2001年6月までに、地雷による23名の死亡と800名の負傷者が記録されている。2001年7月時点で、主にマドリス、ヌエバ・セゴビア、マタガルパ、ヒノテガ及びラマンに合計で7万個の地雷がまだ残っていると報告されている。
(g)ガバナンス
法律と透明性に係る制度は脆弱であり、国民の政府及び行政に対する信頼度は低い。1999年にニカラグァ調査研究所(IEN)が実施した調査では、国民の87%が政治指導者及び国会議員に汚職のイメージがつきまとうと答えている。また、NGOグループ「エティカ・イ・トランスパレンシア」の調査でも、意見を聴かれた市民70%が国家警察、自治機関及び会計検査官の誠実さに疑問を抱いていた18。腐敗認識指数に関する国際的な透明度を調査する国際的NGOトランスパレンシー・インターナショナル(Transparency International)の報告書によれば、1996年、1997年、2000年における調査対象の85カ国、99カ国及び91カ国のうち、「二」国はそれぞれ61位、70位、85位という順位だった。表6-4-1-1は評価結果の概要である。
表6.4.1-1 腐敗認識指数に関する評価結果 | ||||||||||||||||||||||||
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(出典)透明性に関する国際的腐敗認識指数(1996~2001年度) |
1999年以降、政府による適切な統治を図るために、国家経済社会企画審議会(CONPES)がガバナンス改善のための活動を行っている。CONPESは政党色を廃止し、地域社会や市民団体、政党政府機関を繋ぐ基本的な掛け橋となり、感心のある市民が意見を述べる場となり、市民への自由な参加を呼びかけている。
(2)民主化政策
民主化政策としては、1990年以降制定された法制度があげられる。特に以下の法制度は民主化に対し重要な役割を持つ。
(a)憲法
1995年に改正された新憲法(現行憲法)は、以下の内容を定めている。
1)立法府、行政府、司法府、選挙管理機関の4権分立
2)大統領、副大統領は5年毎に直接選挙により選任
3)国会は一院制、議席数93、任期5年
4)地方行政区は15県2自治地域
5)裁判は地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所からなる3審制
6)選挙管理委員会は、選挙の実施にかかわる手続きと裁判の実施、委員は任期6年
(b)選挙法
政治憲章の第55条では、国民は自らが政党を組織したり、所属する権利が認められており、政党の選択や政党活動に関する決定権も認めている。また、選挙制度では次の3種類の選挙を定めている。
1) 総選挙:大統領と副大統領及び国会と中米議会の議員を選出する選挙で任期は5年
2) 地方選挙:2自治地域(大西洋北部と南部地域)の自治区議会のための選挙で、任期は4年
3) 市町村選挙:市長村長と助役及び議員の選挙で、任期は4年
1990年、1996年及び2000年に3つの選挙法が発布された。2000年の選挙法の概要は以下のとおりである。
(c)財産に係る法律
権利を取得した者と剥奪された者との間の摩擦や紛争を解決する目的で、「都市部の用地と農地の改革に関する法律」という法律第270号が1997年に制定された。109に及ぶ条項は、不動産における賃貸借と権利の行使及び取引を規制するのが狙いであり、同時に国家の所有下に置かれた財産に対する取得権も期限切れにしている。さらに同法には、土地及び財産を適法な手段で取得した受益者の権利を安定させ、権利譲渡の手続きを迅速化する狙いも含まれている。元の財産所有者の権利も政府の債権又は同様の価値のある財貨の形による補償請求権により認められている。補償が受けられない場合、司法手段に訴える権利も認められている。同法では、濫用の是正と押収財産の裁判による補償という司法手続きを定め、無効にされた権利の補償のための訴訟や登記の無効について規定している。
(d)刑務所制度
刑務所制度は80年代に創設され、内務省の管轄下に置かれている。1987年の政治憲章39条には「刑務所制度は人道主義に則り、受刑者を社会の一員として再復帰させることがその基本的な目標である」と定められている。1998年には、同国の刑務所制度は国連開発計画(UNDP)とニカラグァ国内務省MIGOBが協力して、刑務所の混雑緩和と収容状態の改善に向けた一連の改革案を策定した。また、労役を介した社会復帰プログラム、受刑者のために仕事を作り出すためのプロジェクト、刑務所での食事改善などの改善が図られている。
(e)治安
内戦の終結とともに、政府軍が自ら地雷撤去に向け行動を開始し、1993年以降は、米州機構(OAS)による中南米の地雷撤去のためのプログラム援助(PADCA)の支援を受けている。この援助活動により50名で構成される地雷撤去の特殊部隊が編成され、主な任務の一つとして国民からの苦情に機敏に対応している。そこで連絡を容易にする目的で1860という番号の専用電話回線(1,860台)も設けられた。また、国連の援助により地雷撤去のための情報管理システム(IMSMA)も設置された。この組織はPADCA/OEAの事務所に配置されており、あらゆる情報手段により地雷撤去作業を監視するのがその主要任務になっている。
1997年12月4日、ニカラグァ政府はオタワで採択された対人地雷全面禁止条約に署名し、1998年後半に条約を批准した。当該条約の第1条に従い、いかなる状況においても次の項目を全面的に禁止することに合意した。
1) | 対人地雷を使用すること |
2) | 直接間接及び方法の如何を問わず、対人地雷を開発、製造、調達、備蓄又は移転すること |
3) | 加盟各国により禁止されている活動に対し方法の如何を問わず支援すること |
(f) ガバナンス向上のための制度
国家契約法第323条において、政府関係機関(中央政府と自治区)の競争入札に基づく調達プロセスを定めている。同様に、公務員の道徳規定に関する法律では、誠実さと透明性を確保するため、公共職員による取引と行動のモデルを定めている。
憲法第150条では国民参加を謳っており、それに基づきCONPESが設立された。1999年10月から活動を開始し、国家的問題に関する情報交換と協議を推進するため関係当事者の代表が参加できる仕組みを持つ。特に重要なCONPESの役割は以下の4点である。
(3)我が国援助の評価
我が国の民主化支援としては、1996年の総選挙に際して緊急無償民主化支援として、0.70億円を供与した。これは民主的な選挙実施を支援するための要員派遣や資金・機材供与をするものであった。また、草の根無償資金協力で実施された案件は9案件で、表6-4-2に示すとおりであり、その供与総額は455,313USドルである。
表6.4.1-2 草の根無償案件リスト | ||||||
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(出典)在ニカラグァ日本大使館 |
技術協力としては、民主化に係る直接的援助は行われていないが、「二」国で行われた2回の選挙では米州機構(OAS)を通じ、選挙監視活動へのオブザーバーを派遣している(1996年には6名が派遣された)。1992年には同機構を通じて「二」国における地雷除去活動に10万ドルの支援を行っている。同様に我が国による直接的な支援ではないが、我が国からのノンプロジェクト無償により積み立てられた見返り資金によって、1999年には刑務所システム改善支援計画、2000年には対人地雷除去支援計画が実施されている。
2001年に第3回オタワ条約締約国会議が「二」国で開催され、我が国の地雷除去機械によるデモンストレーションの様子が報道された。これにより我が国の民主化支援は、「二」国民に広く知れわたり高い評価を受けることとなった。しかし、実施されている二国間援助のほとんどは草の根無償案件であるため、他の重点分野と比べ総供与額は小額であり、援助重点分野としてのインパクトとしては弱かった。これは「民主化」は国の政治・行政・法体制など、「ニ」国の政治体制への介入となりかねない内容であり、中立的な立場を謳う二国間援助としては制約が多いことが理由と考えられる。
事例(11):ノンプロ無償見返り資金プロジェクト「地雷除去作業」
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(4)教訓と提言
(教訓)
当分野における我が国の援助実績を見ると、援助戦略が不明瞭であり、他の重点分野に比べてインパクトが限定されたものであった。これは同分野が政治体制に大きく係るために我が国からの支援に制約を与えていることに起因していると考えられる。また、当分野への支援は、国際機関を通した援助に重点が置かれており、望ましい形態と考えられる。民主教育、地雷関連における実績から以下の教訓が得られる。
(1)経済安定化の現状と課題
【現状】
内戦終了後1990年4月に成立したチャモロ政権によって新たな経済政策が採用された。それまでGDPの約25%を占めていた軍事費は、国際信用市場との信頼回復のための施策に振り向けられた。1980年代に公共部門が急速に肥大化したことと内戦の勃発によって財政は不均衡となり、ハイパーインフレが生じ90年には13,490%のインフレ率となった。90年代前半の経済政策の重点が財政の立て直しとインフレ退治に置かれたことから、ようやく92年から経済成長がプラスに転じた。
80年代の半ばにはGDPの約50%が公的部門に投入されていたが、90年代の末には公的部門への支出が33%台にまで圧縮された。これは90年以降、民活志向型開発戦略を政府が一貫して採用したことやこれに治った世銀、IMF主導による構造調整が実施されたことが大きく奏効している。構造調整政策の柱として(i)国営企業の民営化や公務員の削減(ii)銀行改革(iii)土地など資産の所有権論争の解決や労働雇用政策の見直しなどによる民活化などが実施された。それらの具体的な政策としてはCORNAP22傘下の351の国営企業(その規模はGDPの約30%に相当)の内6社を除き1995年までに民営化したこと、省庁の統廃合(15の省庁を12とした)、国家開発銀行(BANADES)を始めとする国営銀行の民営化、90年に28万5千人いた公務員を90年には8万人に削減したことなどが挙げられる。また、国営電話公社(ENITEL)の民営化、国営食糧市場公社(ENABAS)の貯蔵量の80%を民営化、その他、港湾、国営石油公社(PETRONIC)の民営化も行なわれた。
1980年代には貿易部門は国家によって独占されていたが、90年代には貿易公社が民営化され、適正な通貨レートの採用や関税の引き下げが行われた。対中米以外の関税率は1994年に平均で19.6%であったものが2000年には5%程度に引き下げられた。中米圏では5品目を除き、関税はゼロに近い数値になっている。また、メキシコとの間では1997年に自由貿易協定が締結された。
94年6月と98年3月には、拡大構造調整融資制度ESAF(Enhanced Structural Adjustment Facility)が実行に移され、インフレ抑制、経済の自由化、マクロ経済の安定化が進められた結果、対外債務を半減することにも成功した。ESAFは99年9月貧困削減成長融資制度PRGF(Poverty Reduction and Growth Facility)と改称され、従来以上に貧困削減に大きなウエイトが置かれるようになった。更に、世銀・IMFはHIPCイニシャティブ対象国に対して貧困削減戦略ペーパー(PRSP)の作成を義務付け、PRSP暫定文書が2000年8月に作成されている。更に「成長強化及び貧困削減戦略」(SGPRS)ペーパーが2001年7月に公表された。ニカラグァはIMFに対して重債務貧困国(HIPC)に対する債務削減プログラムの適用を申請し、これが認められた。「ニ」国政府および諸外国の援助による経済安定化政策の結果、93年から98年における経済成長率は年平均4.3%に達した。98年10月のハリケーン・ミッチによるダメージもあったが97年から2000年にかけての年平均経済成長率は5.2%を達成している。
【課題】
「ニ」国が抱える経済上の最重要課題は財政赤字と対外債務である。ハリケーン・ミッチの後、財政赤字はGDPの14%にまで達した。各国からの復興支援贈与によって財政赤字は半減しているものの依然として深刻である。また、多くの国から債務救済措置を受けたが、公的債務はGDPの8%にも達している。公的部門への支出がGDPの47%を占めているのもこうした財政赤字と累積債務を抱えている構造から来るものであり、「ニ」国経済のダイナミックな成長を阻止している大きな要因の一つである。
また、ニカラグァ政府の財政再建策は外資の流入に依存する構造を持っており、90年代の外資依存度は1970年代や1980年代よりも強まった。この構造が為替相場の過大評価を招き、輸出振興や競争力のある輸入代替工業化のさまたげとなっている。1993年から98年にかけての国内投資の比率(年平均)はGDPの27%であった。一方、外国からの投資は対GDP比の34%であり、国内投資の全てと国内消費の一部をカバーしている。投資効率はかなり低いものとなっている。
成長率が年平均4.3%となった期間(1993~1998年)には、国内投資の比率はGDP比27%であり、これは資本生産増加率(ICOR)が6.3と高い水準を示すものであった。「ニ」国には過去の一時期において、より大きなGDPを生み出す能力があったことを考えると、現在の投資が生産能力を回復させる一部に回っているものと考えられる。現在の投資の非効率性は市場経済に移行する際に急速な条件の変化によって投資配分の決定に誤りがあったためと考えられる。
(2) 経済安定化政策
1990年以降、マクロ経済安定化のために採られた政策は以下の通り要約される。
(3)我が国援助の評価(ノンプロ無償、草の根無償、円借款)
我が国は、「ニ」国経済安定化のために、ノンプロジェクト無償(通称ノンプロ無償)、円借款による構造調整、経済復興計画、さらに無償資金協力での債務繰延べなどを行ってきている。具体的な供与額は下記の通り。
表6.4.2-1 経済安定化のための支援リスト | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(単位:億円) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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【ノンプロ無償】
ノンプロ無償は1990年度から1999年度までに総額79億円にのぼる。その購入品目は鋼材、樹脂、肥料、紙、油などであった。特に鋼材は、全購入額の43.7%を占めている(表6.4.4)。
表6.4.2-2 ノンプロ無償案件ごとの購入品目 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(単位:%) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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出典:在ニカラグァJICA専門家 |
ノンプロ無償の直接的なインパクトとしては、貿易収支改善に効果を発現しているといえる。また、ノンプロ無償は農業・製造業・建設業における原材料、中間材輸入額の2.9%がノンプロ無償によるものである。鋼材輸入総額においては実に42%をノンプロ無償が賄っている他、合成樹脂では39%である。かかる状況から、ノンプロ無償本体の経済効果は大きいことが確認できる。
ノンプロ無償の波及効果として、見返り資金の活用による社会・経済開発があげられる。1990年度から1998年度までのノンプロ無償による見返り資金の積み立て率は74%に達しており、その資金を活用して経済・社会開発のためのプロジェクトが実施された。見返り資金により実施されたプロジェクトは36件にのぼり、その総額は277,287,522.47コルドバ(約20百万ドル)に達している。
事例(12):ノンプロ無償見返り資金プロジェクト「チナンデガ県零細牧畜生産者支援計画」
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【円借款】
91年10月に借款供与した「構造調整計画」(L/A額97億円)は、「ニ」国政府が実施する「構造調整計画」を支援するためのものである。この計画は、政府部門の縮小・効率化、金融部門の再編及び民間部門を活性化する経済の枠組み形成を柱とするもので、民間部門の拡大により資源配分を効率化し、経済成長の促進を図ることを目的としていた。本借款は世銀との協調融資であり、借款資金は同国の一般輸入決済資金に充当されるいわゆる国際収支改善支援のためにプログラムローン(ノン・プロジェクトローン)である。
この構造調整計画ローンは計画通り満額実行された(ローンは91年11月と92年6月の二回のトランシュに分けて実行された)。このローンにより電話公社が民営化されるなどの政府部門の縮小と公的部門の効率化が図られた。
94年には2回目の構造調整借款「経済復興計画(第2期)」(L/A額38.78億円)が供与された。この借款は、91年借款と同様に「経済安定化政策」を支援するためのものである。計画内容は、(1)国営企業の民営化など公共部門改善、(2)国営銀行の組織改善など金融部門の再編、(3)貿易部門改革など民間部門を活性化する経済の枠組み形成を柱とするもので、同国の経済成長の促進を図ることを目的としている。本借款も世銀との協調融資であり、借款資金は国際収支改善に資する一般輸入決済資金に充当された。
94年の経済復興計画(II)事業は3回のトランシュに分けて実行された (1回目94年12月、2回目96年2月、3回目96年6月) 。本借款により、土地所有権の改革、税収の向上(住民税等)、政府部門の縮小(公務員の削減)、国営企業の民営化などの行財政構造改革が実行された。かかる構造改革は財政・金融の安定化をもたらしマクロ経済の安定化に貢献したとされる。
我が国の経済安定化支援の結果、1983年以降マイナスであった経済成長率は1992年にはプラスに転じその後も安定基調で推移している。この点からも円借款が同国の経済復興・安定化に貢献したものと評価される。
(4)教訓と提言
(教訓)
ノンプロ無償や債務削減、経済復興のための円借款などの支援は他のドナーや「ニ」国政府からも評価されている。しかしながら、大幅な財政赤字や巨額の対外累積債務など、経済構造から発生する様々な諸問題の抜本的改革に結びつくような中長期に亘る支援策の策定が必要性が挙げられ、課題として残されている。
また、構造調整支援のための円借款が、HIPCに対する債務削減プログラムの適用で帳消しになったことは、構造調整支援のあり方について教訓を残したことになると考えられる。
(提言)
11 国連開発計画の要請に基づきボル・イ・アソシアドス社が1998年12月に実施
12 ニカラグァ調査研究所が1999年に実施した「ニカラグァにおけるガバナンス」という世論調査
13 Ethica y Transparenciaが1999年に10万人を対象に行った調査
14 中南米人権委員会(CODEHUCA)によるレポート「中央アメリカの刑務所制度は人間貯蔵庫なのか」(1996)
15 内戦時代のサンディニスタ政権への抵抗勢力
16 在ニカラグァ日本大使館作成「ニカラグァとマナグア市のご案内」
17 1999年上期に実施
18 ニカラグァ調査研究所による1999年2月のマナグアにおける「ニカラグァにおけるガバナンス調査」
19 得点: 腐敗度を示すもので、10.0はきわめて公正であり、0は最悪の状況である。
20 調査数:指数に含めるに当たっては、少なくとも3つの調査が実施されねばならなかった。
21 標準偏差:国どうしの値の隔たりを示す。
22 Public Sector Holding Company