6.2 社会・経済インフラ整備
(1)道路・橋梁の現況と課題
「ニ」国の運輸は、陸上輸送に大きく依存している。多くの生活必需品は、近隣諸国から陸路で輸出入している。北部太平洋岸に国際貿易港コリント港があるものの、海上輸送品は近隣諸国の港を通じて陸路で輸出入している場合が多い。このように社会経済に重要な陸上輸送網であるが、毎年のように発生する洪水の影響で幹線道路や橋梁が度々被害を受けるため、地方の幹線道路では輸送の大動脈が遮断され、首都マナグァをはじめとして国内における食料品等の必要物資の供給が滞ることが少なくない。こうした輸送アクセスの脆弱さは、大きな社会不安を招いている。一方、地方農道はさらに整備が行き届いておらず、末端の貧困農民まで農産物流通網が確立していない。生産地と消費地を有機的に結ぶための農道整備も急務となっている。
国内の道路網総延長は、下表のとおり19,032kmである。この内アスファルトやコンクリートによる舗装道路は1,957km、10%程に過ぎない。しかもこの舗装道路のほとんどが太平洋側に集中している。未舗装道路が依然として4分の3近くを占めており、その中でも通年通行可能な道路は約3割にしか至らず、乾季のみ通行可能な道路が4割を超えている状況にある。
表6.2.1-1 国内道路状況(2000年) | ||||||||||||
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(出典)MCT |
また、下表の通り664の橋梁が存在する。その内、耐久性にある程度の信頼を得られるコンクリート製橋梁は約4割しかない。それ以外のコンクリート・木製混合橋梁が約4割、木製橋梁が約2割を占めており、豪雨やハリケーンの被害により橋梁が破壊されたり、しばしば通行不能になっている。
表6.2.1-2 「二」国内橋梁状況(2000年) | ||||||||
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(出典)MCT |
道路網整備の地域格差も大きい。大西洋側の道路網整備は、豪雨やハリケーンの被害が多く且つ人口密度が非常に希薄であるために遅れている。大西洋側を縦横している既存の道路・橋梁は度重なるハリケーンの襲来で被害が絶えず、乾季のみ通行可能な道路が多い。太平洋側から大西洋側へ抜ける道路として、マタガルパからプエルト・カベサスへ抜ける道路が唯一あるが、この道路も雨季は通行不能になる状況にある。
1998年に襲ったハリケーン・ミッチは、道路・橋梁にも甚大な被害をもたらした。8,000kmにも及ぶ道路の破損、国内にある約250本の橋梁のうち104本において全・半壊の被害を被った。政府は、二国間・国際機関からの援助資金を受けて、道路の補修及び舗装等に係る道路・橋梁インフラ整備を実施している(2004年完了予定)。
道路・橋梁に係る維持管理においても以下のような事業が展開され始めた。
1) | 2000年8月、道路維持管理基金(FOMAV)が創設された(法律355号Gaceta No.157)。運輸・インフラ省と協調しつつ、FOMAVは独立機関として運営している。公営企業ではなく、民間部門との契約を中心に実施している(2001-2005年に米州開発銀行5百万ドル、世界銀行2.5百万ドルの融資予定)。 |
2) | 米州開発銀行、世界銀行、デンマークが共同で運輸・インフラ省を支援して、道路網のリハビリ・維持管理実施計画が展開されている。 |
3) | 米州開発銀行の支援を受けて(百万ドル以上)、国家建設局が3,430人を対象としたパイロット研修計画を実行中である。 |
(2) 道路・橋梁セクター政策
チャモロ政権とアレマン政権は共に、閣議または国会の賛同を経た明確な位置づけを持った上位計画を策定してこなかった。しかしながら、折に触れて公表される大統領の発言では、国内産業の育成、地方の振興、貧富格差の解消、雇用機会の創出等に係る懸案事項への取り組みの前提として、インフラ整備、特に道路整備の重要性にしばしば言及し、それに高い優先度を与えることを表明してきた。1992年以降、海外からの援助を基にして内戦及び度重なる自然災害で被害を受けた道路や橋梁の復旧作業が行われてきている。
「ニ」国には、国家建設審議会というインフラ整備や建設に係る主要関連諸機関の代表者の会合があるが、全般的には、道路・橋梁セクターは、運輸・インフラ省(MTI:前建設・運輸省MCT)が管轄している。MTIの高級職、技術職はすべて大学卒業以上の高学歴を有している。MTIでは、計画総局が道路総局の補佐のもとに道路・橋梁事業の設計・実施段階を担当する。その後、道路総局道路建設部が建設工事完了までを担い、道路総局道路維持部が完了後の道路・橋梁の維持管理を担当している。
MTIは、毎年、前年からの継続案件を含めて当該年度の実施予定プロジェクトのリストを作成している。海外援助に大きく依存する状況下では、海外援助資金の導入が最終決定をみた後、そのリスト内容は大きく変更され、国内予算はその援助資金の対象とされた案件の内貨分へ振り替えられるといった現象が起こっている。従って、道路整備の方向性は、融資された援助資金の動向をみることで把握できる。援助融資案件の動向より、以下のような道路整備に対する現在の姿勢を読み取ることができる。
1) | 従来から進めてきた国際道路としてのパン・アメリカン・ハイウェイ路線の整備は、未だ終了しておらず、同路線を含めた主要幹線道路網の整備が現在も最優先事項である。 |
2) | パン・アメリカン・ハイウェイ路線に次ぐものとして、カリブ海へ向かうサンベニート・エルラマ間道路及びマタガルパからプエルト・カベサスへの道路の整備を本格化しようとしている。 |
3) | 北部高地は、「ニ」国の中でも最も生産性の高い地域であるにも係らず、内戦の後遺症としての治安問題を抱えていた為に地域振興とそれを支える道路整備が立ち遅れている。治安の安定化を背景に、この地域の支線道路の整備にかなりの資金を投入しようとしている。 |
4) | ハリケーン・ミッチ被災後、被災の脆弱性を鑑み、MTIは、1999年から予防対策も計画し始めた。豪雨による舗装道路の危険箇所が23箇所(ヌエバ・セゴビア、レオン、マナグァ、マサヤ、リバス、マタガルパ、セラヤ地域)特定された。 |
5) | 全国に散在する道路・橋梁の維持管理センター67箇所(その内61箇所が民間会社)を基盤にして、民営化を推進しつつ、その強化に支援を図ろうとしている。 |
農村部における生活道となっている補助幹線道路と農村道は、ほとんどが砂利敷き道及び土道である。一般的に道路の建設・補修はMTIの所轄であるが、多額の対外債務残高を抱える政府にとっては、海外からの援助を仰ぎつつも、幹線道路の補修が精一杯である。従って、大統領府直轄機関の国家農村開発庁(IDR)が、農村インフラ整備をMTI所轄事業と重複することなく、むしろ相互補完しあい、かつ農民参加型で自助努力をもって推進することを積極的に支援しようと取り組んでいる。
以上のようなこれまでの姿勢を踏襲するような形で、2001年2月に国家運輸計画(対象年度2000-2020年)が作成され、同計画において道路・橋梁分野に関する将来計画も策定された。開発優先路線として、全国に散在する168路線が、費用計算、IRR等に基づいて10フェーズに区分され、優先順位付けされている。同時に、2000~2009年のアクション・プランも策定されている。
また、1980年代に作成された道路・橋梁建設に関する一般明細書(ハンドブック)が、現在改訂中であり、以下の3部作に分かれている。MTIのみならず、民間部門を含めたその他道路・橋梁関連機関を対象とし、今後の道路・橋梁分野の開発指標を示すことにしている。
(3)我が国援助の評価
道路・橋梁分野における我が国の援助は、政府のみならず地域住民に至るまで高く認識、評価されている。殊更に、1998年のハリケーン・ミッチにより多くの橋梁が全壊したにもかかわらず、我が国の「主要国道橋梁架け替え計画」により架けられた橋梁については、ハリケーン・ミッチにも無傷で耐えた橋梁として評価がすこぶる高い。アレマン前大統領からも我が国の高い技術水準と援助姿勢に対して感謝と賛辞の意が述べられ、現地有力紙でも大々的に採り上げられ評価された。同計画を記念切手として発行するなど広報上の効果も極めて高く(2001年)、中米における我が国支援の広報効果も高いものとなっている。
上記橋梁計画を含めて、我が国の道路・橋梁分野に対する援助としては、以下の8つの無償援助案件が挙げられる(総額65.23億円)。上述した政府及びMITの道路・橋梁分野に関する開発政策に沿った形で重点項目である主要幹線道路の整備を実施してきたことから、当該分野の我が国援助は妥当であったと評価できよう。
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また、上記案件及び「ニカラグァ国首都交通網整備計画調査」(1999年3月終了)、個別専門家派遣事業(1992年以降計7人:公共交通計画策定・規制専門家3人、道路施設整備及び維持管理計画専門家1人、建設機材保守管理専門家1人、道路維持管理計画専門家1人、橋梁診断・維持管理専門家1人)を通じて、道路・橋梁分野における技術移転が、「ニ」国技術者や維持管理業者等になされてきた。1996年から2000年にかけて、延63人が道路・橋梁の維持管理に関する研修を我が国援助を通じて受講し、その後の通常の維持管理作業に生かしている。同時に、MTIには、これまでの日本の無償資金協力による道路網整備・橋梁架け替え建設の実施経験が蓄積され、援助受け入れ機関・実施機関としての業務を円滑に実施することができるようになっており、援助の効率性・円滑さという点からも技術移転の蓄積を評価できよう。
以下、我が国が「ニ」国側開発政策に沿って実施してきた道路・橋梁分野における代表的案件、上記「主要国道橋梁架け替え計画」を紹介する。
事例 (6):主要国道橋梁架け替え計画
首都マナグァとホンジュラスを結ぶパン・アメリカン・ハイウェイの国道1号線に存在するラス・マデラス橋とセバコ橋という2つの橋梁が架け替えられた。この2つの橋梁は、「ニ」国の北部地域及びメキシコからグアテマラ、エル・サルバドル、ホンジュラスに至る北部中米域とを結ぶ主要幹線道路として社会経済的に重要な地点に位置すると同時に、「ニ」国の北部穀倉地帯と食糧大消費地であるマナグァやマサヤを結ぶ重要な主要幹線道路にも位置しており、「ニ」国北部地域の道路網の要になっている。 他方、ラス・ラハス橋は、パン・アメリカン・ハイウェイの国道2号線に位置しており、同計画により架け替えられた。同橋梁は、「ニ」国の南部地域及び首都マナグァとパナマからコスタ・リカに至る南部中米域を唯一結ぶ極めて重要な幹線道路上に位置するものであり、「ニ」国南部地域の道路網整備には欠かすことができない橋梁の一つとなっている。 |
以上、同計画により架け替えられた3つの橋梁は、「ニ」国の道路網整備にとって重要な役割を担っているばかりでなく、「ニ」国におけるマクロ社会経済の発展にも多大な効果を与えているものと思料される。
(4)教訓と提言
(教訓)
これまでに道路・橋梁分野に係る援助を通じて認識できた教訓として、以下の3点が挙げられる。
(提言)
以下の3点が特に、これまで道路・橋梁分野に係る援助を実施してきた経験を踏まえ、提言される。
(1)農業・農村の現況と課題
「ニ」国にとって農業は最も重要な産業である。1960年代までは、綿花や牛肉等を輸出する農牧業が国内経済の中心であった。しかし、その後、綿花産業が衰退し、牧牛の数も内戦で激減した。民主化後、一部の大土地所有者によるコーヒー、煙草等の嗜好品の生産が進んでいるほか、牧畜業も復活し始め、熱帯果樹、観葉植物等非伝統的産品の生産の試みも進行中である。基礎穀物の生産も、徐々に上昇傾向にある一方、人口増加率が3.0%と中南米最高の水準にあり、人口増加に伴った食糧輸入も増加している。
農業生産の中心地域は太平洋側地域である。太平洋側は、カリブ側地域よりやや乾燥しているものの、年平均気温が栽培に適しており、肥沃な平原が広がっている。主要農産物は、コーヒー、綿花、砂糖、バナナ等の換金作物である。土地が非常に肥沃な中部高原地帯では、国内消費用のトウモロコシ、豆類、ソルガム、米、煙草、麻等が栽培され、太平洋側ではゴマ、カカオ、煙草等が栽培されている。
農業人口は、1991年の約42万人から1998年には約60万人に増加した。耕地面積は、約1,200千ヘクタールであり、国土のおよそ10%を占めている。2000年には、GDPに占める第1次産業の割合は29.5%であった。1995年以降、第1次産業のGDP成長率は、ハリケーン・ミッチ被災の影響を受けた1998年を除いて5%以上の高い成長率を維持し続けている。高成長の要因として労働投入量の増加による生産量増大、一次産品価格の上昇、良好な気象条件等の好条件に恵まれたことが挙げられる。
表6.2.1-3 産業別GDP成長率 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
(%) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(出典)Banco de Central |
上述のような農業成長が見られるものの、農業分野が経済の基幹産業としての復興及び発展を導くためには、未だ以下のような課題が残されている。
(a)土地所有権問題:
以上のような農業の課題を抱え続け、農民の貧困は解消されず、社会不安の温床になっている。多くの中小農民は、農業生産性が低く、収入が少ないため、生活レベルが極めて低い。都会に離農してきた過剰な農民流入人口の帰農対策を進めるためにも、農業の再活性化を図り、農民家族の生活の安定を進めることが課題となっている。
(2)農業・農村開発政策
サンディニスタ政権時代における10年余りの農業生産の停滞に対して、チャモロ政権は経済再建における基本目的の一つとして農業生産の再活性化を掲げた。農業生産構造を再編し、対外輸出入の不均衡を輸入引き締めによらず、輸出増で是正を図ろうと考えた。この目的を踏まえて、「1991-1995年中期計画」における構造調整策の主要目標として農業部門の調整と近代化促進を提示した。「経済の現状と展望1992-1993年」では、基礎穀物の自給および余剰分の輸出を達成することを目標として掲げた。特に、中小農家への技術援助、財政的援助、金融サービス、市場アクセスのためのインフラ整備等を進めることによって、数年にわたって行われてきた農地再分配政策の経済的効果を期待した。また、「国家開発計画5ヵ年計画(1994-1999)」においては、農業生産復調の兆しが見られつつも、依然として食糧生産が国内需要を満たせないという不安定な状況下、食糧安全保障の観点から農業生産力を高めるとともに国際競争力をつけ、食糧の国内自給を満たすことが急務だとした。
アレマン政権は、国家経済の更なる復興を図るため、チャモロ元政権と同様に農業セクターの活性化を最重要課題として取り上げた。特に、中小農民に必要な農業インフラ改善を最重要施策と位置づけ、基礎穀物の自給達成を重要政策の一つに掲げた。「1999-2001年中期計画」では、関税調整として、とうもろこし、米及び大豆油等の農産物・農産加工品の価格下落による影響を緩和する目的で、輸入関税の設定による価格帯の設定を実施することになった。アレマン政権は、農業セクターをマクロ経済復興の原動力とするには、なおも厳しい努力が必要とされ、以下の問題を克服することを農政の基本的政策課題とした。
1) | 優良品種・肥料・農薬・農業機械等の農業生産資機材の海外からの調達・確保には、なおも多大な財政的困難が伴う。 |
2) | 圃場管理技術等の営農・生産管理のための農業技術が不足している。 |
3) | 農業生産基盤(渇水期に対応しうる用水路やため池などの灌漑施設・農産物の市場へのアクセス道ともなる農村道等)が未整備である。 |
4) | 市場へのアクセスが困難なため、農産物流通の環境整備がなされておらず、農産物の商業化と流通が阻害され、収穫後の物質的・経済的ロスが多い。 |
5) | これまでに摂取された土地の所有権問題が完全に解決しておらず、投資や作付けの拡大が進まない。 |
チャモロ・アレマン両政権を通じた農業政策の過程で、重要な農業振興施策の一つとして「開発拠点計画(Polos)」がチャモロ政権時代の1991年に策定されている。アレマン前政権も農村開発、農業生産向上のための最重要政策としてPolos計画を推進してきた。Polos計画は、農村経済の振興と中小農民の生活向上を目指すものとして、国家農業政策重要項目として以下を掲げている。
1) | 農業の発展に不可欠な、生産の機械化や各種農牧関連インフラの改善を図る。特に中小農民の組織化を図り(ポロ組合)、農民参加型での自助努力による農業生産基盤の充実(農村道建設・補修、ため池造成、農地造成等)を目指す。トラクター、コンバイン等の農業機材や農業投入財の共同利用・購入、小規模資金貸付制度によるリボルビング・ファンド制度の導入を含むソフト面での支援体制を強化し、これまで資機材、融資、適正技術に縁がなかったこれら中小農家に、自立のための機会を提供する。 |
2) | 農民による農牧産品の市場へのアクセスを容易にし、市場化や流通を活性化させることにより農村経済の振興と農民生活レベルの向上を図る。 |
3) | 農民組合(ポロ組合)及び農業協同組合を通じて、営農技術の移転及び普及を図る。 |
4) | 農産物の輸出量を拡大し、国家経済の復興を促進する。 |
Polos計画の実施機関は、農村開発庁(IDR:1998年元国家農村開発庁PNDRから改組)傘下のPOLDESであり、マナグァ本部及び9ヶ所の地方支所からなる。政府は、Polos計画の円滑な実施に当たり、1994年の政府内機構改革に伴う法律策定時に、地方農村地域の中小農民の支援強化を目的として、それまで多くの官庁に分割されていた18の農村地域支援関連機関及びプロジェクトを各省庁(農牧省、土地改革庁等)から分離してPNDRに統合した。
これまでのところPolos計画は、「ニ」国政府が想定した効果が上がっていない。効果が停滞している主な原因の一つは、1998年の旱魃やハリケーン・ミッチ、2001年の旱魃といった自然災害やコーヒー国際価格の急落といった外部要因によるものである。
所有権問題で混乱している土地政策は、政府にとって農業問題に留まらず国家問題として捉えられている。チャモロ政権は、土地所有権についてより弾力的な方針をとり、国営農場については中小農民への民営化を進める一方、農民組織や個人所有の土地については押収しない政策をとった。また、過去に土地を強制摂取された地主に対しては、20年の国債あるいは民営移管を予定されている公益事業の株券で保証した。その後、1995年に土地所有者を明確にする過程を効果的に進めるために新土地法を制定した。1997年には、土地所有権関連法案が制定されている(小規模の土地所有者は地券を取得することにより、その所有権が合法化される。他方、不法に大規模な土地を接収した土地所有者は、元の所有権者に返還するか、あるいは相応の金額を元の所有権者に支払う)。この法制度の下で土地政策が推し進められているが、なお個々の利害が絡み合い、全面的な進捗は見られない状況にある。
(3)我が国援助の評価
我が国の農業・農村分野における援助は、国の農政に沿って中小農民の農業生産性向上を対象としてきた。特に、これまで10年以上にわたる「食糧増産援助(2KR)」及び「農業生産基盤改善用機材整備計画」によって調達してきた農業資機材、特にトラクター・収穫機等の共同利用機材が、国の重要な農業政策であるPolos計画に沿うものであった。
これまでのところPolos計画は、農業・農村開発政策の項目で記述した通り、度重なる自然災害等により「ニ」国側が想定した程度までには効果が発現していない。我が国は、「食糧増産援助(2KR)」及び「農業生産基盤改善用機材整備計画」を通じてPolos計画を10年以上支援してきた。この経験を踏まえ、我が国は資金・物的支援に留まらず、円滑な事業を実施・運営管理する組織・制度体制が脆弱である「ニ」国側に対して組織・制度的支援を実施し始めている。具体的には、我が国と「ニ」国側が定期的に2KR及び2KRによって生じる見返り資金の運営・管理状況に関する報告会議を行っており、組織・制度体制及び透明性の強化に役立っている。このような制度能力強化への支援は、評価される。
なお、我が国が供与した上記資機材は、農村道の整備等といった農村生活環境の向上にも寄与している。特に、同資機材が1998年のハリケーン・ミッチにより被災を受けた農村道等の農村インフラの復旧・整備に貢献している。
我が国の農業・農村分野に関連する援助としては、上述した2つの無償援助案件(総額58.23億円)に加えて、「ニカラグァ国太平洋岸第2・第4地域農業開発計画調査」(2000年7月終了)や小規模養鶏・養豚事業といった農業分野での草の根無償案件(1990年~2000年度)が8件実施されている。個別専門家派遣事業も1992年から総計13人(人工授精、穀物種子生産、エビ養殖、牛人工授精技術、漁業技術、ハリケーン灌漑普及、農業開発計画、基礎穀物種子生産、零細漁業開発運営指導、土壌分析・改良、零細漁業開発、牛受精卵移植、漁家・零細漁業経営の各1専門家)が派遣されてきた。これらの援助は、政府の農業・農村分野に係る開発政策に沿った形で、重点項目である農村経済の振興と中小農民の生活向上を図るため、中小農民に対して農業生産基盤の整備を支援してきた。
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以下、我が国が農業開発政策に沿って実施してきた農業・農村分野における代表的案件である「農業生産基盤改善用機材整備計画」を紹介する。
事例 (7):農業生産基盤改善用機材整備計画
同計画により供与された農業生産基盤改善用機材は、以下のとおりである。 1) ブルドーザー21台2) トラック28台 同計画により下記農業生産基盤の改善及び受益地域の農村生活環境の向上が促進された。これまでの直接裨益人口は約2万7千人であり、間接的には約150万人に及ぶと推計される。特に、ハリケーン・ミッチ被災後における農村インフラの復旧事業の高い需要の中で供与機材が有効的に活用された。 1) 供与建機による1,156kmの農村道路の整備・復旧2) 供与建機による144のため池・水路建設 3) 供与建機による農地整備や農業土木工事 4) 供与建機による農村道整備・復旧 5) 供与トラックによる約2,800トンの農産物、特に基礎穀物の農村から消費都市への輸送 6) 供与トラックによる2KRで供与された肥料約4,600トンの農村への輸送 実施機関の農村開発庁(POLDES)が市場の25~30%程度の価格で建機での土木工事サービスを提供していることから、同計画の対象としている貧困な中小農民でも利用機会が得やすくなっている。現地調査時に訪問した協力サイトの一地域であるマタガルパの農民によると、供与機材を用いた道路整備により農業投入材の調達及び農産物の出荷が円滑になり、以前に比べて生産高は20~30%増をもたらしている。 計画時における本件に対するニカラグァ政府の政策におけるニーズと優先度は高く、一般無償案件としての採択も妥当であった。評価時点でも農業生産性の向上・農家所得増大に資する農業インフラの整備に対する住民ニーズは高く、本事業の妥当性は維持されている。本件は我が国の国別援助方針/計画にも合致している。 |
(4)教訓と提言
(教訓)
これまでの農業・農村分野に係る援助を通じて認識できた教訓として、以下の3点を指摘することができる。
(提言)
これまでの農業・農村分野に係る援助を実施してきた経験を踏まえて、以下の事項が提言される。