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2.5 開発計画

2.5.1 1990年代の開発計画

(1) 構造調整計画と 拡大構造調整融資(ESAF:Enhanced Structural Adjustment Facility)

1990年4月に発足したチャモロ政権は、内戦で荒廃した経済の再建を目的に、経済安定化・構造調整計画を導入した。政策の柱は、マクロ経済の均衡回復を通したインフレ抑圧と規制緩和・自由化を通した経済復興であった。また、サンディニスタ政権時代に滞っていた債務返済を再開し、国際金融界との和解を達成し、新規援助の獲得にも成功した。国際社会の側も1991年5月にはニカラグァ援助会議を開催し、構造調整計画への積極的支援を表明し、同年9月に総額323百万ドルの延滞金解消スキームが発表されるにいたった。

1994年6月にはIMFの拡大構造調整融資(ESAF)が開始されるが、国営電話会社の民営化や税制改革、国立銀行の不良債権処理といったコンディショナリティが履行できず、IMFからの融資の中断にいたる。1997年1月にアレマン政権が発足すると、IMFの処方箋に沿った経済安定化・構造調整政策が再び促進され、1998年3月にはIMFとの間でESAFIIの合意締結にいたる。ESAFIIの対象期間は3年間、総額100.9百万SDRであった。主なコンディショナリティは民営化、金融改革、税制改革、行政改革であったが、民営化と財政赤字の削減が滞った。

2001年後半にはIMFとの暫定合意が締結され、財政改革、金融制度改革、民営化などの分野で具体目標が盛り込まれたが、これも財政赤字の削減、通信・電気民営化、統治能力の改善などの点で履行が遅れている。他方、2000年12月には世銀及びIMFの理事会にて拡大HIPCイニシアチブの決定時点への到達が承認され、2001年から暫定貧困削減戦略ペーパー(I-PRSP)にもとづく貧困削減戦略がスタートする運びとなった。

(2) 国家再建計画(PNR:National Plan for Reconstruction)

1998年10月末に中米地域を襲ったハリケーン・ミッチは、ニカラグァ経済にも大打撃を与えた。被害総額は農業やインフラを中心に政府試算によれば15億ドルにも達した。99年5月に米州開発銀行(IDB)主催の中米復興・改革支援国会合が開催され、総額90億ドル(我が国は3億ドル)がプレッジされた。ニカラグァ政府は1999年から2001年の3年間を対象に国家再建計画(PNR)をうちだし、国際社会からの支援をベースに、社会資本の再建を中心とする大規模な投資プログラムに取り組んだ。

2.5.2 貧困削減戦略(SGPRS:Strengthened Growth and Poverty Reduction Strategy)

成長強化・貧困削減戦略(SGPRS)は2001年から2005年にいたるニカラグァの基本的政策ガイドラインであり、I-PRSPの改訂版である。アレマン政権は、CONPES(国家経済社会計画諮問委員会)を軸に市民社会との幅広い対話を繰り返し実施し、コンセンサスの形成に努めてきた。2002年1月に発足したボラーニョス新政権は、SGPRSの履行に向けて早速、IMFと3年間の貧困削減・成長ファシリティ(PRFG)の合意締結をする予定である。

以下、SGPRSの概要を示す。

(1) 4つの柱

1) 幅広い基盤をもつ経済成長
持続的経済成長こそが、SGPRSの成功の鍵を握る重要な柱である。民営化を含む経済安定化・構造調整プログラムの履行、労働集約型産業の強化、戦略的生産クラスターの促進、農村経済の近代化、大西洋沿岸部の開発などが第1の柱の中身となる。
持続的成長を通した貧困削減には、4つの戦略的成長部門が強化されなければならない。(1)観光、(2)繊維、(3)森林、(4)コーヒーである。だが、コーヒーの長期的展望は不透明であり、各部門における投資と成長率の関係に関する分析が甘く、モデルは未完成である。
ニカラグァの成長の牽引力は観光・金融・商業・通信といった都市ベースの部門にあると見られるが、極貧貧困削減には成長の果実を農村にまで分配すると同時に、農村経済自体の成長が欠かせない。そのためには、貿易自由化を促進して農業生産を抑制する価格の歪みをさらに是正するとともに、インフラ整備と技術水準の向上を含む農村要素市場の機能改善が欠かせない。所有権問題の解決、マイクロクレジットを通した融資アクセス拡大も重要である。
貧困削減には貧困が集中するうえ悪化傾向が続く大西洋沿岸部への特別な配慮が不可欠となる。貧困層の生活状態と生産性の改善に資するプログラム、先住民の土地問題確定、通信・輸送インフラ改善、麻薬対策などが優先課題である。

2) 人的資本投資
貧困層の生産性・所得・福祉の向上には人的資本への投資拡大が有効である。焦点は、初等・職業教育、予防医療、幼児栄養補給、家族計画の拡充のための投資拡大におかれる。資金の効率利用には、教育・医療面のさらなる分権化が欠かせない。
ニカラグァの公衆衛生と教育部門における支出はGDP比では12%とラテンアメリカの平均値7%を上回っているものの、一人当たりの絶対額では低く、教師の賃金も中米水準でみても極めて低額に留まっている。分権化の前提条件として、サービス水準の全国的平準化を維持するうえで、社会部門のデーターベースとマネジメント情報システムの整備が欠かせない。

3) 脆弱集団への手厚い保護
6歳までの子供及び極貧家庭の基本的サービスへのアクセス度を優先的に拡充する必要がある。極貧層の児童の初等教育及び保健医療サービスの拡充には、保護者への何らかのインセンティブが必要とされる。地方自治体と共同体の制度的能力の強化が脆弱性の低下と社会的信頼・協力関係の改善に欠かせない。

4) 制度強化と良い統治
透明で独立した司法制度は民間投資の呼び水にもなる。法治主義の定着、公的部門の制度的強化、公的支出の透明化・効率化、市民社会の強化と人権尊重を通した民主化の促進が優先プログラムとなる。

(2)3つの横断的テーマ

1) 生態系の脆弱性緩和
2000年から2005年を対象に、ニカラグァ環境政策・行動計画(PANic:Nicaragua Environmental Policy and Action Plan)が策定され、16分野が選出されている。地域的には生態系が最も危機的な状態にあるヒノテガ、ヌエバ・セゴビア、北部大西洋地域(RAAN)、チナンデガ、エステリ、マタガルパが最優先地域である。
生態系保全に関わる法制度の近代化にも着手されており、それを支える制度・組織形成と予算措置が課題である。政府の防災能力の強化も優先課題である。

2) 社会的不平等の是正
社会的不平等の是正には、先住民、孤児、障害者等、脆弱集団への特別プログラムが欠かせない。

3) 地方分権化促進
分権化に際しては、柔軟性、グラジュアリズム、良い統治を基本三原則とする。金融財政システムの構築、計画立案能力の向上、モニター・評価システムの改善を通して自治体の強化を図る。

(3)成長強化・貧困削減戦略の原則

1) 国家の継続的近代化。社会支出の拡大と効率化を目指す。

2) 公正の促進。成長の果実への貧困層のアクセスを増強する。とくに、農村共同体、女性、先住民、大西洋沿岸部の住民に特別の配慮を行う。

3) 透明性の増強。行政システムの改善、司法制度改革、参加を通したアカウンタビリティの改善が鍵を握る。

4) 幅広い参加の促進。SGPRSの決定・履行・フォローアップにおける全社会部門の参加を促進する。市民社会の代表、とりわけCONPES、NGO、教会、大学、生産者組織、労組と貧困層自身が主要アクターである。

表2.5-1 SGPRSポートフォリオ
(百万ドル)
  2001 2002 2003 2004 2005 合計
合計 218.6 217.1 223.3 238.5 252.0 1149.5
185.6 193.8 196.0 206.9 217.2 999.5
1.経済成長 81.0 96.0 99.7 102.6 106.3 485.6
2.人的資本 72.0 75.8 72.3 79.3 84.6 384.0
 教育 50.4 52.2 49.2 50.8 53.2 255.8
 保健医療 19.9 22.0 22.1 27.3 29.8 121.1
 栄養 0.2 0.1 0.3 0.4 0.5 1.6
 人口 1.5 1.4 0.6 0.8 1.1 5.5
3.脆弱集団保護 29.9 19.2 21.3 22.1 23.2 115.8
4.ガヴァナンス 2.6 2.8 2.7 2.9 3.1 14.1
横断的テーマ 33.0 23.2 27.3 31.6 34.8 150.0
1.環境・生態系の脆弱性 16.2 6.3 5.7 8.7 11.6 48.5
2.分権化 16.8 16.9 21.6 22.9 23.2 101.5
(出典)SETEC

(4)ターゲット・指標・モニター

2015年までにOECD-DACが提案するすべての目標達成を追及する。この目標にニカラグァ特有の問題の解決を加え、以下を目標とする。

1) 2015年までの長期目標

  • 極貧を半減
  • 乳幼児死亡率を3分の2削減
  • 妊産婦死亡率を4分の3削減
  • 初等教育就学率を90%に上昇
  • リプロダクティブ・ヘルスケアへのアクセスを100%に
  • 飲料水へのアクセス率を100%に
  • 幼児栄養不良を7%削減
  • 保健衛生サービスの対象範囲を95%までに拡大
  • 識字率を10%に低減
2) 2005年までの5年計画目標
  • 極貧率を17.5%削減する。政府の最優先目標であり、極貧率を2005年までに14.3%、2015年までに9.5%に削減する。この目標は一人当たり消費の年率2%増加があれば達成可能だが、経済成長予測はこれに届かないために、社会プログラムやその他の形の資源移転が不可欠となる。目標達成の前提条件は、GDP成長率4.2%、中央政府の貧困関連歳出の62%への引き上げ、基本的社会サービスへのアクセス改善である。
  • 初等教育就学率を75%から83.4%に引き上げる。ラテンアメリカの平均値は90%であり、このレベルに到達することが最優先目標となる。目標値は、農村部で小学校3年修了児童を年間1%増加、6年修了児童を同2%増加させることにある。
  • 妊産婦死亡率を10万件当たり148人から129人に引き下げる。
  • 乳児死亡率を1000人当たり40人から32人に引き下げる。
  • 5歳未満の幼児死亡率を1000人当たり50人から37人に引き下げる。
  • 15~19歳のパートナーを持つ女性のうち、家族計画への需要が充足されない割合を27.1%から24.8%までに削減する。
  • 20~24歳のパートナーを持つ女性のうち、家族計画への需要が充足されない割合を19.7%から18%まで削減する。
  • 持続可能な開発のための国家戦略の実施(持続可能な開発のための国家戦略を2005年までに実施する。
  • 慢性栄養不良児の割合を19.9%から16%に引き下げる。
  • 上水普及率を66.5%から75.4%に、また下水普及率を84.1%から88%に引き上げる
  • 非識字率を19%から18%に引き下げる。

表2.5-2 一人当たり経済成長率と貧困削減効果
  1998 経済成長率
1.2 % 2 % 3 %
2005 2010 2015 2005 2010 2015 2005 2010 2015
貧困層                    
 人口比 47.9 43.5 40.6 37.9 40.8 36.3 32.4 37.6 31.6 26.5
 貧困ギャップ 18.3 16.0 14.5 13.1 14.6 12.4 10.5 12.9 10.1 7.9
 FGT21 9.3 7.8 7.0 6.2 7.0 5.7 4.7 6.0 4.4 3.3
極貧層                    
 人口比 17.3 15.7 14.7 13.7 13.1 10.7 8.8 11.3 8.4 6.2
 貧困ギャップ 4.8 4.2 3.8 3.5 3.8 3.2 2.8 3.4 2.7 2.1
 FGT2 2.0 1.6 1.5 1.3 1.5 1.2 1.0 1.3 0.9 0.7
(出典) The Republic of Nicaragua, Poverty Reduction Strategy Paper

2.5.3 貧困削減に向けた課題

SGPRSの履行には、経済成長の加速化と追加的な国際援助の投入が不可欠とされる。

(1)マクロ経済の前提条件

1) SGPRSが想定する年平均4.2%という成長率を達成するには、現在の資本投入効率を考慮するならばGDPの3分の1に相当する投資が不可欠となる。これはニカラグァ史上、最も高い投資比率を意味する。公的投資と外国貯蓄の低下傾向が予測されるなかで、この投資率を達成するには国内貯蓄の向上と民間投資の大幅拡大(1999年の19.4%から2005年には23.7%へ)が欠かせない。さらに、国際環境の改善と構造改革の進展が成長率の長期的維持に不可欠となる。
2) 政府歳入は、税制改革による課税基盤の拡大を通した年率1.5%ないし2%(対GDP比)で税収の伸びを受けてGDPの3分の1レベルにまで増大することが期待される。
3) 公的資本投資は1999年レベルより半減し、GDP比10%程度となる。
4) 金融破綻処理コストが毎年GDP3%程度追加されることから、資産回収が最優先課題となる。
5) 外部条件としては、交易条件の改善、世界経済の回復が期待される。

(2)SGPRSの必要資金

1) 政府の貧困関連費用は、2002年から2005年の平均値でGDP比14,2%となる。このためには関連プログラムの歳出比率を50%から2005年までに62%に引き上げる必要がある。

2) SGPRSの総コストはGDPの15%前後となるが、政府の負担比率は60%台である。不足分は国外からの贈与と借款及びHIPC債務救済により補充する必要がある。

表2.5-3 SGPRS経費内訳
  2001 2002 2003 2004 2005
  (対GDP比)
SGPRS経費 14.9 14.4 13.7 14.0 14.8
 経常支出 7.3 7.3 6.8 7.0 7.7
 資本投資 7.6 7.1 6.9 7.0 7.1
資金源          
 国内 9.2 9.2 8.8 9.6 10.4
 国外 5.7 5.2 4.9 4.4 4.4
  (構成比)
SGPRS経費/政府歳出総額 50.0 54.2 55.5 60.0 62.1
 SGPRS経常費/政府経常支出 42.2 46.5 46.3 49.0 50.3
SGPRS資本投資/政府資本投資 60.7 65.2 69.0 77.6 83.3
国内資金/SGPRS経費 62.0 63.7 63.9 68.8 70.1
(出典)SETEC

なお、HIPCイニシアティブへの過度の期待は禁物であり、HIPCイニシアティブを利用した社会支出の大幅増強はありえないことを理解しておく必要がある。1999年から2000年にかけて、政府はGDP比6.3%を対外債務返済に当てた。2001年は同7.1%への増大が予定されていたが、HIPCイニシアティブのおかげで4.4%に削減された。つまり、2.7%節約効果があったことになる。だが、これは2000年の支払い率6.3%から見るならば、1.9%の削減効果しかないことを意味する。この差異を混同してはならない。

歳出のうち54%を社会支出に振り向けている政府の努力は高く評価すべきだが、最貧層のアクセス改善にはターゲティングと効率改善が残された道となろう。

(3) 安定成長と貧困削減への基本課題

1) ニカラグァの潜在成長率は3%に達しない。投資レベルは既にきわめて高水準であり、さらなる投資拡大は国内消費を犠牲にした国内貯蓄の増強以外にはありえない。投資効率が中南米水準でみても非常に悪い。農業を中心とする近年の高度成長は、未利用ないし低利用資源の利用が拡大した一過性の外延的成長であり、持続性がない。農業の回復局面は既に終了している。人口増加率が依然として高レベルにある。
2) 財政赤字と対外債務。高レベルの公的支出(GDP比47%)が対外収支不均衡に直接関連している。高レベルの財政収支と経常収支の不均衡問題が安定成長への最大の脆弱性である。
3) 弱体な金融制度。高管理・取引コスト、主要都市への過剰集中、中長期融資の極端な不足、国の政治経済状況を起因とする長期貯蓄の不足、所有権不安定性にもとづく担保不足等を要因に、金融仲介制度の発達がきわめて遅れており、資源配分が非効率のうえ大きく歪んでいる。
4) 弱体な所有権。土地・資産市場の発達の障害であり、農業投資と生産の多角化を通した雇用拡大と貧困削減にとって深刻な制約要因となっている。
5) 技術面。農業・牧畜・製造業において、中米水準からみても生産性が著しく劣っており、品質管理システムも遅れているため、国際競争力に欠ける。生態系の持続可能性も損なわれている。インフラ整備の遅れも低生産性の主因である。
6) 人的資本。人的資本への投資不足、高教育・熟練労働者の海外流出、内戦による社会的協力・信頼関係の破壊が人的・社会的資本蓄積のうえでの深刻な問題となっている。初等教育を修了する子供は、わずか36%(農村部では9%)。中等教育の修了者は進学者の半分以下にすぎず、長期的な対策が必要とされる。
7) インフラ整備の遅れ。内戦と自然災害のために、ラテンアメリカで最もインフラ整備が遅れた国の一つとなっている。主要道路や橋、教育・保健医療関連施設などの再建が進められているものの、手付かずの分野・地域が多く残されている。発電、通信、港湾インフラには多額の民間資金導入が欠かせない。インフラ整備の遅れがニカラグァの生産コスト高と国際競争力の低下の主因の一つである。
8) 自然災害への脆弱性。地理・地勢的要因による様々な自然災害及び生態系の劣化のために農業生産に深刻な悪影響がでている。インフラ・生産設備・住居への被害も大きい。
9) 国際市場価格の変動。主要輸出産品は一次産品であり、国債市場価格が高度に不安定である。
10) 公的支出の効率性。1990年代を通じて公的部門の支出がGDPの40%、財政赤字はGDPの10%にも達していた。にもかかわらず、貧困削減においては有意味な効果がでておらず、公的社会支出のターゲティングとコスト・パーフォマンスに大きな欠陥がみられる。

(4)効率的・効果的な貧困削減への課題

SGPRSポートフォリオ(表2.5-1)は、PRSP達成への包括的アプローチというよりも、個別投資プロジェクトの整合性に欠ける合成の産物という色彩が強い。目標では2005年までに貧困関連総支出(投資・経常)を53%から64%へ引き上げることになっている。だが、関連省庁の経常費の積算が不明確であり、これまで以上にプロジェクト投資集中が実施されるならば、貧困削減のうえで低水準の費用対効果の効率性がさらに損なわれる危険がある。

以下は、世銀が行ったPRSPインパクト調査の結果にもとづく勧告の要約である。調査対象は2000年に実施された貧困削減プログラムの76%、2001年から2005年にいたる削減計画の40%に該当する。

1) PRSPセクター戦略、プログラム、プロジェクト間の整合性

  • 意図したリスクと貧困層に対応しているプログラムは調査対象になった全プロジェクトのうち、29%のみであった。
  • 47%は計画内容の修正により対応が可能である
  • 24%は貧困層が直面するリスクに直接対応していない。うち、10%を制度強化、つまり貧困層のリスクに直接対応しないが、関連省庁の能力強化に使用されていると考えるならば、残り14%は貧困層のニーズと無関係な無駄なプログラムである。とりわけ住居建設及び農村開発を通した家計所得改善プログラムに欠陥が多い。
    政府は、住居・開発及び災害救援に関連する部門別戦略と優先プログラムの見直しを行うべきである。
2) プログラムの範囲と資源配分
  • プログラムは教育・保健医療・農村開発・住居の4分野に過度に集中している。
    保健医療と教育部門では、インフラ投資が経常費にくらべて過剰になっており、明らかにバランスを欠いている。両部門における一人当たり支出額が極めて低額であるニカラグァにあって(保健では19ドル、教育で61ドル)、インフラ投資の拡大は高い機会費用をもたらすことから望ましくない。
    同様に、農村開発プログラムも農村家計のカバー範囲が極めて低い上、非貧困層に便益が移転されてしまうことを考慮するならば、明らかに過剰配分状態にあると言える。
    政府の社会予算拡大にもかかわらず、PRSP目標を達成するうえで、以下の部門への資源配分が不十分である。
    - 0~6歳児向けの総合的幼児発展プログラム。プログラム本数も少なく、裨益人数も少ない。とりわけ3歳児までにターゲットを絞り、世代間の貧困の移転・拡大を阻止するうえで極めて重要である。
    - 7-18歳の就学費用の家計負担分の軽減プログラム。コストが貧困層家計の子供たちの学校離脱の最大の理由である。
    - 資産登記の改善プログラム。所有権の確定は、きわめて低レベルに留まっており、貧困層がもつ数少ない資産の活用を大幅に制約している。土地・住居の不動産市場の発展も抑制されている。
    - 農村部における基本的サービスプログラムの範囲も非常に低い。
3) 効率
  • ターゲティングが不十分である。非貧困層の参入を招く規模の融資が行われたり、もしくは貧困家計の負担・管理能力を上回る融資が供給されている。
  • プログラムの重複がみられる。
  • プロジェクト間の調整不足のために、活動が分断化されている。
  • 管理経費が過剰である。
ニカラグァ政府は、セクター・プログラムの経費効率の改善に向けた基準設定を行うべきである。
4) モニター・評価情報
  • 基本的情報不足。情報の量と精度が不足しているため、プログラムのアカウンタビティが弱体になっている。この結果、プログラムの運営の質とインパクト評価の質が低下せざるをえない。
5) 高い外国援助依存問題
  • ドナーは個別プロジェクトに融資。ニカラグァの広範な戦略とプログラムが執行段階で多くの個別プロジェクトに細分化されてしまっている。個々のプロジェクトはドナー別に個別の管理構造が築かれており、政策整合性問題、有能な行政官の希少性をさらに悪化させている。
  • ドナーは投資プロジェクトに融資。経常支出(とくに賃金)ではなく、投資を融資するドナーの政策が歳出バランスを大きく歪めている。教育と保健医療で顕著だが、インフラ偏重問題が部門目標への進展の疎外要因になっている。経常支援(業績ベースの賃金補填、薬品、食糧など)は例外的に供与されているのみである。
  • ドナーは自らが望むプロジェクトに融資。事前の調整とスクリーニングが不足している。
ニカラグァ政府と各ドナーはPRSPをめぐる政策協議の場を効果的な援助調整の場とし、個別プロジェクト主体の投資から広範なプログラムへのシフトの機会とすべきであろう。


1 貧困層内部の消費の分配、すなわち格差を反映した指数であり、二重貧困ギャップ比率(P2)またはフォスター・グリー・ソーベック指数と呼ばれる




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