4-1. 結論
UNICEF連携のマルチ・バイ協力は、1989年に始まり、13年間で35ヵ国に総額約101億円(2001年)を供与している。一方、UNFPAとの連携は1994年に始まり、8年間で19ヵ国約14.6億円を供与している。本スキームの特徴は、初めて消耗品供与を可能としたこと、複数年度にわたり投入をコミットできたことの2点にあり、これらの観点からUNICEF/UNFPAの期待は高い。
マルチ・バイ協力の目的は、ODA大綱の重点5項目の一つである「地球的規模の問題への取組み」、「基礎生活分野」に合致している。また、ミレニアム開発目標(MDGs)をはじめ、WHO予防接種拡大計画(EPI、1974年)、国際人口開発会議(ICPD、1994年)等の世界的潮流に合致している。日本のODAは、これらの世界的な開発戦略の流れに沿って「人間開発」重視を掲げ、1994年に地球規模問題イニシアティブ(GII)を発表し、人口・エイズ・子どもの健康の分野に積極的に協力援助していく方針を示した。また、GII終了後も感染症対策イニシアティブ(IDI)(2000年)を発表し、引き続き感染症分野への包括的なアプローチを支援している。このような我が国の援助戦略に、UNICEFやUNFPAとのマルチ・バイ協力は合致している。
日本側にとって最大のメリットは、UNICEF/UNFPAの援助プログラムにのって、目にみえやすい形で成果をあげることができる点である。具体的には、UNICEFおよびWHO(特にWPRO地域)と連携することによって、UNICEF、WHO/WPROの長年の活動によって確立された予防接種の総合的なシステム(計画策定、調達、ワクチン配布、予防接種・投与の実施、監理体制)を活用し、かつ実質的にはUNICEF、WHO/WPROとの連携による現地での支援体制が可能となる。特にワクチンに関しては、世界のニーズの40%をカバーしているUNICEFは安価で良質のワクチンを安定的に調達できる強みを持つ。一方、UNFPAと連携するマルチ・バイ協力は、避妊具(薬)などを含むリプロダクティブ・ヘルス分野の現場ニーズの把握などで協調することを通じ、これまで比較的技術協力実績が少なかった、リプロダクティブ・ヘルス分野における援助の質の向上と量の拡大に貢献している。
さらに日本にとっては、一般無償資金協力と異なり、案件ごとに政府調査団を派遣するなどの通常必要とする手続きなしに、援助を必要とする世界に広がる国々に対し、継続した一定レベルの資機材の供与が可能となっている。またマルチ・バイ協力の実績により、一般無償資金協力によるポリオワクチンの大量供給に道を開き、2000年の西太平洋地域ポリオ根絶の達成に少なからず貢献したということができよう。
マルチ協力との大きな違いは、日本の援助重点国や重点分野への戦略的な協力が可能であるとともに、供与資機材が現地でどのように活用されているかのモニタリングが可能なため、協力の透明性が容易に確保できる点である。それによって日本の貢献度やコミットメントを示すことに繋がっている。他方、UNICEFやWHO/WPRO側のメリットは、なによりも予防接種体制の強化に必要な機材と大量のワクチン供給の一部を確保できた点である。加えて、UNICEF、WHO/WPRO側はマルチ・バイ協力の実績の上に、一般無償資金協力によるワクチンの大量供給が可能になった点を高く評価している。UNFPAにとっても、母子保健やリプロダクティブ・ヘルスサービス向上のための基礎的な備品や、大量に必要な避妊具(薬)の供給に道を開いた点である。UNFPAには、一般財源の他にドナーからのイヤマークされた制限つきファンド27があるが、このファンドへの拠出では協力形態が完全に資金提供のみとなり、技術協力事業としての意義を失う。また、マルチ・バイ協力は日本がUNICEF、WHO/WPROおよびUNFPAと連携しながらグローバルイシューの解決のための協力を行う具体的な実現の場でもある。そういう意味でマルチ・バイ協力はモデル的スキームであり、先駆的なプログラムへ日本のODAの扉を開くスキームということもできよう。
また、双方にとっては、本スキームの実施プロセスを通じて、現場レベルのコミュニケーションが深まり、援助協調や連携の機会を拡大している点も重要である。
このように、マルチ・バイ協力は各国の援助額の上限がUNICEF4,000万円(最大、サイクル5年)、UNFPA2,000万円(最大、サイクル4年)と無償資金協力に比べるとかなり小額であるにも関わらず、日本とUNICEF/UNFPAの両国連機関が双方の比較優位性を発揮し、成果を上げているということができる。しかしながら、個々のプロセスには問題も見られ、改善すべき点がある。今後、さらに双方の比較優位性を活かし、援助効果を高め、日本のプレゼンスを高めるために、以下の改善策を提案する。
27 Co-Financingとその他の制限資金(Other Restricted Funds)に分けられる。Co-Financingには(1)Trust Fund、(2)Cost-Sharingの二通りがある。(1)のTrust Fundは、ドナーが定める特定の活動や目的に対する資金供与に対して設定。リプロダクティブ・ヘルス物資の安定供給といった一般的な活動に対する場合もあれば、特定のプロジェクトあるいは国に対する場合もある。従って、資金に対して個別のアカウントが設定され、個別の資金活用についての報告が必要であり、利用後はどの部分でどのように使われたかを検証し得る(利子の管理もふくめ、Annual Financial Statement等の提出)。(2)のCost-Sharingは、いわゆるバスケット・ファンド的な性格のファンド。特定のプログラムではあっても、一般的な拠出と捉えられており、特にドナーに対する個別の財務報告は必要とされていない。(1)に比較して小規模であり、国レベルでの支援の場合もある。利用された部分を検証することは詳細には不可能。