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4-2. 提言

4-2-1. UNICEF/UNFPAの両連携マルチ・バイ協力に共通する事項

(1) 日本政府外務省・各機関の本部レベルでの政策対話のさらなる充実

 日本政府外務省とUNICEFにおいては、毎年開催される年次協議によって実施状況のレビューや問題点の確認と対処方針の決定、よりスムーズな実施に向けて対話がなされてきた。また、日本外務省、JICA、UNICEF本部とのコミュニケーションのためにUNICEF駐日事務所が果たしてきた役割は大きい。他方、UNFPAについては、まだマルチ・バイ協力としての協力実績が短いこともあり、マルチ・バイ協力に関する定期的な年次協議は開催されていない。今後はこのような協議の場を持つことが不可欠である。加えて、2002年9月に開設されたUNFPA東京事務所が、今後日本政府とUNFPA本部との政策対話における要の役割を果たすことが求められる。
 日本政府外務省とUNICEF/UNFPAおよびWHO/WPRO事務局の各国連機関との間で行われる年次協議は、マルチ・バイ協力を効果的かつ効率的に実施する上で不可欠であり、今後更なる充実が必要であろう。

(2) モニタリングの進め方と日本政府への報告

 現地調査およびアンケート調査では、UNICEF/UNFPA連携の両プログラムとも現場担当者レベル、特に先方政府では資機材の活用状況モニタリングを実施しているという認識である。しかし、その内容は、例えばUNICEFとの連携の場合「物流管理と活動報告」にとどまっており28、モニタリング結果を翌年のプロジェクト実施にフィードバックできるようなプログラムサイクルが十分に確立されていない。また、日本政府外務省への正式な報告はなされていない。
 UNFPAとの連携においては、ザンビアでは定期報告がなされているものの、その他の現地調査実施国では日本政府外務省への活用状況モニタリングに関する報告は行われていない。従って、両機関とも日本政府外務省とのよりよい協議を行う上で有益となるような報告を可能とするモニタリング体制の確立を目指すべきである。しかしそのための運営費の提供はないことから考えても大掛かりなものである必要はなく、年2回程度、現場レベルで進捗状況と成果を確認する場を設けるだけでも十分効果的であろう。また、現場機関(保健省などの実施機関の役割も含めて)における既存のモニタリング・システム活用の可能性を明確にし、その上で、実際のモニタリングに対する関係機関の役割を確認することが必要である。特に計画策定の段階で、関係者間のモニタリングに対する共通認識を構築していくことが大切である。

(3) 現場レベルの役割の明確化と実施体制の体系化

 各国の現場レベルでは、実施主体が異なり、実施体制もまちまちである。各機関(保健省、JICA事務所、UNICEF/UNFPA現地事務所およびWHO現地事務所(WPRO地域))のそれぞれの役割分担および具体的なTORを明文化する必要がある。そのためには、今一度、日本の「技術協力事業におけるマルチ・バイ協力」が単なる資機材供与事業ではなく、供与された資機材がソフト面での技術力を有するUNICEF/UNFPAの支援を受けながら実施される効果的かつ効率的なスキームであることを、現場レベルで再確認するべきであろう。そして各機関がスキームの内容を十分に理解した上で、それぞれが果たすべき役割を明確にする必要がある。さらに、スキームとして「企画・立案・実施・評価・フィードバック」といった一貫した体系化を図ることが不可欠である。

(4) 合同評価の実施

 評価については、国レベルでは、JICA事務所がヴィエトナム、タンザニアにおいてUNFPAとのマルチ・バイ協力に関して実施したことはあるが、スキームとしての評価は今回が初めてである。個々の現場において実感されているマルチ・バイ協力スキームのメリット・デメリット、および問題点などを総合的な視野で評価することは、個々の現場からは見えてこない事柄を明らかにするため、今後もこの種の評価の実施が望まれる。また今回の調査時に、UNICEF/UNFPAの両国連機関から合同調査の実施を望む声が多く聞かれた。もともと連携しているスキームであるから日本外務省とUNICEF/UNFPAによる合同評価が望ましいのは当然であり、そのことによってコミュニケーションが緊密になる他、お互いのオーナーシップの向上、および有効なフィードバックが可能になると考えられる。
 具体的には、政策対話の際やサイクルごとに計画を策定する段階から合同評価を計画にいれていくべきである。また、その際にどのような形で必要経費を計上していくのかも明確にしておく必要がある。

(5) 自立発展へ向けたシナリオ

 本評価調査では、マルチ・バイ協力が能力向上に役立った分野として、UNICEFおよび保健省UNICEF担当は、「組織運営能力」、「配布・配送」、「保管」、「保健医療関係者の技術能力」を挙げている。またUNFPAおよび保健省UNFPA担当は「組織運営能力」、「保健医療関係者の技術能力」を、さらにUNFPAは「配布・配送」、「保管」、「レポート作成等の事務能力」を挙げている。総じて保健省UNICEF担当とUNFPAは高い評価を示している。これらの結果から、本スキームが裨益国の実施能力の向上に少なからず貢献していることが分かった。
 しかしながら、財政的な自立への道のりは相当に遠い。今回の現地調査対象国の中でUNICEF連携を10年以上実施しているラオス、ザンビアにおいても、いまだに財政的自立の出口は見えない。本スキームは1サイクル4~5年であり、それ以上のコミットメントはできないが、多くのLLDCの国における状況は、消耗品が自己調達できるレベルに達するのに4~5年では不十分である。現在、マルチ・バイ協力は自立発展へのインセンティブとして援助後半から機械的に援助額を減額しているが、そのようなやり方で成功している事例は見られない。従って、より実効性のある「卒業」に向けてのシナリオが必要である。UNICEF/UNFPAとの対話を行う中で、日本の方針としても、裨益国の自立発展に向けて、単に援助額を機械的に減らすのではなく、裨益国の現状を踏まえた戦略的な「卒業」のための手法の検討が必要である。例えば、今回の調査対象国のうち、ヴィエトナム(低所得国)においては、技術的には自立発展していると判断されるため、今後はワクチン供給のみの支援に、さらに将来的には財政的に自立可能な段階に到達した時点でワクチン供与を停止するなど、長期的なシナリオが必要であろう。

(6) SWAPs推進国における対応

 SWAPs推進国(タンザニア、ザンビア)においてマルチ・バイ協力は、バスケット・ファンド29に多くのドナーが賛同していることからそのメリットをアピールすることが難しくなってきている。しかし、SWAPsのようなセクター全体を対象としたプログラムであっても、個々の活動は必要であり、重要なことはSWAPsにおけるマルチ・バイ協力の整合性を確保することである。また、マルチ・バイ協力は子供の健康やリプロダクティブ・ヘルスといったニーズの高い分野での協力であり、その分野に対する日本の支援の必要性とUNICEF/UNFPAの技術的な優位性には変わりはない。SWAPs推進国においてもその優位性を生かすためには、裨益国政府(地方政府も含む)との十分な政策対話が不可欠となる。

(7) 保健セクター改革に伴う地方分権化への対応

 今回の調査対象国5ヵ国のうち4ヵ国で、保健セクター改革に伴う保健サービスの地方行政への委譲が推進されていた。現在、多くの途上国で同様の改革が進められている。今回の評価においては、地方保健行政の弱さが自立発展の最大の阻害要因となっていることが分かった。これらの国においては、地方保健行政のキャパシティ・ビルディングが喫緊の課題となっている。マルチ・バイ協力策定にあたっても先方政府の予算状況や現地職員のキャパシティを十分に考慮に入れる必要がある。ただし、マルチ・バイ協力による消耗品の最終的なサービス提供者は地方行政であることから、直接的に地方行政に支援が可能なスキームであり、また政策立案能力の向上という効果も現れていることを強調しておきたい。

(8) 他スキームとの連携による相乗効果

 今回の評価調査では日本側の技術協力スキーム(プロジェクト方式技術協力、JOCV、シニアボランティア)および日本の国際NGO等との様々な連携によって種々の相乗効果が確認された。連携によってマルチ・バイ協力の効果を促進した要因として、(1)現場レベルの対話が進む触媒となっている、(2)現場の保健セクターの情報が集まりやすい、(3)マルチ・バイ協力のハードに技術協力のソフトが加わることにより、人々の意識や自発性等の面で行動変容につながりやすい、などがある。また、その現場でのヴィジビリティの向上、JICAとUNICEF/UNFPAとのコミュニケーションの強化、被援助国側の人材育成などの成果も上がっている。2002年度からJICA事業が国別・事業別アプローチをとることになり、今後さらなる進展が期待されるところ、本スキームを医療保健セクター支援のプログラムとして案件を形成していくことは効果を高めることになる(マルチ・バイ+バイ協力)。その際、日本のスキームだけでなく、国際NGOや国連ボランティアとの連携なども視野に入れたマルチ・バイ協力スキームの活用を図るべきであろう。

(9) JICA担当のTORの明確化

 今回現地調査結果から、JICAの調達プロセスの問題によって、UNFPAの供与機材の大幅な遅配が認められた。この問題は単にその手続き上の問題だけでなく、その根本には、JICA在外事務所および本部の担当者レベルの本スキームに関するTORが明文化されておらず、担当者の裁量に追うところが大きいという事実がある。また、タンザニアのケースのように機材が多岐にわたりこの業務量に見合う人員の配置が確保されていないという実態もある。JICAでは在外事務所への権限委譲を進めているところであり、ここでも予算措置および人員の拡充が遅れているという事情も勘案すると、本スキームに係るJICA在外事務所担当者のTORを明確にし、効率よく実施できる体制の整備が急務であるといえよう。

(10) 国別援助実施計画と在外事務所の強化

 上記4-2-1(8)「他スキームとの連携による相乗効果」に対応して、JICAは国別事業実施計画策定において、本スキームの連携も視野に入れたセクターアプローチが必要である。加えて、実施計画の策定においては、現場のニーズを熟知し、かつ他ドナーの援助動向に精通した専門家の配置と、権限と予算をセットにした委譲が不可欠である。JICAでは現在、現場への権限委譲を進めているが、これにより現場のニーズをより良く反映し、また他ドナーや他スキームとの連携を考慮した戦略的なマルチ・バイ協力の実施が期待できることから、さらなる強化と予算措置が求められる。今回の現地調査で、(1)保健省へ配属されている政策アドバイザーの役割の重要性と、(2)ワクチンや避妊具(薬)の選定・調達に関しては、現地のニーズ、世界的供給体制、本邦調達の可能性、第三国調達の可能性など、該当分野での高い専門的知識が求められることが分かった。しかし、多くの国において現状はロジスティック担当のJICA職員が対応している。このような状態から脱却するためには、保健省へ配属されている政策アドバイザーもしくはJICA事務所における専門家の配置などを検討すべきである。 さらに、在外事務所の機能強化に伴い、現場の情勢がJICA本部に汲み上げられ、その情報がJICAのナレッジマネジメントシステムに蓄積されるような包括的な仕組みの構築が待たれる。

4-2-2. UNICEF連携のマルチ・バイ協力に関する点

(1) UNICEFの包括的アプローチへのモデル的参加

 UNICEFとの連携においては、予防接種率の向上という明確な目標に向けて、あえて単純化すると日本側は主としてハードを、UNICEF側はその側面支援のためのソフトを提供するという役割分担の下、目に見えやすい大きな成果を発現している。従って、これまでのマルチ・バイ協力の経験を活かしながら「EPI」や「母と子供の健康対策」だけでなく、それ以外の分野に対してモデル的に協力を展開、適用を検討することも可能と思われる。
 例えば、UNICEFは、現在2002~2005年の中期戦略計画(MTSP: Medium-Term Strategic Plan)の中で5つの優先課題の一つとして、「Immunization Plus」を打ち出しており、ワクチンを供与するだけではなく、乳幼児や妊産婦死亡・疾病に関わる他の保健ニーズを統合した包括的なプログラムへ軸足を移しつつある。そのためのアドボカシー・広報教育面の強化を図る戦略を打ち出しており、それに対する日本とのパートナーシップも期待されている。日本政府にとっても、Immunization Plusにおける子供と母親のための健康のための包括的なアプローチは、GII、IDIの戦略とも合致しており、世界的潮流でもある。
 ただし、新分野への適用の際、これまでと較べてプロセスが複雑となり、より柔軟な対応も必要となると同時に、マルチ協力、バイ協力と比較し、マルチ・バイ協力としての優位性を明らかにすべく十分な検討、協議を行った上で、その可能性を探ることが不可欠である。

(2) 母と子供の健康対策

 「母と子供の健康対策」は1998年から始まったスキームであり、まだ試行錯誤の状態である。(1)調達の遅れ、(2)供与機材の多様化による事務量の増大、(3)モニタリングの未実施、などの問題が指摘されている。UNFPA同様(4-2-3(1))、資機材品目の絞込みやパッケージ化の検討など、ある程度の簡便化・体系化を図り、資機材調達においては、世界規模の市場を持つUNICEFが製造・販売業者と価格や確実な調達に関する交渉を行うなど、その比較優位性を生かすことが今後の課題であろう。

4-2-3. UNFPA連携のマルチ・バイ協力に関する点

(1) 選択的・集中的供与

 UNICEFの成功の要因は、予防接種プログラムに特化し、日本からの供与機材をワクチンと関連する資機材に絞った点である。UNFPAにおいても、予算額上限がさらに限られていることもあり、資機材品目や対象国数の絞り込みによって選択的・集中的供与を行うことが望ましい。例えば、図 4-1にみるように、世界の避妊具(薬)の供給量は需要の4割しかカバーしていないばかりか、近年までその割合は横ばい傾向にある。マルチ・バイ協力を、当面UNFPAのニーズが高く、また価格面でも比較優位性のある避妊具(薬)の供与に絞るのも一つの方法である。あるいは、主要な避妊具(薬)と関連した資機材をパッケージ化し、パッケージ単位で供与することも考えられる。これらの供与プロセスの簡便化は、現在現場レベルで大きな負荷になっている煩雑な「要請策定→調達→配布」のプロセスの作業効率を上げることにも貢献するであろう。

図4-1 世界の避妊具(薬)についての必要量と援助実績の傾向
図4-1 世界の避妊具(薬)についての必要量と援助実績の傾向

(2) カントリープログラムへの位置付け

 今回の現地調査対象国のうちタンザニアにおいては、UNFPAのカントリープログラムの中に盛り込まれていないために、スタッフの配置がなされず現場のスタッフにとっては本来の業務以外の位置付けとなり、業務上大きな負荷となっている。また、現場スタッフのTORが設定されず、効率性を欠く原因ともなっていた。
 従って、UNFPAの各国におけるカントリープログラムの中に、マルチ・バイ協力の投入を盛り込むことは必須である。そのためにはUNFPA現地事務所がマルチ・バイ協力の実施を支援し得る体制を整えることが重要であると同時に、日本側としては、ただ単に投入を約束するだけではなく、額のコミットメントも必要である。これまで、日本は単年度予算制のため多年度にわたるコミットメントはできないと主張し続けているが、援助コミュニティにおいて改善を求められることが多かった。マルチ・バイ協力スキームにおいては、投入のコミット(UNICEF:5年、UNFPA:4年)はできるものの、額までは確定できないため、UNFPAとしては、カントリープログラムに入れにくいという。複数年度にわたる予算の概算を設定するなどの方法によって、UNFPAにとってはカントリープログラムに盛り込めるようなコミットメントの形態を模索する必要がある。例えば、5年間の協力期間を3年と2年の前後半に分け、初年度に3年分として6,000万円、4年目に2年分として4,000万円をそれぞれ単年度予算で投入するなどの方法は考えられないだろうか。いずれにせよカントリープログラムへの位置付けは必須である。また、場合によってはUNFPAが5年間のカントリープログラムを策定していくサイクルにあわせた計画策定も検討していくべきである。

(3) UNFPAの技術的優位性の活用

 これまでのUNFPA連携マルチ・バイ協力では、先方政府およびUNFPAの希望する資機材が日本側の製品規格や法律などの制限によって供与するに至らなかったり、現地のニーズに応えようとした結果、援助品目が多岐にわたり、事務手続きの煩雑化を招くなどのケースが見受けられた。また、UNFPA現地事務所のキャパシティが脆弱であることをUNFPA本部は指摘している。しかしながら、今後はUNFPA現地事務所のキャパシティの向上を図る予定があることから、UNFPAの比較優位性を発揮できるように避妊具(薬)などの資機材調達をUNFPA調達にすることについても検討することも一案である。ただし、UNFPAに一部資機材調達を任せる場合には、真にその比較優位性を発揮できるのか、コスト・ベネフィットを含む正当性を十分検討すべきであり、またJICAの調達契約条件に合致するのかなど、詳細について日本国政府外務省、JICA、UNFPAの三者において十分に検討しなければならない。
 その他、UNFPAと連携する技術的比較優位性として、紛争地帯など二国間協力では日本人スタッフが入れない場所への援助の可能性も確認された。紛争地帯への協力では、まずはUNFPAによるマルチの協力が考えられるが、UNFPA現地事務所のキャパシティが向上すれば、本件マルチ・バイ協力の活用によって日本のプレゼンスをより顕著に示すことも可能になると思われる。今後、我が国のリプロダクティブ・ヘルス分野における援助の可能性を広げる際の検討材料となろう。

おわりに

 以上の提言は、ほとんどが実施プロセスに関することである。日本とUNICEF/UNFPAの両国連機関の比較優位性を生かすというマルチ・バイ協力の基本的な枠組みは優れたものであるから、今後の課題としては、その優位性を生かすための仕組みをいかに整備するかであると総括することができよう。


28 このためUNICEFでは、2002年よりモニタリングの雛型を改定。

29 セクタープログラム実施に活用されることが多い。コモンバスケット、コモンファンドとも言われ、各セクタープログラムについて、各ドナーが共同して一つの口座に資金を集め、それを途上国とドナーが適切に運用して援助活動を実施するシステム。




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