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2-2.マルチ・バイ協力の変遷と実施要領

2-2-1. UNICEFとのマルチ・バイ協力

 UNICEFとのマルチ・バイ協力は、1989年にケニア、マダガスカル、マラウイ、ザンビアおよびラオスの5ヵ国を対象としたEPI(予防接種拡大計画)への協力から開始された7。1990年6月に我が国とUNICEF間で取り交わされた合意文書8によると、本協力の開始にあたって日本・UNICEF合同ミッションを結成(含む在外公館/JICA現地事務所、およびUNICEF現地事務所)し、対象5ヵ国においてEPIの必要性に対する調査(1989年8月~10月)を実施した上で当該国の要請に従って資機材供与が決定された。しかしながら、マルチ・バイ協力開始の経緯や目標などについては明記されていない。また、合意文書に添付されているガイドラインには対象5ヵ国における日本側、UNICEF側および当該国側の役割分担について書かれているが、要請から接種に到るまでの各プロセスにおける役割分担や責任所在などには触れられていない。
 現在は、外務省技術協力課とJICA医療協力部が毎年定める実施要領に従いマルチ・バイ協力が実施されている。この要領には、1990年の合意文書以降、日本側とUNICEF側との定期協議の中で随時決定されていった事項が盛り込まれている。例えば、当初マルチ・バイ協力には“協力期間”を定めていなかったが、第5回定期協議(1992年10月)の際に、協力期間の設定について議論され、1993年6月に「5ヵ年間」という期間が設けられた。期間を設けた理由は、ワクチンの供与を一旦開始すると、被援助国の年間ワクチン供与計画に我が国の支援が永続的に組み込まれ、当該国のEPIにおける我が国の協力への依存性が高まり、被援助国の自立が促せないと観点からである。この協力期間の設定は、マルチ・バイ協力が「ワクチン接種率の向上」だけでなく、最終的には「当該国の予防接種体制の確立(自立)」を目指した協力であることを明確化する目的があったと考えられる。これを受け、現在の日本政府外務省およびJICA間で共有されているEPIにかかるマルチ・バイの取り扱い要領には、マルチ・バイ協力の目的として“被援助国の予防接種体制自立”が強調される形となっている。 UNICEF連携マルチ・バイ協力の内容、役割等の概略は表 2-1、表 2-2のとおりである。

表2-1 UNICEF連携マルチ・バイ協力の内容と役割(感染症対策)
感染症対策特別機材供与(EPI、ポリオ撲滅、特定感染症)
協力の内容 1ヵ国4,000万円/年を目安に原則5年間、以下の資機材を供与する。
1. ワクチン
2. 予防接種に必要な資機材
・注射器、注射器廃棄用安全箱、減菌器
3. コールドチェーン機材(ワクチンを安全かつ適切に保管・輸送するため)
・冷蔵庫、冷凍庫、輸送用保冷パック、コールドボックスなど
当該国の役割 当該国(保健省等)は要請書(A4フォーム、毎年作成)に加えて、日本が供与するワクチンなどの資機材をどのように活用し、予防接種体制を自立させていくのかを明確にした「5ヵ年計画書」を作成する。また、日本やUNICEFなどの指導を得て、予防接種体制自立に向け、計画的に予防接種拡大計画を進める。
UNICEFの役割 当該国の5ヵ年計画立案、要請書作成、機材引き取り、配布計画、維持管理への技術支援などを行う。また、予防接種推進のための人材育成や予防接種事業の自立に向けて指導を行う。
WHO/WPRO地域においては各国WHO事務所もUNICEFと共にサポートしている。

表2-2 UNICEF連携マルチ・バイ協力の内容と役割(母と子供の健康対策)
母と子供のための健康対策特別機材供与
協力の内容 1ヵ国2,000万円/年を目安に原則5年間、以下の物資・機材を供与する。
1. 下痢症疾患対策
・経口補水塩、点滴用器具、診療用器具、必須医薬品など
2. 急性呼吸器疾患対策
・診断用器具、呼吸数測定器、濃縮酸素生成器、必須医薬品など
3. 栄養改善対策
・微量栄養素(ヨード、ビタミンA、鉄剤など)
4. マラリア対策
・蚊帳、防蚊剤、診断用器具
当該国の役割 当該国(保健省等)はUNICEFの協力を得て必須医薬品などの配布、管理などの自立体制整備のための5ヵ年計画を作成し、要請書を提出する。また、供与された資機材の活用状況を年に一度取りまとめ、JICAに提出する。
UNICEFの役割 相手国に対し、母子保健に関わる人材育成を行うとともに、日本が供与した機材が有効活用されるよう、5ヵ年計画・要請書の作成から機材の引き取り、配布計画、維持管理にかかるまでの技術支援を行う。
WHO/WPRO地域においては各国WHO事務所もUNICEFと共にサポートしている。
出所:JICA医療協力部パンフレット「自立への支援」を参考に作成

 現在では、協力期間、予算および役割分担が決められているが、これらは1988年より開始された日本とUNICEFとの定期協議の中で議論・決定され、徐々に連携強化が図られていった結果である。合意文書以降、マルチ・バイ協力に係り我が国とUNICEF間で正式に取り交わされた文章はないが、定期協議やその議事録を通じて、担当者レベルまたは日本政府外務省、JICAおよびUNICEFの本部レベルではマルチ・バイ協力の変遷が認識されていると考えられる。現場レベルに対しては、各機関の責任において周知されている。
 現在は対象国の選定についての改善として、これまで基本的に日本政府外務省とUNICEFとの定期協議の中で選定されてきた対象国選定を、平成15年度からは統一要望調査の結果を踏まえて、供与の必要性などについてUNICEFと意見交換を行い、最終的な対象国を選定する方針となっている。
 上で述べた「EPI(予防接種拡大計画)」の他に、UNICEFとのマルチ・バイ協力は1993年より開始された「ポリオ根絶」と1998年より開始された「母と子どものための健康対策特別機材」がある。ポリオ根絶分野についてはほぼ「EPI」と同様な実施状況といえる。新たな分野である「母と子どものための健康対策特別機材」についても、EPI、ポリオと同様に実施要領が作成されている。

2-2-2. UNFPAとのマルチ・バイ協力

 我が国とUNFPAとのマルチ・バイ協力は、1994年より「人口・家族計画特別機材供与」として開始され、母子保健の改善(妊産婦死亡率や乳幼児死亡率の低減)、家族計画の普及に関する支援を目的としている。1994年11月に日本とUNFPAの間で交わされたマルチ・バイ協力の合意確認書9には、この目的が明記されている。また、日本政府の協力範囲(予算:1ヵ国上限で2,000万円/年、協力期間:4年間)についても定められており、UNFPA側に対しては、「当該対象国におけるUNFPAの活動の一環として、当該国政府による機材(=日本が供与した機材)の配布・管理、モニタリングなどの活動に対して指導などを実施する」ことを求めている。毎年、外務省技術協力課とJICA医療協力部は実施要領を定めているが、その内容は1994年の合意確認書に沿った内容となっている。
 UNFPA連携マルチ・バイ協力の内容、役割等の概略は、下表のとおりである。

表2-3 UNFPA連携マルチ・バイ協力の内容と役割
人口・家族計画特別機材供与
協力の内容 1ヵ国2,000万円/年を目安に原則4年間、以下の物資・機材を供与する。
1. 避妊具・避妊薬
・コンドーム、子宮内避妊器具(IUD)、ペッサリー、殺精子剤、発泡避妊剤など
2. 母子保健(安全な出産および適切な新生児ケア)推進のための簡易医療機材・必須医薬品
・体重計、身長計、体温計、血圧計、自宅分娩キット、基礎的医薬品など
3. 教育・啓蒙活動に必要な機材
・視聴覚機材、教材など
当該国の役割 資機材の供与を受けるためには当該国(保健省等)は、日本側やUNFPAの指導を受けつつ要請書(A4フォーム)を毎年作成し、提出する必要がある。また、日本が供与する資機材を有効活用し、家族計画の啓蒙・普及・母子保健活動を推進する。
UNFPAの役割 当該国に対し、家族計画の定着、妊産婦・乳幼児死亡率の低下、人口増加率抑制のための助言や指導を行うとともに、日本が供与した資機材が有効活用されるように要請書作成から機材の引き取り、配布計画、維持管理にいたるまでの技術支援を行う。
出所:JICA医療協力部パンフレット「自立への支援」を参考に作成

 UNFPAとの合意確認書は、UNICEFとのマルチ・バイ協力の実施過程で得られた教訓(例えば、協力期間や予算の設定)が反映された形で策定されている。しかしながら、日本とUNICEFとの間で実施されてきたような定期協議でのマルチ・バイ協力に関する議論は、日本とUNFPA間では最近年までほとんど実施されてこなかった。つまり1994年以降、UNFPAとのマルチ・バイ協力の実施過程で出されるべき改善点や修正事項を協議する場がほとんど持たれなかったことになる。協議の場を定期的に持たなかったことが、日本政府外務省、JICAおよびUNFPAの本部レベルでのマルチ・バイ協力に係る共通認識が保たれなかったことの要因になっており、また現場レベルではさらにマルチ・バイ協力に対し日本側とUNFPA側との間に認識の差異が広がったと考えられる。UNFPAとの定期協議の実施が困難であった背景には、UNICEFの駐日事務所のように、日本政府外務省およびJICAを含めた3者のコミュニケーションを促進する役割を持つ事務所が日本国内になかったことがあげられる。2002年にUNFPA東京事務所が設立され、また1999年からは日本政府外務省との定期協議が実施されている。


7 1989年度における主な供与機材内容は、ワクチン(BCG、麻疹)、冷蔵庫、車輌、視聴覚機材などである。

8 1990年6月4日付けで交わされた合意文書(英文):Confirmation of Cooperation, MULTI-BI Cooperation between the Government of Japan and UNICEF in EPI(Expanded Programme on Immunization)

9 UNFPAと1994年11月18日付けで交わされた合意確認書: Confirmation of MULTI-BI Cooperation between the Government of Japan and UNFPA




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