3 マルチ・バイ協力の評価結果
3-1 理論
マルチ・バイ協力の目的は、ODA大綱の重点5項目の一つである「地球的規模への取組み」、「基礎生活分野」に合致している。また、ミレニアム開発目標をはじめ、WHO予防接種拡大計画(1974年)、国際人口開発会議(1994年)等の世界的潮流に合致している。
日本のODAは、これらの世界的な開発戦略の流れに沿って「人間開発」重視を掲げ、1994年に地球規模問題イニシアティブ(GII)を発表し、人口・エイズ・子どもの健康の分野に積極的に協力援助していく方針を示した。また、GII終了後も感染症対策イニシアティブ(IDI)(2000年)を発表し、引き続き感染症分野への包括的なアプローチを支援している。このような我が国の援助戦略に、UNICEFやUNFPAとのマルチ・バイ協力は合致している。
日本側にとって最大のメリットは、UNICEF/UNFPAの援助プログラムにのって、目にみえやすい形で成果をあげることができる点である。具体的には、UNICEFおよびWHO(特にWPRO地域)と連携することによって、UNICEFやWHO/WPROの長年の活動によって確立された予防接種の総合的なシステム(計画策定、調達、ワクチン配布、予防接種・投与の実施、監理体制)を活用し、かつ実質的にはUNICEF、WHO/WPROとの連携による現場での支援体制が可能となる。特にワクチンに関しては、世界のニーズの40%をカバーしているUNICEFは安価で良質のワクチンを安定的に調達できる強みを持つ。一方、UNFPAとの連携では、避妊具(薬)などを含むリプロダクティブ・ヘルス分野の現場ニーズの把握などを通じ、これまで比較的技術協力実績が少なかった、リプロダクティブ・ヘルス分野における援助の質の向上と量の拡大に貢献している。
さらに日本にとっては、一般無償資金協力と異なり、案件ごとに政府調査団を派遣するなどの通常必要とする手続きなしに、援助を必要とする世界に広がる国々に、継続して、一定レベルの資機材の供与が可能となっている。またマルチ・バイ協力の実績により、一般無償資金協力によるポリオワクチンの大量供給に道を開き、2000年の西太平洋地域ポリオ根絶の達成に少なからず貢献したということができよう。
マルチ協力との大きな違いは、日本の援助重点国や重点分野への戦略的な協力が可能であるとともに、供与資機材が現地でどのように活用されているかのモニタリングが可能なため、協力の透明性が容易に確保できる点である。他方、UNICEFやWHO/WPRO側のメリットは、なによりも予防接種体制の強化に必要な機材と大量のワクチン供給の一部を確保できた点である。加えて、UNICEF、WHO/WPRO側はマルチ・バイ協力の実績の上に、一般無償資金協力によるワクチンの大量供給が可能になった点を高く評価している。UNFPAにとっても、母子保健やリプロダクティブ・ヘルスサービス向上のための基礎的な備品や、大量に必要な避妊具(薬)の供給に道を開いた点である。そういう意味でマルチ・バイ協力はモデル的スキームであり、先駆的なプログラムへ日本のODAの扉を開くスキームということもできよう。
また、双方にとっては、本スキームの実施プロセスを通じて、現場レベルのコミュニケーションが深まり、援助協調や連携の機会を拡大している点も重要である。
3-2 プロセス
UNICEF連携のマルチ・バイ協力においては、長年の実績を経て、ほぼ各国ごとにスキームの位置付け、役割分担、流れが確立されている。ワクチン投与計画に関する計画策定は、当該国保健省、JICA、UNICEFおよびWHO(WPRO地域)が参加する関係機関調整委員会(ICC)会合等ドナー調整会議等において行われており、現地レベルでの計画策定過程も妥当である。現地調査によると、予防接種拡大計画(EPI)に関する実施体制は長年の実績の上に、各国で策定が義務付けられているEPI5ヵ年計画に沿ってほぼ確立されており、また各プロセスはスムーズに流れており、効率性は概ね良好である。ただし、「母と子供の健康対策」は1998年から始まったスキームで2001年度までに8ヵ国で実施されているが、調達はJICAが行っており、体制がまだ十分に確立されていない状態である。
一方UNFPA連携のマルチ・バイ協力をみると、「案件形成時に日本、相手国、国連機関の協議が十分にされていない」と指摘する声が高い。また、2,000万円という限度額の割に、総じて調整や手続きに係る事務量の膨大さ、各スタッフへの負担が指摘されている。現地調査を実施した5ヵ国中ヴィエトナム以外の4ヵ国で、調達の遅れ(半年~1年半の遅れ)、調達上のミスなどが報告されている。
ヴィエトナムにおいては調達上の大きな問題は見受けられなかったが、これは申請資機材品目が比較的少なく、調達手続きが煩雑にならなかったことと、調達の際のJICA現地事務所と先方政府およびUNFPAとの連携が適切に行われていたことによるものと考えられる。
これらのプロセスに関わる問題点とその改善方法については、4章のマルチ・バイ協力に対する提言で詳細を述べる。
3-3 効果
UNICEF連携によるアウトプット目標は「ワクチン接種率の向上」である。現地調査国におけるワクチン接種率は、ヴィエトナム、ザンビアにおいては非常に高いレベルに達している(表 3-1)。これらの国では全体のワクチンの多くがマルチ・バイ協力によって供与されており、マルチ・バイ協力が各国レベルの目標達成に直接的に大きく寄与していると判断できよう。また、特筆すべきアウトカムとして挙げられるのが、2000年10月WHO西太平洋地域においてポリオ根絶宣言がなされ、2005年に全世界ポリオ根絶宣言が予定されていることである。このアウトカムは非常に分かりやすいと同時に、日本の尽力が大きく、1ドナー国である日本のプレゼンスを発揮できたといえる。
UNFPA連携マルチ・バイ協力のアウトプット目標は、「リプロダクティブ・ヘルスサービスへのアクセスの向上」である。その指標としては、妊産婦健診受診率、避妊具(薬)配布・販売数、サービスへのアクセスへの拡大(避妊サービス受給者数、避妊実行率等)、専門技能者の立会いの下での出産の割合などが考えられる。しかし、基本的に現地対象国の保健統計の整備状態が悪く、評価に耐え得るデータを入手することはできなかった。ただし定性的な情報では、タンザニア、ザンビアにおいて、機材供与およびそれに伴って可能となったサービスの種類の増加によって、人々の保健施設に対する信頼感が増し、妊産婦や乳幼児の保健施設へのアクセス向上につながっているという結果を得ることができた。これらの情報は、機材やサービスが拡充することによって、本スキームのアウトプットである「リプロダクティブ・ヘルスサービスへのアクセスの拡大」に結びつくことを示唆するものであり、プログラム目標の達成度の進展が見られる。
このように、マルチ・バイ協力は各国の援助額の上限がUNICEF4,000万円(最大、サイクル5年)、UNFPA2,000万円(最大、サイクル4年)と無償資金協力に比べるとかなり小額であるにも関わらず、日本とUNICEF/UNFPAの両国連機関が双方の比較優位性を発揮し、成果をあげているということができる。しかしながら、個々のプロセスには問題も見られ、改善すべき点がある。今後、さらに双方の比較優位性を活かし、援助効果を高め、日本のプレゼンスを高めるために、以下の改善策を提案する。
表3-1 ワクチン接種率(%) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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出所:各国保健省資料、WHO資料より作成 |