広報・資料 報告書・資料

5-2. 各プロジェクトに関する提言

5-2-1. NGO案件:JVC「カムアン県農林複合プロジェクト」

■ 自然資源管理の視点に立った林業の確立

 豊かな森を守ることと村人の生活や文化を守ることの両方を現実のものとしていくためには、「自然環境を保全しながら利用する」という視点をより明確にするとともに、そのための技術を確立、普及していくことが不可欠である。そのためには、森を利用しながら保全していくという自然資源管理の視点に立った「林業」の視点の確立と技術の開発普及が今後優先されるべきである。

■ 政策提言

 上記とあわせて、森林土地移譲政策における土地区分の定義の明確化など、森林政策の確立に向けてのアドボカシ(提言活動)をすでに行っているようであるが、更に必要であろう。地域レベルでのアドボカシはともかく、国策レベルでの働きかけをNGOが単独で行うことは容易ではないであろうから、他のNGOや日本の援助機関をはじめとするさまざまな援助機関と連携するなどの模索を期待したい。

■ 在来技術を生かした農法

 農林複合プロジェクトの目的からすれば、自然農法の普及は環境保護の手段としてのみならず、持続的な生産のための重要かつ適切な手段として位置付けられるものだ。その意味では、今後、その農法を、生産手段としてより現実的なものとして確立・普及していけるかどうかにプロジェクト全体の成否がかかっているといえよう。そのためには、外からの技術の導入だけではなく、在来の自然農法の技術や篤農家の掘り起こし、及びそれらの改良普及の道も同時に開く必要がある。すでにその地にあるものを発見し、改良を加えてモデル化し普及していくことが、適性技術の基本であることをもう一度肝に銘じるべきではあるまいか。

■ 女性の参加の具体化

 ジェンダーの問題に重点を置いていることは評価できるが、具体的な活動として、農林複合プロジェクトにその方針をいかに有機的に組み込むか、及び、ジェンダーそのものの啓発もさることながら、いかにして実質的に女性が村の決定に重要な役割を果たすようになるか、という点を中心に、活動全体の組み立てとモニターの仕方を検討していくことが必要と考えられる。

■ 地域行政官への働きかけの工夫

 JVCのプロジェクトが、地域の行政官に与えてきた影響は高く評価できる。それをさらに拡大していくためにも、参加型開発のコミュニケーションの技術をはじめとする関連技術と考え方をよりわかりやすくかつ普及しやすいものとしてメッセージ化していく努力が必要であろう。

5-2-2. ODA案件:JICA「ヴィエンチャン県農業農村開発計画フェーズII」

■ 対象村の選択基準の明確化

 対象の村を選ぶ選考基準を設定してはいるが、最優先村を決めた観点はまた異なっている。対象村選定は、展示的なモデル性を追及するために、地形的差異による営農形態に注目し、展示効果や住民のやる気、地元資源、市場など、いわば実施を容易にする条件を多く基準に設けているが、プロジェクトがモデルとして達成しようとしている生活向上や村落の発展の面での状態や課題は基準項目には入っていない。従って、選択された村は、開発に向けてどんな課題をどの程度深刻に抱えているのかには関わりなく選ばれたわけである。しかしモデルとなるような開発事業を行うに当って、どんな課題の克服のモデルが必要とされているかに立って考えられるべきではないか。そうでなければ、何を、どこまで目指すのか、明確にならず、関係者間での共有も困難となる。

■ 住民組織育成方針の確立

 住民組織の育成方針の明確化が望ましい。「住民参加」をうたい、PCMなどのいわゆる参加型開発の手法を導入しているが、その効果を出すためには、プロジェクトにおける意志決定のプロセスの改善の保障や情報公開の徹底などを並行して行う必要がある。その意志表明を行うことなく、住民参加を単なるスローガンとして使用するのは、表面を繕っているだけという印象を与え、かえって現場での混乱や士気の低下を招きかねない。とはいえ、社会主義下における「住民組織」が、完全に自主的な組織ではなく、現実にはむしろ「動員」的にならざるを得ないこともあろう。であれば、その長所を生かしながら短所を克服していくという方針で臨むほうがより現実的かもしない。つまり、新たな組織を形式的に作って、その育成に大きなエネルギーをかけるよりも、むしろ、現在プロジェクトで取り組んでいるように既存の行政システムにおける住民組織を強化していくことで、地域の自立性を獲得していく方向を目指したほうがより現実的な場合も考えられよう。

■ 社会開発専門家の配置・育成

 開発調査の結果をいっそう生かしていくべきであり、そのためにも、より専門性の高い社会開発の専門家の配置が望まれる。そのような人材が限られているのが現実であろうが、限られたやり取りの中ではあるが、現有のスタッフの中にも資質的には十分なものを有する方がいると思われた。その方面での研修と研鑚の機会をより積極的に与えることが肝心であろう。

(補足事項)
 モデル概念についてはNGOとODAの両者に認識の相違がある。ここではNGO側のモデル概念を前提として、ODA案件に対して提言を行っている。従ってこの提言については両者の受け止め方に相違が見られるため、NGOとODAの双方の両論併記とする。
■ モデル概念の明確化(NGO案)

 「モデル作り」は、プロジェクトの根幹に関わる概念であり、定義の一層の明確化が不可欠と考えられる。モデルとは他の類似地域においても同様の取り組みが有効であり、かつ持続的に実施可能であることを意味すると考えていると思うが、その際、住民ないしは地方政府によって自力で出来ることが鍵となろう。外から別の援助を投入せねば出来ないような取り組みでは本当の意味でモデルとはなり得ない。また、専門家による種々のアイディアには頭が下がるものがあるが、住民自身のアイディア、イニシアティブ、自主的な投入をどう引き出すのかのモデルも併せ持っていないと持続的な取り組みとはならない。「モデル」の概念を曖昧なままに使用していることが、現場での混乱を招いており、上記の対象村の選択基準もその具体的な表れのひとつといえよう。

■ モデル概念の明確化(NGO案)に対するODAからのコメント

 JICAで考えているモデル性とはヴィエンチャン県の農業農村開発にあたり、想定される様々な開発事業一つ一つをモデル性として考えており、この意味で、対象とする村が多様となるよう、地形、生産活動等において特徴ある村を可能な限り選定した。ドナー等からの資金援助があった場合、これをどのように活用していくかという一つのモデルを求めたものであり、必ずしも、すべての事業が住民もしくは地方政府の自己資金のみにより事業が実施されるとは考えていない。従ってドナー資金の活用に関するノウハウをラオス行政側が有し、ドナー資金を活用して基幹施設を整備しながら、一方で末端施設については地元行政或いは受益者の自己資金により開発を行うという役割分担のもとで開発を行っていけば、「外部からの援助」を活用したひとつの開発モデルと考えることは可能である。

 また「住民自身のアイディア、イニシアティブ、自主的な投入をどう引き出すのかのモデル」については、住民の意向を引き出すノウハウが行政側に蓄積されればモデル性があると考える。この理解のもと、各JICA専門家は日々のプロジェクト活動に取り組んでいるところである。一例をあげれば、事業の計画段階でも住民が参加し、行政側と住民側が住民負担の問題について自主的に検討を行うなど、ラオス側からのイニシアティブによるアイディア等も出てきている。

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