4-3. 現地調査内容
4-3-1. 現地調査スケジュール
調査第1日目(2月14日)は、まず対象村の優先順位第1位であるトラコム郡ナムニャム村を訪問し、灌漑施設、村落道路、季節菜園などを視察し、JICA専門家及びカウンターパートより事業の説明を受け、村長を始めとする主だった村人へインタビューを行った。続いて、パクチェンにあるプロジェクト事務所において、JICA専門家、ラオス側カウンターパートよりプロジェクト全般、及び進捗状況についての説明を受け、調査団より調査方法、調査方針の説明についての説明を行った。
調査第2日目(2月15日)は、午前中にヒンヒュープ郡バンキー村、午後にはポンホン郡ポンホー村を訪問し、灌漑施設、給水塔、菜園、堰堤、備蓄米貯蔵所などを視察した。また、前日と同じく、現場にてJICA専門家及びカウンターパートより事業の説明を受け、村長を始めとする主だった村人へインタビューを行った。
調査第3日目(2月16日)の最終日には、再びプロジェクト事務所にて、JICA専門家及びカウンターパートとの評価ミーティングを行い、2日間の調査に基づく調査結果の要点の共有を行い、またプロジェクト全般に対する意見交換を行いながら、現場レベルで日々活動を行っているプロジェクト関係者に対する調査結果のフィードバックに努めた。
4-3-2. 評価結果
(1)経済面の開発(Economic Development)の視点からの評価
(1-a)経済面の開発の視点からみたプロジェクトの妥当性
本JICAプロジェクトでは農業基盤整備及び農業生産技術に係わる諸活動に多くの投入を行い、食糧増産、特に主食である米の自給を目指した増産のための投入、商品作物開発のための投入を意欲的に行っている。またそれらの投入は出来るだけ環境に配慮し、村人にも習得可能な技術レベルの導入を目指している。
例えば、農業基盤整備では、土木工事や構造物の建設などの場合は、地元のコントラクターの技術レベルや受注能力(人材、経験、保有する建設重機のレベル等)を考慮しながら、工事の一部は農民からの役務提供を受けながら住民参加型で行い、彼らに習得可能な技術レベルでの工法や施工管理に腐心している。また地元で入手可能な資機材や技術を用いて、揚水ポンプを試作したり、構造物の建設においても既存の施設のリハビリを優先的に行うなどしている。また現在の環境を出来るだけ損なわないように構造物の規模や配置などにも配慮されている。一方、農業生産技術においては、各生産者グループのアイディアをもとに野菜・果樹の試作を行ったり、栽培設備(雨季雨除け野菜栽培設備等)の導入を行ったり、また化学肥料や農薬の投入を極力控えたりするなど、農民が実行可能なレベルで、かつ環境に配慮した農業生産技術の開発に努力している。
プロジェクト対象5村に限定してみた場合、対象地域の経済開発に直接的になインパクトをもたらす農業基盤整備及び農業生産技術に係わる諸活動は、投入面では十分行われている。
(1-b)経済面の開発の視点からみたプロジェクトのパフォーマンス(効率性と目標達成度)
本プロジェクトでは、1)小規模な灌漑システムの導入による米の自給支援、2)商品作物の検索と導入による市場経済のアクセスの促進と農家所得の向上、3)村落社会インフラの整備を通じた生活環境の改善をプロジェクトの主要要素としている。農業生産については米の自給支援、商品作物による農家の現金収入の増加を目指している。また、商品作物については、個人農家のレベルで導入可能な作物を検索、導入し日々の現金収入を補完する程度の規模を考えている。
既に4-2-2に計画概要をまとめているが、小規模灌漑などの農業基盤整備、農業生産技術普及・開発のための農業振興グループの活動など、現在進行中のものであり、これらがどの程度の目標を達成できたか、また各農家経済にどれほどのプラスのインパクトを与えたかなどについては、プロジェクト終了時に改めて評価する必要がある。
ここで注意しなければならないのは、このプロジェクト目標は「ヴィエンチャン県のプロジェクト対象5村において農民参加による持続的な農業農村開発のための方法及び技術が確立されること」となっていることであり、プロジェクトが対象地域経済に与えるインパクトに対して、具体的な指標や数値目標、効果発現時期などを設定していない点である。このような場合は、プロジェクト終了時に、プロジェクトを通じて集計された各農家の家計調査などを基に、相対的に評価せざるを得ないであろう。
(1-c)経済面の開発の視点からみたプロジェクトの成果(インパクトと自立発展性)
経済面の開発の視点からみたプロジェクトの対象5村に対する経済的インパクトは大きなものであろうと予想される。未だ本プロジェクトは計画実施段階の途上であるので、最終的な評価はできないが、例えば灌漑施設などの整備はナムニャム村から順に進捗しつつあり、これまで乾季野菜栽培の可能性が広がり、農業生産ではプロジェクト終了時には一定の拡大をするものと予想される。また現地適応型の栽培技術についても幾つかの成果を上げつつあり、農業技術や農業生産の向上に一定の貢献をするものと思われる。
1997年(平成9年)6月に本プロジェクトのフェーズI終了時評価が行われた。この調査はフェーズI(準備フェーズ)の総合的な評価を行うと共に、これに続くフェーズIIの実施計画案及び同計画実施のためにとるべき必要な措置と必要な事項について、ラオス側と協議・確認することを目的とした。この報告書の終了時評価調査団は、「極めて局地的な公共投資事業が同様の条件下にある村落における一般的なモデルとして位置付けられるとは考えられず、基盤整備事業の実施においては、政府の公共投資実施能力及び農民負担能力などのラオス側の負担能力の水準を超えないよう十分配慮しなければならない」と提言している。
本プロジェクトの投入面に関してみてみると、1995年から1999年までの5年間に本プロジェクト総予算は約2億1千3百万円(フェーズIの期間を含む)、1997年から1999年までの3年間のプロジェクト基盤整備費は約8千万円である。その他に専門家派遣費用が約3億6千万円、研修員受入費用が約3千6百万円が別枠で計上されている。通常は専門家派遣費用及び研修員受入費はプロジェクト予算には含まれていないが、ここではJVCと前提条件を同じにする意味で、あえて上記2つの費用をプロジェクト実施に必要な投入費用としてとらえた上で、単純に1村あたりの平均値を出してみると、1村あたりのプロジェクト関連予算が約1億2千万円、過去3年間に投入したプロジェクト基盤整備費が約1千6百万円である(実際にはプロジェクト基盤整備費は1村あたり1千数百万円規模程度とみられる)。もちろん対象5村間の基盤整備の計画や内容は一様でないため、単純な比較はできないが、例えば構造物1件あたりの建設費用をとっても数百万円規模である。この規模は過去のJICA類似案件の場合と比較しても、相当抑えた金額である。この要因は可能な限り地元で入手可能な資源(技術、人材、資機材等)を活用し、また工事への農民参加を積極的に組み込んだ結果でもあり、プロジェクトに占める基盤整備費用の割合と金額を最小に抑え、ラオス政府或いは農民が自らファイナンス可能な規模に近づけようとするプロジェクト側の意図と努力がうかがわれる。この点は高く評価できよう。
ただし、1998年度のラオス政府予算が約1億4千ドル7というラオスの国家体力や、さらに対象5村のモデルとしての位置付けを考えた場合、1村あたりのプロジェクト関連予算が約1億2千万円、過去3年間に投入したプロジェクト基盤整備費が1千数百万円という規模は、果たして適正なものであろうかという点には議論の余地があると考える。
このプロジェクト・コストに対する評価に関しては、NGO側とODA側との間で、意見の相違が見られた。すなわちODA(JICA)の考え方としては、プロジェクト・コストのうち、専門家派遣費用、研修員受入費用については、ラオス側の人材をプロジェクト協力期間中に育成するために必要な経費であり、協力期間終了後は発生しない経費であり、ラオス側が行う5村以外への普及の際には必要とならない経費である。従って、モデル性(あるいは持続性)を論じる際のコストとして専門家派遣費用、研修員受入経費を組み入れることは適当ではないというものである。
また、農村基盤整備については、基盤整備についてはラオス中央政府(国)およびヴィエンチャン県が整備し、末端施設については受益者も応分の負担をして整備することを前提にプロジェクトを進めており、その際の資金調達先としては国家予算の他、ADBローン等の借款を想定している。またヴィエンチャン県独自の事業として灌漑施設整備を実施している。従って、このような前提に立てば、本プロジェクト対象5村での基盤整備活動と同程度のことは、5村以外の村においても普及可能であるとの考えである。
これはこのプロジェクトに係るNGO側とODA側とのモデル概念に対する考え方の相違から生じている。
(2)環境面の開発(Ecological Development)の視点からの評価
(2-a)環境面の開発の視点からみたプロジェクトの妥当性
本JICAプロジェクトでは環境への配慮もプロジェクト実施において優先度は高く、現場の専門家たちは、プロジェクトの諸活動を計画・実施する場合に、環境に対する配慮に極力努めていることはよく見てとれる。例えば農業基盤整備に係わる構造物の建設にしても、既存のものがあればそのリハビリを行い、新規でも環境への悪影響を避けるよう小規模規格化を心がけているようである。また農業技術の改良においても、灌漑用水くみ上げポンプの動力を人力で可能なように自転車を改良した動力機を開発したり、野菜栽培でも極力化学肥料の使用を避けたり、専門家たちは与えられた条件のもとで、最大限の努力をしている。従ってプロジェクトでは各活動と環境配慮とのリンケージについて注意深く検討され、また活動の中身にその意識が反映されていると評価できよう。
ところで、プロジェクトの諸活動の中で環境に配慮することと、社会のダイナミズム中で環境の問題を考えてゆくことは明らかに異なる点に注意を払う必要がある。プロジェクトとはその対象に対して何らかの変化をもたらす行為である。そしてその対象はプロジェクトが計画されたときの状態のまま静止しているわけではなく、プロジェクトからの影響を含む外部的及び内部的変化により、絶えず動き変化している。従って、環境への配慮という場合でも、プロジェクトの枠組みのなかでプロジェクト活動と直接結びついた環境の変化に注意を払うだけではなく、プロジェクト対象のダイナミズムから生じる環境の変化についても同様に視野に入れるべきではないかと考える。このことに関して、調査初日に訪れたナムニャム村での調査における、あるエピソードを紹介したい。
ナムニャム村では1997年のプロジェクトの調べで768人あった人口が1000人以上に増加していることが確認された。わずか3~4年の間に実に30%以上の人口増加率であり、このペースで増加し続けると今後数年でナムニャム村の人口は倍増する勢いである。これは当然自然増による結果ではなく、村の外からの人口流入によって起こった現象であると推測できる。なぜこれほどの人口流入がここ数年の間にナムニャム村で発生したかの社会学的分析は別に議論するとして、小規模な地域社会にこのような変化がおきた場合、真っ先に起こり得るべき問題は人口増に対する食料供給の問題である。そしてこの問題は環境に対してどのようなインパクトを与え得るのであろうか。この点について本調査団では、ナムニャム村の現状を見ながらある仮説を立てた。
すなわち人口増に対する食料供給の手段としては、現状における村の食糧生産能力の向上を行わなければならず、そのためには新たな農地の開墾などによる十分な耕作地が必要となる(現状のままでの農耕面積での大幅な生産性の向上は不可能である)。しかしそれが困難な場合は、代替案としてはラオスで伝統的に行われてきた焼畑などのマージナルな農業の可能性しか残されていない。また新たな人口(約40戸)が各戸あたり数頭の家畜(牛)を所有するなら、現有の村の牧草地での受入れが可能か否かの問題が生じる。不可能な場合は、放牧地以外の土地、例えば土地森林移譲によって区分された保全林や保護林などへの放牧である。従ってナムニャム村への人口流入の結果として生じるであろうと思われる焼畑と放牧の拡大は、ナムニャム村の森林の荒廃を引き起こす危険性ありと予測した。
この点についてプロジェクト側の調査により以下の点が確認された。ナムニャム村は迫害を受けたモン族が高地より移り住み20数年前に開墾された比較的新しい村であり、現在でも親戚を頼ってモン族の人々が山から下りてくるケースが数多く見られ、開村当初より継続的に人口増が起こっていたことが確認された。新たに増えた約40戸の多くはそのような結果起こった現象であると考えられる。また約40戸のうち家畜を保有しているのは少数と思われ、家畜保有者も国立公園に隣接する500ヘクタールに及ぶ村の共有放牧地で家畜を飼育しているため、それ以外への放牧地の拡大や牧草の増産などは行われていない。また人口増に対する食料の問題についてであるが、新たに山から移ってきた人たちの多くはまず親戚の土地を利用して生活を開始することとなり、中には他村より土地を購入し水稲を行っている人たちがいる一方、十分な食料を確保できずに再び山に戻って行く人たちがいることも確認された。さらに焼畑や放牧による森林破壊の可能性については、村民からの聞き取り調査及びJICA専門家による現地調査の結果、村内またある程度離れた場所においてもそのような事実は一切認められなかったとのことであった。
以上の結果から、ナムニャム村調査時の調査団の仮説は、幸いとり越し苦労に終わったようであった。しかしながら、ODA・NGO関係なく、開発プロジェクトに携わる人々は、個々のプロジェクトのフレームワークだけではなく、常に社会のダイナミズムをも視野に入れて日々の活動に取り組むことは、プロジェクトを実施する上で、留意すべき点であろう。
(2-b)環境面の開発の視点からみたプロジェクトのパフォーマンス(効率性と目標達成 度)
既に述べたが農業基盤整備に係わる構造物の建設でも、工法、技術、設計、規模などの面で、環境に配慮したものとなっている。また農業技術関連の活動でも、自転車式くみ上げポンプや、水上フローティングポンプなど環境配慮のアイディアを取り入れたり、化学肥料や農薬の投入を極力避けながら栽培技術の開発を行うなど、環境配慮の対策を進めている。そして現在までの活動においては、プロジェクト活動は環境への配慮と調和に意欲的に取り組んでおり、十分評価できる。
(2-c)環境面の開発の視点からみたプロジェクトの成果(インパクトと自立発展性)
繰り返しになるが、プロジェクトの諸活動そのものは環境との調和を目指して組み立てられており、それ自身が環境に対して大きな負のダメージを与えているとは考えにくい。社会のダイナミズムを視点に入れた環境配慮に対して、引き続きプロジェクトが村に対してどのような社会的変化をもたらすかについて、モニタリングし、フォローアップする活動を期待したい。
(3)地域社会、生活共同体の開発(Community Development)の視点からの評価
(3-a)地域社会、生活共同体の開発の視点からみたプロジェクトの妥当性
住民参加はこのプロジェクトの成否を左右する重要な要素である。なぜならプロジェクトが目指すものは、住民参加により持続的な農業開発のための方法及び技術が確立されることだからである。そしてこのプロジェクトはヴィエンチャン県における開発モデルとなり得ることを期待されている。このプロジェクトの使命がモデル造りであるということは、換言すれば、「外からの注入が終わった後も、住民自らが課題の分析を行い、行動計画を立て、実施し、評価し、フィードバックを行うことが可能である」ということである。このことがまさにコミュニティ・デベロップメントの本質であり、プロジェクトの持続性を保証するものである。
そして住民参加をプロジェクトに導入させるための工夫として、受益者である対象5村の農民達にプロジェクトのことを理解してもらい、彼らの発想や提案を引出し、参加を制度化するような適切な形の組織を助成・支援するような働きかけを含むべきである。
プロジェクトを受益者に理解してもらうための基本は、プロジェクト実施者及び受益者との間の「情報の共有」である。情報の共有とは一方的に情報の送り手から受け手に向かって情報を伝えることだけではなく、その情報が意味する中身とそれが持つ価値について、送り手と受け手の両方が等しく理解し評価することができて初めて達成されるものである。従って、情報の送り手と受け手の間にある情報に対する理解の仕方に隔たりがある場合は、情報の送り手は、情報が送り手の意図した通りに受け手が理解しているかについて、十分注意を払う必要がある。
本プロジェクトでは多くの場合、情報の流れは、まずJICA専門家からラオス人カウンターパートへ伝えられ、さらにカウンターパートから対象5村の農民へ伝えられる。例えばJICA日本人派遣専門家が属する日本社会は、識字率が100%に近く、新聞・テレビなどのメディアに日常的かつ頻繁に接する機会が多い社会であるが、一方、最終的な情報の受け手である対象5村の農民が属するラオス農村社会は、識字率が50%程度で、新聞・テレビなどのメディアに接する機会が少ない社会である。このような異なるバックグラウンドを持つ両者の間においては、ある種の情報に関しては、特にその社会にとってそれまで異質であった情報に関しては明らかに理解の仕方が違ってくる可能性は高い。この場合は、情報を単に共有したという実績を作ることではなく、情報が相手に正確に理解されるように伝わっているかという点について、不断の検証を怠らないことが肝要である。
本プロジェクトにおいては、プロジェクト活動の一環として対象5村の住民とPCMワークショップを実施し、住民のニーズの把握や、計画立案、評価などを住民と一緒に行い、その結果を次の活動に反映させることを行っている。そのような一連のPDMに基づくモニタリング→フィードバックの過程を通じて、共有される情報に関してその送り手側(プロジェクト実施者)が意図するところが、正確に十分に受け手側(対象5村の村人)に伝わっているかを知ることが可能であろう。この点に関しては、現場の日本人専門家は苦労をされていたようである。
住民の発想や提案を引出し、参加を制度化するような適切な形の組織を助成・支援するような働きかけの一環として、プロジェクトが取り組んできているのが農民組織の育成及び強化である。この場合、プロジェクトの目的にほぼ適した組織が既に存在するのであれば、その組織と地域レベルで連携することことは利点となるであろうし、そのような組織が存在しないのであれば、プロジェクトの目的に合った新たな組織を創り上げる方法も考えられる。しかしながら新たな組織を育成する場合に十分配慮すべき点は、それが既存の組織と摩擦を引き起こすことなく、新旧の組織がうまく両立しながら活動を行えるような体制に持ってゆくことである。
これについて本プロジェクトで行った取組みは、既存の村の行政組織である行政委員会とは別に、新たに村落開発委員会を設けたことである。村では村落開発委員会の結成の際には、村全体を把握している適切な助言が必要であったため、既存の組織の役職者である副村長が村落開発委員会の委員長に任命された。村によっては既存組織のユニット長が村落開発委員会の役員を兼務している場合もあり、兼務していない既存組織のユニット長も村落開発委員会の有力なメンバーの一人として出席していることが多いとのことである。村落開発委員会は既存組織から全く独立したものではなく、既存組織と部分的に重複しながら活動に取り組む体制となっている。JICA専門家によると村長が会議の場などに出席することも多く、既存組織との連携、意思の疎通は良好に行われているとのことであった。
村落開発委員会では、年間活動計画の策定、実施を行い、四半期会議、年次会議の場でそれを評価する活動を通して、住民の意向を反映した開発計画の立案・実施を目指している。しかしながら各村落開発委員会は設立されて日も浅いため、会議の場においては、活動実績報告が主体となっており、評価活動を行うまでには至っていないのが現状のようである。評価活動の推進は、プロジェクト後半にて行われる予定である。
今回の調査で確認できたことは、村落開発委員会と既存の行政委員会とでは構成メンバーやその機能・役割について重複する部分も少なくなく、村人が両者の違いを十分理解して、村落開発委員会が担うべき住民のリーダーシップを伴った能動的地域振興活動を実践できる体制になるまでには、まだ暫くの時間の経過と組織の成熟を待たなければならないということであった。この点に関する評価については今回の調査で行うことは時期尚早であり、プロジェクト終了時に、改めて行う必要がある。
以上のような情報の共有に関するコミュニケーション・ギャップの問題や、住民参加の制度化を促進するための組織の育成の問題は、ODA・NGO案件に関わらず共通の問題として挙げられよう。特に本プロジェクトでは住民組織の組織化に関する活動は、まだ緒についたばかりであり、残りの協力期間におけるより一層の推進が期待される。
(3-b)地域社会、生活共同体の開発の視点からみたプロジェクトのパフォーマンス(効 率性と目標達成度)
既述のようにコミュニティ・デベロップメントにおいて、その重要な担い手となる農民組織の育成及び強化は、本プロジェクト目標のひとつである。プロジェクトでは対象5村において、村落開発委員会を始め、水利グループ、農業振興グループ、婦人活動グループなどの組織を新たに創設し、プロジェクトの諸活動と絡めて、その活動を支援している。その結果、各村において、活動ごとの農民組織が一応整った形となった。一方、農民グループの組織化が進捗するなかで、組織自身の能力及び機能の強化は、これからの大きな課題である。プロジェクトでもこの点については問題意識を持っており、プロジェクト終了時を目指して、農民に対する研修・指導を行いながら、組織強化を進めてゆくとのことである。従って、現時点での農民組織の育成及び強化が一定の目標達成に至ったかどうかの判断は、プロジェクト終了時に改めて行う必要がある。
(3-c)地域社会、生活共同体の開発の視点からみたプロジェクトの成果(インパクトと 自立発展性)
本プロジェクトは住民参加を促進するための手段としてPCM手法を援用し、受け皿となる農民グループの組織化を支援し、農民に対してジェンダー研修を行うなどの活動を行ってきた。しかしこの活動が期待されたインパクトをもたらすには、これからの活動とプロジェクトの方向性に大きく依存している。
コミュニティ・デベロップメントの観点から、プロジェクトが継続的に、自立発展的に広がりを持つためには、上に述べた情報の共有と住民組織の育成及び強化について、プロジェクト内部で繰り返し検証し、状況に応じて柔軟に対応することも必要となろう。プロジェクト後半の活動に期待したい。
7 UNDP, "Development Cooperation, Lao PDR: 1998 Report", UNDP, 1999, p4.