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4-2. プロジェクトの概要

4-2-1. プロジェクトのフレームワーク

 既に3-1-1でふれたように、ラオス政府は1986年の新経済メカニズムの導入以来、市場経済化を目指し種々の改革に取り組んでいる。第四期5カ年計画(1996~2000年)では農村地域の振興は重点課題の一つであり、これを受けて農林省では、食料の安定供給、焼畑農業の抑制、商品作物の振興、農業技術の普及、灌漑施設の整備、人材開発の6つを農業政策の柱と位置付けている。一方、ラオスでは道路や灌漑水路等の社会基盤が未整備なため、農村における市場経済化や農業生産の増大の阻害要因となっている。そのためラオス政府より日本政府に対して住民の要望と事業への合意・参加を基礎とした総合的な農業農村開発について、プロジェクト方式技術協力の要請が行われた。

 この要請を受けて1995年11月から1997年10月の2年間に準備段階であるフェーズIを実施し、農村の現状や要望の把握、対象村の選定、各種作物の試作等を行い、プロジェクトの主要要素である、1)小規模な灌漑システム等の導入による米の自給の支援、2)商品作物の探索と導入による市場経済へのアクセスの促進と農家所得の向上、3)村落社会インフラの改善を通じた農村生活環境の改善、の3点を確認した。この準備フェーズ(フェーズI)の成果を踏まえて計画されたのが本調査にて評価対象となる「ヴィエンチャン県農業農村開発計画フェーズII」である。プロジェクト期間は1997年11月から2002年10月までの5年間であり、現在はプロジェクト開始より第3年目にさしかかっているところである。同プロジェクトの上位目標、プロジェクト目標、及び期待される成果は以下の通りである。

上位目標:ヴィエンチャン県において農業農村開発が推進されること
プロジェクト目標:ヴィエンチャン県のプロジェクト対象5村において農民参加による持続的な農業農村開発のための方法及び技術が確立されること
期待される成果: 1)農業農村開発の計画、実施、評価の手法が改善される
2)農業基盤整備のための適切な技術が確立される
3)地域に適した米や穀物等の作物、畜産、及び養魚等の技術が確立される
4)農村生活環境が改善される
5)農民組織が育成、強化される
6)農民、農村指導者、政府職員の技術能力が改善される

 プロジェクト対象地域はヴィエンチャン県下の5村である。プロジェクト対象村の選定基準の設定に際しては、モデル性を明確にするため、各村落の営農形態を踏まえた地域分類が有用と判断し、併せて下記の選定基準を設け、ヴィエンチャン県側から要望のあった11村のうち、JICA専門家、カウンターパート共同で5村の候補を選定した。結果として、トラコム郡ナムニャム村(丘陵平地部)、ヒンヒュープ群バンキー村(山間部)、ポンホン郡ポンケオ村(平野山際部)、トラコム郡ナプイ村(平野低地部)、ポンホン郡ポンホー村(平野部)が選定され、ナムニャム村から順に優先順位がつけられている4

(プロジェクト対象村の選定基準)

  • 展示効果:モデル村の成果を普及させるための展示効果
  • 交通の便:アクセシビリティーの確保
  • 村民のやる気:村民の意欲と主体性の確保
  • リーダーシップ:村長の指導力の確保
  • 開発資源の有無:人的、自然的(土地、水等)資源の有無
  • マーケティング:生産増を収入に結びつけるための市場の有無
  • バランスの取れた地域発展:特定地域のみに偏らぬための配慮
  • 既存プロジェクトとの重複の回避:社会的な公平さの確保及び経済的な重複の回避
 各分野におけるプロジェクトの活動内容をまとめると以下のようになる。

1)農業農村開発計画:農民組織育成(村落開発委員会、各種農業振興グループ、水利グループ、農村生活環境整備計画等)及び事業推進のための企画、調整、推進
2)農業基盤整備:農業用水路、頭首口、取水口、村落道路、農道、溜池改修整備、農地保全等の整備のための調査、測量、設計、工事発注契約、工事監督、施工管理等
3)農業生産:稲作、野菜、果樹、畜産、養魚等の現地適応型農業生産の試作、展示効果による普及
4)農村生活環境整備:農村生活用水、生活環境衛生施設(トイレ)、小学校校舎改善等
5)研修:国内農業研修、農民農業生産技術研修、村落開発委員会総会等を実施する

 ただし上記のプロジェクト対象5村一律に上記の活動を行うのではなく、それぞれの村の特性に合わせて活動内容は異なっている。

 また本プロジェクトに関連してJICAは開発福祉支援事業を実施しており、1998年度後半より地域衛生環境改善事業としてプロジェクト対象5村の村落開発委員会連合に対して、給水施設、衛生施設(トイレ)等に関する事業が展開されている。本プロジェクトでは地域衛生環境改善事業に対して技術的支援及び調整指導を行っている。また、同じくヴィエンチャン県下15村で実施中のJICAプロジェクト方式技術協力である「森林保全・復旧計画」(1996~2003)とも連携関係にある。

 1999年7月時点においてプロジェクトへ投入されたJICA側(日本側)からの投入は、次の通りである。

1)長期専門家:5名(チーム・リーダー、農業農村開発計画専門家、農業基盤整備専門家、農業生産専門家、業務調整員)
2)短期専門家:10名(参加型開発手法専門家、灌漑専門家、水文分析専門家、土壌専門家、水産専門家、畜産専門家、構造物設計専門家1、構造物専門家2、農業経済専門家、WID専門家)
3)研修員受入:カウンターパートを対象に年間3~4名(第三国研修を含む)程度
4)機材供与:農業生産用機械(トラクター1台、耕耘機5台、脱穀機5台、笹舟5漕)
インフラ施設維持管理用重機械(バックホーローダ1台、クレーントラック1台、普通トラック1台)
業務用自動車(ジープ5台、ピックアップ3台、モーターバイク13台)
業務用機械(測量機材、流速計、水質測定機、雨量計)
事務用資機材(コピー機、ファクス、コンピューター、事務机)
その他プロジェクト活動に必要な物品等
5)プロジェクト
 基盤整備費:
1997年度(平成9年度) 約1,500万円
1998年度(平成10年度)約3,100万円
1999年度(平成11年度)約3,400万円
6)予算:フーズI(準備フェーズ)の期間を含む1995~1999年度までの5年間のプロジェクト予算5(概算)は、約2億13百万円

 一方、ラオス側の投入はプロジェクト・ダイレクター以下14名を各日本人専門家に対するカウンターパートとして配置している。その他にアドミニストレーション関係スタッフ、土地、建物及び施設等の提供、その他ローカルコストの負担となっている。

 なお上記に述べたプロジェクト概要は、次頁の表4-1:JICA「ヴィエンチャン県農業農村開発計画フェーズII」プロジェクト・デザイン・マトリックス(PDM)にまとめてあるので、参照願いたい。通常、JICAのプロジェクト方式技術協力は、このPDMのフレームワークに基づいて実施されている。

表4-1:JICA「ヴィエンチャン県農業農村開発計画フェーズII」プロジェクト・
デザイン・マトリックス(PDM)(PDF)

4-2-2. プロジェクト活動の概要

(1)農業農村開発計画

 農民主体の農村開発計画を策定するためには、その計画立案の担い手となる農民グループの活動や機能が不可欠であるが、対象5村では村の伝統的行政組織である行政委員会を除いては存在していなかった。そのためプロジェクトでは、対象5村において村落開発委員会6を始め、水利グループ、農業振興グループ(稲作種籾生産、野菜生産、果樹生産、畜産、水産養魚、農業機械管理の各サブ・グループをその下に設けている)、婦人活動グループの組織化を支援し、対象5村で各農民グループの組成が一通り行われた。

表4-2:対象5村ごとに策定された農業開発計画の概要
村落名
(民族区分)
開発のタイプ 農業開発計画
ナムニャム村
(モン族・高地ラオ族)
丘陵部農業複合経営型 渓流取水による雨期の水田補給灌漑と畜産、果樹、養魚を加えた丘陵地の農業複合経営型を目指す。
バンキー村
(低地ラオ族・中位ラオ族)
焼畑対策山村総合農業開発型 開墾による田畑面積の拡大、草地改良による畜産振興及び果樹栽培の導入を通じて、焼畑の抑制を図り定着農業への転換を目指す。
ポンケオ村
(低地ラオ族)
総合農業経営型 既設溜池の改修による水田二期作灌漑を図ると共に、丘陵斜面を利用した果樹、畑作及び溜池養魚の導入を目指す。
ただし、現在は既設溜池の改修に加え、ヴィエンチャン県独自で実施しているバンタット灌漑支線水路の建設を通じての水田二期作灌漑を図ると共に、雨期雨除け野菜栽培の導入、丘陵斜面での放牧による畜産振興も進めている。
ナプイ村
(低地ラオ族)
平野部複合営型 既設堰及び排水改良による稲作改善と既存及び新規の養魚池の整備により、主として稲作、養魚の振興を目指す。
ただし、現在は上記に加え、渓流取水による雨期補給灌漑による稲作生産の安定化を図ると共に、雨期雨除け野菜栽培の導入、果樹、畜産振興も進めている。
ポンホー村
(低地ラオ族)
近郊都市経営型 ヴィエンチャン市に直結する国道13号線の近くという地の利を生かし、稲作、園芸、畜産、稲田養魚の他、井戸灌漑による乾期野菜の振興を目指す。
ただし、現在は上記に加え、バンタット灌漑支線水路の建設を通じての水田二期作を進めている。

 またプロジェクトでは各村落開発員会を中心としてPCMミーティングを行い、1年目活動実績の評価及び2年目の活動計画の作成を行った。それを基に農業開発計画の見直しを行い、ヴィエンチャン県農林部よりの追加情報、専門家及びカウンターパートの助言を受けて、対象5村の農業開発計画の修正が行われた。前頁の表4-2がその概要である。

 一方、形式的には農民グループの組織化は進捗しているものの、農民組織の強化・育成については、プロジェクト終了時まで継続して支援してゆくこととなっている。特に村落開発委員会を仲介として水利組合と農業振興グループの中の稲作生産サブ・グループ、農業機械管理サブ・グループ、及びその他の収益を上げ得る農業生産サブ・グループとの連携による維持管理体制(例えば、水利費用徴収による補修費用の積み立て、水路清掃等への共同作業への取組み等)の構築は重要であるとの認識である。

(2)農業基盤整備

 農業基盤整備に関する活動の主なものは、灌漑施設、村落道路、農道、溜池改修などに係わる調査、測量、設計、入札、施工管理などである。灌漑施設の整備は、灌漑補給水を供給することにより雨季稲作の安定的生産と増収を図ることと、乾季において灌漑水が確保できるところでは、部分的に乾季稲作や乾季野菜栽培を可能とすることを目指している。農道の整備は、集落から圃場や樹園地、牧草地を結ぶことにより、容易で効率的な作物の肥培管理、収穫物の運搬を目的とする。また村落道路の整備は、生活道路、隣村への連絡、通学路、市場へのアクセスを改善し、生産・生活環境の向上をおこなうためのものである。プロジェクトの方針としては、これらプロジェクト基盤整備費によるインフラ建設にあたっては、大規模で技術力を要する工事は発注請負工事にかけ、支線もしくは末端水路や小構造物などについては農民参加(住民主体)及び直営(農民参加)等による工事とすることとしている。また地元で入手可能な人材、資機材、工法等の活用を行い、技術水準についても地元のレベルに適応した適正技術の導入に努めるとしている。

 また基盤整備は優先順位1位のナムニャム村から順に進められており、ナムニャム村では82 ヘクタールの農地が新たに灌漑可能となった。各対象村ごとの灌漑施設整備による新たに広がる灌漑面積については以下のような見通しである。

表4-3:プロジェクトにより新たに広がる灌漑面積
村名 灌漑開始可能年 水田面積(灌漑可能面積)
ナムニャム村 1999年雨季から 82 ha
バンキー村 1999年雨季から 24 ha
ポンケオ村 1999/2000年乾季から 77 ha
ナプイ村 2000年雨季から 69 ha
ポンホー村 2000年雨季から 69 ha

 農道若しくは村落道路については、建設と改良(拡幅等)があり、概ね以下のような計画となっている。

表4-4:プロジェクトにより建設される農道及び村落道路
村名 建設予定年度 新設(m)・改良(m)
ナムニャム村 1998/1999年 新設0 m、改良3000 m
バンキー村 1999/2000/2001年 新設0 m、改良1500 m、橋梁上部工1ヵ所
ポンケオ村 1999/2000年 なし
ナプイ村 2000/2001年 なし
ポンホー村 1999/2000年 新設0 m、改良2000 m

 またプロジェクトでは、この活動に関連してコンクリート・フリューム製作マニュアルの作成を行った。

(3)農業生産

 農林生産技術関係の活動の主なものは、水稲作柄や雨季及び乾季野菜栽培についての調査、野菜・果樹の試作、生簀養魚の試作、農業振興グループの組織化、農民への技術研修などである。プロジェクトは、まず農業振興グループの組織化を行い、それぞれのグループに対して栽培技術を中心とした研修を実施する。対象5村における農業振興グループは以下の通りである。

表4-5:対象5村における農業振興グループ
村名 農業振興グループ
ナムニャム村 水稲、野菜(乾季栽培)、果樹
バンキー村 水稲、野菜(水稲後作)、養魚、果樹、養鶏(女性グループ)
ポンケオ村 水稲、野菜(雨季野菜)、養魚、養鶏(女性グループ)
ナプイ村 水稲、野菜(雨季野菜)、養魚
ポンホー村 水稲、野菜(雨季雨除け栽培)、養豚(女性部グループ)

 上記の各農業振興グループを核に水稲、野菜、果樹、畜産、養魚の各種試作・展示を行っている。また栽培試作を円滑に進めるためにプロジェクト所有のハンド・トラクター等の農耕機械を貸与したり、共同育苗ハウス棟や農業資機材倉庫の建設、小型灌漑ポンプの導入等についても進めている。

 農業生産技術においても、現地適応型の技術の開発及び導入を基本方針としており、その一例である雨季雨除け野菜栽培の試作については、現在対象5村で普及展開中である。またプロジェクトでは、稲作生産マニュアル(ラオス語版)の作成も行っている。

(4)農村生活環境整備

 農村生活環境整備に係わる活動の主なものは、生活給水施設の整備、トイレの設置、小学校校舎の改修などである。生活給水施設としては井戸掘りや給水施設の設置などであり、計画の概要は以下の通りである。

表4-6:プロジェクトにより新たに建設される井戸及び給水施設
村名 設置年度 井戸の本数、給水施設数等
ナムニャム村 2001年 現在、検討中
バンキー村 1999年 井戸1本、給水施設8ヶ所、タンク2ヶ所
ナプイ村 2000年 現在、検討中

 トイレは各村20個ずつ、計100個を設置の予定である。学校の新設及び改修につての活動は、現時点ではまだ行われていない。今後、農村の教育環境改善と住民参加による計画・実施を通じての住民組織強化を狙って、ナムニャム村及びナプイ村等において、小学校校舎の増築を住民参加で(すなわち住民からの役務提供を受けながら)行う予定である。ただし本案は現在検討中の段階であり、実施が決定されたものではない。

(5)研修

 研修活動の主なものは、プロジェクトのカウンターパートに対する研修と農民に対する研修である。カウンターパートは、本邦におけるカウンターパート研修にて各専門分野の技術移転を受けており、また日本人専門家によるOJT(On the Job Training)を通じて、カウンターパートの能力向上を目指している。

 またカウンターパートは農民や農村リーダーを対象として研修を行い、栽培技術研修、養鶏・養豚研修(女性グループ)、ビデオ教材を用いた環境衛生研修(村落開発員会、保健ボランティア)、ジェンダー研修等を実施している。またその成果としてジェンダーガイドラインを作成している。


4 本プロジェクト(フェーズII)の実施対象となるモデル村5村の選定については、本文のとおりであるが、そのうち少数民族への特別配慮、公共的緊急性の観点から、ナムニャム村を優先順位第1位とした。

5 プロジェクト予算(概算)約2億13千万円の内訳は、機材供与:約9千2百万円、一般現地業務費:約4千2百万円、LLDC特別現地業務費:約1千万円、啓蒙普及活動費:約4百万円、プロジェクト基盤整備費:約8千万円である。なお参考までに直接のプロジェクト予算には通常は含まれないが、専門家派遣費(長期・短期):約3億6千万円、研修員受入:約3千6百万円が見込まれている。

6 村落開発委員会(Village Development Committee)は副村長をリーダーとし、女性グループ、青年グループ、長老グループ、農業振興グループ、水利グループ等の代表から構成される。同委員会は村レベルでプロジェクトの計画作成、モニタリング活動を含む実施及び評価を行うと共に、他の農民グループの活動を調整する役割も負う。プロジェクトではさらに対象5村の各委員会のうえに、村落開発委員会連合を設けて、より総合的な企画調整及び農業技術の普及伝搬等の役割を期待している。




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