4-1. プロジェクトの背景
4-1-1. ラオスに対する日本政府の援助方針
(1)ODA対象国としてのラオスの位置付け
日本は1991年以降継続してラオスに対する二国間援助において第一位の援助供与国としての地位を占めており、1997年の実績では対ラオス援助全体の23.0%、対ラオス二国間援助の47.6%を占めている1。また無償資金協力、技術協力を中心に援助を実施している。このような日本のラオスへの支援は、以下のような日本政府のラオスに対する援助対象国としての認識と位置付けに立脚しているものである。
1) | ラオスはインドシナ地域において、タイ、ミャンマー、中国、ヴィエトナム、カンボジアに囲まれ、その安定と発展がインドシナ諸国全体として経済圏の発展を図る上で重要であり、また日本と伝統的に友好関係にあること |
2) | ラオスはLLDCである上に内陸国のため、経済発展を図るには厳しい状況にあること |
3) | 1986年の新経済メカニズムの導入以降、経済開放政策を推進し、中央計画経済から市場経済への移行に取り組むとともに、1991年の新憲法採択、1992年及び1997年の国民議会選挙に見られるように民主化の動きも進めていること |
4) | 構造的な財政赤字・貿易赤字を依然として抱え、また1997年7月にASEAN加盟と同時にASEAN自由貿易地域(AFTA)に加盟したため、2008年までには域内関税の引き下げが義務付けられ、これに向けた財政構造改革や制度・組織体制等の整備に対する支援の需要が高いこと |
(2)ラオスへのODAにおける重点分野
上記のラオスの現状と課題に対する認識を踏まえ、1)人造り、2)BHN(ベーシック・ヒューマン・ニーズ2)支援、3)農林業の振興、4)産業基盤整備を援助重点分野に掲げ、4つの重点分野に対して積極的に援助を展開してゆくこととしている。各重点分野における主な支援内容は以下の通りである。
1) 人造り: | 市場経済化促進、行政強化、農業開発、インフラ整備等のための人材育成。行政官の育成、税関職員・徴税官吏の育成、公共企業及び民間部門の実務者・技術者の育成、高等教育支援、銀行・金融部門における人材育成などの支援 |
2) BHN支援: | 初等教育(校舎建設・改修、機材供与等)、医療・保健(基幹病院を中心に施設改修・機材整備、子供の健康)分野への支援 |
3) 農林業の振興: | 農業政策の企画・策定、灌漑施設整備、ポストハーヴェスト(貯蔵、流通、加工)改善、焼畑対策及び森林保全、農村開発などの分野への支援 |
4) 産業基盤整備: | 橋梁、道路、空港の整備などの経済インフラへの支援、特に国土の東西南北の骨格となる幹線道路整備のメンテナンス面の強化を図る |
4-1-2. JICAのラオスにおける活動
ラオスにおける近年のJICAの活動も上記の4つの重点分野を中心とした事業展開を行っている。人造り分野における活動の主なものは研修員受入れによる人材育成である。JICAでは本邦で実施する多数の集団研修・一般特設研修にラオスの行政官を受入れているほか、1999年度はラオスを対象とした国別特設研修として「市場経済化運営管理」・「地方行政官育成(地場産業支援)」・「法整備支援」の3コースを、また、インドシナ4ヶ国(タイ・ヴィエトナム・ラオス・カンボジア)を対象とした地域特設研修として「インドシナ地域総合開発計画管理セミナー」の1コースを本邦にて実施している(過去の実績としては、国別特設「経済運営管理」・「ASEAN加盟支援(投資環境と産業政策)」・「国際通信業務管理」・「関税行政」がある)。また、ラオス国内で現地国内研修「プライマリー・ヘスルケアー」・「気象・水文観測中堅技術者研修」を実施しているほか、近隣諸国で実施する第三国研修(タイ「大学教官育成プログラム」・タイ「造林普及技術」・タイ「医療サーベイランス訓練」・マレーシア「淡水漁業技術」など)にラオス人を受入れている。その他にも本邦大学院への留学生の受入も行っている3。
BHN分野関連では、プロジェクト方式技術協力「ラオス日本WHO公衆衛生プロジェクト」で拡大予防接種、プライマリー・ヘルスケア、感染症対策の活動を実施し、この第二期(フェーズII)案件として「小児感染症予防対策計画(ポリオ根絶計画)」(1998~2000)が1998年度から開始されている。その他には同じくプロジェクト技術協力「セタティラート病院強化計画」(1999~2004)、開発調査「北西部村落給水衛生改善計画調査」(1998~2000)、無償資金協力「チャンパサック・サラワン県地下水開発計画」(~2001)などを実施中である。
農林業分野では、開発調査「メコン河沿岸貧困地域小規模農村環境改善開発計画調査」(1997~2000)、プロジェクト方式技術協力として住民参加手法を取り入れた「ヴィエンチャン県農業農村開発計画(フェーズI及びII)」(1995~2002)及び「森林保全・復旧計画」(1996~2003)を実施中である。
経済インフラ分野では、無償資金協力「パクセ橋建設設計計画調査」(~2000)、「ヴィエンチャン国際空港改修計画」(~1998)等の他に、ADB東西回廊計画の一環として「国道9号線改修計画」(~2001)を無償資金協力で実施。また通信事業活性化のために国際通信業務管理の研修を実施し人材育成を行った。
その他にもNGOとの協調事業として開発福祉支援事業を行っており、「ウドムサイ県収入向上活動事業」(1998~2001)、「コミュニティー衛生環境改善事業」(1998~2001)、「女性自立向上事業」(1998~2001)、「ラオス赤十字血液事業」(1998~1999)などを実施している。
2000年2月現在においてラオスにて派遣中のJICA関係者は、主なものでも長期派遣専門家42名、短期派遣専門家5名、第三国専門家6名、青年海外協力隊59名、シニア海外ボランティア8名、JICAラオス事務所日本人スタッフ11名などである。それに各種調査団などを加えると、相当な量の人的投入が行われており、このことからもアジア地域におけるODA重点国であることもうかがえる。
1 1997年実績では、対ラオスODA総額341.5百万ドルのうち二国間援助は164.8百万ドルであった。主なドナーの内訳を見てみると、第一位が日本の78.6百万ドル(二国間:47.6%、全体:23.0%)、次いでドイツ16.6百万ドル(二国:10.0%、全体:4.8%)、スウェーデン15.5百万ドル(二国間:9.4%、全体:4.5%)、フランス14.8百万ドル(二国間:8.9%、全体:4.3%)、オーストラリア14.3百万ドル(二国間:8.6%、全体:4.1%)の順となっている。また国際機関からの援助の内訳はADBが85.6百万ドル(全体:25.0%)で一位、続いてIDAが40.9百万ドル(全体:11.9%)、CECが14.7百万ドル(全体:4.3%)、WFPが12.0百万ドル(全体:3.5%)、UNDPが11.6百万ドル(全体:3.3%)となっている。
2 BHN(Basic Human Needs)とは、食糧、住居、衣類など最低限の必要消費物資や、安全な飲料水、衛生施設、公共輸送手段、保健、教育などの地域社会に不可欠なサービスのことを示す(海外経済協力基金開発援助研究会編「経済協力用語辞典」東洋経済新報社、1993年)。
3 ODAによるラオスからの留学生については、1)外務省の「留学生支援無償(無償資金協力による途上国の政府派遣留学生事業支援)」制度により1999年度は20名、2)JICAの「長期研修員」制度により1999年度は6人の実績がある。