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3-3. 現地調査内容

3-3-1. 現地調査スケジュール

 調査第1日目(2月10日)は、午前中にJVCのターケーク事務所において、JVCスタッフ及びカウンターパートであるカムアン県農林局行政官より、本プロジェクトについての概要説明を受けた。その後、調査団より簡単なワークショップ形式にて調査方法、調査方針についての説明を行った。同日午後、ニョマラート郡ピッシーカイ村を訪問し、村長はじめプロジェクトに関与する主だった村人たちへのインタビューを行った。ピッシーカイ村では、土地森林移譲に関する調査を中心に行った。

 調査第2日目(2月11日)は、ヒーンブーン郡ノンプー村を訪問し、午前中は既に土地森林移譲が終了した村の共有林のうち、保護林の森林区分を視察し、同道した村民及び県・郡の担当行政官たちへのインタビューを行った。続いて午後は、自然農法を試験的に実践している同村の農家及び農地を視察し、同道した村人へのインタビューを行った。

 調査第3日目(2月12日)の最終日には、再びJVCターケーク事務所にて、JVCスタッフ、県農林局行政官、県女性同盟スタッフとの評価ミーティングを行い、2日間の調査に基づく調査結果の要点の共有を行い、またプロジェクト全般に対する意見交換を行いながら、現場レベルで日々活動を行っているプロジェクト関係者に対する評価結果のフィードバックに努めた。

3-3-2. 評価結果

(1)経済面の開発(Economic Development)の視点からの評価

(1-a)経済面の開発の視点からみたプロジェクトの妥当性

 JVCが「自然農法による農業生産の向上」というコンポーネントを本プロジェクトに取り入れた理由は、「森を守りながら農業生産と生活を向上させてゆきたい」という村人達の希望に応えるためである。本プロジェクトでは自然農業を環境へのインパクトからだけではなく、持続性を持った経済開発の面からも近代農業に代わる有効な代替案として位置付け提案している。すなわち大規模灌漑や化学肥料、農薬を使用する近代農業は、短期的には農業生産増大への高いプラスの効果がある一方で、農業基盤整備や農業投入材への多額の投資を必要としており、さらに環境及び人体へのマイナスの影響も無視できない。それに対して自然農業は、自然環境及び人体に与えるダメージもなく、低コストで村人自身で比較的容易に導入・実践可能であるというものである。

表3-4:近代農業と自然農業の特徴の比較
  近代農業 自然農業
生産へのプラスのインパクト 短期的には高いプラスの効果がある 中程度
投資コスト 灌漑施設などの基盤整備や、化学肥料・農薬などの投入材のための投資コストが非常に高い 堆肥、緑肥などを使用するため投資コストは低い
環境及び人体へのマイナスのインパクト 基盤整備に伴う河川や水源への影響、化学肥料・農薬の使用による水質汚染・人体への影響は大きい 特段なし
技術レベル 高い 中程度
受益者(農民)の参加の必要性 高い 高い
モデル性(模倣性) ケース・バイ・ケース 比較的容易
持続性(維持管理) ケース・バイ・ケース 比較的容易

 「環境への配慮」と「経済的・技術的な持続性」の両方の特性を備えた自然農業の導入というJVCのこの提案は、JVCがこれまでのラオスでのプロジェクトの経験のなかで一貫して追及してきた「環境保全=村人の生活環境保全」、すなわち「自然依存(共存)型の生活形態を営んでいるラオスの農村・農民にとって、自然環境を破壊せずに維持してゆくことは、そのまま彼らの生活を守ることにつながる」という視点に立脚したものである。それと同時に自然農業の活動は住民参加型でやらなければうまく行かないという性質のものでもある。なぜならこれまで農民が伝統的に行ってきた農業は、焼畑や、主に天水耕作型の粗放的な農業が多く、JVCが導入しようと計画する自然農法のやり方は、堆肥、緑肥、マルチング(藁等による被覆)を使用するなど手間と時間もかかり、前者と比較してある程度の高度な技術と経験を要するものである。そのため自然農業を導入し定着させるには、その技術について村人が積極的に、また主体的に参加しなければならない。これは常に村人の参加を得てプロジェクトの遂行を目指しているJVCの基本的方針をよく反映したものとなっている。

 ところで一口に農業生産の向上と言っても、主食である米が村で自給可能なレベルまで目指すのか、自給を達成してさらに余剰米を生み出すレベルまで目指すのか、あるいは新たな商品(換金)作物を生み出すことにより重点を置いているのか、などそれが意味するものは一つではなく、当然それぞれに対応する手法も異なるはずである。そして設定した目標に到達出来たか否かを知るためには、「何」を「どの程度」向上させればその目標に達したと認めることができるのかという、明確な定義と目標の設定がプロジェクトのフレームワークにおいてなされる必要がある。そしてその目標は客観的で、ある程度計量可能な指標を用いて説明がなされることも求められよう。

 JVCによれば自然農業の農業生産向上の点における目標は、第一義的には主食(米)に限らず野菜・蛋白質などの自給を達成することであり、余剰が出ればそれを売って現金収入を得るということのようである。ここでは商品作物の開発は二義的な位置付けとして捕らえられている。しかしながら自然農法の場合、やり方などによって生産量に大きな違いが見られ、また数値的目標設定を行うことにより過大な期待を村人に持たせることを回避したいとの考えにより、具体的な数値的目標は一切提示していないということであった。むしろ現段階では村人が自然農業の基本を習得し、しっかりと身に付けることに力点を置いているようである。

 JVCの現状を見ると、自然農業の活動は1999年より開始された経緯もあり未だ活動の初期段階を出たばかりのようであるため、本調査ではこの時点で評価を行うのは時期尚早であろう。しかしながら、現段階では仕方の無いことではあるが、活動内容としては試行錯誤的な範疇から抜け出していないような印象を受けた。現在の試行段階を経て、村人が自然農業について一定の理解を示すなどの条件が整ってきた後に、この活動を村全体に本格的に広げるためには、ある一定の目標設定とそれに適した手法の関連付けが必要とされると思われる。

(1-b)経済面の開発の視点からみたプロジェクトのパフォーマンス(効率性と目標達成度)

 自然農業については実際に導入されたのは1999年以降であるため、現時点ではJVCから研修を受けた村のJVCボランティアが、家庭及び個人の菜園で実験的に試している段階であった。ノンプー村の男性ボランティアの一人は、野菜栽培において化学肥料を使用したものと堆肥を使用したものとの比較を行い、化学肥料を使用した場合と同様の結果が得られたと報告している。また同村の男性ボランティアはJVCから提供を受けた緑肥(大豆)を使用した稲作を実施し、水牛の糞を使用したもの、何も使用しなかったものなど、他の条件での稲作の場合との比較を行い、緑肥が農業生産の向上に与える効果を試験的に行っている。それによると緑肥を施した結果、土質が柔らかくなり、米の実入りにも効果(水牛の糞を施した田よりも40%、何もしない田よりも75%米の収穫量が多かった)が見られるとのことであった。また別の女性ボランティアは、マルチング(被覆)を施すことにより畑の保水性が高まり、トウガラシが以前と比べて実りが良かったとの結果を得たようである。村長は村のボランティアによる実験により、自然農法が土壌や収穫面でのプラスの効果があることを確認し、今年の稲作から導入したいとの意向を示している。

 しかしながら上記のように自然農業については未だ試験的導入段階の域から大きく出てはいないため、村全体が農業生産の向上を実感し実現するまでには至っていない。さらに既述のように自然農業における目標設定(特に計測可能な目標)が明確でないため、自然農業がその目標を達成し得たか否かの判断は、現時点では留保せざるを得ない。

(1-c)経済面の開発の視点からみたプロジェクトの成果(インパクトと自立発展性)

 本プロジェクトの経済開発コンポーネントにおける主要要素である自然農業が、持続性を持ち自立発展的であるためには、JVCからの協力期間終了後においても村人が習得した技術を継続して実践することができ、また対象村以外の村でも村人が容易に真似(再生)できるものである必要がある。そのためにはJVCの自然農法が資金的にも、技術的にも村人に受入れ可能なものであることは言うまでも無い。

 第1点目に、JVCの自然農法に関わる投資コスト、あるいは村人の財政的負担は妥当性なものであったであろうか。JVCでは自然農業普及を支援するために、初年度に土地の改良に役立つ緑肥としての緑大豆を希望する14村59人に提供し、緑肥の試験的実践を行った。このとき使用した緑肥(緑大豆)は外部から購入した。この理由は緑肥になる地掘りの植物の種を取る時期が過ぎてしまったため緊急避難的に購入したものである。提供した大豆の一部は緑肥として使わずに翌年種を取る目的のために植えるように指示すると同時に、大豆と並行して地場の豆科の植物(ニャー・ファラング)を刈り取って鋤き込む実験も行った。結果はニャー・フラングも大豆と同程度の効用があることが初年度の試作で判明したとのことである。

 自然農業の利点のひとつは、近代農業と比較して投入コストが少ないことが挙げられ、またそのことが村人が導入する際の動機付けとなる。緑肥と化学肥料を行った場合のコストの比較については、正確な調査は行っていないので不明であるが、緑肥の投入コストは化学肥料のそれよりも妥当なレベルに低く抑えられるべきであろう。緑肥に関しては、初年度の例外的な市場からの大豆の購入により、ある程度のコストがかかったようである。JVCでは次年度以降は初年度の結果を踏まえて、村人自身で生産・調達可能な地場の緑肥を活用して低コストな緑肥農法の普及を進める計画である。仮に次年度以降は予定通り、地場の資源を活用して低コストな緑肥の十分な調達が可能となれば、コスト的には村人にとっても十分受入れ可能であろう。しかしこれは未だ本格実施段階に入っていないので、最終的な判断は今後の進捗を待たなければならない。

 第2点目は、労働投入量の妥当性についてである。JVCでは化学肥料の代替の1つとして堆肥による土地の改良を目指しているが、これは多大な労働集約性を必要とするものである。現時点では堆肥作りと堆肥を使った稲作・野菜栽培は村のJVCボランティアを中心とする一部の農民によって、各自の農地や菜園などで小規模で試験的に実施されている段階である。今回調査対象であったノンプー村では、村独自の判断で堆肥による土地改良を水田を含む村の全ての農地まで広げる計画を示していた。一方ラオスでは農業の機械化はほとんど進んでおらず、人力中心の農耕を行っているため、堆肥の施肥には相当量の村人の労働投入が求められる。これはかなりきつい作業である。当然ながら村人は堆肥農法のために自分たちが投入した労働量に対応する形で(苦労が報われる形で)、農業生産が増大することを期待するわけであるが、このやり方で彼らの期待に応えられるような結果が得ることができるかどうかは、現時点では保証の限りではない。ノンプー村の例において危惧するのは、村人の努力に対する報酬としての成果と現実の成果とのギャップが大きければ、堆肥農法導入への村人の動機付けが希薄となり、場合によってはそれを断念して、もうひとつのオプションである近代農業へ方向転換する可能性が全くないとは言えない。これに対してJVCでは、堆肥は労力がかかるので主に菜園に使い、水田には緑肥を使うように勧めているとの立場である。この方針は、賢明であろう。

 第3点目は、森林保全とバランスの取れた林業の振興による経済開発の可能性についてである。JVCは自然農業は現地で入手可能な資源を利用しながら、環境にも配慮した持続的な経済開発を行うための手段として自然農法を提案している。しかしながら環境保全にかなりの重きを置いているため、このことが返って経済面の開発への積極的な取組みに対する足枷になっているような印象を受ける。現在ラオスにおいて現地での入手可能な最大の資源は森林であり、それを利用した林業や、木材加工産業、またアグロフォレストリーなどは、経済面の開発を促進する上で大きな潜在力をもつものと考えられる。ただし当然ながらそれは森林保全・保護と両立するもので無ければならず、その点で、JVCがまず森林保全に取り組んだのは、ステップとして妥当であると言えよう。JVCが推進する土地森林移譲を全国に広めることにより、森林の保護と秩序ある利用が可能となり得る。これからの時期に適正な林業を導入することはタイミング的にも最適であり、自立発展的な経済面の開発を考える上で、ひとつの有効なオプションとして想定できるのではないかと考える。

(2)環境面の開発(Ecological Development)の視点からの評価

(2-a)環境面の開発の視点からみたプロジェクトの妥当性

 JVCはこれまでのラオスにおける活動の経験と理念に基づいて、ラオス政府が推し進めている土地森林移譲政策をプロジェクトの中心コンポーネントとして巧みに取り込み、住民参加型の環境保全、保護と密接に連動したかたちでプロジェクトを組み立てており、優れた着想である。また、村人たちの理解と参加を得るために、映像やイラストなどのビジュアルな要素を取り入れた入念な「教材」作成したり、「村人主体の土地森林移譲」マニュアルを作って県・郡の担当者を対象とした研修を行い、さらにそのマニュアルを使って実際に郡の担当者とともに土地森林移譲を行うことで実地研修にも力を入れている。このようにカウンターパートである県・郡森林局との連携もできうる限り緊密なものになるよう計画するなど、この点でのカウンターパートに対する技術移転を意識的、意欲的に行う工夫や努力が見られる。

(2-b)環境面の開発の視点からみたプロジェクトのパフォーマンス(効率性と目標達成 度)

 カムアン県では1994年以来、土地森林移譲に取り組んできているが、1999年末において県下全約800村のうち86村で土地森林移譲が完了している(フェーズIの実績も含む)。このうち16村がJVCの支援した村である。土地森林移譲が完了した村の例を調べてみると、JVCが支援した村でなく、県・郡が独自に土地森林移譲を進めた村の一部では森林区分に対する誤った解釈をする村もあり、そのような村では土地森林移譲完了後にかえって伐採が拡大した例も報告されている。これは県・郡が独自に行う土地森林移譲では啓発活動もなく、役人が森林区分を行い、規則も県が作ったひな型の規則を村人に押し付けるのが通例であり、従ってこのような村では村人に森を守っていくことの意識が内在化されず、自分たち自身が作った規則ではないのでそれを遵守する心構えが弱いため、以前にも増して伐採が起きたのではないかとの見方をJVCではしている。この事例は村人主体で行わない土地森林移譲が何をもたらすかを示すものと言えよう。

 またJVCが支援した村の中にも、小規模ながら伐採禁止区域で伐採したり、農地を拡張したりという例がみられた。しかし村人自身に言わせると以前と比べれば、そうした無法・無秩序な伐採・利用も減少したし、また規則違反もその多くは「食べるため」にやったことで、金儲けのためというのはごく一部であったとJVCは報告している。

 カムアン県における土地森林移譲の実績を見るとき、土地森林移譲を終えた村の全てにおいて、森林保全に対する村人の意識がしっかりと根付き、無秩序な森林伐採を完全に食い止めることを確立するまでには至っていないようであるが、少なくともJVCが支援した村においては、完全ではないものの、土地森林移譲における効果は十分に認められた。

 しかしながら、JVCが現在のペース(6年間で86村)のままで県下約800村全てに土地森林移譲を拡大することを目指すのであれば、目標を達成するまでに相当な時間が必要となる。JVCでは住民参加型の土地森林移譲手続きに関して、カウンターパートである県・郡森林局に対する技術移転に努めているが、JVC及びカウンターパートの両者においてマンパワー不足が足枷となっている。土地森林移譲を担当する郡の行政官は県下9郡に各1~2名が配置されているものの、他の仕事との兼務であるために土地森林移譲だけに関わっておれないというのが実態のようである。一方、JVC側のスタッフ数も日本人・ラオス人を合わせて4~5人の規模である。JVCが目指す「住民参加による」森林保全活動の面的な広がりを実現するためには、活動要員体制の強化が求められる。

(2-c)環境面の開発の視点からみたプロジェクトの成果(インパクトと自立発展性)

 既述のように1999年末において県下全約800村のうち86村で土地森林移譲が完了しているが、その結果、環境に与えたプロジェクトのインパクトについては、体系的な調査は未だ完了していないため明確なところは現時点では分からない。本調査における村人へのインタビューからは、鳥の数が増えた、森が少しずつ戻ってきたなどのプラスの評価の回答が得られた。

 また本プロジェクトの将来的な継続性や自立発展性を考える場合、いくつかの注意すべき課題が明らかになった。第一の課題は、森林区分の定義についての行政側と村民側との間にみられる認識のギャップについてである。その一例は保護林に対する両者の認識のズレに見ることができる。すなわち行政側は、法律で定めた保護林とは希少種の保護も含めた生態系を維持するためのものであるとの理解に対して、村人の認識では保護林とは生態系の維持のためというよりも、先祖伝来受け継いだ子孫に対する村の共有財産の保持という意味合いが強く、将来の世代がそれを利用する可能性も放棄してはいないようである。行政側が本来意図するような絶対的に保護すべき森林とは、村人にとっては精霊林のみである。この問題がこのまま放置されると、土地森林移譲政策が目指すもとの、現実の村人による共有林の管理・利用の実態とが将来的に乖離する危険性が無いとは限らない。そのような事態を未然に回避するためには、森林区分の定義の再確認と、それに対する行政側と村人側が共通の認識の徹底を図る必要がある。

 第二の課題は、保全林と再生林の定義、再生林の利用のタイミング、その経済的価値の見積もりなど、法を施行する行政側の技術的不備も見受けられたことである。例えばノンプー村で共有林の森林区分の策定プロセスにおいて、村民が保護林にしようとした森に対して、その森は既に人の手が入っていて生物の多様性が豊富な森ではないので保護林に指定するのはふさわしくなく、将来そうした豊かな森に再生できるように、また将来的な利用の可能性も考慮して再生林にした方が森の実態と法の趣旨に合っているからとの理由により、行政側が共有林の区分変更をさせた経緯があったようである。その際、行政側では再生林が何年後に利用林に転換できるのか、またその経済的価値がどのくらいなのかといった要件がきちんと検討されてはいなかったようである。村人が自分たちの共有林を持続的に管理・利用するためには、森林の保護・再生・利用が計画性も持って、バランスよく行われる必要があり、そのためには森林の経済的価値の予測を含めた長期的な森林利用計画を整備しなければならない。

 以上の2点は、土地森林移譲の実施以後の課題として解決しなければならない問題点である。

(3)地域社会、生活共同体の開発(Community Development)の視点からの評価

(3-a)地域社会、生活共同体の開発の視点からみたプロジェクトの妥当性

 いわゆるコミュニティ・デベロップメントの側面から、本プロジェクトを検討してみると、3つの要素を内包していることがわかる。1つは、参加型のアプローチ(本プロジェクトにおいてJVCでは「村人主体のアプローチ」と呼んでいるもの)をいかに行政側へ伝えていくか、すなわち参加型開発の技術や手法を地元行政(カウンターパートである県・郡農林局)へ移転することである。2つ目は、既存のCBO(Community-based Organization)をいかにプロジェクトの目的に向かって活性化していくか、あるいは、プロジェクトの目的に見合ったかたちで新たなCBOなり、機能なりを作り出していくかということである。3つ目は、ジェンダーにかかわる活動に女性の参加を促すことである。

 カウンターパートである県・郡農林局行政官に対する参加型開発の技術や手法の技術移転に関しては、スタディー・ツアー、各種研修、月例評価計画会議、担当者との共同作業など様々な方法や機会を通じて、技術移転を行えるよう計画されている。CBOの活用に関しては、土地森林移譲の実施に合わせて、村の行政委員会をベースにした森林管理委員会を各村で組織し、共有林の管理・利用に責任を持たせる体制作りを活動に組み入れいている。ジェンダーにかかわる活動に女性の参加を促すことに関しては、県・郡行政官、女性同盟及び村人を対象とした研修や、ジェンダー・ハンドブックの作成などを行っている。

 この3つの要素は、地域社会、生活共同体の開発におけるキーワードである「参加」及び「分権」そしてその基底にある「女性の参加」の概念をしっかりと意識したものであり、妥当なものであると考えられる。

(3-b)地域社会、生活共同体の開発の視点からみたプロジェクトのパフォーマンス(効 率性と目標達成度)

 3要素のうち、特に成果が著しいと思われるのが、最初の行政への技術移転である。この高い成果をもたらしたと考えられる理由のひとつは、土地森林移譲は共有林の管理・利用権を国から個人や住民に移譲するものであり、受け手側の個人や住民の理解と協力を前提としており、そのため土地森林移譲では上意下達式のやり方ではおそらくほとんど実効をあげ得ないし、法律の実施そのものも危ういというこの法律の性格にあると思われる。そのことが、行政側をして「住民主体のアプローチ」を標榜するJVCとの連携を積極的に模索せしめる動機付けになった可能性もあり得る。

 いずれにしろ「村民の理解を得るとはどういうことか」ということを、地元行政の職員がJVCの活動を通じて学んでいることは明らかであること、また、このような方法論が結局は自分たちの仕事をやりやすくしているという自覚も充分あることなどが本調査を通じて確認された。この点で、JVCのプロジェクトは一定の目標を達成できたと評価し得る。

 2番目のCBOの活性化は、プロジェクトによって推進される活動を下支えする基盤の強化という意味でもとりわけ重要な要素と考えられる。しかしながら、共同体の活力というものは、目に見えるかたちで独立して存在しているわけではなく、折に触れてその状態が顕在化するという性質のものであるゆえに、モニターが難しく、よって、プロジェクトの働きかけの成果も見えにくいものとならざるをえない。モニターが難しいということは、プロジェクトとして具体的な目標設定が困難であることをも意味しているのである。

 例えば、JVCが支援して実施された溜池の掘削と農地の配分にあたり、村人の側からもっとも貧しい家庭を優先するという方針を打ち出したことが報告されている。しかし、これが、JVCからの援助を確実に引き出すことを狙って、村人は単にプロジェクトの建て前に従っただけなのか、または、プロジェクトに参加する中で結束力や相互扶助の意識が強まったことによるものなのか、あるいは、伝統的な相互扶助精神がそこでも発揮されただけなのかは、JVCのスタッフの側も明確に意識していなかったし、調査団としても、どれが最大の要因として働いたのかは判断がつきかねた。

 また、土地森林移譲の実施プロセスやその後の管理・利用においても、多少の熱意の差はあるものの、両方の村とも共同体のイニシアティブが相当程度発揮されていることが見て取れた。但し、それ以前の状態、及び他の村との明確な比較材料もないため、その達成度を検証することはできなかった。

 このように、総じて、プロジェクトの進展と並行して、CBOの活性化もそれなりにもたらされているという印象を受けはしたものの、それがこのプロジェクトの達成とよべるものなのかどうかは判断が難しく、調査団個々人の印象の域を出ることができなかったといわざるをえない。

 加えて、ラオスが社会主義体制を取っていることが、共同体の活性化の度合い、特に住民参加の実態をモニターすることをいっそう難しくしている。下からの民主主義というのは、社会主義の本質的な建て前であるため、それが建て前通りに機能しているかどうかはともかくとして、そこに生きる人々は、「下からの民主主義」を表現する語彙を豊富に持っているからである。

 プロジェクトの実施側がこの点を考慮に入れた、しかるべき評価の指標を持ち、しかもそれを住民と共有していないならば、住民たちの「言語上に現れる参加」と「実質的参加」の間の見極めは非常に困難となる。今回我々が訪れた2つの村のいずれにおいても、これが従来の社会主義を超越した関わりなのか、それとも、すなわち社会主義のスローガンに従っただけの表層的な関わりに過ぎないのかを、明確に見極めるだけの材料を得られなかった。但し、JVCスタッフの話しでは、当フェーズ以前に導入した米銀行の運営状況などから、個々の共同体の結束力、リーダーシップ、民主化度などをある程度判断しているようであったが、更に検討が必要であろう。

 3番目のジェンダーの問題については、プロジェクトとしてかなりの力を入れているにもかかわらず、なかなか思い通りに行っていないことを、JVCの側が明確に認識していた。前述のように、共同体の活性化や民主化の度合いの一般的な指標化が困難なだけに、ジェンダーの問題を農村開発にいかに有機的に組み入れ、それを着実にモニターしていけるかが、住民参加の鍵となる。その認識がJVCの側にないわけではないが、外から価値観を押し付けるのではなく、住民のニーズと理解に基づく形で女性の社会参加を推進していくための技術や状況分析という点で、物足りないものがあった。働きかけの割には、村の組織などにおける女性の参加の割合や関与の度合いに、以前と比べて目立った変化が生じていないのは、そのためと考えられる。

(3-c)地域社会、生活共同体の開発の視点からみたプロジェクトの成果(インパクトと 自立発展性)

 この視点からみたインパクトが、当プロジェクトの随所に垣間見られたことは確かである。但し、外から入ったプロジェクトが、生活共同体が持続的かつ自立的に発展していくだけのインパクトを与えるためには、村人の現実と意識に関する深い洞察がこちら側に必要であり、プロジェクトは常にそれに基づいて組み立てられ、展開されなくてはならない。すなわち、「具体的な問題・課題の摘出と認識 → その分析と結果の共有 → 解決方法の発見 → アクションプランの作成 → 実施…」という一連の過程において、それぞれの段階で、村人の意識と現実に応じた適切な働きかけを行っていくことが要求される。コミュニティ・ディベロップメントに対するJVCの取組みは、現段階では総じて啓発的要素が強く、それを可能にするだけの高い技術をスタッフ側が更に備える必要があると感じた。

 プロジェクトがそもそも予定してた成果ではないが、JVCのアプローチを聞きつけて、ZOA(ZOA Refugee Care Netherlands)、NCA(Norwegian Church)、CAA(Community Aid Abroad)などの在ラオスの欧米NGOが接触してきて、彼らを対象に実地の「村人主体の土地森林移譲」の研修を行い、JVCのアプローチがプロジェクト対象地域以外にも広がっている(波及効果が出ている)ことも本プロジェクトのインパクトとしてあげられよう。

 もともとが困難な目的に対して、前述のような評価は辛口に過ぎるとも言えるが、コミュニティ(社会)に対して真に何を残せるかを、常にシビアに追及することを現場におけるNGOの存在意義のひとつて再確認したい。

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