3-2. プロジェクトの概要
3-2-1. プロジェクトのフレームワーク
農林複合プロジェクトは、JVCが1993年から1996年にかけてカムアン県で実施した森林保全プロジェクトにおいて、県の森林土地移譲の県令作りの支援や先例的な村落共有林登録を行った活動を引き継ぎつつ、新たに自然農法の普及とジェンダー(男女対等な参加)をプロジェクト目標に加え、三者を融合させた農村開発プロジェクトである。JVCはプロジェクトの目標として以下の5項目を挙げている。
プロジェクト目標: | 1) | 森林、その他の自然資源の保全と持続可能な利用 |
2) | 化学肥料・農薬を使用しない自然農法の実現 | |
3) | 村人、特に貧困農民の生活向上 | |
4) | 村人の自立と連帯の強化 | |
5) | 生活の諸側面における男女の対等な参加 |
プロジェクト対象地域はカムアン県6郡(ターケーク郡、マハーサイ郡、ヒーンブーン郡、セバンファイ郡、ニョマラート郡、ナカーイ郡)の25村である。活動内容は1)森林保全、2)自然農業、3)ジェンダー(男女対等な参加)の3つに大別されるが、JVCではこの3つは密接に関わり合っていると位置付けている。すなわち村人が自分達の手で身近にある森などの資源を管理・利用し、守って行く活動を継続する一方、豊かで安定した生活を望む村人のニーズに応えるために「自然農法=森林に代表される自然の摂理に従った農業」の普及を進める。また家事、生産活動、社会生活など生活全般に女性の意見が反映されるよう、女性の積極的な参加と男性の意識改革を促す活動も並行して進めることにより、村民全体のキャパシティーを向上させ、森林保全と自然農業の諸活動にもプラスの効果をもたらすとの考えである。
そしてJVCでは1)森林保全、2)自然農業、3)ジェンダー(男女対等な参加)に係わる諸活動を村人自身が持続的に行っていけるようになることを最終目標としている。従って基本的なプロジェクトの枠組みは、住民参加型でボトムアップ型の農村開発であり、プロジェクト活動も住民参加型アプローチに沿うかたちでデザインされている。
プロジェクト活動の主なものはラオス側カウンターパートであるカムアン県農林局、同県女性同盟、及び対象地域住民に対する啓発活動、オルターナティブの提示・普及、情報提供、研修・スタディー・ツアーの実施、調整・助言活動などである。情報提供や人的資源開発などソフト分野中心の支援を行うことであった。JVCからの投入は、予算規模では3年間で約3500万円、人的投入は日本人専門家2名、ラオス人スタッフ2名である。
なお上記に述べたプロジェクト概要は、25頁の表3-1:JVC「カムアン県農林複合プロジェクト」プロジェクト・デザイン・マトリックス(PDM)にまとめてあるので、参照願いたい(本調査に際して日本人側で作成したものである)。
3-2-2. プロジェクト活動の概要
(1)森林保全に関する活動
森林保全に関する活動の主なものは、土地森林移譲手続きを通しての村の共有林作りを支援する活動である。土地森林移譲とは、国が持つ土地森林の管理利用権を村ないし個人に移譲して、その保全とともに生産を奨励するラオス政府の森林政策の一部であり、その手続きを通じて村人が「自分達の森」を持てるようになる制度である。これまで村では慣習的に管理・利用する共有林は存在したものの、村の管理利用権が法的な裏付けを伴ったものではなかったため、外部の伐採業者による不法伐採などに対しては、有効な対抗手段となり得ていなかった。また村人自身による伐採や焼畑に伴う伐採を防止するために一定の規則を定める必要もあった。
土地森林移譲手続きを経て法的に認められた共有林は、その利用形態によって以下の7つの種類に分類される(ただし必ずしも全ての村の共有林が7種類の森林区分を持つとは限らない)。
共有林の種類: | 1) | 保護林:生態系や生物の多様性を保護するための森林 |
2) | 保全林:水源を保護するための森林 | |
3) | 再生林:豊かな森へと戻すための森林 | |
4) | 利用林:生活のために利用可能な森林 | |
5) | 荒廃林:耕作や植林が可能な森林(著しく破壊され農業、畜産などの他の目的に転換されるべく住民に分配可能な土地) | |
6) | 精霊林:精霊信仰により先祖の霊が宿ると信じられている森林 | |
7) | 埋葬林:死者を埋葬するための森林 |
土地森林移譲手続きを通しての村の共有林作りを支援するためにJVCは「村人主体のアプローチ」を追求している。「村人主体のアプローチ」とは共有林作りための諸活動の全ての過程において、村人が主体的な意思とリーダーシップを持って関与するいわばボトムアップの住民参加型のアプローチである。その活動においては村人が主体であり、JVCはその活動を側面から支援するファシリテイターの役割を果たすことである。
そのためにJVCは森林の重要性、土地森林移譲の意味や目的などについて絵やビデオなどを使って村人に紹介し、必要な情報を与えた。また村人が森林の区分計画を行えるよう森の実況検分を手伝ったり、区分計画案に対してアドバイスを与えたりした。利用規則の策定や森林管理委員の組成についても支援を行った。それと並行してラオス国内でのスタディー・ツアーや研修を県郡行政官及び村人を対象に実施した。
<「村人主体のアプローチ」による共有林作りのプロセス>
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本プロジェクト全体の対象25村のうち土地森林移譲の対象村は18村であったが、結果として18村のうち15村で土地森林移譲が終わり、当初対象にしていなかった1村を含めて、これまでに16村で土地森林移譲が完了した(そのうち第1フェーズは7村、第2フェーズは9村であった)。また上記16村で森林管理委員会が組織された。
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村人だけの話し合いによる計画案(1998年7月31日) ※当初計画案と最終案の大きな違いは、当初計画案で村人が利用林として選んだ森の一部(東側及び北側の一部)を、利用林から保護林に変更したことである。これは当該部分が自然林であったため、JVC、県・郡行政官側が、村人に保護林として残すように働きかけ、話し合いの結果、森林区分図の修正を行い、当該部分を保護林とし、一部を利用林とする村人との折衷案として、最終案がまとめられた。 |
森林の検分、測量終了後、村人、県・郡行政官、JVCとの話し合いにより決定した最終案(1998年8月17日)
(2)自然農法に関する活動
自然農法普及の活動としては、タイへのスタディー・ツアーを実施し、自然農法や複合農業への取組みの実例を県郡行政官及び村人に紹介した。またJVCタイの農業専門家を招き、村人を対象に自然農業研修を実施した。村で行った研修では自然農業の理論面とともに、緑肥、堆肥、マルチング(敷藁)を活用した農法などの実践的な農業技術の紹介を行った。また研修に参加した村人を説明役にして、その他の村人に対する自然農法の紹介を行った。さらに村人にわかり易いようにイラストを多用した自然農業マニュアルの作成も行った。現在、自然農法の普及活動は対象25村のうち14村において実施されている。そのうち2村を重点村と位置付けて、自然農法を実践するための農園作りや、その中心となる共同池の掘削、共同池での養魚などの活動を重点的に支援している。ただし自然農法の研修は1999年より開始されたばかりであるので、各村での活動は研修を受けたJVCボランティアを中心として、実験農園において個人レベルで試験的に取組みを行っている段階であり、村全体への普及を目指した準備の過程である。
(3)ジェンダーに関する活動
ジェンダーに関する活動の主なものは県・郡行政官、女性同盟及び村人を対象とした研修である。この活動は特にカウンターパートである県女性同盟との協力のもとに進められた。大きな成果としては、ジェンダー・ハンドブックを作成し、それを用いて、村レベルでのジェンダー研修に加えて、各村での村の女性の先頭に立って活動を担ってゆく女性ボランティアの育成を行った。また、カウンターパートである県・郡の女性同盟及び農林局行政官が、自分たちで村人に対してジェンダー研修をおこなうことができるよう、カウンターパートに対する研修も行った。
(4)スタディー・ツアー及び研修の実績
上記の森林保全、自然農業、ジェンダーに関する活動に関して、実施したスタディー・ツアー及び研修の実績は、以下の通りである。
回数 | 対象者 | 人数(のべ) | ||
対象者別 | 計 | |||
森林保全 | 1回 (国内) |
県・郡行政官 | 17人 | 35人 |
村人 | 18人 | |||
自然農法 | 2回 (タイ) |
県・郡行政官 | 13人 | 25人 |
村人 | 12人 | |||
(合計) | 3回 | 県・郡行政官 | 30人 | 60人 |
村人 | 30人 |
回数 | 対象者 | 人数(のべ) | ||
対象者別 | 計 | |||
森林研修 | 1回 | 県・郡行政官 | 44人 | 47人 |
村人 | 3人 | |||
農業研修 | 1回 | 県・郡行政官 | 5人 | 38人 |
村人 | 33人 | |||
ジェンダー研修 | 2回 | 県・郡行政官 | 31人 | 73人 |
村人 | 42人 | |||
女性ボランティア研修 | 1回 | 県女性同盟 | 3人 | 16人 |
村人 | 13人 | |||
米銀行経験交流及び評価会 | 1回 | 県・郡行政官 | 4人 | 24人 |
村人 | 20人 | |||
(合計) | 7回 | 県・郡行政官 | 84人 | 198人 |
県女性同盟 | 3人 | |||
村人 | 111人 |