3-1. プロジェクトの背景
3-1-1. ラオスの農業セクター
ラオスは1975年以来の計画経済の行き詰まりを打開するため、1986年に「新経済メカニズム(NEM: New Economic Mechanism)」と呼ばれる経済改革に着手し、銀行制度、税制、外国投資法の制定、国営企業の民営化などの幅広い分野での措置を通じて、市場経済の導入による開放経済政策を推進している。1997~98年度の統計によるとラオスの一人当りGDPは300ドルであり、総人口約520万人のうち85%が農林水産業の第一次産業従事者である。ラオスの主要産業は、農林水産業(GDPの51%)、製造業(同21%)、サービス業(同27%)である。1996年における主要輸出産品は、テキスタイル及びモーターバイク(37%)、木材及び木材加工品(33%)、電力(10%)、コーヒー及び紅茶(7%)となっている。
ラオスの農業における基幹作物は水稲、ことにもち米である。主要農産物は米のほか、トウモロコシ、イモ類、野菜・豆類、園芸作物ではマングビーン(文豆)、大豆、落花生、タバコ、綿花、サトウキビ、コーヒー、紅茶などが生産されている。一般的に灌漑施設は整備されておらず、農作物は多くは天水を利用して耕作されており、収穫の安定性には乏しく、地域差も激しい。さらに国内流通網が未発達のため地域間の食料移送も十分に行われていない現状である。そのため国内の米の需要を満足させるために海外から米を輸入している。米の生産構造をみると、低地天水田の雨季作で全体の70%、低地灌漑の乾季作で2%、雨季作陸稲で28%となっている。
ラオス政府は1997~2000年における開発政策として、1)食料増産、2)商業生産の拡大、3)移動耕作(焼畑)農民の定住化、4)地方開発、5)基盤整備、6)対外経済関係の強化、7)人的資源開発、8)サービス分野の開発の各分野に関連した8つの重点政策1を推進することとしている。その中でも農業セクターにおいては、生産的な農林業及びサービス業の確立とこれに伴う基盤整備及び人的資源開発による農村における生活水準の改善という点を重視している。作物生産分野については、1)米自給の達成、2)国内・海外市場向けの作物の多様化、3)農業化工業の開発など、畜産分野については、1)ワクチン生産所の機能強化及び民営化、2)飼料及び家畜衛生に関する普及事業の改善、3)養魚を含む水産業の振興・普及の改善など、灌漑分野については、1)農民及び共同体の灌漑事業への参加促進、2)水の農業システムへの有効利用、3)適切な政府支援を可能にするための基金の設立などを政策目標としている。
3-1-2. ラオスの森林政策及び土地森林移譲政策
ラオスでは近年の森林破壊の悪化が重大な問題として認識されている。例えば1968年には国土面積に占める森林の割合は68%(16百万ヘクタール)であったが、1989年には47%(11百万ヘクタール)まで落ち込んでおり、1968年から1989年までに年平均23万ヘクタールづつ減少してきている。この主な原因は、伝統的に行われている焼畑による移動耕作農業と、無計画で無秩序な森林伐採であるとみられている。そのため近年のラオスの森林政策の基本は、水資源や生態系の保全及び国土保全など環境保護の立場から森林を保全しつつ、一方で貴重な輸出産品である森林資源の持続的な開発を目指すことに力点を置いている。
ラオス政府の第四期5ヵ年計画(1996~2000年)における森林・林業分野の重点政策は、森林保護と持続的な森林経営の強化、及び市場経営下における生産システムの導入の2点である。そのための具体的な活動項目として、以下の5項目を挙げている。
1) | 焼畑面積の縮小(特に灌漑地域、ダム集水域)のための農民支援 |
2) | 森林回復のための植林奨励 |
3) | 森林資源の調査及び森林計画策定 |
4) | 資源保全地域(保全林)及びダム集水域の調査・管理 |
5) | 森林資源充実及び林産業の生産性向上 |
この森林の保全及び管理と経済的利用を両立させるとの方針に従って1993年以降に導入されたのが、土地森林移譲政策である。ラオスでは土地の所有権については基本的には全て国に帰属することとなっているが、土地森林移譲政策とは森林及び土地の管理・利用権を国から地方自治体、村、個人、企業体に対して与えるものであり、これにより移譲を受けた地方自治体、村、個人、企業体は移譲を受けた森林に対して自らが管理する権限と責任を負うと同時に、植林などを進めてそこから経済収益を上げることも可能となる。森林管理の原則は、環境に影響を与えることなく持続的に森林や森林地を利用することと定められている。そして森林の管理・利用権を得るためには国と契約(集団森林契約、家族森林契約、事業森林契約の3種類がある)を結ばなければならない。また、土地森林移譲を受ける森林は保護林、保全林、利用林、再生林、荒廃林などの森林区分に区分けされ、それぞれの区分の管理指標に従って、管理・利用されなければならないことと定められている。
ラオスにおけるこれまでの土地森林移譲の実施状況を見てみると、1999年9月末現在で国内の6,330村で実施されている。これは全国11,386村のうち55%に相当する。また土地森林移譲により新たに生じた農地の一部が308,909家族に分与されている。そして土地税徴収による税収の増加への効果もみられる。JVCプロジェクト対象地域であるカムアン県の場合、カムアン県下全800村のうち86村において土地森林移譲が完了している。同県では2000年までに新たに69村において土地森林移譲を行うという目標を掲げている。
3-1-3. JVCのラオスにおける活動
JVCは1989年よりカムアン県を含むラオス4県において、女性の生活改善普及員を養成し、井戸掘り、トイレ作り、家庭菜園等を中心とする生活改善プロジェクトや、農村開発ボランティアを養成し、養鶏・織物の回転資金、米銀行の活動を支援する農村開発プロジェクトに取り組んできた。その活動を行う過程において、JVCは村人と森との密接な関係を理解するとともに、近年みられる森林破壊が村人の生活を脅かしているとの認識を持ち、1993年よりカムアン県において従来の農村開発プロジェクトに代わって、森林保全に重点を置いた森林保全プロジェクトを開始した。これは村人が慣習的に行ってきた森の管理と利用を、土地森林移譲法の手続きを踏むことにより、法的に村人に保障する活動を支援するものである。
その後1996年に森林保全プロジェクトの契約が終了するにあたり、カウンターパートであるカムアン県農林局、同県女性同盟、及び村のJVCボランティアと今後の対応策とカムアン県の村が置かれている状況の分析を行った。そして森林保全に対する村人の意識は向上しつつあるものの、一方で農業生産と生活の向上に対するニーズが村人の間に強く、また灌漑や化学肥料・農薬などを使用した近代農法が徐々に導入されつつあるとの認識に至った。その結果、森林保全と並行して、化学肥料や農薬を使用せずに農業生産の持続的な向上を目指す自然農業の普及をプロジェクトの主要コンポーネントに加えることとし、1997年よりカムアン県において農林複合プロジェクトを開始した。
1 ラオス政府は1997~2000年の4ヵ年で達成を目指す3つの上位目標である1)2000年までに年平均経済成長率8~8.5%を達成し、一人当りの所得を500ドルに引き上げる、2)政府支出のうち少なくとも20%を教育、医療・保健、社会福祉などの社会セクターに投資する、3)地方における道路、給水、電気、食料及び商品生産、社会サービスへのアクセス、所得を生むための諸活動など力点を置いた社会経済開発を通して貧困撲滅目指すこと、などを実現するための手段として、この8つの重点政策を位置付けている。