2-2. 案件評価の概要
2-2-1. NGO案件:JVC「カムアン県農林複合プロジェクト」
□ プロジェクトの概要
カムアン県において、1993年来JVCは森林保全に重点を置いた活動を展開していたが、1996年の契約終了時にあたり、1997年以降のプロジェクトとして、農業生産と生活向上も視野に入れたプロジェクトの展開を目標とし、新たなプロジェクトの形成を行った。
このプロジェクトの実施期間は、1997年の7月から2000年の6月までであり、カムアン県の6郡25ヵ村を対象とする。プロジェクトの目標としては、1)森林、その他の自然資源の保全と持続可能な利用、2)持続可能な農業の実現、3)村に生きる人たち、特に貧しい人たちの生活向上、4)村の人たちの自立と連帯、5)生活の諸側面における女性と男性の対等な参加、の5つである。
そして、特に活動面においては、1)森林保全、2)自然農業、3)ジェンダー(男女対等な参加)の3つの要素が強調されている。
以上の方針に従って、これまで、森林保全においては、「土地森林移譲」の支援、自然農業においては、タイへの研修旅行の支援、緑肥による土壌改善の支援、ジェンダー(男女対等な参加)においては、ジェンダー研修などを行っている。また、特筆されるべきは、村人主体の土地森林移譲マニュアルの制作、村人に分かりやすい農業のマニュアル制作、さらに、ジェンダー・ハンドブック制作を行っている点である。
□ 調査の概要
調査初日は、午前中にJVCのターケーク事務所において、JVC側からの、また、カウンターパートのカムアン県の行政職からの本案件についてのレクチャーを受けた。同日午後、ニョマラート郡ピッシーカイ村を訪れ、村長宅でプロジェクトにかかわる主だった村人たちと面談、主に「土地森林移譲」にかかわる質問をし、プロジェクトのコンポーネントの一つである森林保全に対する理解を深めた。
第2日目は、ヒーンブーン郡ノンプー村を訪れ、午前中には、実際に「土地森林移譲」の終了した村の森の、保護林の部分を踏査し、同道した村人たちと県の森林部の行政職にインタビューを試みた。また、午後は、「自然農法」に関して、同村の農家、農地を視察し、同道した村人たちにインタビューを試みた。
最終日の第3日目は、再びJVCターケーク事務所でJVC、県の行政職との評価ミーティングを行い、前2日の調査に基づく調査結果の要点を共有し、また、プロジェクト全般に関する意見交換を行った。
□ 評価結果の概要
1. 経済面の開発(Economic Development)の視点からの評価
「森を守りながら農業生産と生活を向上させていきたい」という村人たちの希求が、「自然農法による農業生産の向上」というコンポーネントを本案件に取り入れた理由である。この「自然農法」を採用したことについては、大規模灌漑や化学肥料、農薬を使用する「近代農業」の環境破壊を未然に防ぎつつ、また、多額の投資を必要とする「近代農業」の村における「非現実性」を見通しつつ、環境の面からも、また経済的にも、村人による持続可能な選択肢としての理由があったと思われる。
この発想そのものは、JVCが一貫して追及してきた「環境保全=村人の生活環境保全」という視点と完全に論理的整合性を持つものである。また、JVCがイメージする「自然農法」自体、ある程度の高度な技術と経験を要するものであり、それを積極的に学ぶ村人の主体的参加なしには成り立ち得ないという点から、常に村人の参加を得てプロジェクトを行っていこうとするJVCの基本的方針をよく反映したものとなっている。しかしながら、問題点がないわけではない。それは、目標設定の曖昧さと手法の選択の曖昧さである。
まず、農業生産の向上とは何かという点での目標としては、JVCによると生産を向上させる当面の目的は、第一義的には主食(米)に限らず野菜・蛋白質の自給を達成することであり、新たな商品作物の開発は二義的な位置付けである。しかし具体的な数値目標は一切示していなかった。またこの自然農業の活動は1999年より開始されたばかりでもあり、現在は試行段階であり本格的活動へ発展するまでには一定の時間の経過を待たなければならない。
このため、いわゆる「自然農法」が果たしてその目標達成に適したものかどうかの判断も、実は留保せざるを得ない(この「自然農法」という表現については、村人にとっては今までの農業のやり方と一体どう違うのか明確でないため、JVCでは「化学的な投入を行わない複合農業」と呼称の変更を考えているとのことである)。ともあれ、目標のもう一つの側面、すなわち「近代農業」による予測しうる環境破壊の予防としての「自然農法」なら、すでに現在でも村人たちが行っているのは「自然」な農法なのである。
また、経済面での開発という視点から、すでにあるリソース(資源)を活かすということを考えた場合、森を保全、保護の対象としてだけでなく「保全しながら活用する」ことを考える余地がある。伐採の危機にさらされている時期での保護、保全の重要性は認識するものの、第2フェーズ以降の経済面も含めた段階で、もっと良い形での活用を考えるのも大事な視点だ。すなわち、現在村人たちがすでに持っている財産は森であり、「木材」である。適正な林業の導入は、「土地森林移譲」によって、環境破壊に関しては一息つける現在こそ、最も適したタイミングであろう。これは、むしろラオスの農業政策の根幹にかかわることなので、軽々に行えないことではあるかもしれないが、政府に対するアドボカシ(提言活動)の点からも、一考の価値はあると考える。
2. 環境面の開発(Ecological Development)の視点からの評価
この部分の活動が、JVCのプロジェクトにおいては、ある意味では最も精彩を放つところである。「土地森林移譲」という制度上のチャンスを捉えて、住民参加型の環境保全、保護をプロジェクトとして組み立てるというのは、JVCのこれまでの経験と方針を活かす上での優れた着想である。また、村人たちの理解と参加を得るために、ビジュアルな要素を取り入れた入念な「教材」を用意し、カウンターパートとの連携もできうる限り緊密なものにし、この点でのカウンターパートへの技術移転を意識的、意欲的に行おうとしている。
ただ、「土地森林移譲」という法のサイドから認識した森と、村人の旧来の慣習から認識した森との間には、若干であるが無視できないズレがあるようだ。これが端的に現れるのが、保護林に関する認識である。法では、保護林とはエコロジカルなバランスを維持するための保護林である。すなわち希少種の保護も含めた生態系の維持である。それに対して、村人の認識は必ずしも近代的な意味での生態系の維持ではなく、子孫に対する財産の保持といったニュアンスが強い。すなわち、子孫のために維持し、森の利用については、子孫の手にゆだねる。そのとき、可能性としては必ずしも保護だけではないのである。これは推測の域を出ないが、村人にとって、絶対保護すべきはある種の禁忌を伴った「精霊林」だけであり、これを守れるか否かは共同体の存続そのものにかかわる重要性を持つはずである。保護林とは、利用できる森と「精霊林」の中間程度の緩やかな認識ではないのだろうか。この点の研究と分析を綿密に行う必要がありはしないだろうか。また、保全林と再生林の定義、再生林の利用のタイミング、その経済的価値の見積もりなど、法を施行する側の技術的不備も見受けられた。
以上、「土地森林移譲」の実施以後の課題として解決しなければ、現在は若干の意識のズレであるものが、将来的には大きなズレになっていかないものとも限らない懸念がある。
3. 地域社会、生活共同体の開発(Community Development)の視点からの評価
いわゆるコミュニティ・デベロップメントの側面から、JVCの案件を検討してみると、3つの要素があることが分かる。1つは、参加型のアプローチをいかに行政に伝えていくか。これは、参加型開発の技術の地元行政への移転である。2つ目は、既存のCBO(Community -based Organization)をいかに案件の目的に向かって活性化していくか。あるいは、目的に見合った新たなCBOなり、機能なりを作り出していくか。3つ目は、ジェンダーにかかわる女性の参加である。以上の3要素のうち、特に成果が著しいと思われるのが、最初の行政への技術移転である。これは、地元行政が土地森林移譲におけるJVCのアプローチの有用性を評価し、彼らにはない技術を持ったJVCを土地森林移譲のプロセスにうまく取り込む(あるいは利用する)ことにより法律の実施を促そうとする意識があり、地元行政をして、JVCとの連携を積極的に模索させるようにしているかもしれない。いずれにせよ、村民の理解を得るとはどういうことか、ということを、地元行政の職員がJVCの活動を通じて学んでいることは明らかである。また、このような方法論が結局は自分たちの仕事をやりやすくしているという自覚も充分あるようである。この点で、JVCのプロジェクトは効果があったというべきである。
2番目のCBOの活性化という点に関しては、最も難しさを伴う試みかもしれない。すなわち、それが実質的なものかどうかは別にしてボトムアップ、すなわち、下からの民主主義というのは、社会主義の建て前だからである。社会主義革命が下からの、民衆の自発的闘争に支えられて成り立つというのは、社会主義のある意味ではRaison detre(存在理由)である。従って、それが果たして建て前通りの機能と役割を果たしているかどうかは別として、「下からの民主主義」を表現する語彙にことかかないのが、社会主義国家における社会だという認識は必要である。であるから、プロジェクトの実施側がこの点を考慮に入れた然るべき評価の指標を持ち、しかもそれを参加を促される側の住民と共有していなければ、住民の言語としての「表現上に現れる参加」と「実質的参加」の間の乖離は大きなものとなる可能性がある。この点に関して、今回我々が訪れた2ヵ村のいずれにおいても、これが従来の上意下達式の意識を超越した関わりなのか、それとも、上意下達の一種としての関わりなのか、住民側の反応を明確に見極めるだけの材料がなかった。
ジェンダーの問題に関しては、むしろJVCの方が、なかなか思い通りに行かず頭を悩ましていることを我々に知らせてくれた。この点に関していえば、ジェンダーの問題が住民参加の鍵であるという認識は妥当なものといえるが、ジェンダーの問題を農村開発にいかに有機的に組み入れていくかという技術と経験がいささか不足しているように見受けられた。
総じて、コミュニティ・デベロップメントに対するJVCの取組みは、啓発的要素が強く、住民の意識レベルの改革を伴うまでに発展させるには、さらに長期的な取組みが不可欠であろうし、またそのための技術についても一層の工夫の余地があるように思える。
2-2-2. ODA案件:JICA「ヴィエンチャン県農業農村開発計画フェーズII」
□ プロジェクトの概要
JICAの案件である「ヴィエンチャン県農業農村開発計画フェーズII」は、準備段階であるフェーズI(1995年11月から1997年10月まで)を経て、現在実施段階であるフェーズII(1997年11月から2002年10月まで)の第3年目にさしかかっている。プロジェクト目標は、「ヴィエンチャン県のプロジェクト対象5村で農民参加による持続的な農業農村開発のための方法および技術か確立されること」であり、その上位目標は、「ヴィエンチャン県において農業農村開発が推進されること」である。
プロジェクトの分野別の活動としては、以下の5つに大別される。
1) | 農業農村開発計画として、農民組織育成および事業推進のための企画・調整・推進 |
2) | 農業基盤整備として、農業用水路、村落道路、農地保全などの整備のための調査、測量・設計および工事発注契約・工事監督・施工管理など |
3) | 農業生産技術として、稲作 / 野菜 / 果樹 / 畜産 / 養魚などの現地適応型農業生産の試作・展示効果による普及 |
4) | 農村生活環境整備として、農村生活用水 / 生活環境衛生施設 / 小学校校舎改善など |
5) | 研修分野として、政府職員、農村リーダー、農民に対する農業農村開発計画、農業基盤整備、農業生産及び生活環境整備に関する各種研修の実施 |
ただし、事業対象となる5村一律に以上の事業を行うのではなく、それぞれの村の特性に合わせて、事業内容は異なっている。
また、その他の関連事業として、 JICA開発福祉支援事業で、1998年度後半から地域衛生環境改善事業が展開されており、さらにJICA森林保全造林プロジェクトとの連携が行われている。プロジェクトは、現在、ほぼ予定通りの進捗状況である。
□ 調査の概要
第1日目は、まず対象村の優先順位第1位であるナムニャム村を訪問し、灌漑施設、水稲後作の野菜試作圃場などを視察し、JICA専門家たち及びカウンターパートの行政職たちの説明を受け、村長以下の村の関係者をインタビューした。ついで、プロジェクト事務所に赴き、専門家、ラオス側カウンターパートとのミーティングを行い、当方より評価方針の説明を行い、先方よりプロジェクト全般、及び進捗状況についての説明を受けた。
第2日目は、午前中にバンキー村、午後にはポンホー村を訪問し、給水塔、菜園、堰堤、備蓄米貯蔵所などを視察した。また、前日と同じく、現場にてJICA専門家たち及びカウンターパートの行政職たちの説明を受け、村長以下の村の関係者をインタビューした。
最終日の第3日目は、プロジェクト事務所において、前2日間の調査に基づく調査結果の要点を共有するミーティングを、JICA専門家たち及びカウンターパートの行政職たちと持った。
□ 評価結果の概要
1. 経済面の開発(Ecinomic Development)の視点からの評価
経済面の開発のための注入は、様々な側面からなされている。それは、プロジェクトの活動分野の農業基盤整備と農業生産技術を一見するだけでも明らかである。すなわち、食糧増産、特に主食の自給を目指した増産のための注入、商品作物開発のための注入は意欲的に行われている。また、それらの注入は、なるべく環境に配慮し、村人が習得可能な技術レベルのものが目指されている。しかしながらプロジェクトは現在進行中であり、最終的に対象5村及び地域経済にどれほどの経済面でのプラスのインパクトをもたらしたかについては、プロジェクト終了時に改めて評価する必要がある。
本調査の過程においてNGO側とODA側との間である点において議論が分かれた。すなわち両者はプロジェクトの投入がもたらす経済面の開発への貢献を評価する一方、プロジェクトの持続性(すなわちモデル性)とその投入規模の妥当性については、それぞれの見方が異なった。
本プロジェクトの目標は「ヴィエンチャン県のプロジェクト対象5村で参加型で持続可能な農業農村開発の手法と技術が確立される」ことであり、さらにその上位目標は「ヴィエンチャン県で農業農村開発が推進される」こととなっている。
このプロジェクトのフェーズIの終了時評価において強調されたのは、モデル性ということである。モデル性とは、モデルとして普及可能だということであり、普及が可能でなければモデル性がないということである。特に、このプロジェクトで対象として選ばれた5村は、将来的なプロジェクトのヴィエンチャン県全体への展開を念頭に置いたショーケースとしての役割が与えられている。そして、このモデル性のモデルであるためのもう一つの大きな前提が、プロジェクトが持続可能であるということである。持続可能であるとは、終了時評価の言葉を借りれば、「適切な維持管理が行われ、事業効果が永続的に現れるとともに、本件と同様のプロジェクトがラオスおよびヴィエンチャンの他地域においても実現可能である(波及し得る)ことを意味している。」
JICAプロジェクトの投入面について見てみると、フェーズIの期間を含む1995年から1999年までの5年間に、本プロジェクト総予算は約2億1千3百万円(その内1997年から1999年までの3年間のプロジェクト基盤整備費は約8千万円)。その他に専門家派遣費用として約3億6千万円、研修員受入費用として約3千6百万円がプロジェクト費用とは別枠で計上されている。
NGO側はJVCとの比較において前提条件を同じにする意味でも、専門家派遣費用等もプロジェクト実施に必要な投入費用に含めて考えるべきであるとの立場にたち、その上で単純に1村あたりの投入費用(予算ベース)を算出すると約1億2千万円であり、現在のラオスの国家財政能力や、さらに対象5村のモデルとしての位置付けを考えた場合、1村あたりのプロジェクト関連投入費用が約1億2千万円、過去3年間に投入したプロジェクト基盤整備費が1千数百万円という規模は、果たして適正なものであろうかという見方である。
それに対してODA側の考え方としては、プロジェクト・コストのうち、専門家派遣費用、研修員受入費用については、ラオス側の人材をプロジェクト協力期間中に育成するために必要な経費であり、協力期間終了後は発生しない経費であり、ラオス側が行う5村以外への普及の際には必要とならない経費である。また、農村基盤整備に関しては、基盤整備についてはラオス中央政府(国)およびヴィエンチャン県が整備し、末端施設については受益者も応分の負担をして整備することを前提にプロジェクトを進めており、その際の資金調達先としては国家予算の他、ADBローン等の借款を想定し、またヴィエンチャン県独自の事業として灌漑施設整備も行われている。従って、このような前提に立てば、本プロジェクト対象5村での基盤整備活動と同程度のことは、5村以外の村においても普及可能であり、妥当であるとの考えである。
この両者の意見の相違は、プロジェクトに係るNGO側とODA側のモデル概念に対する考え方の違いから生じていると言えよう。
2. 環境面の開発(Ecological Development)の視点からの評価
農業技術の改良において、現場の専門家たちが極力配慮しているのが、環境であるということは、よく見て取れる。例えば、灌漑用の水を汲み上げるポンプの動力を自転車を利用して作ったり、商品作物開発にも極力化学肥料の使用を避けている。また農業基盤整備に係る構造物の建設でも、工法、技術、設計、設置場所、規模などの面で、環境配慮を取り入れており、専門家たちは与えられた条件の中で、最大限の努力をしている。現在の活動を見る限りでは、プロジェクト活動は環境への配慮と調和に意欲的に取り組んでおり、十分に評価できる。
3. 地域社会、生活共同体の開発(Community Development)の視点からの評価
言うまでもなく、住民参加はこのプロジェクトの成否を担っている。なぜなら、繰り返すように、このプロジェクトの使命はモデルであることであり、モデルであるということは、普及可能である、ということであるからだ。それを別の表現でいうなら、外部からの注入が終わっても、住民自らが課題の分析を行い、行動計画を立て、実施し、評価し、フィードバックを行うということが可能であるということである。これがまさにコミュニティ・デベロップメントの本質であり、プロジェクトの持続性を保証するものなのである。
さて、この住民参加の基本となるのが情報の共有である。その場合、特に農村開発で気をつけなければならないのは、情報を単に共有したという実績を作ることではなく、情報が相手に理解されるように伝わっているかという点について、不断の検証を怠らないことである。識字率がほとんど100%で、しかも新聞、テレビなどのメディアに日常的に接する社会の人間と、識字率が50%程度で、しかも新聞などのメディアに日常的に接することがない社会の人間とでは、ある種の情報に関しては、特にその社会にとってそれまで異質だった情報に関しては、明らかに理解の仕方がまるで違うということに、まず留意すべきである。
例えば、ナムニャム村の水利組合のリーダーが新聞を読むのは、国道沿いの近くの村の茶店で、2日か3日に1度である。彼は水牛を7頭、牛を38頭所有し、村では比較的裕福な存在である(この村の平均収入は約58万キップであり、水牛1頭の資産価値は大きな牛で約200万キップである)。その彼が、いわゆる村の外の世界の情報に接する頻度がこのような状態であれば、他の村人、特に女性(男性よりは圧倒的に識字率が低いと想像される)が外の世界の情報に接することはまれだと考えた方がいい。
このような状況に於いては、情報を伝えたことより、それがどのように理解されているかを、情報の伝達者の方がよく理解することが肝心なのである。このプロジェクトにおいては、住民とPCMのワークショップを行い、JICA専門家、ラオス側カウンターパート、住民の3者が一緒に協力して住民ニーズの把握、計画立案などを実施する一方、定期的に村落開発委員会を開き、活動の成果に対して評価を行い、その結果を次の活動に反映させるという取組みを行っている。このような一連のPDMに基づくモニタリング→フィードバックの過程を通じて、情報の送り手であるJICA専門家及びラオス側カウンターパートは、共有される情報が最終的な受け手である住民に十分に理解されているかを知ることができよう。この点については現場の日本人専門家は苦労をされたようである。
さて、このプロジェクトにおいて、しきりに強調されていたのが、農民組織の育成である。この場合、JVCのプロジェクトと同じく、既成の組織をコミュニティ・デベロップメントの視点から強化するのか、それともプロジェクトの目的に合った新たな組織を育成していくのか(当然、コミュニティ・デベロップメントの視点から)が問題になるが、このプロジェクトでは後者の選択肢が選択されている。この場合、既成の組織といかに「うまくやっていくか」が問題となるが、その点の見極めは、この調査では残念ながらできなかった。
しかしながら、自前の地域振興というこのプロジェクトの使命を果たすべく、これらの組織がダイナミズムを持ち得るかどうかは、プロジェクトの住民組織の育成・強化活動は未だ日が浅いため、今後のプロジェクト活動の方向性と成果にかかっていると言える。