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第2章 要約

2-1 概観

 今回、調査、評価の対象となったNGO、ODAの案件は、2件とも農村開発を主なテーマとしたものであり、同じ国の、しかもほぼ同じ文脈の中でのプロジェクトである。また、今調査団のNGO側の参加者3名はともに農村開発の専門家であり、このような案件を評価するための知識、技術、現場経験は十分に備えている。この評価される側と評価する側の条件が、ほぼ理想的な形で合致したため、今回の調査、評価は、案件の比較対照がしやすいものとなった。概要に移る前に、第1章で述べた評価視点に立って、それぞれの案件の骨格にあたるものを概観してみたい。

 JVCの「カムアン県農林複合プロジェクト」は、森林の保護という、いわば「環境面の開発」という視点からプロジェクトが出発している。それは、環境保護、すなわち住民の生活環境の防衛という流れの中で、「地域社会、生活共同体の開発」というところにまで行き着いている。しかも、これは生活環境の防衛という点から、住民の積極的参加なしでは、プロジェクトとして成り立たないものである。また、生活環境の防衛という点から、ある程度の法的な保護を必要とするものであり、その点でも、カウンターパートであるラオス側地方政府との緊密な連携なしでは成り立たない。

 しかし、同時に気をつけなくてはいけないのは、地元の住民にとって「森林保護=生活環境防衛」ではあっても、「環境保護=生活防衛」では必ずしもないということである。先進国からやってきた外部機関であるNGOは「環境保護=森林保護=生活防衛」という等式は成り立たないかもしれないという点に留意しつつ、対象となる社会の分析にあたる必要があるであろう。「なぜ森林が破壊されるか?」それは端的に言って、経済的外圧のせいである。ならば、この外圧を断ちきれば森林の破壊は防げるはずであるが、地元社会が外界と孤立して成り立つ環境はすでにない。そこに、社会のダイナミズムがあり、またこのようなプロジェクトの難しさがある。このプロジェクトの第2フェーズにおいて、「農林複合」としての農村開発が導入され、いわゆる「経済開発」の要素が入ってきたのも、このダイナミズムのゆえんである。

 JICAの「ヴィエンチャン県農業農村開発計画フェーズII」は、個別の農業技術ではなく農村開発という、JICAにとっては比較的新しい試みに属するものである。これは、単なる技術協力にとどまらず、より援助先の地域社会への影響を考慮するもので、いわば、インプットに対するアウトプットのみならず、アウトカムを重視するものである。例えば、教育プロジェクトの場合、当該プロジェクトにより教員数や生徒数が以前と比べてどのくらい増加したかのみを見るのではなく、それが地域社会にどのような影響を与えるかを重視しようという姿勢である。ゆえに、ここでも住民参加は、プロジェクトの成否を決める重要な要素となる。

 「ヴィエンチャン県農業農村開発計画フェーズII」のねらいは、「総合的な農村開発」であることであり、「総合的農村開発」モデルを作るということにある。また、それが、ラオスの農業政策と整合性を持ったものであることを目指す。このプロジェクトの基底には、そのため、米の自給と商品作物の開発という使命がある。それを、住民参加型の農村開発プロジェクトとして実施する試みである。すなわち、経済面の開発に方法論としての「地域社会、生活共同体の開発」の要素が加わったのが本案件であり、また、「環境面の開発」も望ましい要素として、できるだけ配慮されたものとなっている。すなわち、日本のODAの基本的課題の認識に沿ったものであり、また、その課題への対策として認識されたものを積極的に取り入れていこうとするプロジェクトだといえる。

 要約すれば、このプロジェクトの特徴は、経済面の開発に地域社会、生活共同体の開発と環境面の開発が加わったものと言えよう。それゆえに、もし、ここで基本となる経済面の開発が、従来の経済開発の発想を基本的に超越し得ていなければ、また、従来のものと異なる経済開発戦略が樹立されていなければ、地域社会、生活共同体の開発と環境面の開発の二者が、プロジェクト全体の有機的構成要素として機能しない恐れがある。そしてそのような基本的枠組みの非整合性が、現場でのプロジェクト遂行の妨げとなる懸念も生じる。この点の見極めが、今般の評価で一つのポイントとなるであろう。

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