(現地コンサルタント 伊藤康正、1999年3月)
援助形態 | プロジェクト方式技術協力 |
協力年度 | 1984年~88年 |
相手国実施機関 | メキシコ運輸研究所(通信運輸省の独立分権機関) |
協力の内容 | 精度の高い港湾水理研究体制の確立を目指して、(1)不規則波の性質(2)波浪観測と解析、(3)不規則派水理模型実験及び(4)漂砂の4分野における研究・実験と指導・助言を専門家派遣、研修員受け入れ、及び機材供与等によって実施する。 |
1.効率性
港湾水理センターの近代化の時期の後半に日本側の技術協力が行われ、当初の目的を達成し、所定の成果を上げて成功裏に終了している。また、プロジェクト方式技術協力の終了後に日本側が引き続き実施した各種技術協力は、メキシコ側の自助努力を支援する上で、タイミングも妥当であり、非常に効果的であった。
2.目的達成度
港湾水理センターに「水理実験」、「現地での観測」、及び「数値シミュレーション」という3つの要素を組み合わせた総合的な港湾水理研究所実施体制が確立されており、当初の目的は達成されたと言える。
3.インパクト
直接のインパクトとしては「不規則波」理論に基づく実際の波を考慮した実験と現地観測の結果の解析が可能となり、港湾開発の合理的な展開に大いに貢献できる体制となった。
4.妥当性
メキシコ政府は、工業港開発のより経済的で合理的な開発を行うためには、精度の高い港湾水理研究を行う必要があるとの認識を持っており、水理模型実験設備の近代化にかかる協力を要請している。よって、本件が選定・形成されてきた過程では、日墨双方の十分な共通認識の形成が行われていたと判断できる。
5.自立発展性
港湾水理センターは、1997年1月からメキシコ運輸研究所(IMT)への移管が行われている。IMTは財政的基盤もしっかりとしており、制度面・財政面の両面において自立発展性は非常に良好である。技術的側面及び人材の側面に関しては、実務的な調査研究が中心であった港湾水理センターの人材の学術面での実績の不足が指摘されている。
6.環境及びWIDへの配慮・影響
港湾水理センター側からは、「環境港湾水理」という新しい分野への参入に対する技術協力のイニシアティブが出されている。現在まで港湾水理センターが蓄積してきた波浪や漂砂に関する技術協力と経験は、港湾内部の複雑な水質汚濁メカニズムの解明だけではなく、港湾地区を発生源とする海岸地域全体の水質汚染メカニズムの解明にも役立ち得ると思われる。
7.今後必要とされるフォローアップ
水理模型実験施設を含めたセンター設備の移転工事が進んでおり、メキシコ側の自助努力は大いに評価すべきであるといえるが、据え付け後に移送中のトラブルを含めて、様々な問題が発生する可能性がある。予防保全的な処置も必要な時期にあるので、修理専門家派遣等の対応を検討する必要がある。
8.将来他のプロジェクトを実施する場合に教訓として活かされるべき事項
本協力終了後、メキシコ側の自助努力を支える形で、個別専門家と第三国研修による技術協力がおこなわれた。その後、港湾水理センターは、通信運輸省の外庁であるメキシコ運輸研究所の傘下に入り、メキシコ側の自助努力によって研究実験設備の新築工事が行われている。
プロジェクト方式技術協力のように大規模な協力が行われた後には、個別専門家派遣等で協力を継続することが、自立発展性を保証することになるだろう。協力の成果を制度として定着させるためには、カウンターパートの自助努力を支援する協力の継続が有効であることが、本件の経緯を見ると理解できる。
![]() 大型水路の全景 |
![]() 小型水路及び大型水路用の実験測定室材 |