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2 参考視察


日程

3月28日(日曜日) ブエノス・アイレス着
3月29日(月曜日) 在アルゼンティン日本国大使館打ち合わせ

在アルゼンティンJICA事務所
コルドバ着
3月30日(火曜日) コルドバ州厚生大臣表敬
サンロケ病院消化器診断研究センター
サンロケ病院院長表敬
コルドバ発
3月31日(水曜日) ブエノス・アイレス発


面会者リスト

アルゼンティン

在アルゼンティン日本国大使館
青木書記官
在アルゼンティンJICA事務所
大澤所長
コルドバ州厚生省
Nestor Costamagna州厚生大臣
Sra Maria Susana Risso
サンロケ病院消化器診断研究センター
Dr. Antonio Luis Higa

 チリ国、消化器がんプロジェクトの有識者評価を行うに際し、同様プロジェクトが、アルゼンティン国、コルドバ州のサンロケ病院で終了した。評価の参考のために、当該病院を視察した。


1 プロジェクトの概要

プロジェクト名:アルゼンチン・サンロケ病院消化器診断・研究センタープロジェクト

協力形態:プロジェクト方式技術協力

協力期間:昭和60年4月~平成2年3月

概要:

  • (イ)消化器内科を消化器病診断・研究センターとして分離独立
  • (ロ)消化器病診断・治療技術移転(早期発見・治療)
  • (ハ)同病院レジデント、国立コルドバ大学医学部学生、近隣諸州の医師に対する教育および再訓練

相手国機関:コルドバ州立サンロケ病院(17年建設)

内容:

  • (イ)アルゼンチン側予算でサンロケ病院の増改築(1986年)、消化器病診断・研究センター新設(86年9月24日開所)
  • (ロ)専門家派遣19人
  • (ハ)研修受け入れ13人
  • (ニ)機材供与268億円

2 アルゼンチンの保健・医療

アルゼンチンの保健・医療水準はラテン・アメリカの中では上位に位置している。

1)平均寿命:国際比率でみると、男68.17歳、女73.09歳(1990~91年)である。

2)死因(94年人口10万人あたり)

実数
(イ)心疾患 227.4 (29.5)
(ロ)悪性腫瘍 148.4 (19.3)
(ハ)脳血管障害 72.2 (9.4)
(ニ)不慮の事故 31.4 (4.1)
(ホ)糖尿病 21.6 (2.8)
(ヘ)その他 225.4 (29.3)


 で先進国型疾病構造を呈している。

3)出生、死亡、乳児死亡(人口千人対、1993年)

出生 667,518 (19.5)
死亡 267,286 (7.8)
乳児死亡 15,291 (22.9)


3 コルドバ州の主死因、及びがん死の統計(1996年)

1)主死因  実数 %
 呼吸循環器疾患 2,545 10.7
 心筋梗塞 1,937 8.1
 脳出血 1,193 5.0
 不整脈 872 3.6
 狭心症 862 3.6
 気管・気管支の悪性腫瘍 838 3.5
 糖尿病 816 3.4
 高血圧性心疾患 750 3.1
 肺炎 649 2.7
 消化器疾患 567 2.4
 乳房の悪性腫瘍 530 2.2
 大腸の悪性腫瘍 458 1.9


 参考までに胃がんは19位で333人(1.4%)である。

 全死亡実数は23,831人で三大死因は、悪性腫瘍(総計)が第一位で、心疾患、脳血管障害となっている。

2)がんによる死亡(1996年、5,237人)

(イ)肺がん 838 (人)
(ロ)乳がん 530
(ハ)大腸がん 458
(ニ)胃がん 333
(ホ)部位不明のがん 329
(ヘ)前立腺がん 314
(ト)膵臓がん 295
(チ)他の消化器がんおよび腹膜のがん 280
(リ)食道がん 224

 となり、悪性腫瘍で死亡する割合は、全死亡の21.98%で、5人に一人が、がんでなくなっている。


4 施設環境

1)技術移転(内視鏡、レントゲン、超音波)

 消化器内視鏡センター所長で、コルドバ国立大学内科助教授である、日本人二世の医師(比嘉・アントニオ・ルイス)が常勤し、技術指導している。奥さんが日本人ゆえ、年1~2回日本に来られ、その際、日本で研修した病院及び日本人医師と継続して交流しているため、技術、知識がたえず新しくなっている。また1960年代から、日本で発展した消化器病診断学、検査機器が今や全世界共通財産となっているため、文献を読んだり、研究会、学会に出席したり、研修を受ければよりスムースに技術を習得することができる。サンロケ病院では同じ条件がそろっている。

 プロジェクト終了後でも検査件数は高頻度を維持している。

 (資料1)は1989年(平成元年)より行われた、研究センターでの検査件数の年次推移である。低下している部分は医師、看護婦、病院などのストライキの影響である。95、96年度の落ち込みは、レントゲン装置の故障により、胆嚢、食道の検査ができなかったためである。

 (資料2)は1989~98年間の種類別検査件数である。腹部超音波、胃・十二指腸内視鏡治療が圧倒的に多く、日常的になされていることがわかる。

 逆行性膵・胆管造影では、同時に、乳頭切開術も行われている。

 胃・十二指腸内視鏡治療では、ポリープ切開術、食道静脈瘤のゴム輪による結紮、硬化剤(ポリドカノール)による硬化療法を行っている。

 マノメトリアは食道、結腸の内圧検査であり、これは地域の特殊な疾病(シャーガス病)を診断するもので、日本ではほとんど行われていない。マノメトリアはアルゼンチンに5台ありそのうちの1台である。

 大腸の内視鏡治療では、ポリープ切開術、狭窄の拡張などである。こうしてみると、ほとんどの消化器の検査、治療は日常行われている。

 (資料3)は1998年度、胃・十二指腸内視鏡検査により診断された疾患である。慢性胃炎、十二指腸炎が多く、日本と比較して、胃がんの少ないのが特徴である。

 (資料4)は1994~98年に大腸内視鏡検査により診断された疾患である。潰瘍性大腸炎が多いのは日本と異なる。

 内視鏡検査は外科、(週1回)と共同で行っている。閉鎖的になりがちな診療が共同で行われれば、交流の機会になる。

 検査件数、内容をみると、技術移転は問題なく行われ、かつ自立的になされている。

2)研修

 一人前の医師になるためには、卒後研修システムと個人の努力が重要な鍵になる。アルゼンチンでは消化器科の修練は、普通、卒後一年一般内科を勉強し、専門医になる人はさらに3年間研修して、試験をうける。サンロケ病院は研修機関に指定されており(内科、消化器科、外科)、所長がコルドバ大学の助教授を兼任し、研修システムは整っている。研究所自身技術移転の役割を担っており、十分その責任を遂行している。

3)日本での研修者、研究所のスタッフ、給料など

 日本との交流は、所長自身、年数回訪れ、旧交を暖めている。その際に、新しい技術、知識を吸収している。

 現在、プロジェクトは終了しているが、プロジェクト中は、日本に行けるということで、みんな一生懸命勉強し、研修してきた医師は、ほとんど定着している。過去、一人放射線科医が研修後、アメリカに行っただけである。過去の実績によりサンロケ病院は、消化器内視鏡と癌治療で有名になっているので、研修希望者がレジデントとして常勤している。

 消化器内視鏡センターのスタッフは医師8人、無給医5人、レジデント10人(指導医1人、2年生5人、3年生4人)である。

 医師は7時間の勤務となっているが、給料が安いため、午後のアルバイトは黙認されている。所長ですら大学の給料は100~150ペソ(1ペソ=1ドル)であるためプライベイト・クリニックに勤めている。卒業して医師になってもすぐには大病院に勤められないので、国公立病院などに籍を置きながら、自分で小さな病院を経営したり、プライベイト・オフィスを持ったりしている。日本以外の国でよくみられるシステムである。医師は二足のわらじをはいているため、時間外の研修、研究に十分没頭することができないと指摘されていた。しかし、専門医や大学のスタッフになるには点数(論文を書く、学会・セミナーに出席、留学、外国の学会に招聘される、勤務年数)が必要で、かつ試験に受からなければならない。それらのポストを得ることにより、給料が上昇するので、自然に努力することになる。

4)供与機材の活用状況

 センターの検査件数にみられるように、ほとんどの機材はよく使用されていた。

 病理検査室では、顕微鏡標本作成中であったが、マイクロトームを扱う手技は手馴れたものであり、職人技であった。標本はきれいであり十分診断可能である。

 研修医が4~5名いたが女医ばかりで、給料が良くないから女性が増えているとの説明であった。

 超音波診断装置は、今では検査の主力である。指導医が3人の医師を実地指導していた。同装置は4~5年が耐用年数であるので、まもなく、稼動しない時期が来るであろう。装置はアルゼンチンで簡単に手に入るが、州保健省の運営費が相対的に減少しているため、予算の有無が機材更新の要となろう。

 レントゲン透視台は十分稼動中である。しかし、胃透視での使用フィルムは6~7枚であり、日本に比べると少なすぎる。レントゲンフィルム代は、厚生省がわくを決めているためである。日本では、消化器病の診断は内視鏡に重点が移っていっている。内視鏡の技術習得が簡単になったためである。当研究所でも検査件数に見られるように、内視鏡検査が多いのもそのためであり、フィルムを潤沢に使えないというのも一つの理由である。
 脳血管撮影装置も使用されているが、徐々に脳CTに代わってゆくであろう。

 免疫血清検査室では、腫瘍マーカーが4件可能である。α-FP、CEA、PSA、ゴナドトロピンである。

 ガスクロマトグラフィは使用されていなかった。研究に使う機種で、日常検査ではそれほど必要なものではないためである。(蛋白分画検査に使える。)

 内視鏡は、旧タイプのライトガイド方式のものも使用しており、光源はゴルドバ州で入手可能である。これに装着できる内視鏡は2台使用中であった。(1台はゴルドバ州で購入したもの)

 電子内視鏡(FUJI製)も州より供与されたものである。内視鏡の洗浄装置は写真に見るように、工夫が凝らされていた。

 前述したがサンロケ病院は州政府より、消化器病の研修病院に指定されているから、内視鏡のような主機材が耐用年数にたっしても、業務の遂行のために補充されるものと思われる。

 シーメンスのCT断層装置も州政府より供与されていたが、まだ梱包されたままの状態であった。州知事が選挙で交代するので、現院長も交代になり、しばらくは何もできないという行政の空白が見られた。しかし、こうした高額の医療機器も購入可能なのである。

 供与機材ではないが、Linea Corder(食道、結腸の内圧測定機)が設置されていた。これはアメリカ製であるが、アルゼンチンの特殊疾患の診断に用いられる。上記した機材の購入状況を考えると、独自で医療を行っていける力があると判断しうる。

5)コルドバ州の医療政策、行政の継続性

 州政府は1995年までは、大小あわせて、560の病院、医療センターを擁していたが、維持が大変になり、小さい施設は各市に、プライマリーケアは農村に委託していった。

 運営予算は人件費、医療費、特に、医療機器の価格の上昇にまわされ不経済なものは切り捨てて行く方向にある。

 医療従事者は1995年15,000人を10,000人に減らしている。

 病院にかける予算は重要ではあるけれど、病気を治すことに費用をかけるよりも、予防にまわす方がよいと、行政側の考えも変化してきている。

 病院長は州知事と同じ派の人が選ばれる。これは病院予算の獲得や、医療機器の購入に際しては、病院長が州知事に頼みうるという面で非常に効率のいいシステムである。しかし、ちょうど視察の時は、他派が新知事に就任することになっていたので、現院長は6ヶ月後には交代となり、何ら仕事ができないという行政の空白が見られた。州知事が代わると、医療の方針も変わってしまうのである。

 (資料5)は1998年度のサンロケ病院の予算である。

 州政府からの供与額は、11,853,364ペソで、人件費は9,103,064ペソ(76.8%)で予算の大部分を占める。


5 プロジェクトの評価

 当該プロジェクトは、いずれ有識者評価がおこなわれることになるであろうが、チリの消化器がんプロジェクト以上の成果をあげている。

 消化器がんの早期診断、治療を行うための知識、技術はほとんど問題なく、現在のスタッフで、次世代に受け継がれている。世界的にみても、消化器がん診断学のレベルが向上し、初期のようにマンツーマンで伝えてゆくものでもなくなった。学会、研究会、院内の症例検討会、医学文献、医学雑誌、医学書、またそれ以上に画像などで、誰でも、どこでも、気軽にできる技術となり、医学者の共通の財産になっているため、優秀なリーダーと、熱心な医師がいれば技術伝達ができるようになった。

 サンロケ病院では二世の医師が常勤し、かつ年、数回日本に来ているという好条件にも恵まれている。

 供与機器はすでに耐用年数に近いか、すでに過ぎたものが出てきている。更新が可能か否かは予算上の問題が大きい。幸いなことに本研究所は、州政府指定の研修病院でもあり、州独自で高額医療機器を購入している実績をみると、更新も十分可能であると判断できる。


6 提言

 アルゼンチンの当該プロジェクトは、成功裏に終了を迎えた。サンロケ病院、研究所はすでに自力で歩んでいる余裕すらみられた。今後、予算面での手当が難しい状況を考慮すると、チリ国と同じように、双方で工夫し、費用のかからない交流を続けるのが良いと思われる。それには、研究所では、マルチビデオ装置が設置されているので、相互にビデオを送付し勉強することも可能である。

 その他、北米、中南米を中心とする医学会での交流、英文版文献の送付、インターネット活用による検討会などが挙げられる。

 本研究所なら、他国から研究者を十分受け入れることができるであろうし、中南米なら同じ言語で教えられるという利点がある。チリ国同様、中南米の消化器病中核センターの役割を担うことができる。また、南々協力の主力として、視察や、経験交流の場として利用されることがのぞまれる。

 このプロジェクトの成果を無駄にしないためにも、これまで築かれた人的ネットワークを核として、日、アルゼンチンの交流を継続してゆくことである。


資料1

内視鏡センターでの検査件数の年次推移
(研究センター)
1989: 5,794
1990: 7,933
1991: 7,356
1992: 6,240
1993: 6,192
1994: 6,151
1995: 3,805
1996: 4,781
1997: 5,381
1998: 4,705


資料2

1989~1998年間の検査件数
(研究センター)
  件数
腹部超音波 30,436 52.1
胃・十二指腸内視鏡 17,657 30.3
大腸内視鏡 3,333 5.7
逆行性膵胆管造影 2,614 4.5
消化器放射線検査 2,190 3.7
胃・十二指腸内視鏡治療 1,274 .2
MANOMETRIA(消化管内圧測定) 503 0.9
大腸内視鏡治療 212 0.4
超音波内視鏡 116 0.2
総件数 58,335


資料3

1998年 胃・十二指腸内視鏡による診断
裂孔ヘルニア 134 12.43%
食道静脈瘤 79 7.32%
食道がん 23 2.13%
慢性胃炎 941 87.29%
胃潰瘍 117 10.85%
十二指腸潰瘍 88 8.16%
胃ガン 17 1.57%
胃ポリープ 25 2.31%
十二指腸炎 147 13.63%
バレット病 17 1.57%


資料4

1994~1998 大腸内視鏡による診断
痔核 355 25.12%
直腸がん 42 2.97%
大腸がん 62 4.38%
大腸ポリープ 99 7 %
直腸ポリープ 30 2.12%
大腸ポリポーシス 19 1.43%
大腸憩室 145 10.26%
潰瘍性大腸炎 139 9.38%


資料5

病院運営費 11,853,364(ペソ)
人件費 9,103,064 76.8%
消耗費 1,730,000 14.6%
(薬剤費 1,500,000)
サービス費 1,020,300 8.6%

人件費:常勤・非常勤職員及び家族手当
消耗費:食費、農産物及び、その製品、布、コルク製品、段ボール、印刷費、化学薬品及び薬剤費、ゴム製品、陶磁器、金属製品
サービス費:ガス、水道、電話、下水処理、家賃、修理費、ガードマン、清掃、消毒、縫い物、洗濯、その他のサービス


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