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8.産業技術育成(コスタ・リカ)
(現地調査期間:1998年9月1日~5日)
■ |
埼玉大学経済学部教授 |
小野 五郎 |
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〈評価対象プロジェクトの概要〉
プロジェクト名 |
援助形態 |
協力年度、金額 |
プロジェクトの概要 |
中米域内産業技術育成センター建設計画 |
無償資金協力 |
91年度 13.17億円 |
中米諸国の産業構造の農業から工業中心への以降を目指して、品質生産管理及び貞応処理分野における人材育成。 |
中米域内産業技術育成計画 |
プロジェクト方式技術協力 |
92年9月~97年8月 |
品質及び工程管理の技術の向上を図るもの。 |
1 評価調査の概要
(1)調査方針
(イ)目的
有識者としての客観的かつ専門的な視点から、日本の対コスタリカ政府開発援助案件に対する評価結果を取り纏め、その結果を対象案件のフォローアップに役立たせるとともに、当該国に対する我が国の援助政策全般にフィードバックし、あるいは、他国における将来の類似案件の援助計画策定/実施等の改善に資する。
(ロ)対象案件
コスタ・リカで実施した中米域内産業技術育成センターに対する無償およびプロジェクト方式技術協力に関わる事後評価。
(ハ)評価手法
- 既存資料レビュー。
- 日本側/現地側両関係者(担当者、専門家、政府関係者、関係企業、経済団体)からの聞き取り調査。
- プロジェクト・サイト/関連企業視察。
- 評価5項目による分析(効率性、目標達成度、インパクト、妥当性、自立発展性)。
(ニ)調査団構成
有識者:小野五郎(埼玉大学経済学部教授)
随行:川口哲郎(外務省経済協力局評価室首席事務官)
(2)調査スケジュール
月日 |
時間 |
行程・項目 相手側担当 |
連絡先 |
9月1日(火曜日) |
09時45分 |
サン・ホセ着 |
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14時30分 |
大使館打ち合せ:西山二等書記官、鮎川事務官 |
(232-1255) |
16時00分 |
JICA駐在員事務所:石塚所長 |
(2-253114) Hotel Corobici (232-8122) |
9月2日(水曜日) |
08時30分 |
METALIN社(CEFOF協力民間企業)視察・面談:Cuesta副所長、Fernandez工場長 |
(239-0154) |
10時30分 |
CEFOF:Anderson所長、Soto管理部長、Munoz諮問委員会委員長 |
(441-7199) |
14時00分 |
科学技術省:Guitierrez次官他 |
(235-2826) |
18時00分 |
CEFOFと会食 |
於市内レストラン |
9月3日(木曜日) |
08時00分 |
コスタ・リカ工業会議所:Ramon副会頭、Lopez部長、Mcntenegro次長、Velazquez Bid-Fomin所長 郊外視察 |
(256-2826) |
15時30分 |
中米経済統合銀行(於CEFOF):Morales融資担当役員 |
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19時00分 |
科学技術次官他と会食 |
於市内レストラン |
9月4日(金曜日) |
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市内視察 |
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14時00分 |
Oxford社(CEFOF協力民間企業)視察・面談:Valdes社長、Pichardo技師長 |
(249-1036) |
16時00分 |
CEFOF:Anderson所長、Soto部長 |
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19時00分 |
大使主催夕食会 |
於大使公邸 |
9月5日(土曜日) |
07時45分 |
サン・ホセ発(UA4490) |
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2 個別案件に対する評価結果
無償協力案件:「中米域内産業技術育成センター建設計画」およびプロジェクト協力案件:「中米域内産業技術育成計画」
(イ)案件概要
- 事業名:中米域内産業技術育成センター建設および中米域内産業技術育成計画
- 事業概略:
- 期間
- センター建設
事前調査:1990.3。基本設計調査:1990.12。施工:1992.2~1993.2。
- 育成協力
1990.3および1990.11。実施協議調査:1992.4。実施:1992.9~1997.8。
- 援助形態
- センター建設:無償資金協力。
- プロジェクト方式技術協力。
- 援助担当機関:国際協力事業団。
- プロジェクト・サイト:アラフェラ市。
- 被援助国内体制
- 所轄官庁
- 建設当初:公共教育省。
- 現在:科学技術省。
- 実施機関:中米域内産業技術育成センター(CEFOF(Centro de Formacian de Formadores y Personal Tccnico para el Desarrollo Industrial de centroamerica))。
- 目標の階層
- 目的:中米諸国の財政/貿易収支改善のためには、産業構造を従来の農業から工業中心へと転換する必要があり、そのための人材育成を図る。
- 事業目標:品質/生産管理および情報処理分野における人材の育成、世界に冠たる日本の品質/工程管理技術等の移植。
- 活動/アウトプット:計画策定、施設建設、機材配置、専任講師の育成、研修。
- 投入
- センター建設
日本側:13.17億円。
被援助国側:敷地整備、基盤整備、外構工事、内装機材工事、手数料等。
- 育成協力
日本側:専門家派遣(長期16名、短期32名)、研修員受入れ(29名)、機材供与(無償協力:202百万円)。
被援助国側:ローカル・コスト、人件費、事務用品費その他(92~97年の5年間の総額は346百万円)。
- 被益対象:域内関連産業。
(ロ)評価結果概要
本プロジェクトは、センターが所在するコスタ・リカ自身の一人当たりGNPが1995年現在で2,610ドルと、世界銀行のガイドライン1,505ドルを大幅に上回るにもかかわらず、財政・貿易収支に苦しむ中米全域を対象とする広域案件として、柔軟対応によって無償で実施されたものであり、その面からの妥当性等についても評価を行なった。
i 効率性
会計年度ごとの研修コース及びセミナーの実施状況(科目数、参加員数)は、1993年度7科目285人、94年度33科目975人、95年度64科目1,367人、96年度114科目1,919人、97年度95科目2,223人と年々着実に増加しており、その分効率性も高まっているものと推定される。
- Aセンター施設:昼間における通常のセンターの研修だけではなく、夜間にも英語教育施設として活用されるなど、教育訓練施設として十分な機能を発揮している。また、利用率の低さが懸念される宿泊施設も、第三国研修実施期間中はむしろ不足気味でるほどで、よく利用されている。なお、喫煙場周辺に一部雨漏り箇所が認められるが、研修等には何らの障害も生じていない。ただし、講堂演壇奥の開閉式大黒板が非実用的な配置となっており、代わりに移動式のホワイト・ボードが用意されている点は、当初設計のミスだったと思われる。
- 研修用機材:次に掲げる一部の物件を除いては、概ね有効に活用されている。
- 情報処理:一部コンピュータの中には、ウィンドウズ'95に対応不可であり、すでに陳腐化しているとされ、使用されなくなったもの(IBM386)が含まれていること。
- 検査機器:食料品検査機器の中には、バイオリアクター等、当センター事業では現在対象としていない、あるいは、使用頻度の低い微生物関連のものが含まれていること。
- スペア・パーツ:破損したガラス製検査機器等の消耗品が購入されていないため、フル稼動できないものがあること。(注)
ii 目標達成度
工業会議所および中米経済統合銀行幹部との面談、CEFOF協力工場(METALIN社:金属家具製造販売、Oxford社:米国企業の縫製加工下請け)の視察などを通じて、当該プロジェクト開始当初に懸念された傾向(=政府主導で産業界との接触が弱く観念的だとされたこと、大学教授のレベル・アップにのみ寄与するとの批判があったことなど)は大幅に改善され、むしろ民間企業の指導的社員に対する研修や個別的指導等を通じて当初計画を上回る成果を挙げているという印象を受けた。
一方、すでに第三国(コスタ・リカ以外の域内国)からの研修生受け入れも始まっており、当初予定の5カ国(コスタ・リカを含む)から8カ国(同)に拡大された第二回目の研修が実施されているところであった(コスタ・リカ6名、ニカラグア4名、エルサルヴァドル6名、パナマ8名、ホンジュラス4名、グアテマラ6名、ベリーズ2名、ドミニカ6名、計42名)。また、授業参観の印象および参加者からの意見聴取の結果からは、すでに中米全体のセンターとしての形も整い始めているように感じられた。
ただし、研修期間/カリキュラム内容/研修水準等については、開講後、実際のニーズに合わせて若干の見直しが必要だったように思われる(例えば、研修期間については、当初予定されていた6カ月コースのような長期のものは企業側にとって派遣不可能なため、より短期なコース=最長70時間、平均20時間弱に変更された。ただし、その結果、繰り返し利用者が増えており、実効を損なうというより、むしろ現場との往復による相乗効果が挙がっているように思える)。また、情報処理に関しては、a当該分野の技術が予想外に日進月歩してきたこと(ウィンドウズの普及)、b当初の現地側幹部における当該分野に対する知識が不十分だったこともあって現地側の当初希望(ソフトウェア産業育成のための実践的な技術者の養成等)と現在のカウンターパートの認識(パソコン教室中心)とにギャップがあった。
外務省注:我が国は、一般に消耗品の機材供与は行わない方針をとっている。医療機材や検査機材を供与する際に、当初の立ち上げに必要な消耗品を供与する場合はあるが、その後の消耗品購入は先方の自助努力で手当てされることが想定される。
iii インパクト
CEFOF協力工場(研修生派遣、指導受入れ、第三者現場研修受入れ協力等)の壁面に掲げられた5Sの標語(ローマ字。例えば、SEIRI=整理)、日本人専門家の指導によるという明るい工場内、その結果としての品質改善、工程短縮と在庫削減等に伴う平均30%に達するという生産性向上および労災の減少、さらに、素材に関わる品質管理/機械メンテナンスの改善、新製品開発等の事実から、本プロジェクトは、すでに生産現場に対して多大なインパクトを生じていることが分かった。また、生産者側による製品の品質向上等を通じて、一般消費者に対する品質管理意識の浸透も期待できるように思われた。
ただし、対象国における統計上の不備もあって、本件スタート後の輸出や関連産業の成長、さらには、製品の品質の改善の有無などについて定量的に分析することはできなかった。
iv 妥当性
現在、コスタ・リカ政府が力を入れている輸出振興/中小企業育成どちらの面からも、同プロジェクトに対する期待は大きく、協力事業として十分な妥当性を有するものと認められる。また、インパクトの項で述べたように、すでに相当程度の効果が挙がっており、総じて域内の需要および同プロジェクトの目的と実際のカリキュラムの運営とは合致しており、その面からも概ね十分な妥当性があると認められる。さらに、性別的に見ても、研修生/講師共に、特に男女差は認められず、女性の能力開発にも貢献していると認められる。
ただし、品質/生産管理分野および情報処理分野が縦割りとなっており、その有機的連携が図られてはいない点については改善を要するように思われる。特に、後者は、本質的に前者のサポート・システムとして位置づけられるべきものであり、相互の関連をより高めることによって、はじめて最大限の効果が発揮できるものであるにもかかわらず、そうした認識が乏しく、その結果、既存の他の機関の行なっているパソコン教室と比べて特色がないものとなっている可能性がある。
さらに、情報処理については、当初予定されたソフトウエアにかかわる一貫した人材育成およびソフト開発能力の向上というよりも、現在はウィンドウズ対応型パソコンによるアプリケーション・ソフトの活用法ないし初歩的な操作技術に偏って運用されているようであり、同センターにおける情報処理研修の本来の目的とは若干のズレが出ているように感じられる。
v 自立発展性
CEFOFおよび管轄の科学技術省幹部は、同センターの運営に対して強い熱意と十分な能力を有している。また、センター運営に対して、コスタ・リカ政府は、約束どおり継続的に応分の負担を行なっている(各年度の負担金は、税金を含めて、1992年16.6百万コロン、93年度73.2百万コロン、94年度118.1百万コロン、95年度131.1百万コロン、96年度152.2百万コロン、97年度201.5百万コロン、6年度総計692.6百万コロン≒346.3百万米ドル)。さらに、関連産業界等も、同センターを高く評価し、今後共に資金/人的側面の両面からの支援を約束している。
したがって、今のところ、次の諸点を除けば、運営に支障は無いものと認められる。
- 第三国研修について、日本からの資金協力が打ち切られた後の取扱いについては、各研修生の母国の態度に必ずしも明確ではない点があり、そこに若干の不透明さが残ること。すなわち、現在は、日本からの援助丸抱えで運営され、かつ、超過額についてはコスタ・リカ政府負担となっており(総額約10万ドルかかる費用のうち、日本政府が3/4、残額をコスタ・リカ政府が負担している)、その他母国政府の負担問題については将来共に不分明となっていること。
- カウンターパートの能力対比での待遇が悪いため、定着率が低い(その後に採用した者を含めた現有勢力26名に対して、すでに離職した者の数は10名で、そのすべてが日本受入れ研修生)ために、増員や知識の共有で対処はしているものの、将来にわたっての自立化には多少の危惧が感じられること。ただし、この場合も、上位目標としての貿易収支改善等の視点からすれば、離職したカウンターパートを通じての民間への技術伝播効果についても、別途、評価することが望ましいと思われる。
- 情報処理について、自力でシステムを構築し維持する能力が備わっておらず、かつ、現地には、エージェントの能力を含め、そのバック・アップ体制が十分には無いこと。このため、後から生じた経営ソフトの多いウィンドウズへの対応に関しても、IBM486同様、ディスクを増設すればある程度対応できたはずのIBM386を活用することなく、現地側独自予算で、一部新機種の購入が進められている。また、中米地域のセンターとしての自立発展性を考えると、現場のパソコン教室的運営ではなく、生産性向上に繋がる応用技術=ソフト開発力の現状研修に力を入れるべきだと思われる。さらに、この種の分野では、「自立発展性」という視点からすれば、計画段階における専門家の役割は、現地側のシステム設計に対するアドバイスにとどまり、自ら主導的なシステム構築までは行なわないことが望ましい。さもないと、現地側の真の需要も将来の拡張の方向も見損なう危険性をはらむとともに、せっかくのシステム構築ノウハウの移植の機会を逸することにもなりかねないからである。また、仮に、現地側にそうした能力が不足している場合は、この種プロジェクトの採用には、より慎重を期す(研修内容の変更、援助形態の変更、援助対象事業としての採用そのものの再検討を含む)必要があるように思われる。
vi 総括
被援助国側は、政府/実施機関共に十分な熱意と能力を有しており、かつ、産業界等からの同センターに対する信頼も厚く、すでに相当の成果を挙げていると認められる。また、第三国研修も軌道に乗りつつあり、近い将来、中米における生産性向上教育等の中核となることが期待される。
一方、同センターの地歩をいっそう確かなものとし、上位目標としての産業構造の高度化に寄与するに至らしめるためには、現地スタッフによる自立性が十分に定着し、残存する二三の問題をすべて相当程度解決するまで、より長期継続的な視点に立った日本側からの支援の継続が望ましい。それが、また、せっかく挙げつつある成果を、より意義あるものとしよう。
なお、その前提として、現地側にあっても、特に、aカウンターパートの定着率向上のための待遇改善、b生産/品質管理と情報処理との一体的運営、c財政界一体となっての支援の強化などが必要だということを指摘しておきたい。
(ハ)教訓と提言
同プロジェクトは、以上に述べたとおり、すでに一定の成果を挙げ、かつ、将来的には中米全体の中核的研修施設となることが期待しうるものと評価しうるが、その成果をいっそう確かなものとし、また、今後採用される類似プロジェクトに対する教訓とするために、次の諸点を指摘しておきたい。
- 本件プロジェクト方式技術協力の効果が、同センター建設に対する無償協力以上に大きいと認められることから、今後の類似案件採用に当たっては、よりソフトを重視した形で計画を策定することが望ましいと思われる。また、期待されるべき施設の稼動率が当初計画で設定されてはおらず、さりとて、この種の施設の特性としても完全利用はありえないことから、その面における客観的な評価が困難になっており、今後は、そうした目標数値を予め定めておくことが期待される。
- 自立発展性からすると、カウンターパートの定着率を向上させるために待遇面を改善する、あるいは、さらに指導的立場の者の養成を図り長期的にはセンター内部で指導員を育成していくという形を取ることが望ましい。その点において、すでにコスタ・リカ側からも要望が出されている(今回の意見交換に際しても、CEFOF幹部だけではなく、科学技術省次官、工業会議所幹部等からも要請があった)ところであるが、日本側としても、より長期的視点から──中米全域における、いわば「モデル・プロジェクト」として──の支援を行なうことが望ましいと思われる。特に、こうした優良案件に対しては、今後、他の援助国/機関等からの支援も期待されることから、せっかくの日本のODAの功績を他の援助機関等に奪われないためにも、最後まで日本の手で面倒を見ることが、我が国の国益にも合致するように思われる。
- カウンターパート/研修生共に、概ね満足いく水準ではあるが、英語力/プログラミング能力等、一部において期待されるレベルには達しておらず、養成/研修を行う前提としての基礎学力が不十分なケースも見受けられるので、別途、そうした基礎教育/訓練およびそのための施設を充実することが望ましい。なお、英語力については、すでに夜間に同センター施設を利用して英語教育が開講されており、徐々に状況は改善されていくことが期待される。
- 品質管理等において、国際水準に達するためには、日本の経験からすると、設備改善のための資金確保に加えて、市場側から支える国民一般の認識向上が必要であると思われるので、そうしたより一般的な啓蒙活動や政策ノウハウに関しても、ソフト面での協力に加えて検討する必要がある。また、縫製のような労働集約的製造業に関しては、賃金のより安価な中国/ヴェトナム等の国際市場参入による当該域内産業への影響を考慮し、さらにいっそうの品質/工程の改善についての技術指導協力を図ることが望ましい。実際問題としても、作業環境(アイロン工程における発散熱の処理、工場内飲食行為等の禁止など)やサンプル収納法(現状は単にダンボール箱の縦積み)などにおける管理面を中心として、未だにそうした改善の余地は大きいように見受けられた。なお、そうした面での改善指導に関しては、日本における中小企業に対する診断指導体制やその裏づけとなる設備改善資金支援制度(中小企業設備近代化資金、信用保証協会等)などが参考になるものと思われる。したがって、すでに行なわれている現地工業会議所/職業訓練所等の関連企業との連携(a工業会議所の巡回指導で発見された問題点をCEFOFの改善指導に引き継ぐ、b職業訓練所に対して社会保障公庫資金の2%/年を融通するという法案が提出されており、訓練所を通じてのCEFOFに対する支援もうたわれているなど)について、いっそう強化を図りつつ、日本側からも、そうした制度面をも踏まえた実践的な専門家(例えば、対象国側の要請如何では中小企業政策立案に対するアドバイザーなど)の追加派遣が期待される。
- 情報処理等の先端技術分野では、計画段階において、対象国側が実力以上のものを求めるケースもありうるので、基礎教育機関の存否やバック・アップ体制の有無などを含めた十分な検討が必要である。その点、日本側から派遣するコンサルタント/アドバイザー等も、単なるその道の専門家というだけではなくて、全体像を描ける者をも含めて選出することが必要である。なぜなら、単に各分野の専門知識のみを有する者だけでは、さして背景(保守管理要員の有無、スペア・パーツの入手可能性、アフター・サービス機関の有無など)に配慮しなくてもスタート後の運営にさして支障のない日本国内等ではともかく、背景の異なる──というより貧弱な対象途上国で、カウンターパートを指導してスキームを構築させ自立発展させていくことは不可能だからである。
一方、そうした分野では、同時に、技術の進歩/変化も速いため、供与機材さらには技術の陳腐化も早く訪れることが多い。といって、対象国自身の手だけで、そのフォローをすべてすることは、対象国内における人材の欠如およびバック・アップ体制の不備(これは、同プロジェクト関連の別の報告書でも記述されているハード面だけではなく、むしろソフト面での齟齬の方が大きい)からしても困難である。したがって、せっかくのプロジェクトの効果を継続させるためには、現地側に十分な自立性が確保されるまで、日本側が、予算上の制約を超えて、かなり長期的にフォロー・アップ等を行なうことが望ましい。また、そうしたフォロー・アップ期間を短縮するためにも、多少手間暇はかかろうと、前述したように、システム開発等の当初から出来るだけ現地側の手で行なわせることによって、必要な人材を育成しておかなければならないのである。
- 日本側専門家の一部に、対象国の国民性(例えば、プライドの高さ)等を十分に理解しているとは言えない者もいたように思われるので、その点、事前に十分な情報を提供しておくべきだと思量される。特に、基本計画策定時の専門家は、全体を俯瞰して考察し、最善の選択をするだけの幅広く、かつ、深い知識を有する者でなければならない。なぜなら、後からの修正/中断が困難な海外プロジェクトにおいては、「気がついてみたら手遅れになっていた」といった事態を招きかねないからである。その点、専門家の待遇についても、本体のODAプロジェクトに要する巨費が無駄となることとの比較において、十分な用意が求められる。さもないと、計画策定者と本体プロジェクト関連業者との間で、安易な妥協が生まれる危険性がある。
また、国内情勢から見て資材等の事後的バック・アップ体制が不十分な国においては、予めスペア・パーツに余裕を持たせて配備し、また、何らかの形で事後的な支援窓口を現地に用意しておくとともに、日本からも定期的に巡回指導班を送り込むなどの配慮を行なうことが望ましい。
- ODAの真の効果を挙げるためには、逆説的ではあるが、プロジェクトの真の達成目標を明確にしておくことが不可欠である。なぜなら、さもないと、諸環境の変化や技術の進展の激しい今日、当初計画を教条的に遵守しようとして、かえって本来の目的を達成することが出来なくなる可能性が高まるからである。また、当初目的を達成し、かつ、将来の自立発展を目指すためには、その後の状況の変化に応じて、内容/規模/期間をも含めて必要な変更を加えていかなければならない。
- 以上から明らかなように、今後の中米センターとしての拡充を考えれば当然、そうではなくても、センター自身の将来性/自立発展性を確固たるものにするためにも、日本側のより長期的な視座に立った支援が求められる。その点、本プロジェクトに関して「延長協力は必要ない」としている『終了時評価報告書』とは、外形的な達成度等の評価では一致しているものの、単なる過去の協力の成否に止まらず、「日本のODAの真の成果を挙げる」という視点に立つと、やや異なった結論を得るということを指摘しておきたい。
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