この度の調査の目的は、NGO、ODA双方の案件の評価を通じて、双方の協力方法について学習するとともに、今後の双方の連携の方向性、方策を見出すことにある。前者の学習成果については、所感において記載したことから、本章では後者の連携の方向性、具体的方策について調査団の意見を述べることとする。
この度の調査を通じて確認できたことは、以下の三点である。
そして、現在の双方の代表的な協力形態を前提として、協力目標を達成する上での障害と障害を取り除くために相手側に期待している支援等を考えると以下のとおりである。
NGO、ODA双方の協力形態は、協力に投入できる人材、資金と協力機関の意向によって決定されている。ODAは資金は豊富であるが、協力に適した人材は決して多くはない。スポンサーである日本の市民は多量な資金を使用する以上、大きな協力効果を期待している。このような条件から生み出された協力形態がいわゆる「ハード」中心であり、また、協力拠点からの協力効果を当該セクター全体に波及させるという「拠点・セクターアプローチ」である。ODAはNGOと連携することにより、NGO側に情報収集・活動支援の人材及び人材ネットワーク(個々のNGOの人材だけでなく、NGOネットワークを利用した他のNGO及び現地からの人材を含む)を活用することにより、協力をより相手国側の需要にあったものにし、協力成果を普及させ、より効果的・効率的な支援が可能となろう。例えば、ODAで建設した施設で、NGOがODAの想定した活動を相手国側と協力してくれることであり、現場の的確な情報を提供してくれることであり、また、協力効果の波及・自立発展を 支援してくれることなどである。
一方、NGOの一つ一つの団体は、人材、資金ともに少なく、スポンサーは「対住民」の協力で目に見える効果を期待している(奨学金を出した貧困少年が学校を卒業するなど)。この条件の下、NGOは住民に密着した協力を局所的に実施している。このアプローチには、協力に面的な広がりがない、相手側の発展に大切なことでも効果が眼に見えにくいものは活動資金が集まり難く、活動ができない(小学校教育のカリキュラム改善)などの欠点が上げられていることから、NGOは上記の欠点を補う支援をODAに望んでいる。例えば、ODA側のコーディネーションの下、自らの活動を行政やODAの活動とリンケージさせ、協力成果に面的な広がりを持たせることや、資金が集まり難いが真に必要な援助についてはODA側が活動資金を負担することである。
障害を取り除くための支援は、NGO・ODA双方が相手側に期待している支援内容の接点、つまり、双方の利害の一致点で行われこととなろう。なぜなら、双方は互いに対等な組織であり、上下関係にはないのであるから、連携の可能点はおのずと「利害の一致点」ということになる。また、利害の一致点で連携を行うことは、対等な組織としての関係を維持しつつ、連携を双方に中身のある、持続性のあるものとする上でも妥当である。
なお、参考まで、この度の視察案件をヒントとして考えた利害の一致点における連携例を以下に付記する。
<連携例>
ODA側は相手国文部省・教員養成中核校をC/Pとして教育の質改善に係るプロジェクトを行い(カリキュラム改善、教材改善、教員教育の質の向上等)、NGOの援助により建設された学校を協力効果普及のモデルサイトとする。NGOはODA側から事業の委託(資金供与)が自らの目的に合致すれば委託を受けて、モデルサイトにおいてODAの協力で生み出された成果(改善されたカリキュラム・教材、教員研修等)を現場で実験するための教育の質改善を行う。 また、NGOがODAが委託した以外の独自の関連教育活動(たとえば楽器、紙芝居等)をモデルサイトで行う場合は、ODA側の委託活動実施に伴う関連独自事業で実施するものとする。ODA側とNGOは案件立案から実施、評価に至る各段階で随時、情報・意見交換をし、現場と中央の情報のフィードバックを行う。また、ODAの相手国側の協力終了後も、NGOはODAの委託を受けつつ、教育の質改善プロジェクトを拡大していく。
(1)NGO・ODA間の人材交流
NGOとODAは相互理解を促進するため連絡協議会の開催や本共同評価の実施を行っているが、所謂「裃を着た交流」の域を出ていないように感じられる。それに反し、仮称 「開発パートナーシップ」の開始等を控え、相互理解の促進は従来にも増して強く求められている。このような状況を踏まえ、調査団としては、相互理解を必要とする組織間で通常行われている「人材交流」をNGOとODA間においても行うよう提案したい。日本社会では同じ釜の飯を食うことによって真の相互理解が生まれると言われており、事実、この度の調査団も共に旅をし、議論を重ねることを通じて、「共に途上国の開発のために働く同僚」としての意識が深まっている。交流形態は2年程度の長期の職員相互派遣が望ましいが、困難であれば、本調査団のような調査の共同実施だけでも積極的に実施すべきある。
(2)案件形成段階からの協働
今回相互学習の対象とした三角協力のような、日本のODAプロジェクトとしてはユニークな例においても、NGOとの協働はプロジェクト実施段階においてNGOから助言を受ける程度にとどまっている。地域住民とより近い関係のもとで活動しているNGOと、案件形成の段階から協働していくことによって、NGOの有するノウハウがODAプロジェクトにおいて活かせるだけでなく、地域住民の参加を促進することにも繋がっていく。
プロジェクトを形成する一番最初の段階から、NGOを媒介とすることによって、住民の意向をプロジェクトに反映させる。それとともに、地縁技術や細かい地域の情報をプロジェクトに活かせることとなり、プロジェクトの質の向上が見込まれる。また、案件形成段階からプロジェクトの受益者となる地域住民の参加を進めることは、プロジェクトに対する理解を深め、オーナーシップ意識を形成していくことにもなり、プロジェクトの効果を高める上でも重要である。
(3)柔軟なNGO支援スキームの創設
現在、NGOに対するODAの支援スキームには、外務省のNGO事業補助金制度や草の根無償資金協力の他、JICAの委託事業である開発パートナー事業(1999年度より開始)や開発福祉支援事業、その他の外郭団体からの助成金などがあるが、例えば学校建設に伴う教材の開発や教員養成のプログラムなど、中期にわたる包括的な支援体制がとれるようなスキームへの改善が必要である。その意味で、今回のJICAのプログラムは、日本がUNDPに拠出した資金を組み合わせたことで、現場でのより柔軟な対応が複数年で可能となった。また、教育分野に限らず、一般的にNGOの得意分野であるソフト面に対するニーズが対象国の活動現場では高いことから、ソフト面へのODAの支援を強化することが特に求められている。加えて、NGOに対するODAの支援スキームの対象に、今回のような評価活動への支援を盛り込んでいくことも、より効果的で建設的な開発協力への蓄積となるだろう。
(4)定期協議等の開催
カンボジアで活動する日本のNGOと日本大使館との間で開催されている定期協議は、NGOとODAとの相互理解を促進し、パートナーシップ構築のための情報交換を行う上で効果的と思われる。各国毎にこういった定期協議を実施し、やがては日本のNGOのみならず各国のNGOの参加も求めていくことで、NGOとODAとのパートナーシップを強固なものとしていける。定期協議においては、NGO、ODA双方の案件の情報交換のみにとどまらず、例えば国別援助計画の策定など政策レベルの課題についても検討していく必要がある。また、各国で行われる定期協議の情報を交換することによって、国を越えての共通の課題への取り組みを容易にすることができるので、定期協議の情報は広く公開していく。
(5)「相互学習と共同評価」の充実
立場を超えてお互いの開発協力プロジェクトから学ぶこの「相互学習と共同評価」は、NGOとODAのパートナーシップ構築に向けて効果的である。ただし、現行の手法においては準備期間も短時間に過ぎ、調査にも限界があり過ぎるため、相互学習としての効果は見込めるが、共同評価とまでは言い難い。そこで、以下の諸点を改善することで「相互学習と共同評価」の充実を図っていく。