(1)案件について
荒廃した校舎を住民参加というプロセスの中で建て替えることにより基礎教育環境を充実させることを目的とする。本件小学校はチューティル寺の境内に位置しており、本校舎建設にあたっては僧を中心とする学校委員会が州教育局を通じて曹洞宗国際ボランティア会に校舎建設に対する支援要請を行い、サンタピアップみやぎボランティア会の資金協力により、1棟5教室の校舎が建設された。曹洞宗国際ボランティア会に所属する2名のカンボジア人設計士が校舎設計を担当、同会が資機材の調達を行った。校舎建設を通じて建設技術移転が図られた。また、校舎建設後は学校委員会が校舎の維持管理を担当している。また、学校建設と併せて、米銀行や植林活動、伝統音楽の復興などの事業も住民自らの活動として副次的に行われた。
(2)調査概要
校舎建設に係る要請、事前準備、校舎建設の各段階において学校委員会が積極的に役割を果たしたことが学校委員会及び住民に対するヒアリングで伺えた。校舎の清掃は掃除当番により毎日行われているとのことであった。外国で建築を学んだ曹洞宗国際ボランティア会のスタッフが校舎設計を行った結果、同等の他の校舎と比較するとレベルの高い設計となっている。資機材の調達には値段の高くなる時期を避けると共に値段交渉に僧侶を同行させるなど価格を抑える工夫を行う一方で、耐久性を考慮し、柱の数を増やし、光を取り入れるために窓を多くしたり、通気口を設けるなど種々の配慮が伺われた。本件校舎が建設されたことから他の学校から移ってくる子供もいるなど教師及び児童に対するヒアリングでは教育事情の改善に一定の効果があることが確認された。
(3)課題
(イ)教育に対する理解
住民の8割以上が農業に従事しており、その殆どが貧困層であること、親の教育に対する重要性の認識が不足しており、子供たちを、水汲み、子守等、家の手伝いにかり出してしまうこと等の事由により学齢期に達した全ての子供たちが学校に行ける状況になく、また高学年になるにつれて中途退学が多くなっている。
(ロ)教材の不足
教科書をはじめとする教材が不足している。視察時には約8割以上の児童が教科書を持っていないようであった。ノート、鉛筆等の文具も経済的事情から買えない子供たちも多く見られた。
(ハ)衛生事情
衛生事情の向上のため、学校校舎建設に併せてトイレが設置された。住民の殆どの家にトイレがないこともあり、トイレに対する理解が不足していること、及び子供たちが石などを便器に入れてしまうこと等から、通常は教師が鍵を掛けて使用できないとのことであった。
(4)所感
本件事業は、校舎の建設を通じて教育事情の改善に貢献している。他方、教育及び公衆衛生に対する理解の推進との観点からは、校舎建設と併せて、ソフト面の配慮が必要となろう。また、教師の数のみならず、教師の質の改善も今後の課題となろう。本件対象案件はサンタピアップみやぎボランティア会の資金で実施されたプロジェクトであったが、同様の学校校舎建設事業は草の根無償資金協力により多数行われていることに鑑みれば、本件プロジェクトの課題は草の根無償資金協力による校舎建設プロジェクトの課題と共通するものであると思われる。
(1)案件について
(イ)目的
タケオ州及びコンポンスプー州において農村基盤整備を行い、日・ASEAN専門家及び青年海外協力隊員による技術指導を行うことにより、帰還難民、国内難民、除隊兵士の再定住を促進し、農村地域開発に資する。
(ロ)農村基盤整備
1992年12月より1994年3月迄の間、日本政府がUNHCRに対し拠出した資金により、UNHCRがJICEと契約し、コンポンスプー州周辺の農村基盤整備(農道改修、貯水池建設、内水面漁業施設整備、メインセンター(コンポンスプー)、アコモデーションセンター(トラムクナー)、サブセンター(サムロントン、コンピセイ、タケオ)等の建設を実施。
(ハ)農村地域開発
1994年4月以降、日本とASEAN4ヶ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ)が共同で農村地域開発を実施。UNHCRよりUNDPが本件を引き継ぎ、JICA専門家、青年海外協力隊員、ASEAN4ヶ国の専門家により、農業(稲作、畑作、果樹、野菜、畜産、養殖等)、生計向上(婦人子供服、手芸、木工、陶芸、理容等)、教育向上(英語、識字教育・草の根無償との連携による小学校建設等)、公衆衛生の4分野において協力活動を実施。95年度からは本プロジェクトの基幹となる農民組織化を推進し、農村地域開発のための技術協力を実施する「インテグレイテッド・プログラム」が開始された。
「インテグレイテッド・プログラム」では、住民参加型の農村地域開発を最重要課題とし、活動開始にあたってはまず、草の根レベルでのニーズ調査が行われ、住民との対話を通じて支援計画が立てられる。村落にミーティング・ハットと呼ばれる集会所を設け、農民グループを組織し、各村落の実情に合わせ、必要な分野の専門家がチームを組んで多角的な技術指導を行うと共に、肥料や家畜等の原資をプロジェクト活動費で提供し、これを回転させて一種の農民金融システムとして立ち上げ、各村落が自立性を持って地域開発を持続させていく基盤をつくる。
(2)調査概要
(イ)施設
第一フェーズにおいて、メインセンター(コンポンスプー)、アコモデーションセンター(トラムクナー)、サブセンター(サムロントン、コンピセイ、タケオ)が建設されたが、いずれも規模及び設備も必要最小限度に留まっている。「インテグレイテッド・プログラム」の実施に際しては活動の中心となるミーテング・ハットがつくられるが、ミーティング・ハットを含む農村開発は、一農村当たり3,000米ドル程度でまかない、不足分の一部については住民が負担し、備品である机、椅子等も最小限度の投入となり、住民による維持管理も容易なものになっている。
(ロ)職業訓練
農村開発センター及び3ヶ所の農村サブセンターにおいては、日・ASEAN専門家及び青年海外協力隊員により、農業(稲作、畑作、果樹、野菜、畜産、養殖等)、生計向上(婦人子供服、手芸、木工、陶芸、理容等)、教育向上(英語、識字教育等)、公衆衛生の4分野において、各国の専門家の特性を活かした技術指導が行われている。プノンペン市内及びその近郊に外国からの投資による縫製工場が多くつくられたこともあり、婦人子供服コース修了生の多くがそれらの縫製工場に就職している。それに伴い、工業用ミシンでの訓練もコースに取り入れるなどより実践に役立つ工夫が見られた。
(ハ)「インテグレイテッド・プログラム」
協力活動に際しては、まず村を訪れ、ニーズの聞き取り調査が行われる。その後、活動の中心となるミーティング・ハットの建設及び村のニーズにそって各国専門家による技術指導計画が立てられる。活動の分野は農業、生計向上、教育向上及び公衆衛生の4分野であるが、活動の形態は様々であり、村ごとの状況に合わせ協力の内容を変更することにより、きめ細かい指導が可能となっている。これまでに72カ村2コミューンにおいて実施され、いずれも効果をあげているとのことであった。
(3)課題
(イ)自立発展性
自立発展性の観点からは、既に活動費の一部については、回転資機材の使用料の運用及び製品の販売から得られた利益が活動経費とされているが、将来的には全体の活動費をカンボジア政府が負担するとともに、活動のマネージメントを行うことが望まれる。現在のカンボジア政府の財政事情に鑑みると、活動経費を負担するまでには更に時間が必要であろう。また、今後のマネージメントのカンボジア側へ委譲するための課題のひとつである人材の観点からは、本プロジェクトを通じて着実に人材が育ってきていることが伺えた。他方、本プロジェクト実施につき直接的には農村開発省が担当するが、本プロジェクトがカバーする範囲が多岐にわたることからカンボジア政府内の権限関係をより明確化することも必要であろう。
(ロ)就職の斡旋及び製品の市場流通システムの確保
本プロジェクトの直接カバーする範囲内の問題ではないが、職業訓練修了者の就職や製品の市場流通システムの確保は今後の課題であろう。就職率は、国内の経済状況に大きく関係し、また受け入れ側のキャパシティの問題等もあると思われるが、これまでのところ職業訓練コース修了者の約45%程度が就職している。これについては一概に就職率が職業訓練の成果を示すものではないが、カンボジアにおいて職業訓練活動を行っているNGOにとっても共通の課題のひとつであろう。また、製品の市場流通システムを確保することにより職業訓練で技術を習得した者の経済的自立を促すこととなろう。
(4)所感
「カンボジア難民再定住・農村開発プロジェクト(三角協力)」については、国連に対する拠出金を活用することにより、人件費を負担することが可能となっている。通常のODAの形態とは異なり、日・ASEAN専門家、青年海外協力隊及びカンボジア人スタッフ、合計約250人もの人員が農村におけるニーズの調査を踏まえた協力活動計画立案、技術指導を行うなど、NGOが通常行っている草の根レベルでの柔軟で細かな支援が可能となっている。さらに日本政府が国連に拠出した経費により、広範囲において協力活動が可能となっている。NGO及びODA双方の良い面を取り入れたプロジェクトと言うことができよう。その意味においても「カンボジア難民再定住・農村開発プロジェクト」はNGOとの共同評価の評価対象案件として、NGOとの連携・協力のあり方を考える上で有益であったと思われる。
また、ASEAN4ヶ国の専門家が派遣されたことにより、これらの国において南・南協力のノウハウが蓄積され、本件プロジェクトを離れ、独自にカンボジアに対する支援を行う動きが見られることは一つの成果と言うことが出来よう。