本援助実施体制評価調査を通じて収集された情報、得られた教訓に基づいて、日本ODA全般に対して、以下の通り提言を取りまとめた。
(1)「人間」とそれを取り巻く「環境」との調和を重視した開発の推進
日本のODA大綱では、貧困に苦しむ人々への支援、国際社会における相互依存関係の認識、さらに環境保全を基本理念として掲げている。また、DACの新開発戦略でも「人間中心の開発」を基本方針として掲げると同時に、「環境の持続可能性と再生への努力」も強調している。環境保全については、開発を推進する上での制約要因となることもあり得るが、本調査の対象とした西アフリカのサヘル地域では、環境の劣化が住民の生存そのものを脅かしているのが明白であるように、地球上の限りある資源を活用して、開発途上国及び先進国双方の「人間」に対して平和と繁栄をもたらすための持続的開発を実現するためには、「開発」と「環境」との調和を保ち、両立させなければならない。つまり、「人間中心の開発」を恒久的に推進していくために、環境への配慮は必要不可欠である。以上のような認識に立ち、日本がODAによる開発を推進するに当たっては、被援助国側の理解を得ながら、かつ、他ドナーとの連携を図りながら、環境保全を尊重することが必要である。
(2)ODA大綱と中期政策
今回の調査では、日本による協力案件の内容は、ODA大綱の理念に沿い、BHNを中心としたもので、これが全般的に対象国のニーズに応えたものであることが明らかとなったが、案件の効果を高め、効率化を図り、重複を避けるためには、今後とも様々な努力が必要である。ODA大綱には、基本理念、原則、開発援助の効果的実施を目指す方策等が述べられている。これにより、日本のODAの目指す方向性が示され、それを実践に移すための具体的方針・戦略として、99年8月には「政府開発援助に関する中期政策」が策定された。今後は、同政策に基づいて、より具体的な国別援助方針・計画等を作成し、政策レベル、現地実施機関レベル、相手国レベルで十分に理解し、計画策定・実施面に反映させていくことが必要となる。
(3)援助スキーム間の連携強化
開発協力の効率を高め、様々なスキームで実施されている複数の案件の相乗効果を上げていくためには、プログラム・アプローチのような援助スキーム・制度等を越えた形での協力体制確立が必要である。特に専門家派遣、開発調査、プロジェクト方式技術協力等の技術協力と、無償資金協力、有償資金協力等の連携を強化し、組織制度強化から、人材育成、インフラ整備などを盛り込んでプログラム・アプローチを推進していくことが、事業の効果を上げ、持続性を高める上で重要である。
JICAでは、1998年度に資金協力連携専門家を制度化しており、今後の同スキームの活用動向が注目される。
(4)質の高い援助に向けた案件の形成と実施
従来日本ODAは要請主義をとってきたが、第4章で述べたように現在は「共同形成主義」への転換が図られているところである。ODAの透明性を確保し、現地ニーズに適合したプロジェクトを形成するために、日本は相手国側と共同で案件形成に取り組むべきである。そのためには、相手国側は、日本のODAに関する制度や体制についての理解を深めることが必要で、また、日本側は相手国側の経済・社会の状況を踏まえた上で開発のニーズを見極め、そのニーズに適ったプロジェクトやプログラムを共に実現させていこと、これをもって援助の質を向上させていくことが必要である。
(5)関係省庁、外郭団体、地方自治体等の調整・連携
日本のODAには、主要実施機関である外務省、JICA、OECFに加えて、農林水産省、運輸省、通産省等の省庁、地方自治体、外郭団体も、個別の事業・調査等を通して参加している。これらの機関の活動について、日本において十分な情報収集・調整作業が行われておらず、それぞれの機関が個別に事業を展開しているのが実情である。また、大使館、JICA事務所など現地援助実施機関も、調査団から派遣の時期、メンバー、目的等が知らされないまま現地での調査を行い、調整、対応に苦慮するケースも見られ、相手国側の混乱を引き起こす可能性も高い。したがって、外務省において関係官庁、外郭団体、地方自治体等のODA活動の情報を一元的に管理し、特に調査団派遣、事業実施については調整を行うことが望ましい。また、外務省、JICA、OECF等も含め、これら調査の成果品については相手国政府に提出することが必要である。
(6)NGO、NPOの役割
国民参加型のODAを推進していく上で、NGO、NPOを日本国民の代表として捉え、日本とセネガル、あるいは日本とマリの国民交流促進の拠点とし、彼らの役割・活動の重要性を再確認することが必要である。特にマリのように日本の援助実施機関が事務所を有しない場合には、NGOの役割は非常に大きい。一般的に、当該国、当該地域の住民から見た場合、協力しているのが政府関係者であれ、NGOであれ、日本人が実際に汗を流している、というインパクトは大きい。NGO、NPO活動の、計画策定、実施、モニタリング・評価等に両国民が参加することで、日本と相手国の相互理解を深めていくことにもつながる。NGO、NPOに対する支援としては、現在、一部補助金等が提供されるのみであるが、彼ら固有の活動方針等を尊重し、アクセスし易く、利用し易い支援体制の確立が望まれる。