前章までの分析を踏まえ、相手国側の援助受入れ体制及び日本の援助実施体制に対する提言は以下のようにまとめられる。
セネガル、マリ側の援助受入体制について検討し、より効果的・効率的な開発を進めるにあたって受入・実施機関に望まれる体制のあり方について、以下の通り提言として取りまとめる。
(1)窓口機関を通じた横の連携推進による実施体制の強化
これまで、セネガル及びマリに対する日本の援助は、無償資金協力を主体とする協力であったことから、開発計画の規模も比較的小さく、個別プロジェクトの施設建設に協力する形で援助が行われてきた。このため、当該実施機関の受入体制に起因するさほど大きな問題も発生せずにきている。しかし、援助の効果と効率を高めるためには、援助受入窓口機関を通じた横の連携を強化して行く必要がある。例えば、個別プロジェクトの統合化を推進して、開発効果を高めるだけでなく開発の持続性を高めることが期待される。
日本側が、プロジェクト型援助からプログラム型援助に転換を図って行くことになれば、さらなる横の連携が必要とされる。この場合、すべてのプロジェクト、プログラムの推進には組織面で横の連携が不可欠となってくることから、計画の立案段階における相手国側の窓口機関・実施機関及び関連機関が横の連携を強化して、開発援助の効果と効率を高めることが必要である。
(2)参加型開発の促進に向けた実施体制の強化
日本の無償援助プロジェクトにおける住民参加は、まだ限られた範囲に留まっているが、開発の持続性を高めるためには、より進んだ参加型開発を目指して行くことが求められる。参加型開発の促進を通じて、自助努力の高揚と自立的発展に向けた気運づくりが期待できる。参加型開発も、計画立案段階での開発コンセプト策定の段階から地域住民との話合い等に基づいて検討を行うことが重要である。
このためには、セネガル、マリ側が、地方自治化・参加型開発支援のための「グッド・ガバナンス」の実現へ向けて、中央行政組織の効率的運営、地方自治体のプロジェクト実施・運営・管理能力の向上、市民レベルでの組識作り推進及び受益者負担に対する啓蒙等を推進していくことが必要である。
(3)貧困対策プログラムの推進体制の拡充
貧困対策には、社会インフラ(給水、学校、医療施設など)の整備を進めるだけでは十分な対応とはみなされない。また、社会インフラ施設の継続管理でも、受益者が運転費を負担するだけ(更新が必要な施設の償却費を負担できない)なら、持続的な開発を進めることは難しい。貧困対策や持続的な開発には、収入を得る方法を併せて考え、包括的なアプローチをとる必要がある。
地方給水計画に組み合せて菜園プログラムや果樹栽培プログラムを促進する提案は、収入源を確保する第一歩の手段になると考えられる。水理的、地質的制約を明らかにした上で、可能な範囲で住民の収入を上げて生計向上を図る方策をとるように、また、施設の更新も受益者側で対応できるように、援助窓口機関、実施機関、地域住民が知恵を出し合うような実施体制をとる必要がある。
さらに、地方での貧困対策等には農村開発が重要な課題とされる。どのようなアプローチで農村開発を進め、生計向上が図れるかについて検討が必要であるが、そのための一つの手段として、日本の食糧増産援助の活用方法についても、セネガル、マリ側で検討・協議し、要請に反映させるような体制をとることが望ましい。
(4)透明性の確保に向けた実施体制の確立
ノンプロジェクト無償、食糧援助、食糧増産援助について、これら援助スキーム自体の利用効果を高め、さらに見返り資金の積み立てや運用について透明性を高めるために被援助国の体系整備、組織強化が必要である。ノンプロジェクト無償については、新設の三者コミッティーを活用することで改善が期待される。これら見返り資金の額は小さなものではなく、また、貧困対策を進める上での一つの重要な財源となり得るものである。したがって、貧困対策プログラムの推進体制の強化方法の検討と合せて、見返り資金の透明かつ効果的な活用方法する体制を早急にとることが必要である。
(5)モニタリングと評価体制の確立
モニタリングや評価によって、その結果を実施中のプロジェクト、プログラムに反映させ、管理の是正に役立てるとともに、事業の実施を通じて得られる教訓を明らかにして、将来のプロジェクト実施や関連開発案件にフィードバックしていくことは、持続的開発を進める上で重要な要素である。相手国側によるモニタリングについては実施機関が担当し、評価については全体の開発計画や開発戦略を取りまとめる機関(例えば援助窓口機関)が受け持つことが望ましい。計画・援助担当の窓口機関にモニタリング・評価の取りまとめ担当者を配置して、フィードバック等の情報発信基地とし、その体制を確立することが必要である。
日本のセネガル、マリにおける援助実施体制についてより効果的・効率的な体制とその運営のあり方について、以下の通り提言する。
(1)国別プログラム・アプローチの確立
日本の援助はプロジェクト単位の形態で概ね効果的に実施されているが、より現地ニーズに即した持続性のある開発体制を確立するために、援助実施体制を従来のプロジェクト・アプローチから、現地政府の組織強化へも積極的に参加し、セクターを越えた開発協力を行うための「国別プログラム・アプローチ」への転換を検討することが望ましい。
したがって、政策・制度が社会経済開発の阻害要因であるとして、政策・制度面での改革を進めてきたのが構造調整であることをかんがみ、現在、政治・経済の大きな改革の時期にあるアフリカ諸国を支援するには、プロジェクトを個別に計画・実施しても、改革の流れ全体を損なう恐れのあることを認識する必要があろう。また、相手国民のニーズに応えるための援助を実現していくためには、現行の援助形態(スキーム)と制度の壁を越えた援助プロジェクト・プログラムを実施し、柔軟な開発援助を行える体制作りが必要である。したがって、相手国民のニーズを踏まえて開発の優先順位を決定し、他ドナー・国際機関とも政策改革について協力・合意し、その上でそれぞれ目的達成のためのプログラムを作成していくことが望まれる。
(2)大使館・JICA事務所の実施体制強化
大使館・JICA事務所の実施体制については、現在の要員で可能な限りセネガルを中心に兼轄国に対する業務が実施されているが、予算及び要員が限られており、相手国援助関係者との対話、現地ニーズを汲み取った案件形成の実施、プロジェクトの実施中・実施後のモニタリング・評価及びフォローアップ、他ドナーとの連携等を十分にカバーするには至っていないのが現状である。
顔の見える援助を推進していく上で、セネガルはもちろん兼轄国において、相互の連絡を密にするとともに、例えば、年一回程度、日本のプレゼンスを提示できるようなセミナーやワークショップを行うことが望ましい。これは、特に日本援助の窓口が設置されていないマリ等の兼轄国において、重要な意味合いを持つと考えられる。
短期的な対応策としては、要員の増強ではなく、限られた要員でより機動的な実施体制をとることが課題とされよう。このために、大使館やJICA事務所では、経済協力分野の専門調査員、企画調査員や広域専門家などの人材を確保すること、JICA事務所による近隣兼轄国での対話促進に要する経費(例えば、セミナー開催費など)を確保することを検討していくことが考えられる。また、兼轄国については、それぞれに日本援助実施の窓口として、かつ、現地の援助受入能力を向上させオーナーシップを強化するためのアドバイザー的役割を有する専門家を配置することも考えられよう。
これらの課題に対応していくには、要員等の面で制約が多いと思われることから、必要に応じてコンサルタント、NGO、あるいは現地・第三国の専門家等を活用するアウトソーシングの考え方を積極的に取り入れることも検討すべきである。
(3)他ドナーとの連携(DAC新開発戦略、SIP等への対応)
DAC新開発戦略については、セネガル政府がこれを自らの政策目標としてコミットし、目標達成へ向けての調整の中核となっていく必要がある。ここでの目標は、「計画目標」ではなく具体的な「指標的かつ国民的目標」を掲げることが望ましい。日本側は、セネガル側のこうした活動に対して技術支援を行うべきである。セネガル側の中核組識としては、行政官、研究者、民間コンサルタントから構成されるチームが適当であると考えられる。プロセスのコンセプト、手続き、会議準備、基礎資料作成等は早期に着手される必要がある。また、両国の関係者が参加する定期会合を開催し、新開発戦略に対する進捗状況のモニタリングを行っていくことが望ましい。国民参加型ODAを推進するため、例えばフォーラムを開催したり、現地視察あるいは現地関係者との協議等を通じ、日本の市民社会の参加も促進していくべきであろう。
援助調整会議及びSIPについて、現在のところ日本は積極的には参加していない。日本側は、国別のプログラム・アプローチを策定し、それに沿った形で現地からの報告を受け、またそれに対する日本政府の対応方法等を明らかにし、(1)国別プログラム・アプローチの確立の項で述べたような、他ドナーとの調整・連携体制を確立し、実現していくことが望ましい。
(4)先方政府のオーナーシップ強化への支援
オーナーシップの強化については、例えば教育分野では初等教育の就学率100%を目指して小学校建設を推進しても、教員の養成・配置及び給与支給の問題について受入れ国の予算ではカバーしきれないことがあるという課題がある。これについては、現在世界銀行が中心となって作成中のSIPに連携して、リカレントコストと人件費の確保、教科書・教材作成・配布等も包含した支援体制を取ることがより効果的であると考えられる。
また、農村部の水供給プロジェクトでは、初期投資・維持管理に係る費用が高く、受益者負担によるリカレントコストのカバーがどこまで現実的であるか、という点が課題であろう。特に水案件の住民組織づくりは、無償資金協力案件の中で、ソフトコンポーネント費用を用いることができるようになっており、この手法がさらに普及していくことが望ましい。リカレントコストの確保、運営・維持管理体制の確立、住民参加の推進等ソフト面の整備について、施設建設・機材設置等と同様、技術協力との連携により専門家を派遣するか、コンサルタント側の専門家を投入するなどして、積極的に取り組むことが必要であろう。
(5)パートナーシップの強化
日本側によりプロジェクト形成調査、無償資金協力の基本設計調査、あるいはモニタリング・評価調査など様々な調査団が派遣されるが、パートナーシップの観点から、各種調査についてセネガル側との合同調査の実施を可能な限り拡充していくことが望ましい。調査目的・内容・手法等についてセネガル側に明示するとともに、調査結果を効果的にフィードバックする方法についても検討していくことが必要である。
(6)ノンプロ無償等の実施体制見直し
ノンプロ無償、食糧援助、食糧増産援助については、援助国側の要請に基づき外務省本省の管理により実施され、さらに、大使館、先方政府、調達機関によるコミッティーを設置するなどの努力が行われており、現地ニーズに即した成果を上げられる実施体制の確立が目指されている。今後は大使館等による指導・管理の制度的導入を通してノンプロ無償、食糧援助、食糧増産援助という援助形態の実施体制を見直すことに加え、より相手国のニーズに適合したスキームを導入することが望ましい。
例えば、アフリカ地域で特に重要な課題である貧困対策において、小規模小口融資等の実施が望まれるケースがあったとしても、現在の日本の制度では直接的な対応が困難である。したがって、既存のプロジェクトの形態を取らない無償資金援助等を原資とする小口融資のファンド設立等を検討することが必要であろう。
一方、対象国に対して、現在円借款の構造調整融資で実施されているように純粋な形で国際収支支援に徹する(外貨市場を通じて資金供給を行う)ことも必要である。
(7)水産援助の方向性
セネガル、モーリタニアに対する水産無償は、漁法の近代化、施設整備による漁業生産の拡大等に焦点を当てたプロジェクトが中心となっているが、今後は資源管理、零細漁業部門の雇用拡大に焦点を移し、人材育成等を中心に、技術協力・資金協力等を展開していくことが必要であろう。また、内陸の貧困地域への栄養源供給並びにWIDの観点から、伝統的水産物加工業及び流通への支援も望まれる。
(8)モニタリング・評価体制の拡充
日本のモニタリング・評価体制を拡充するためには、まず、既存の各援助スキームについて検討することが必要である。
例えば、計画の調査・立案の段階(基本設計、開発調査)において、過去に日本が協力した類似案件や他のドナーの協力等から得られた教訓を、コンサルタントが報告するシステムを採用することが考えられる。現在の調査では、例えば、基本設計調査報告書において、過去の協力実績や他の援助機関による関連計画について言及しているが、それらの協力を通じて得られた教訓はまとめられていない。
さらに、評価を通じて得られる教訓を共有化して行くシステムを作り上げることが重要になろう。それには、年次評価報告書の公開にとどまらず、ワークショップの開催などを促進し、経験から学ぶ教訓を共有化して行く方策を検討することが望まれる。
今後はパートナーシップの観点からも相手国機関との合同モニタリング・評価体制を確立していくことが望ましい。プロジェクトのオーナーシップは相手国側にあることから、モニタリングについては相手国が自主的に行えるようプロジェクト実施期間中に技術移転を行うことが望ましい。評価については、両者が合同して調査を行い、その成果を共有することにより、パートナーシップを向上させるとともに、援助実施体制の改善が可能となろう。
(9)広報体制の拡充
情報の公開と広報体制の拡充は、日本の納税者に対する説明責任の意味を持つだけでなく、相手国の市民にとっても重要な意味を持つ。そのためにはプロジェクト型無償援助では、当該プロジェクトの広報資料(パンフレット、インターネット用入力等)を作成し、各実施機関がインターネット等メディアを通じた広報の体制を拡充していくべきであろう。
さらに、将来的には、現在一つの案件について各実施段階で作成される各種報告書を整理、統合し、最終的な審査対象となるプロジェクト・ドキュメントが作成され、このプロジェクト・ドキュメントに基づいて最終審査・決定を行う委員会を設置することが望ましい。これには両国の当局者、有識者、NGOが参加していくべきであろう。