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第5章 日本の援助実施体制に対する評価


 第4章に記述した対象国側の援助受入体制の現状と評価を踏まえて、日本の援助実施体制を援助実施の各段階毎に評価すると以下の通りである。


5.1 援助政策決定レベルの体制

5.1.1 地域別・国別アプローチ19)

 国別援助計画の策定を進める上でも、ドナー協議への対応やセクターの枠を越えた地域的対応をとる上でも、現在検討されているJICAの地域別組織化への改革に見られるように、援助実施機関を援助形態ではなく地域ベースで組織化することが、効果的・効率的に協力を進める上で重要であると考えられる。地域別組織化への改革にあたっては、現場重視の組織・要員体制をとるよう検討することが望まれる。また、JICAとしては、地域別組織に合せて事務の簡素化に取り組み、職員が煩雑な事務手続きに忙殺されることなく、開発プロジェクトや開発戦略の検討に注力できる体制に変革することが望まれる。さらに、援助形態別から地域別・国別組織への転換は、当然のことながら組織編成にとどまらない。すなわち、企画、立案、調査、予算編成、実施全体が形態別編成から地域別・国別編成へと転換される必要がある。

 現地の社会・経済の実情に見合った適切な開発計画を策定していく上で、地域別・国別研究の一層の強化が必要である。その成果を活かすには、予算及び実施体制の形態別から地域別・国別への転換が前提となろう。もっとも現状でもODA研究の大半は、地域別・国別に行われているが、地域別・国別の研究成果は、援助実務が立案、予算編成、実施の全過程にわたって形態別に組織されているために、実践に反映させることが難しくなっている。


19) ここでの「地域」は、複数の国をまたがるアフリカ、アジアなどの地域を指す。



5.1.2 貧困対策のための援助方針

 貧困の撲滅は、TICAD-IでもTICAD-IIでもアフリカ開発の最大の課題であると受けとめられている。世界銀行やUNDPは、マクロ経済の安定を通じて経済成長を達成し、民間企業活動を提供し、雇用と収入を確保するとともに、基本的な社会インフラ(教育、医療、給水施設等)を整備して貧困削減を目指すとしている。

 日本の援助指針では、ベーシック・ヒューマン・ニーズ(BHN)充足による貧困対策への取り組みとして、食糧自給・栄養改善・保健水準の向上・人口・初等教育普及などが上げられ、医療・給水・小学校建設に援助の重点が置かれてきた。これらの社会インフラの整備は貧困対策として重要なプログラムではあるが、それだけで貧困を削減できると期待することは難しい。社会インフラの整備とともに、生計向上に資する雇用や収入の確保に向けて、包括的な(ホリスティック)アプローチをとることが必要とされるが、援助によって対応できる範囲には自ずと限りがあることもまた認めざるを得ない。

 今後は、社会インフラを整備する一方で、雇用と収入を生む具体策を立てる必要がある。中でも大きな課題は、地方部の生計向上にあると思われ、一つの方策としては、農村開発の促進が挙げられる。また、例えば他国で行われたツーステップ・ローン等による小規模な小口融資(マイクロ・クレジット等)支援を通じた貧困対策が功を奏した事例が、西アフリカ地域でも適用できるか否か、適用できるとしてその場合の適用方法はどのようなものであるか等について慎重に検討することが望まれる。

 以上のように貧困対策を進めるための戦略及び具体策を検討し、試行・評価するための体制を組み立てることが急務である。セネガル、マリ両国とも貧困対策計画は策定されており、その支援に関わる調整もUNDPが中心となって行われている。これに対して日本も積極的に関与し、特に貢献できる分野を見極めて、調整をとっていくべきである。

5.1.3 農業・農村開発のための援助方針

 先に述べた包括的なアプローチをとって貧困対策を進めるためにも、高い割合の農業人口に対する生計手段を確保するためにも、農業開発と農村振興に対する支援は重要である。したがって、セネガル、マリの農業・農村開発に対して、日本側がいかなる方法で支援を進めていけるか、具体的戦略を検討し、策定していくべきである。

 日本としては、これまでにセネガル川流域で「小規模農村開発計画」、「農業実証調査」、「デビ地区潅漑改修計画」(以上、セネガル側)と「セネガル川流域潅漑農業開発計画調査」(モーリタニア側)を実施し、ニジェール川流域で「バギンダ地区農業開発計画」と「カラ上流域農業開発計画」(以上、マリ)を実施してきている。これらの協力案件は、単発的で大型・中型灌漑施設建設と稲作指導に集中している。また、流通・価格自由化への対応策は不明確である。

 この地域の農業開発に対する世界銀行の戦略は、セネガル川とニジェール川の農業開発ポテンシャルを認識した上で、潅漑施設の整備はPIM(Participatory Irrigation Management)の方式に沿って二次水路以降の施設を農民の負担で実施させる方針である。一方で、セネガルには、現在のところ明確な農業政策がないこともあり、適切な協力方針の策定自体が困難であることも事実である。

5.1.4 保健衛生セクターの援助方針

 日本のセネガル、マリ2カ国の保健衛生セクターに対する協力は、一般プロジェクト無償、草の根無償による機材供与案件、研修生受入、青年海外協力隊の派遣等が主な実績として上げられる。病院建設等の大規模プロジェクトは実施されていない。


表5-1 1990年代のセネガル、マリにおける保健衛生セクターでの援助実績
セネガル マリ
年度 案件名 年度 案件名
1990 カオラック病院改修計画 1992 バマコ市環境衛生改善計画
1992 ダンテック病院医療機材整備計画 1993 ギニア・ウォーム対策村落給水計画
    1996 (第1期~第2期)
出所:0DA白書をもとに作成


 日本が、保健衛生を重点分野として、今後さらに積極的支援を展開していく方針であれば、同分野の開発に係る援助政策、並びに具体的な戦略や行動計画を明確に示すことが望ましい。特にセネガルについてはGII(グローバル・イッシューズ・イニシアティブ)及びDAC新開発戦略の重点国として位置づけたのであるから、周辺地域を代表する西アフリカ地域における保健衛生援助のモデル国としての支援プロジェクト/プログラムの展開を図ることが適当である。このためには、開発計画及び保健衛生分野に専門性を有する長期専門家あるいは企画調整員を派遣して、日本の援助実施体制及びセネガル側の受入体制を整備することが望ましい。

5.1.5 プロジェクト中心のアプローチ

 日本のセネガル、マリにおける従来の援助を概観すると、個別プロジェクトによるアプローチが多くとられている。しかしながら、地方給水計画を例にとるならば、計画の目的は、給水施設が建設され、その施設が持続的に維持管理され、村落住民の生活が向上していくことにある。その目的の達成のためには、施設建設プロジェクトだけではなく、組識制度強化等のソフト面からの支援も重要となる。また、給水施設の整備に関連して、別途行われている苗木育成計画と組み合せることによって、防風(砂)林や薪採取用の植林を進めたり菜園での野菜栽培や果樹栽培を進めて収入の向上を図り、より効果的に住民の生活向上を達成するとともに、開発の持続性を高めることも可能性として考えられる。

 プログラム・アプローチ20)を進めるには、施設の整備などハード面での協力に加えて、人間中心の開発という目的追求において大きな阻害要因となる組織・制度の改善など、ソフト面も重視した協力の体制をとることが重要である。このような考え方を持つ他のドナーは、既にDAC新開発戦略に沿ってプログラム・アプローチによる協力を進めているところが多い。日本も、新開発戦略の推進を掲げているのであるから、単体のプロジェクトを推進するだけではなく、プログラム・アプローチをより積極的に進めることが望まれる。

 プロジェクト方式技術協力及び無償資金協力の計画立案や評価にあたって、PCM(Project Cycle Management)手法が取り入れられるケースが増えてきているが、PCM手法による問題分析をすると明らかなように、開発目的に向けた問題解決が単体のプロジェクトのみで実現できるケースは非常に少ない。PCM手法の目的系図は、目標達成に必要な複数の手段からなるプログラム・アプローチの考え方を視覚的に分かり易く示すものである。

 プログラム・アプローチは、セクターで縦割にした組織で対応するには困難が伴うことから、国別・地域別組織で対応することが望ましい。この点からも、JICAが実施機関として地域別体制をとる方向で検討されていることは的を射たものであり、地域制への改革はプログラム・アプローチをとるためには不可欠な改革と言える。


20) ここで述べているプログラム・アプローチとは、例えば貧困削減など共通の目標を持つ複数のプロジェクトを包括的に行うアプローチのこと。



5.2 現地援助実施機関

 日本側の実施体制としては、セネガルに大使館とJICA事務所がある。在セネガル日本国大使館は、近隣5カ国(マリ、モーリタニア、ガンビア、ギニア・ビサウ、カーボ・ヴェルデ)を兼轄していることから、JICA事務所も同様に5カ国をカバーしている。

 大使館で経済協力に携わっているのは、セネガル担当の3名と兼轄5カ国担当の4名である。地域の多様性(セネガル、マリ、モーリタニアは仏語、ガンビアは英語、ギニア・ビサウとカーボ・ヴェルデはポルトガル語)やダカールが地域の拠点となっていること、また、近年当地域に対する援助が量的に増加していることからすれば、少ない要員数で膨大な業務に対応する体制となっている。そのため、兼轄国担当者は毎月担当国に出張したいとしながらも、現実としては2ヵ月に一度程度の出張となっている。

 一方、JICA事務所は所長・次長の他に3名の所員が、セネガル及び近隣5カ国を担当している。このほかに協力隊調整員が3名配置されている。現地スタッフは4名となっている。スタッフが多忙であることに加え、JICA事務所の管理費が限られていることから、本部で組まれる各プロジェクト・プログラムの事業費で主に近隣諸国に出張することになるので、近隣国への出張は限られたものとなっている。大使館とJICA事務所は月例会議を開催するなどして連携を図っている。

 現在、在セネガル大使館及びJICA事務所の限られた要員を可能な限り活用し、セネガルを中心とした兼轄国に対する開発援助が推進されている。事務所運営上も、また、技術協力推進上も、日本国内おいて、フランス語が堪能で現地で技術移転等を行える人材の発掘・採用が難しいことが、陣容強化の大きな制約要因となっている。他方、日本ODAの中でもアフリカ諸国に対する援助の重要性が拡大し、援助の内容も多様化を増し、さらに他ドナーとの連携の必要性が指摘されている中で、スタッフの大幅拡充を求めるような状況にはない。アウトソーシングを進めて、民間コンサルタント、NGO、あるいはローカルの人材を柔軟に活用できるような体制を取り入れることにより、このような状況を改善していくことも検討していくべきであろう。


5.3 計画策定・プロジェクト実施体制

5.3.1 水供給セクター

 セネガルでの同分野に対する日本の協力は、1979年からこれまでに4次にわたる地方都市給水整備と12次にわたる地方水道整備が進められ、両プロジェクトを合せたひ益人口は435,000人を超える。また、維持管理のためのセンターも4ヵ所設置されている。ひ益住民からも評価され、協力の効果は目に見えた形となっている。住民参加による維持管理体制の確立については、無償資金協力の施工監理段階で日本側コンサルタントの技術移転による組織強化が行われている。こうしたソフト分野のコンサルティング業務に対して、正式の業務に含められるケースも出てきており、適用が拡大されていくことが期待される。維持管理のための組織づくりは水供給プロジェクトの持続性確保にとって最も重要な要素であることから、施工管理業務の一部として含めることが望ましい21)

 また、これまで続けられてきた協力を振り返ると、日本側の協力の目的が給水施設を建設・整備することに置かれてきているが、本来、協力の目的は給水施設を整備し、維持管理体制を確立することを通じて、地域住民の福祉が向上することにある。究極の目的が明確にされるなら、給水施設を建設するだけでなく、その施設を活用して計画の目的に合った関連分野での協力を進める考え方も生まれてこよう。例えば、余剰水を利用した防風林、果樹の栽培や菜園の整備などに対しても配慮して、他のプロジェクトと連携するなり相手国側の協力を得るなりして、目的に合った協力をプログラム化して行くことが可能である。この点からも、実施機関や関係者が開発協力の目的を定めるにあたって十分な検討を行うことが望まれる。


21) JICAでは、平成10年度よりソフトコンポーネントを含めることが制度として認められており、無償資金協力の一部として対応しようとしている。



5.3.2 教育セクター

 教育分野の協力は、水供給案件と同様、教室建設などハード面からの協力が中心であり、援助効果に対する正確な評価は現段階では難しい。教育については、小学校建設による施設整備への貢献度は高いが、教科書配布、教員養成等のソフト的な面では協力を行っていない。教室を増やせばおのずと教員数の増加も必要となるが、それをカバーするだけの予算がセネガル側にないことから、目標とする就学率の達成に必ずしも繋がっていないのが、今後日本の協力を続けていく上での大きな課題である。

 セネガル、マリのそれぞれの国で、日本側は小学校の建設や教室の改修・増設への協力を進めている。協力の目的が就学率の向上や就学環境の向上とされている場合でも、施設の供与自体がその目的であるかのような受け取め方がされているが、施設の整備面については、給水施設、防風(砂)林の植込み、スポーツ・体力向上施設、等々について配慮することも望まれる。また、地域・コミュニティーとの連携の進め方や教材についても配慮が必要である。どのようなプログラムを組み込んで協力の目的を達成するか、議論と検討を進められるような協力の実施体制をとる必要がある。

 ノンプロ無償の見返り資金などによって、セネガルへの経常支出支援を計画当初から検討するのも一案であり、また、教材や教員研修支援など教育の質の強化を目指す支援を教室建設とパッケージで行うことも検討され得る。

 また、日本の無償協力による教室・学校建設費の単価(1教室あたり事業費)が、他のドナーと比べて高いコストとなっていることについては度々指摘されている。当地域での建設でも、日本のコンクリート強度や鉄骨配筋の基準がそのまま適用された設計基準が用いられている例がある。こうした手法は、建築物の高い質を保証できる反面、コストパフォーマンスが低く、また、技術的に維持管理に住民の参加が得にくい可能性もある。

5.3.3 保健衛生・人口セクター

 セネガル、マリの両国において、乳児死亡率、人口増加率等の保健関連指標が低所得国の平均値と比較して非常に低いレベルにある。これを受けて、セネガル、マリのいずれの国においても、乳児死亡率改善及び人口対策について各ドナーとも積極的に支援を行っている。同セクターにおいて効果的・効率的に成果を上げるためには、特にドナー間の調整・協力が重要であることから、UN、EU等の主催によりドナー会議が活発に開催されている。このような背景の下で、日本も基礎的保健・医療体制の整備に係る協力を展開している。特にセネガルについては、「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(GII)」の重点国として位置づけ、1997年にプロジェクト形成調査を実施し、エイズ検査キット供与、ポリオ根絶支援等の案件形成が行われた。また、同国は日本の提案によりDAC新開発戦略の重点国に入っている。

5.3.4 農業セクター

 セネガルとマリにおける潅漑改修計画においては、潅漑施設の改修そのものが目的とされ、組織体制強化、営農支援等が必ずしも重視されていない。計画の目的が潅漑を通じて農業生産を向上させ、農民の生活が向上することと定義されるなら、営農指導やマーケティング等も目的達成のために必要な協力として組み込むことも一案と考えられる。今後は、農産品輸入の自由化を受けた農民のニーズ、灌漑規模の妥当性を適正に把握した上で、プロジェクトの収益率の向上を見込んで、プロジェクトの形成や、無償資金協力の基本設計の段階で、開発計画の目的をどう定めるかについて実施機関でさらに十分な検討を行う体制をとることが望ましい。

5.3.5 水産セクター

 セネガルの沿岸及び沖合は、世界の漁業資源豊庫の一つとされ、日本は、これまで同国に対して、生産面での支援に始まり、零細漁業振興とりわけ小型発動機の普及、都市の魚市場建設など流通面での支援、資源管理面での支援(資源調査船の供与)を中心に行ってきた。その成果はめざましく、零細漁業の発展は顕著であり、零細漁業は外からの支援を得ずに自立的に発展できる段階に達していると見られる。しかし、これまでの開発によって資源は持続的生産限度(MST: Marine Sustainable Yield)に近い状況になっていると言われていることから、同国の要請に基づいて、日本側は、社会インフラ整備も含め漁村開発のための包括的な支援を行う方針としている。今後は資源管理、内陸の貧困地域への栄養源供給及びWIDの観点から、伝統的水産物加工業及び流通への支援に焦点を移し、人材育成等を中心に、技術協力・資金協力等を展開していくことが必要である。流通面では、冷蔵流通支援から伝統的水産物加工・流通業へ支援を転換すべきである。これは、冷蔵流通魚需要者は都市部の中高所得者であり、一方、伝統的加工魚の需要者は国民の大半を占める貧困層であることがその理由である。さらに、伝統加工魚の生産・流通は、零細漁村の女性達によって主に担われており、WIDの観点からもこの分野の支援は重視されるべきであろう。

5.3.6 環境セクター

 セネガルでは、1986年から「緑の推進協力プロジェクト」が青年海外協力隊(JOCV)の派遣を中心として、専門家派遣や研修員受入れを連携させた形で実施され、無償資金協力による「苗木育成場整備計画」も行われている。緑の推進協力は、植林を主体とするが、アグロフォレストリーとして林業と農業を連携させ住民の生活向上を目的とした村落開発プログラムの一つと捉えることができる。ティエス州のチームは、年間50万本の苗木を生産し、農家に配布するとともに、菜園を造って野菜や果樹の栽培を促進し、持続的な開発に向けての指導を提供してきた。なお、98年末にセネガルでの緑の推進協力プロジェクトは終了したが、プロジェクト・チームの一部であった協力隊員は、個別派遣として現在も活動中である。

5.3.7 草の根無償を利用した援助体制

 草の根無償は、現在年間7、8件、金額にして4.5千万円程度が実施されている。草の根無償は、BHN分野を重視して供与され、現地ニーズに合致し、要請から実施までの期間が一般無償に比べて短いことから、増加の傾向にある。

 しかしながら、現地草の根レベルから年間約250案件程度の申し込みが行われるが、優良案件は限られている。このため、専門家またはJOCV隊員等の支援により形成された案件が対象となるケースが多い。現在の実施体制から見て、大使館独自によるプロジェクトの選定は困難である。今後、草の根無償の予算規模が拡大した場合、案件の選定、管理、評価における内外のNGOなどへの委託、またJICA事務所との連携を検討することが望ましい。

 さらに、現在のシステムでは、草の根無償で供与された資金を運転資金等に利用することはできないが、このような制度が実現すれば効果的であることが予想される。

 草の根無償の成果を上げるため、平成10年度より外部調査委託により、謝金ベースで外部の専門家等に案件実施のモニタリングを委託できる体制が導入されており、両国でも活用が期待される。


5.4 ノンプロジェクト型資金協力実施・管理体制

 ノンプロジェクト無償については、全般的に、両国におけるノンプロ型支援の割合の大きさにかんがみ、実施、モニタリング体制を一層充実させる必要があると考えられる。

 セネガル、マリの場合、調達機関(UNOPS)による国際調達業務が行われているが、その見返り資金の運用・管理の改善に、1995年度供与分から実施されるコミッティーによる協議が効果的に機能することが期待される。見返り資金は、DACガイドラインに基づき、個別の施設、機材等のプロジェクト案件だけでなく、より広範な経済・社会開発目的の財政支援に向けるのが望ましい。また、ノンプロ無償は、OECFの構造調整支援と同様、ひものつかない国際収支支援である。これにより、行政費用の大幅削減、資金効率の向上、透明性と公正性の改善、オーナーシップの拡大、経済の歪みの縮小が期待できる。

 食糧増産援助の調達業務はJICAからJICS(日本国際協力システム)に委託される体制がとられている。JICAが5年に一度の割合で現地を調査する管理体制をとっているが、相手国側による見返り資金の運用と管理について、より一層の改善の余地がある。


5.5 モニタリング・評価体制

 評価・モニタリングの目的は、(イ)プロジェクトが効果的・効率的に実施されているかを検証し、(ロ)その結果を案件の運営管理改善に活用するとともに、(ハ)将来の援助計画の策定に役立てる、と理解される。日本側の評価体制としては、外務省、JICA、OECFが各々の評価を実施し、年次評価報告書として取りまとめ、公表している。DACの対日援助審査は、日本が評価をフォローアップする体制を備えていると報告しているが、「21世紀に向けてのODA改革懇談会」では、評価システムには更なる改善の余地があると報告している。

 現在、外務省は「援助評価検討部会」の下に作業委員会を設けて開発援助における評価のあり方について検討を行っている。これらの成果を受けて、セネガル、マリ両国においても、より効果的なモニタリングと評価が実現されていくことが期待される。


5.6 ドナー間調整

 セネガルでは、複数のドナー協議が組まれ、その他にもセクター別の協議などが開催されている。以前はこれらの協議への参加に消極的であったが、現在では大使館が協議に参加しており、JICAもオブザーバーとして参加している。一方、マリでもUNDPなどが主催して多くの協議会が開かれている。マリは、OECDの援助システム・レビューの対象国に指定されていることもあって、OECDでの円卓会議を含めて、多くの協議会が開かれている(1998年9月にジュネーブで開催された円卓会議用にUNDPが取りまとめたレビュー報告書では、日本の援助案件3件についての評価を取り上げている)。残念ながら、マリで開催される協議会には、日本及び現地援助実施機関からほとんど対応がとられていない。

 ドナーとの調整については、UNDPや世界銀行の対応や体制が、日本の体制とは違ったものであるとするにしても、彼等が日本の援助について誤解を持つことは好ましいことではなく、限られた体制のなかで、協議会や個別の対話を通じて日本の立場や対応性について理解させるように努めることが必要である。


5.7 現地広報体制

 セネガルにおいては、日本大使館が6ページの紹介パンフレットを発行し、JICA事務所が2ページのパンフレットを作成するなど、広報に努めている。しかしながら、他の援助機関の広報と比べると、質、量ともに未だ十分な体制がとられているとは言い難い。

 援助広報の一部として、プロジェクト型無償援助ではコントラクター側が自己負担でプロジェクト紹介のパンフレットを作成していることが多い。また、現在は、援助機関のみならず、プロジェクト実施機関又は担当者(コンサルタント等)が、実施プロジェクトに関する広報資料(パンフレット、インターネット用入力等)を作成できる体制がとられている。

 将来的には、日本による各種調査の成果を相手国の市民、NGOなどの団体が必要に応じて閲覧できる体制も検討されるべきであろう。


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