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第3章 対象国における開発の動向


3.1 対象国側の開発戦略

3.1.1 セネガル

 現在第9次経済社会開発計画(1996-2001)を実施中であり、「競争力回復と持続的な人間開発」を目指し、1)生産セクター強化による経済成長、2)投資拡大と生産性向上、3)人的資源開発、4)農業水利事業の拡大、5)貧困問題への対応を主要戦略として掲げている14)。ここでは、マクロ経済の安定と高成長の維持、民間部門の発展の促進と国家の役割の見直し、農村開発の推進、社会開発の加速化、西アフリカ経済・通貨同盟(UEMOA)を中心とした地域統合の促進が強調されている。本計画の主軸は競争力の回復と農村開発であり、成長率を年率9%とする野心的な目標も掲げられている。貧困削減については、教育・衛生の確保など社会開発の推進に合わせて、雇用と収入源の創出が重要である。

 同国では、上記開発計画を上位計画とし、実質的には公共投資3ヵ年計画(PIP)及びセクター投資計画(SIP)に基づいて開発を推進している。特に、SIPは援助調整のツールとして重要であると認識し、世界銀行の協力を得ながらインフラ整備のみならず組織体制整備、ドナー間調整等が特に重要と考えられるセクターについて、SIPに基づいた開発体制を確立する方向にある。保健部門については、既に経常予算(運転資金)との整合を目指すSIPが完成し、ドナー間の調整を図っている。教育部門においても、SIP策定のため同様の作業を進めている。


14) Ministère de I'Economie, de Finances et du Plan, Direction de la Planification, Plan d'Orientation pour le Devéloppement Economique et Social 1996-2001 IX Plan, 1997



3.1.2 マリ

 マリ国政府は、構造調整計画の経済開発大綱(1996-98)を基本として、1)年率4~5%の経済成長率を達成し、2)インフレ率を2~3%に抑制、3)GDPに占める財政赤字を98年までに10.6%に抑えることを目標に掲げ、PIPを実施している。PIPでは、民間部門の活性化、農村部における医療、教育、給水のための公共支出拡大、制度改革による民間投資環境の整備、人口成長率の抑制が中心課題として取り上げられている。

 1997年には首相府内に社会開発庁を設置するなど、政府も貧困問題に真剣に取り組む姿勢を打ち出した。ここでは、国をあげて貧困問題を解決していくための方策として、1)貧困層に利する経済、政治、法律、社会・文化のための環境改善、2)自営業など収入創出に結びつく経済活動の促進、3)金融サービスなど生産要素へのアクセスの改善、4)農業と食糧供給ラインの開発と改善、5)教育へのアクセス改善、6)保健衛生、栄養、飲料水へのアクセス改善、7)居住環境の改善、8)以上の戦略の効率的な調整、という8戦略を掲げている15)


15) Ministère de I'Economie, de Finances et du Plan, Direction de la Planification, Plan d'Orientation pour le Devéloppement Economique et Social 1996-2001 IX Plan, 1997, p. 13



3.2 国際社会の援助の流れ

3.2.1 DAC新開発戦略と援助協調

 OECD/DACの「21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献」(通称「新開発戦略」)は、1996年5月の閣僚理事会で採択され、経済的福祉、社会開発、環境の持続可能性について具体的な目標を設定した。本戦略のキーワードは、「パートナーシップ」と「オーナーシップ」と言えるが、途上国自身の自助努力と並んで強調されているのは、各国が策定する開発戦略を支援するための援助協調の強化である。

 これは、ドナー間の協調・調整を意味し、近年は、セクター投資計画(SIP)のように特定のセクターについて援助受入国とドナーの同意の上、受入国政府の主導のもとで複数のドナーが調整・協力して援助するという方式も世界銀行によって推進されている。これは、「良い統治(グッド・ガバナンス)」の考え方とも無縁ではなく、限られた資金のなかでいかにプロジェクトやプログラムの効率・効果を高めるか、という課題である。プロジェクトのレベルでは、特に社会開発分野における援助プログラムの設計にあたって、当該地域の詳細かつ質の高い社会・経済調査が必要となり、援助受入国での現況把握については当該地域での類似案件の経験を持つ国際機関やドナーとの協力による調査の効率向上が図られるべきである。

 セネガルは、年間約5億ドルにのぼる海外からの援助を受けており、主要な二国間援助国は、台湾を除くと、フランス、日本、ドイツ、米国である。セネガル、マリに対するドナーの取り組みについては付表-3及び4に示す通りである。

3.2.2 国際社会によるアフリカ支援

 これまでアフリカが直面する経済危機に対応するべく、多数の国際会議が持たれてきた。1980年のアフリカ統一機構(OAU)首脳会議では、「ラゴス計画」が採択され、アフリカの自助努力と地域協力の必要性が強調された。85年の同首脳会議で採択された「アディスアベバ宣言」では、経済危機の原因は植民地体制よりもアフリカ自身の責任であることが認められた。

 1986年の国連特別総会では議題がアフリカに限定され、先進国の国連を通じた包括的、中長期的支援・協力を盛り込んだ「アフリカ経済復興開発行動計画」が採択されている。その柱は、農業開発とその支援、干ばつ対策、人的資源開発などの優先課題を定めて、具体的に各国からの支援を要請するというものであった。総額1,280億ドルのうち、826億ドルはアフリカ諸国の自己負担であった。91年の特別総会で行動計画の事後評価が行われ、採択された「90年代アフリカ開発のための新アジェンダ」では、ODAの増大、年平均4%の成長率、地域協力が目指されたが、実際には92年以降の援助額は減少している。

3.2.3 ドナー調整

(1)セネガル

 援助プロジェクトの重複を避け、特定のセクターに対して複数のドナーが集中的に協議・協力を行うことによって援助の効果・効率を高めるために、現在、セネガルでは表3-1のようなドナー間調整会議が行われている。中には、休眠状態で活動の行われていない会合もあるが、このほかにも雇用促進、民間部門振興、エイズ等のテーマで調整会議が開かれている。

 このような調整会議は、本来は援助受入国の当該国政府が主体となってリードするべき性質のものであるが、セネガル政府は、1996年に保健セクターのセクター投資計画(SIP)をドナーに提出し、円卓会議も開催している。西アフリカ諸国政府と複数のドナーが協力して、水産業部門について協力を強化する動きも見られる16)


表3-1 セネガルで開催されている主要なドナー調整会議
テーマ 主催機関・国 主催頻度 参加者
1 ドナー間調整会議 UNDP、世界銀行 2ヵ月毎 資金提供をしているドナー
2 保健セクター調整会議 EU 3ヵ月毎 保健セクターに協力しているドナー
3 環境グループ オランダ 2ヵ月毎 環境セクターに協力しているドナー
4 農業委員会 FAO 随時 資金提供をしているドナー
5 マクロ経済検討委員会 世界銀行 随時 ドナーのエコノミスト
6 人ログループ 国連人口基金 2ヵ月毎 人ロセクターに協力しているドナー
7 教育調整委員会 フランス 毎月 教育セクターに協力しているドナー及びNGO
8 NGOフォローアップ委 USAID 随時 USAID、フランス、EU、UNHCR等
9 農業セクター調整計画 世界銀行 随時 世界銀行、EU、FAO、オランダ、USAID、フランス
10 運輸・交通セクター調整計画 世界銀行 随時 世界銀行、EU、フランス
11 地方分権化に関するドナ一委員会   3ヵ月毎 ドイツ、UNDP、オランダ、米国、EU、フォード財団、フランス、世界銀行
出所:調査団入手資料より作成



16) ギニア湾岸諸国では、EUを中心としたドナーの側から水産資源管理に対する関心が高まっている。大陸棚資源と回遊魚資源を管理するべく、当該地域のセネガル、モーリタニア、ガンビア、ギニア、ギニアビサウ、カーボヴェルデの6カ国は97年に地域漁業委員会(SRFC)を結成し、ここにFAOやEUなど主要ドナーが参加している。



(2)マリ

 援助調整は援助受入窓口である外務・在外マリ人省が財務省などと協力しながら行っており、カナダ、ベルギー、オランダなどとは定期会合を設けている。UNDP、ノルウェー、ルクセンブルグとは近隣諸国を交えて混合委員会を設置し協議を行っている。他方、日本とは定期的な包括的協議はなく、各実務レベルの省庁間で援助調整を行っており、大使館に提出する要請についても体系的には行われていない。


3.3 日本の援助実績

3.3.1 援助方針

(1)対アフリカ諸国

 日本政府は、国連、GCA(アフリカのためのグローバル連合)とともに、1993年に第1回アフリカ開発会議(TICAD-I)を開催した。同会議で採択された「東京宣言」の主な柱は、1)アフリカ諸国イニシアティブの重視、2)民間部門の振興、3)アフリカ諸国間の地域協力、貿易の拡大、4)自然災害・人的災害の予防、5)アジアの経験の移転と南南協力、6)女性、環境、エイズなど多岐に渡る問題を解決するための国際協力である。同時に、日本の資金協力として、地下水開発に3年間で総計2.5~3億ドルの拠出が約束された。また、96年の第9回国連貿易開発会議(UNCTAD)総会において、日本は「対アフリカ支援イニシアチブ」を発表し、教育支援並びに2000年を目標としたポリオ根絶支援に取り組むことを表明した。

 1998年10月に開催されたTICAD-IIでは、TICAD-I以降に行われた一連の議論の成果が「東京行動計画」として採択された。同計画を踏まえたアフリカ支援プログラムは表3-2の通りである。TICAD-IIのフォローアップとしては、地域別モニタリング・セミナー開催、UNDPアジア・アフリカ協力基金を通した計測・モニタリング・評価を行うことが上げられている。

表3-2 TICADIIを受けた日本のアフリカ支援プログラム
協力分野 プログラム
社会開発 教育・保健医療・水供給の無償資金協力、寄生虫対策センターの設置、ポリオ根絶推進
経済開発 アジア・アフリカ投資情報サービスセンターの設置、アジア・アフリカ・ビジネスフオーラムの開催、2000年アフリカ中小企業年構想、稲作振興への援助、南部アフリカの観光開発、債務管理に関するキャパシティ・ビルディング、債務救済無償資金協力の拡大
開発の基盤 UNDPアフリカ・ガバナンスフォーラム支援、OAU紛争予防管理解決メカニズム支援、UNHCRへの支援を通しての難民・帰還民の自立協力、南部アフリカの地雷除去支援
南南協力 アジア諸国でのアフリカ人研修生の支援拡大、アジア・アフリカフォーラムの開催、日・仏・マレーシア三国協力による職業訓練研修の推進
協調の強化 アフリカ人造り拠点設置構想、開発研究機関ネットワーク構想、日・アフリカ交流構想
出所:外務省資料より作成


(2)対セネガル

 日本政府は、セネガルに対し、援助重点国として以下のような位置付けに基づいて援助を実施している。

1)セネガルは、西アフリカの中心国の一つであり、政治的に大きな発言力を有しており、また、仏語圏アフリカ諸国の中で中心的な役割を果たしている。

2)1976年に複数政党制を採用して以来、アフリカ有数の民主主義国家として政情が安定している。

3)1980年より世界銀行・IMFの支援の下、構造調整、経済再建に積極的に取り組んでいる。

4)人口増加率の高さ、砂漠化防止等多くの開発課題を抱え、援助需要が大きい。

5)日本との関係が良好である。

6)具体的な開発目標を掲げ、経済社会開発のためのオーナーシップを発揮しているセネガルの開発政策は、DAC新開発戦略の趣旨にも合致し、セネガルにおいて新開発戦略の実施を重点的に支援していく状況にある。

 援助の重点分野としては、まず基礎生活の向上を掲げ、その中で安全な生活用水の確保、基礎教育の充実、基礎的保健・医療制度の整備を目指している。続いて、環境(砂漠化防止)及び農水産業振興も重点分野としており、後者については、食糧作物の生産性向上のための食糧増産援助、灌漑施設整備等の協力を実施するとともに、零細漁業の振興等を支援していく方針を打ち出している。

(3)対マリ

 マリに対しても、日本政府は、同国の民主化、経済改革努力を支援するため、基礎生活分野を中心に援助実施を検討していく方針である。

3.3.2 援助実績

 セネガル及び兼轄国に対する日本による形態別援助実績は付表-5に示す通りである。援助金額でみると、両国とも日本はフランスに次ぎ、二国間ドナーの2位、または高位にある主要ドナーとなっている。日本は、主として無償資金による協力(一般プロジェクト無償、食糧援助、食糧増産援助、ノンプロ無償、水産無償)を主体とした協力を実施してきている。セネガル、マリ両国それぞれに対する援助実施状況は以下の通り。

(1)対セネガル

 プロジェクト型無償援助が毎年供与されてきている。最近10年間の供与実績を見ると、セネガルでは、給水(1987年から14次にわたって供与)、小学校教室建設、医療の分野が中心とされ、援助指針に沿った形で社会インフラ整備に重点が置かれてきている。水産分野での協力も継続的に取り上げられてきている。農業分野の協力は96年まで続けられてきたが、その後も、セネガル側に明確な農業政策が打ち出されていないことから、今のところ、新規のプロジェクトは取り上げられていない。

 草の根無償については、1997年度にセネガルで7件実施され、足の速い援助として現地側からも評価が高い。援助対象分野も多岐にわたり、社会インフラ施設やWID、エイズ対策などグローバル・イシュー対象案件にも広げられている。セネガルにおける平成7年度~9年度までの草の根無償の実施状況を付表-5に示す。

 ノンプロ無償は、1988年度から97年度までに6回で合計130億円が供与された。調達業務は、国際連合プロジェクト・サービス機関(United Nations Office for Project Services; UNOPS)が実施しており、最近の調査実績からすると燃料、原材料、部品等がノンプロ無償資金で購入されている。これまで、UNOPSの業務は調達・納入までであったが、98年度以降の供与からは、被援助国政府と在外公館にUNOPSが加わった三者で委員会(コミッティー)を組織し、ノンプロ無償の実施に関する諸問題や見返り資金の状況等を協議する場が設けられることとなった。また、91~93年の間に毎年1.5億円、94~97年には毎年2~2.5億円の食糧援助が供与され、食糧増産援助には91年以降毎年5.5~6億円が供与されている。

 プロジェクト型有償資金協力は1979年に道路建設計画に提供されているが、その後は提供されていない。構造調整型のノンプロジェクト借款が88~95年の間に2件供与されている。これらの借款に係る返済については、同国が返済に行き詰まったため、89年以降に債務繰延が続けられている。

(2)対マリ

 マリに対する無償援助は、1990年まで主として農業分野での援助が取り上げられていたが、その後の無償案件は給水と小学校建設を中心としたものとなっている。90年代はじめに農業分野の開発調査が実施されたが、プロジェクトとしては取り上げられていない。これは、給水や初等教育といったベーシック・ヒューマン・ニーズ(BHN)の充足に対する援助がより重視されるようになってきたためと考えられる。

 草の根無償については、1997年度はマリで6件実施されており、セネガル同様要請から実施までの期間が早いことから、現地政府の評価が高い。ノンプロ無償は、89年度から6回で合計50億円が供与されている。ノンプロ無償の見返り資金の使途については、セネガル同様、三者コミッティーが設置されている。食糧増産援助は、91年以降毎年3億円~5億円供与されている。

 一方、プロジェクト型有償資金協力は提供されていない。構造調整型のノンプロジェクト借款が1988~95年の間に2件供与されている。


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