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モンゴル国別評価セミナー概要


 モンゴル国別評価セミナーは、1999年9月6日、ウランバートル(チンギス・ハーンホテル)にて開催された。出席者はモンゴル中央省庁、大学/研究機関、他ドナー国/国際機関等より約50名、日本側より大使館関係者、JICA関係者、商工会関係者等約30名、総計約80名程度であった。尚、セミナーのプログラムは以下の通りである。

9時00分~9時10分 開会の挨拶(久保田大使)
9時10分~9時25分 基調講演(ビャムバスレン行政・管理開発研究所所長(前首相))
9時25分~9時40分 開会の挨拶(オチルスフ大蔵大臣)(都合により基調講演と順序入替え)
9時40分~10時20分 1.国別評価の目的について
2.総合評価と重点分野評価(知的支援・人材育成)(以上成蹊大学名誉教授廣野良吉)
10時20分~10時45分 重点分野評価(インフラ部門)(東京大学教授吉田恒昭)
10時45分~11時10分 重点分野評価(農業・牧畜業振興、産業育成、教育/保健・医療)(東京国際大学教授栗林純夫)
11時10分~11時25分 コーヒーブレイク
11時25分~11時40分 評価結果に対するコメント(バルカンスレン農牧産業省局長)
11時40分~11時55分 評価結果に対するコメント(バトジャブインフラ開発省局長)
11時55分~12時20分 質疑応答
12時20分~12時40分 総括(成蹊大学名誉教授廣野良吉)
12時40分~12時50分 閉会の辞(バトバヤル対外関係省局長)
12時50分~14時15分 昼食
14時30分~ プレスインタビュー(リリース資料なし、インタビューへの回答のみ)


各講演者の講演内容は以下の通りである。

1.冒頭挨拶

久保田大使

 過去10年に及び、我が国はモンゴルに対し、インフラ整備、知的支援・人材育成、農牧畜業振興、基礎生活支援の4つを重点分野としつつ、すべての援助スキームを用いて民主化ならびに市場経済への移行に係る支援を行ってきた。6月の支援国会合では、さらに1.15億ドルの支援を約束している。また、7月には小渕首相がモンゴルを公式訪問しており、両国間の関係は一層強固になるであろう。国別評価は、モンゴルにおけるこれまでの援助の効果、インパクトについての分析を行うものであり、そこから導き出された教訓は、今後の対モンゴル援助方針策定の一助となる。本評価セミナーにおける議論、意見交換が、我が国の対モンゴルODAの効果向上に寄与することを期待する。

オチルスフ大蔵大臣

 まずは、今回の評価ミッションに感謝の意を表したい。旧ソ連邦崩壊後の我が国経済の混乱期から、日本のODAを含む諸外国、国際機関からの援助は、市場経済化、社会経済情勢の安定化に向け貢献してきた。特に日本からの包括的な援助による貢献が大きかったことは言うまでもない。マクロ経済の安定化、構造改革、海外直接投資や国内貯蓄の増加に向けては、今後もこれら援助が必要となる。我が国の中期的戦略は引き続き構造改革を実施していくことである。そのためには政府の役割を縮小し、民間部門を成長させることが不可欠であることから、金融システムとインフラのさらなる整備が必要となる。この中期戦略の成功に向けては、財政収支の均衡、輸出産業の育成、国営/民営企業の改革、中小企業育成、失業者数低減に対する支援が引き続き必要となる。本評価セミナーが、今後の援助方針策定の一助となることを期待する。


2.基調講演

ビャムバスレン行政・管理開発研究所(Institute of Administration and Management Development)所長(元首相)

 我が国の経済の安定化、完全なる民主化の定着に向けてはさらなる努力と時間を要する。これまで実施してきた改革を成功に導くためには、日本を含む国際コミュニティーからの支援は欠かせない。日本からの支援は、両国間の関係強化にも貢献しており、今回の小渕首相の訪問により21世紀に向けてもこの関係は続くであろうことが証明された。改革直後の我が国の困難期より実施されてきた日本の援助は包括的なものであり、我が国の経済安定化に向け貢献してきた。また、様々な部門において行われている技術移転あるいは留学生の受け入れは、今後の我が国の持続的発展に向け貢献していくことは間違いない。我が国において、これら日本からの援助の吸収能力を向上させるためには、各省庁間ならびにドナー国/機関とのコーディネーションのさらなる強化が必要である。


3.日本側プレゼンテーション

(1)廣野成蹊大学名誉教授:国別評価の目的、総評及び政策支援・人材育成

(国別評価の目的)

 モンゴルは政治、経済の両面において改革を実施してきたが、この決断は非常に大胆なものであった。これら改革に向け、モンゴル政府はもちろん、ドナー国/機関も積極的に取り組んできた。これらの支援が効果的、効率的に行われてきたかをみることは非常に重要である。我が国の支援はモンゴル開発に重要であるが一側面にすぎず、主体はあくまでモンゴルである。久保田大使が述べたように、我が国の援助の重点分野はモンゴルの経済社会開発の進行に合わせて変化してきているが、援助の実施に際してはモンゴル側からの希望を最大限に活かすべく努力してきたし、今後もそうするであろう。また、我が国の納税者は納めた税金が最も効果的に使用されることを望んでいる。従って、我が国援助がモンゴルの開発政策と整合性があるか、効率的、効果的に利用されているか、期待したインパクトを与えているか見極める必要がある。

(総評)

 ビャムバスレン学長が日本の援助は非常に包括的であると述べたこと、またモンゴルの新しい発展に向け非常に有効であったと述べたことに非常に感銘した。日本の対モンゴル援助は、モンゴルの開発政策と整合性を持ち続けている。評価の過程においては、将来改善すべき点、失敗点も明らかになったが、ミッションメンバーは、我が国の対モンゴル援助が概して効果的、効率的に実施されてきたことに満足している。短期的インパクトについては期待通りであったことは明らかであるが、長期的インパクトを評価するにはさらに5年ほど必要である。

(政策支援・人材育成)

 1991年に始まった我が国の対モンゴルの政策支援、人材育成支援であるが、他の援助国・国際機関に先駆け実施したことは高く評価できる。しかし、モンゴル経済は大きく変化してきたことから、それに伴い政策支援の形も変わってきた。当初は市場経済化等の改革に関心を払っていたが、最近では改革を推進できる人材育成に重点を置いている。国家発展に向けては人材が必要であり、市場経済化、開発の主旨を理解でき、その成果を分析し、施策の微調整や新たな政策を展開できる人材育成が重要である。対モンゴル政策支援に関しては、モンゴルが市場経済への移行国であると同時に開発途上国であるということを理解すべきである。我が国はこの点を理解したうえで、政策支援を行っており大きな貢献を成しえてきた。また、今後はこの政策支援や人材育成をより効果的かつ持続可能なものにするために制度構築への支援も急務となる。

(2)吉田東京大学教授:インフラ整備

 我が国援助の規模、評価の要点、評価からの教訓の3点について話したい。我が国の対モンゴル無償資金援助の約40%、有償資金協力のほぼ全額がインフラ関連への支援であり、全体的にみて約70%がインフラ整備に投入されている。今回は通信施設整備計画、第4火力発電所、貨物積み替え施設及び鉄道輸送力整備計画、公共輸送力改善計画、ロックアスファルト舗装道路計画、給水施設改善計画の6つのプロジェクトの評価を実施した。他の開発途上国と比較し、モンゴルの技術能力は比較的高いと感じたが、まだ多くの技術移転の必要性を感じる。また、すべての公共事業企業において財務管理が不十分であった。援助プロジェクトの持続性に向けては技術能力のみならず、財務的健全性が重要である。インフラ部門において、我が国はこれまで多くの援助を実施してきたが、今後は包括性を重視すべきである。包括性には水平的包括性と垂直的包括性の2つがあるが、モンゴルにおいては垂直的包括性に重点を置くべきであろう。また、事業経営の健全性も重要であり、そのためにはインフラセクター政策・計画・調整に向けての支援が必要となる。

(3)栗林東京国際大学教授:農牧畜業振興、産業育成及び教育/保健・医療

(農牧畜業振興)

 我が国の同部門に対する援助は、設備改修・機材供与が中心であったにもかかわらず、これら設備・機材の稼働に係る運転資金についての配慮が十分ではなかったことは、今後の援助実施に際しての教訓として留意すべきであろう。また、それら設備・機材供与の対象が限定的であったこと、あるいは設備・機材設置におけるモンゴル側との分担に関しての見通しの不足などが問題点として指摘される。また、小麦生産に関しては日モ双方で費用便益分析を慎重に行う必要がある。牧草地における井戸の改修等に着手するなど、日本としては牧畜部門への援助を拡大すべきである。主な既往案件に係る詳細分析結果は以下の通りである。

1)ダルハン食肉加工施設

 無償資金協力により冷凍用コンプレッサーの一部を供与した後に、見返り資金を利用して残りのコンプレッサーを供与してきている。これにより、当初同施設の能力を十分に発揮できず、稼働率が低いものとなっていた。すべてのコンプレッサーが同時に設置されるタイミングで供与を行うべきであった。

2)ウランバートル市乳製品加工施設

 運転資金の不足が同施設経営の大きな問題となっている。かかる状況下、我が国は見返り資金により支援してきており、その結果、稼働率は、徐々に改善方向にある。

3)ハラホリン穀物貯蔵庫

 同貯蔵庫に対しても見返り資金を利用して小麦供給等の支援を行っているが、依然として稼働能力を十分に発揮していない状況にある。需要予測、維持管理等、日本側でも事前に検討すべき事項があったことは否めない。

(産業振興)

 モンゴルでは多くの新興中小企業が台頭しつつあり、産業振興に向けての支援が求められているわけであるが、我が国はこれまでインフラ部門、農牧業部門、保健・医療部門に重点を置き援助を展開してきたため、こうした要請に対し十分には応えていない。最近実施した中小企業育成に係る専門家の派遣は高い評価を受けており、これら専門家派遣の拡充を図ることは有効な援助となる得るであろう。また、産業振興に向けては、金融改革が必要であり、我が国としては国際機関と協力しつつ支援を行っていく必要がある。また、中小企業支援のための新たな金融方式の構築を支援することが望ましい。

(教育/保健・医療)

 我が国の教育、保健・医療部門に関する援助は機材供与を中心に実施されてきた。これら援助に対してはモンゴル側からも高い評価を得ているとともに、機材のメンテナンス状態も基本的には良好に保たれている。研修生の受入などとも相俟って、基礎生活支援に関してはソフトとハードの両面で大きく貢献してきたと言えよう。今後は供与した機材、ならびにそれに付随する消耗品の管理にも注意を注ぎながら援助を継続していく必要がある。


4.モンゴル側コメント

(1)バルガンスレン農牧産業省局長

 我が国農牧産業部門への日本の援助は拡大傾向にあり、非常に感謝している。日本からの農業部門における援助プロジェクトは概ね順調である。ご指摘いただいた乳製品製造、食肉加工に係る問題点については、原料の不足も寄与することも考慮していただきたい。1994年より地質鉱物資源研究所へのプロジェクト方式技術協力が実施され終了したが、来年度より実施予定のモンゴル北部の鉱物資源探索プロジェクトへの援助支援を要請している。我が国農牧産業部門における日本のODAの効果・効率の向上に向けては、1)無償資金供与を受けた3工場の適正な運転に向けての管理、2)KR2により購入された機材の有効利用、3)見返り資金の適正な積み立てと使用計画の作成、等が必要となる。また、プロジェクトの計画、実施、運営に係る人材の育成も必要であり、これら課題への取り組みに対し、農牧産業省としても努力を行っていく。

(2)バトジャブ インフラ開発省局長

 日本の援助のより効果的、有効的活用に向け、本評価ミッションの報告について議論することは大いに重要であり、本セミナーの開催を非常に有り難く思っている。日本の我が国への援助の大半はインフラ部門へ投入されている。これら援助は事前に十分な調査がなされたうえで実施されていることから成功率が高く、水供給、公共輸送、ディーゼル発電機等に係る援助は短期間でモンゴル国民の生活の質の向上に貢献してきた。今後は民間部門発展、雇用創出、投資環境整備、環境保護に向けての援助が必要となる。援助の効率向上に向けては、新規プロジェクトと実施済みプロジェクトとの連結が重要であると同時に、関係省庁間の連携強化も必要である。また、援助プロジェクトに関する情報の国民への開示、援助に係る人材の育成もさらに進めていく必要がある。草の根無償がモンゴルの発展に与える影響が大きいことも強調させていただきたい。


5.質疑応答

  • MAP21(Mongolian Action Programme for the 21st Century)のホルドルジ氏は、今後管理部門の能力向上に向け何がなされるべきか質問した。廣野団長は、モンゴルには社会主義時代の影響が根強く残っていることを指摘し、モンゴル側におけるプログラムの効果、効率性の向上に向けては、当事者にインセンティブ与えるなど新たなアプローチが必要であると述べた。
  • モンゴル教育省のバーサンジャブ氏は、日本の対モンゴル援助プロジェクトはインフラ、農牧業部門で多く行われているが、今後は教育・芸術セクターも重要であることを指摘した。栗林団員は、モンゴルから日本へも留学生が来ているが、今後は援助に係る技術者にもその門戸を広げる必要性を指摘した。廣野団長は、モンゴル技術大学に対して専門家派遣、機材供与の成功例を述べた。
  • WHOのシルバ所長は、日本は基礎機材の供与にもかかわらず、モンゴルにおいてはまだ基礎機材が不足している点を指摘した。また、機材を管理する技術者は優秀であるが、スペアパーツの不足が問題であり、スペアパーツ購入への支援の必要性を指摘した。さらには、機器の使用マニュアルが日本語あるいは英語であり翻訳の必要がありマニュアルの理解が難しいことを指摘し、これら機器使用に際しての技術者研修の必要性を述べた。廣野団長は、スペアパーツとマニュアルの問題の重要性は認識しているが、モンゴル側の自助努力を促すうえでも、是非自国で努力していただきたい旨述べた。尚、これらの機器使用に際しての技術者研修の重要性を認識して、専門家および青年海外協力隊員による技術者研修が現在実施されていることを確認した。
  • モンゴル保健社会保障省局長のエンフバット氏は、社会福祉セクターへの援助が重要であることを述べるとともに民間部門への支援が必要であると述べた。また、日本へ派遣されたモンゴル公務員研修生が帰国後民間部門へ転職するという問題について意見の要求がなされた。栗林団員は、社会福祉部門は非常に重要であり、我が国としては今後も援助を継続していく旨述べるとともに、民間部門への支援については我が国ODAの枠外であることを強調した。吉田団員は、研修生引き止めについては、派遣前に残留に係る契約を交わすことが有効であると述べたが、民間へ転職しても我が国における研修がモンゴルの人的能力の向上に役立っていることにはかわりはない旨述べた。
  • MAP21のバダルチ氏は、モンゴルにおける環境問題の重要性を指摘し、環境問題に取り組んでいる組織に対する支援が必要であると述べた。また、この分野においてはUNDPとの共同援助も有効であると述べた。
  • 原JICA専門家は、モンゴル側に対し今後どれくらいの期間に及び援助が必要かと質問した。バトバヤル対外関係省局長は、モンゴルが民主化と市場経済化の2つの改革に着手していることから、さらに10年必要であると述べた。また、ビャムバスレン所長はIAMD研究員の試算を紹介し、今後さらに50億ドルの支援が必要であると述べた。また、2003年から2017年にかけてがモンゴル経済発展の山場であり、その後は自立できると述べた。

6.総括

(1)廣野成蹊大学名誉教授

 以下の5点を総括としたい。

  • どの分野を重点的に援助すべきか考え合意することが重要であり、今後もモンゴル側の開発政策に沿った形で援助を実施する必要がある。
  • 援助実施においては効率性、効果性が最重視されなければならない。
  • 援助プロジェクト/プログラムのオーナーシップ(ownership)が重要であり、それがモンゴルの持続的・自立的発展に寄与する。
  • 日本とモンゴル間のパートナーシップの強化を図るとともに、両国における国内省庁、NGO、国際機関等との連携強化および他の援助供与国との協力も不可欠である。
  • 日本側は援助の評価を随時行っているが、評価は別々及び双方共同で実施していく必要がある。近い将来、モンゴルも独自で援助評価を実施できる能力を備えていただきたい。

 モンゴルの自立的経済発展のためは30年間に及ぶ国際的支援が必要と考える。市場経済への移行を開始して以来、すでに10年が経過せんとしており、残る20年の内に(願わくば10年後には)モンゴルの自立発展した姿を見れることを楽しみにしている。

(2)バトバヤル対外関係省局長

 本年3月に評価ミッションと面会してから、我が国では首相が交代するなど多くの出来事があった。その後モンゴル支援国会合で、我々の期待を大きく越える3.2億ドルの支援が約束されたが、先の講演者が述べたように、我が国における援助の吸収能力はまだ十分ではなく、援助プロジェクトの遅延、中止が起こっている。一番重要なことは、我が国が何をすべきかをよく考えることである。これまでの日本の援助は我が国の社会経済発展に大いに貢献しており、この場をお借りし感謝の意を表したい。我が国のさらなる発展に向け、日本からの援助は今後も非常に重要であり、さらに10年間援助を継続させていただきたい。


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