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第5章 エルサルヴァドルに対する他の援助国・国際機関の動向


 1992年から97年の間に二国間及び国際機関が行った対エルサルヴァドル援助は総額24億6,775万ドルである(文中全ての数字は1万ドル以下四捨五入した)。この内二国間は10億8,692万ドルで全体の半分弱を占めている。国際機関の援助額は13億2,558万ドル、NGOは5,525万ドルで全体の2%にとどまっている。

 二国間援助を国別に見ると、最も金額が多いのはアメリカの5億9,521万ドルで全体の約55%を占めている。二番目が日本の3億9,252万ドルで全体の36%である。従ってアメリカと日本の上位2カ国は二国間援助総額の実に全体の9割近くを占めている。なお3番目以下は、オランダ2,180万ドル(3.7%)、スウェーデン1,963万ドル(3.3%)、スペイン1,854万ドル(1.7%)となっている(括弧内は二国間援助全体に占める割合)。

 このように二国間援助の金額では、国による偏重が著しく、アメリカと日本への依存度が高い。なお年度ごとの実績を見ていくと、二国間援助額は近年減少している。和平合意の成立した1992年には全体で2億6,206万ドル、翌93年には3億1,590万ドルとかつてない水準に達したが、97年の実績は3,949万ドルと、ピーク時の約1割強にまで急減した(表11参照)。この落差は復興計画の資金需要を充足するために、各国政府が緊急に拠出額を増やしたことに起因すると推察される。

 次に国際機関の対エルサルヴァドル援助を見ると、1992年から97年の間で、最大の拠出は米州開発銀行(IDB)の総計6億9,125万ドル。次が中米経済統合銀行(CABEI)の3億1,988万ドル、三番目には世銀(WB)の1億8,266万ドルが続いている(表12参照)。二国間援助とやや対照的なのは、国際機関の場合には、経年の援助額の減少はそれほど大きくはなく、最も援助額の大きかった96年と少なかった97年の差は4対1にとどまっている。国際機関の援助額は拠出額が一定の傾向で増減しているわけではなく、年度によってまちまちに増減している。この点は二国間援助と対照的である。


表11 二国間・国際機関・NGOの対エルサルヴァドル援助
1992~1997(千ドル)
  二国間 国際機関 NGO 合計
1992 262,060 117,068 10,997 390,125
1993 315,899 229,421 5,120 550,440
1994 192,893 205,180 9,130 407,203
1995 182,918 247,879 9,216 440,013
1996 93,655 410,568 10,451 514,674
1997 39,490 115,460 10,339 165,289
合計 1,086,915 1,325,578 55,252 2,467,745
出典:UNDP [1997], El Salvador: Technical and Financial Cooperation with El Salvador, as reported by Donors (1992-1997)


 次に二国間と国際機関それぞれの援助の分野別の内訳を検討してみることにしたい。まず二国間の場合アメリカは、項目別の拠出額の順位で見ると、開発計画一般、保健衛生、社会開発分野が重点分野である。分類上必ずしも一致しないが、日本の場合、項目別の拠出額の順位としては交通・運輸、エネルギー、天然資源と続いている。わが国の援助の特徴は、インフラ部門への拠出が多いということができよう。

 国際機関の援助を分野別に見ていくと、開発計画一般、交通・運輸、エネルギーが上位三分野で、日本の援助と比較的近似している。これはわが国が国際機関の援助に共同参加(ステップローン、コストシェアリング、協調融資)の形で拠出している側面があるためと見られる。例えば米州開発銀行、中米経済統合銀行などの域内金融機関の実施するプロジェクトへの日本からの有償援助額は近年急速に拡大し、主要な拠出国になりつつある。

 わが国の援助額が相対的に少ない政治部門へは、カナダ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、アメリカなどが個々の国の援助総額のなかで相対的に高い割合を拠出している。特にスウェーデンは、援助総額の約四分の一が政治部門に拠出され、選挙支援、人権問題、難民援助などの、カレント・イシューに積極的に取り組んでいる。

 各国の援助にはそれぞれの国の援助理念や得意な分野もあり、そのパフォーマンスについては総合的に判断すべきである。但しエルサルヴァドルが一人当たり国民所得の上昇に伴い、無償援助供与の対象国を「卒業」したことを念頭に置くと、従来のようなインフラ整備に重点を置く援助政策は、ある程度の変更を余儀なくされよう。国際金融機関が司法・警察・行政改革にまで踏み込んだインフラ整備関連への協力を実施していることから、将来のわが国の援助も、このような制度改革に注目すべきであろう。そのためには専門知識と語学力、地域の事情に明るい専門家(理工系出身者だけでなく、経済、法律、政治など社会科学分野)が必要となろう。

 国際社会の対エルサルヴァドル援助で特徴的なのは米国が内戦中に行った、軍事・経済援助が近年は急減していることである。依然としてトップドナーの地位は保っているものの、米国からの軍事援助は現在ほぼゼロに近く、経済援助は最盛期の三分の一にまで目減りしている。USAIDエルサルヴァドル事務所の作成したパンフレットによると、対エルサルヴァドル援助の基本方針は、貧困層への対応(特に農村の若年層と女性)、民主化の促進、保健衛生の向上、上水道の4項目に目標を絞って、年間約3,500万ドルの拠出を計画している。なおUSAIDエルサルヴァドル事務所の規模は米本国からの正規職員は16人、現地雇用の職員は106人とのことである。なお同事務所の説明では、和平合意後の援助額減少の理由として、冷戦終結後の新たな国際環境の中で、反共産主義を旗印にした経済協力の必要が薄れたこと、特に共和党が優勢な議会で、経済援助に消極的な流れが強くなったこと、中米紛争は終結したが、中東、旧ユーゴ、東アジアなどの内戦・軍事的な緊張が高まり、資金がそちらに流れていることなどを指摘している。

 このような米国の対エルサルヴァドル援助の減少を、結果的に我が国が補填するような形で援助を増加させていることも事実である。しかしながら援助の内容を子細に検討すると、上述のように米国の援助と我が国のそれは重点分野が異なり、むしろ棲み分けに近いものといえよう。従って対エルサルヴァドル援助については、我が国の援助が米国のそれを単純に「肩代わり」しているとの表現は適切ではなかろう。


表12 対エルサルヴァドル援助分野別内訳1992~1997(千ドル)
  二国間 多国間
日本 米国 IDB CABEI WB
政治分野 452 15,300      
開発計画一般 21,748 326,209 284,633 141,784 122,040
天然資源 75,560   57,865 2,788  
エネルギー 79,024   80,812 35,453 11,000
農林水産 34,185 7,700 7,048 16,250 40,160
工業   19,166 100,240 18,411  
交通・運輸 134,467   138,902 31,118  
通信 900   99 55,585  
貿易開発 28 8,400   3,700  
人口 50        
住宅 1,902   952    
保健衛生 5,731 63,579   11,200  
教育 16,140 35,028 20,017 3,590 9,341
雇用   5,580      
人道援助 60 2,210 186    
社会開発 13,838 83,098 500    
文化 900        
科学技術   10,537      
環境 7,530 18,403     119
合計 392,515 595,210 691,254 319,880 182,660
出典:表11に同じ


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