(1) 基本的視点
パラグアイヘの今後の経済協力の方向については、これまでの協力に関する評価を踏まえ、経済協力に関わる新たな諸条件を十分に念頭におき、その展望を行っていく必要がある。その際、特に重要だと考えられるのは(イ)パラグアイが民政に移行するとともに、厳しい財政の制約のもとで、民主主義と市場経済を定着させるための諸改革(経済改革、行政組織の近代化等を服務)を推進していかなければならないという状況にあり、それが進められるに従って、経済協力の優先・重点分野も変化し、パラグアイ政府の対応も異なってくると考えられること(ロ)日本の経済協力予算の削減に加え、パラグアイについては無償資金協力の打ち切りも予定されており、援助のあり方について特に量から質へという変化が求められていること、(ハ)グローバライゼーションの進展、メルコスールヘの加盟など、パラグアイにとっての国際的環境が急速に変化してきていること等である。
このことから、パラグアイヘの経済協力がこれまでの単なる延長として継続されるのではなく、上記の諸点を十分に考慮し、過去の経験や蓄積を生かした新たな取り組みを行うことが何よりも重要な課題となっていると言える。
まず、パラグアイが民政に移行することによって厳しい財政の制約の下で、民主主義と市場経済を定着させるための諸改革を実施しつつあり、これに対する支援を、今後の経済協力における重点、優先的分野に位置付けていく必要があろう。第一に、市場経済移行に関連しては、そのための経済的な諸改革(規制緩和、民営化、対外経済の自由化)が行われてきており、そらに、後に述べるようなMERCOSURへの加盟やグローバリゼーションヘの進展への対応を迫られている。国際的経済環境の変化への対応については、後に触れるが、一般的に市場経済の一層の定着のためには、今まで市場経済から取り残されたがちであった小規模農業や零細農業への支援が一層重要となると考えられる。また、市場経済移行に十分参加できるような人的資源への投資、特に教育や職業訓練などへの支援の重要性も必要である。
第二に、財政の制約の下での政府の行政機構の強化や、行政能力の拡充を視野に入れた協力の重要性も高まると考えられる。民主主義の一層の定着のためには、いわゆるガバナンスの強化が不可欠である。もとより、当面政府部門における全体的な合理化や効率化に関する指針や計画がないなかで、どこまで協力が可能か問題は残るが、いわゆる「グッドガバナンス」を構築することはパラグアイが緊急に取り組まなければならない民主主義の定着のために不可欠な要素である。また、それは後に述べる国際協力の効果を高めるためにも重要な課題である。
第三に、市場経済への完全な移行と民主主義の確立に深く関わっているのは、社会開発の課題である。パラグアイにおける貧困の解消や低所得層の生活条件の改善、能力の向上等は、民主主義と市場経済の定着のためには欠かせない条件である。この分野への協力も今後その重要性が高まると考えられる。
第四に、パラグアイのおいても他の途上国と同様、これまで以上に環境に配慮した援助の必要性が高まりつつあり、プロジェクトの策定に際しても、また実際に際しても環境に配慮した「持続可能な発展」の視点がより重要になってくると考えられる。また直接環境の保全や改善に関わるプロジェクトもこれまで実施されているが、さらにこの分野での協力を充実することも重要な課題であると考えられる。
次に、日本の経済協力予算の削減に加え、パラグアイについては、無償資金協力の打ち切りも予定されていることから、援助の在り方について特に量から質へという変化が求められていることを指摘したが、この点についてとりわけ以下のような考慮が必要となると考えられる。
第一に強調すべきは、パラグアイが次第にその所得水準を高め、政治経済の近代化を進めていく中で、従来以上に国際協力におけるパラグアイ側のオーナーシップの意識を高めることを促す必要があることである。それは協力案件に実効性の向上や自立発展性、波及効果の拡大を促すための前提であり、援助の量から質への変化にとって最も重要な要素の一つとなると考えられる。
第二に強調すべきは、先に指摘した点と関連しているが、援助を受け入れる政府機関や地方自治体等の政策立案能力や調整・運営能力等を向上させ、協力の実施における効率の向上はもとより、協力実施後のプロジェクトの自立的な発展や効果の普及を自ら行える行政能力の向上が重要となると考えられる。特に、我が国の協力において、これまで密接な協力関係を築いてきた農牧省、公共事業通信省、厚生省等の行政能力向上に向けた協力が、援助の質の向上のために重要であると考えられる。また、協力の総合的調整に関わる行政能力向上も重要である。
第三に、他の援助国や国際援助機関との強調やパラグアイの周辺に位置していて、地理的・社会的環境の共通性の高い(言語の共通性も含む)国々、特にブラジル、アルゼンチン等の専門家の活用を視野に入れた「三角」協力も援助の効率の向上や費用の節約を可能にすると考えられる。
さらにグローバリゼーションの進展やMERCOSURへの加盟等、パラグアイにとっての国際的環境が急速に変化してきていることを考慮した新たな経済協力の方向としては、次のような点を指摘することができよう。
第一に、この国の経済社会にとって最も重要な農牧業分野に関しては、パラグアイの農牧産品と周辺諸国の産品との競争が強まる傾向が見られ、今後の経済協力においては、MERCOSURの中でパラグアイの地位を十分に考慮した競争力の高い農牧畜産物の選定、開発、普及を促すプロジェクトに協力する必要があろう。
第二に、インフラ整備の分野でもMERCOSUR域内の物流システムやエネルギー需給のシステムのなかで、パラグアイがどのような位置を確保するかなどについての十分な検討を行った上で、そうした構想に参加するためのプロジェクトヘの協力を行っていく必要があろう。すなわちMERCOSURの広域的なシステムの下でのインフラ整備を視野に入れつつ、パラグアイにおけるニーズを配慮した協力の重要性が高まると考えられる。
第三に、工業分野への協力においてもMERCOSURの新たな枠組みの下で競争力を発揮し得るような製造業等の発展に向けての協力を行っていく必要があると考えられる。
以上は、本節の冒頭に述べたパラグアイに対する経済協力に関わる新たな条件の内、特に重要であると思われる3点について、その意味するところをより具体的に指摘したものである。このことに加え、第4章で行ったような過去の経済協力に関わる評価に基づき、これまでの経験や協力に関する様々な蓄積を十分に生かし、これを新たな協力に際して活用していくこともきわめて重要であると考えられる。
また、今後終了するプロジェクトについて、援助を継続しなくとも自立して継続が可能となるような一層の配慮も必要となろう。
以上は、パラグアイのこれまでの経済協力に関する全般的な評価を基にした、今後の経済協力に関する展望を簡潔にまとめたものである。その基本的視野としては、これまでの経済協力は一般に適切かつ効率的に行われてきており、その目標を十分に達成してきていることが評価されるが、最近のパラグアイの国内政治経済の重要な変化やパラグアイを取り巻く国際環境の変化等から、従来の方式をそのまま延長する形で継続するのではなく、新たな条件に対応する形で経済協力の在り方を見直していく必要があることを強調したい。
以下は、このような基本的視点から見て特に重要だと考えられる各分野に共通の課題である。各分野のより具体的展望については次節で行われる。
(2) 今後の方向性のなかの共通課題
以上に述べた基本的視点に基づいて今後の援助の方向を定めるに際し、これまでの経済協力に対する評価を踏まえて次のような点を分野共通の課題として強調したい。
第一に、相手機関の予算そのものが不足しており、その執行が非常に遅れることが多く、それが経済協力の効率と効果にマイナスの影響を与えることになりかねない。このためプロジェクトによっては、中央省庁等に強く働きかけるなどの方法で努力が行われているが、経済協力プロジェクトは何れも政府の重点分野として要請のあったものであり、できる限り優先的な予算配分と執行を行うよう、様々な機会を通じて働きかける必要があると考えられる。
第二に、このことと関連して、一部の分野では、様々な要因によってカウンターパートの定着率が低く、カウンターパートが交代するたびに同じ指導を繰り返す必要が生じている等、技術移転の効果を上げにくくしている状況が見られる。この点を改選するため、相手機関と協力しつつ効果的な対策を講じる必要がある.と考えられる。
例えば、相手機関の行政担当者やカウンターパートにオーナーシップ意識を育ませることが重要であるが、この点では電気通信訓練センターや厚生省の中央研究所(熱帯病検査・研究)のような本報告書でも検討したこの点での成功事例等を参考に具体的対策を検討する必要があろう。
第三に、経済協力に関わるパラグアイ政府側の各省庁間との調整と、より円滑な連携協力体制の確立が必要であると考えられる。この点は、最近新たな法的枠組みも整備されるなど、パラグアイ側も努力しつつあるが、開始されたばかりであり、それが実際に十分な効果を上げられるよう、様々な機会を通じてエンカレッジする必要があろう。また、分野ないしは開発全般にわたる方向づけと、その実施能力の向上に貢献する支援が求められる段階にも来ている。この点に関しては、例えば、ドイツは環境政策において戦略的な政策立案のための専門家を派遣しており、米ハーバード大学のHIIDは教育改革の戦略的プランの作成に協力している。
我が国の場合、既に農牧業分野をはじめ、密接な協力関係を築いてきたいくつかの分野があり、これらの分野において、そうした政策立案を含めた行政能力の向上に貢献する協力・支援が可能であると考えられる。
他方、パラグアイ側からは我が国プロジェクトの提案から実施に向けての準備に時間がかかることが指摘されているが、パラグアイの体制と日本のシステムがより円滑にかみあうような相互努力が更に求められる。パラグアイ側はSTP(企画庁)の責任と役割の明確化、他省庁の関係等の枠組みを定める等の努力を行ってきているが、今後、それが具体的レベルで実行に移されることが必要である。他方、日本側としてもこれを促すと共に、それに留意して協力体制の円滑化を目指すことが求められている。
また、パラグアイ側からは、資材の調達や専門家の数に関して、より効率的に、また低コストに行う余地があったのではないかとの指摘も一部のプロジェクトについては行われている。一般的にはプロジェクト実施時の事情等を勘案すると、与えられた条件の範囲内では効率的に行われたと一般に考えられるが、今後は我が国からの経済協力予算の削減が行われることもあり、一層調達コストの節約や専門家の人員の効率的配置を考えていく必要がある。この点に関しては、出来る限り資材を現地や周辺国で調達することや、補修部品等の速やかな調達等についてまず工夫する必要があると考えられる。また、専門家に関しては、先に指摘したように、パラグアイと条件の近い周辺のぶあじる、アルゼンチン等の専門家(これらの国々の日系の専門家を含む)の活用をはじめとする南南協力(または三角協力)の推進などにより、効率の向上を目指すことが必要であると考えられる。
第四に、新たな状況のもとで、パラグアイの経済社会発展のビジョンに基づき、優先・重点分野をより明確にし、我が国の協力の方向を考えていく必要があろう。ビジョンについては、企画庁がまとめつつある。しかし、これまでのところ。グローバライゼーションやメルコスールヘの対応、小農対策、経済政策、環境への対応などを含め、政府レベルやパラグアイ国民の間でコンセンサスが十分に形成されつつあるとは考え難い。
この点に関しては、1998年8月に促進する新政権の下での新たな進展が期待される。
第五に、パラグアイは長期独裁政権の後に民主化の道を歩んでいるが、今後安定した政府運営を進められるように側面支援することが重要であろう。特に、貧弱な公的制度の再構築と強化が最大の課題である。グッド・ガバナンスや諸制度の構築、行政能力の強化は、各プロジェクトの将来的な実効度、自立発展性を保証するものであり、緊急の課題と言える。(例えば、USAIDは地方分権化、選挙制度・司法制度の改革・近代化を、EUは国会の近代化支援を、ドイツは司法制度の改革・近代化を、BID、世銀は教育改革を支援するプロジェクトに取り組んでいる。)
第六に、専門家のカウンターパートとの意志疎通の一層の改善、プロジェクト相互の連携、専門家の間での情報、意見交換などについての改善も重要であると考えられる。例えば専門家の言語能力が必ずしも十分でないことが指摘されている。今後、政策支援を始めとするいわゆる「ソフト」援助が重要性を高めると思われること、また、パラグアイがグローバライゼーションの進展、メルコスールヘの統合に向けた改革を進めていかなければならないことから、この点での一層の改善が必要とおこわれる。さらにプロジェクト相互での連携により、協力の効果を高めることが期待できると考えられるケースも見られる。相互の連携、専門家の間の情報や意見交換、政策アドバイザーへの個別分析専門家からのフィードバック等を更に進める必要があると考えられる。また。このことに関連して、パラグアイと条件の近い周辺国における協力の経験を生かしたり、それらの国の専門家を南南協力等のスキームにより活用すること等が求められる。
1995年に南米共同市場の加盟国となったパラグアイの農牧業部門は、ブラジルやアルゼンチン、チリといりた近隣諸国の激しい競争に晒されるようになった。パラグアイは市場規模が小さい上、南米共同市場の一員となったため、より先進的なブラジル、アルゼンチン、チリの高品質農産物が国内市場に流入し、国内市場からパラグアイ農産品が締め出される結果となりりつある。このため、今後は小農民はもとより、市場経済から取り残されてきた零細農民をも視野に入れた経済・技術協力が不可欠となる。小農民・零細農民対策によって当事者の所得増をもたらし、現在拡大傾向にある社会・経済格差の是正に貢献するという社会的公正の実現に寄与することができよう。これは、同時に国内市場の拡大をももたらすものであることはいうまでもない。
(1) 今後の経済・技術協力・援助は、南米共同市場加盟国市場をも対象とした付加価値の高い産物の選定・開発・普及を促す計画に協力する必要があろう。さらには、農産品・畜産・酪農産品の加工分野に対する協力も必要となろう。
(2) 小農民、零細農民の市場経済における積極的な参加を促すために技術協力、営農協力を行い、低利子融資のための協力をすることも重要となる。
(3) パラグアイには農業協同組合の伝統がほとんどないことから、農協を育成し営農協力を効率的に行うためにモデルとなる農協を戦略的に支援することが求められる。
(4) 小農民・零細農民に対する営農技術の普及に一層の協力が必要である。
(5) 農牧畜生産者が用意にアクセスできるような、南米共同市場の農牧産物の受給状況、農産物市況の情報センターの設置が求められる。
(6) 農牧省員による営農技術の普及はあまり成果を挙げていない。今後はまず第一段階として我が国から普及要員専門家の派遣をはじめ、パラグアイ人普及要員を日本側で要請して、段階的に日本人からパラグアイ人に交代していく必要があろう。
(7) パラグアイ東部地域の土壌や気候がブラジルのパラナ州に類似していることから、協力の効率化をはかるために、ブラジルとの三角協力の可能性を模索することも検討を要する。
(8) パラグアイ国内のみならず南米共同市場内で競争できる新果実、疏菜の実験と普及が急務となりつつある。例えば、研究所で開発あるいは実験が行われ、パラグアイの土壌とパラグアイおよび近隣諸国の市場に適していると判断される新品種の普及が必要である。
(9) 農産物を生産地から市場へ円滑に運搬できるように、全天候型農道の整備を急ぐ必要がある。
(10) パラグアイ国民は幾つかの伝統的な疏菜を除けば野菜を消費する習慣がなく、国内消費市場拡大のためには、野菜消費の普及を積極的に支援していく必要がある。
(11) 今後の最大の課題の一つは、パラグアイ行政担当者、カウンターパートにオーナーシップ意識を育ませることであろう。
(12) 環境保全を考慮にいれた農業資源の開発
パラグアイは大豆や小麦など農産品の輸出に大きく依存する農牧業国である。オアらグアイのような開発途上国では、先進国の多国籍製薬企業の多種多様な製品が使用される一方で、使用にあたる農民の知識不足あるいは品質に対する部分的な規制の甘さのため、農産物の害虫駆除に使用される農薬及び化学肥料の人体への影響が懸念されうる。このような特定国の特定企業との結びつきがある場合、これら農薬の土壌・水質汚染おるいは人体、その他の生物に対する調査は様々な制約を受けやすいものと考えられる。従って、特定農薬、特定化学肥料の環境への影響調査、勧告などはマルチラテラルな場、OECDや国連機関(WHO)などの協力が是非とも必要となろう。環境に配慮した農薬の選定(分解が早く、残留性が低いもの)、低公害肥料については先進国からの技術協力が行える分野であり、これら化学物質のモニターを行う公的、私的な機関の育成も必要である。
(森林)
パラグアイ東部地域は降雨量が多く、広葉樹を中心とする豊かな森林地帯が広がっている。しかし、近年、大豆等の輸出拡大による耕地の開拓が進むのと同時に、森林資源の乱伐が顕著となっている。また、外国資本によるパルプ会社の進出も目立っており、パルプ製造過程での大量排水の放出および大気中への化学物質の放出など環境の破壊が懸念される。しかも、パラグアイ東部の固有の植生とは異なる針葉樹が植林される傾向があり、生態系への影響も一部に懸念されている。更に、森林伐採による表土の流出が長期的には土地の生産能力の低下をもたらすことも懸念される。
輸出生産品第一主義や外国資本の原料供給基地という側面から次世代においても豊かな農業、森林資源が引き続き開発可能な状況を維持するための総合的農業・林業資源開発計画の策定が必要となろう。
持続可能な森林・耕地・農業開発のあり方を模索する一手段として、多用な生態系を維持しながら農耕を行ってきている先住民の伝統的な農法を調査・研究し、そこから近代農に有効な方法を検出することが考えられる。
(産業廃棄物の投棄問題)
多くの開発途上国においては毒性が非常に強い産業廃棄物、場合によっては放射能を含む産業際器物が持ち込まれ投棄されるケースが起こっている。こうした物質に対する人々の知識が普及していないために様々な惨劇が起こる可能性がある。パラグアイ政府はこうした違法な産業廃棄物が国境を越えて持ち込まれないようにモニターする体制を整備する必要があろう。
(13) 市場のリスクを最小限にとどめるため、農産物の多様化をはかり、付加価値の高い農産物の開発、生産と輸出をはじめ、アグロインダストリーの育成をはかる必要がある。
今後の我が国にインフラ整備分野におけるパラグアイに対する協力を展望するに際して、特に重視しなければならないのは、MERCOSURの参加に伴う対応という新たなコンテクストの下でのニーズである。すなわち、既に第4章でも詳細に私的したようにインフラの整備に関しては。パラグアイはMERCOSUR諸国のなかで著しく遅れている。従ってインフラ整備の不足がパラグアイの輸出競争力の拡大、輸出の増加と多用化を著しく阻害するおそれがある。このことは特に未整備の部分が多い道路をはじめとする、輸送インフラや様々な問題が指摘されている通信等の分野にあてはまるものである。また、電力関係のインフラも発電設備については多大な余剰電力があるものの、送発電設備については、幾つかの問題が指摘されている。また、{インフラ整備に関わる人材の育成もさらに進める必要がある。
一方、MERCOSUR域内の道路を中心とする輸送インフラの整備に関しては、例えば、太平洋と大西洋を結ぶトランス・オセアニック、ハイウェー等のようなMERCOSUR全体のインフラ整備の構想が多数出されている。パラグアイは、そうしたインフラ整備に参加する必要があるが、その中で例えば、MERCOSUR域内の物流システムの中でどのような位置を確保するかなどについて十分な検討を行った上で、そうした構想に参加する必要がある。またこれに関連して、いずれかの国との国境に位置しているパラグアイの主要都市における経済活動の展望を含めて、MERCOSURの枠組みのもとでの輸送インフラの整備のニーズについて検討しなければならない。そのような十分な準備を行わない場合、MERCOSUR全体にまたがる輸送インフラ等の整備は、単にパラグアイを通過するだけのインフラ整備になりかねないからである。
また、このことと関連して重要なのは、幹線道路へのフィーダー道路的役割を果たす支線および農村地帯の道路の整備の必要性である。既に第4章で指摘したように、パラグアイの場合その気象的条件や土壌の特殊性から、道路の整備が成されるか否かは、農産物の流通、特に輸出競争力の強化にとって決定的な重要性を有している。従って、農業をはじめとするパラグアイの産業が、MERCOSUR域内での競争力を強化するためには、単に大規模な幹線道路の整備のみならず、これに如何にパラグアイの多数の地域が円滑にアクセス出来るか否かが重要な意味を持つ。従って、そのような観点からのインフラ整備がきわめて重要であると考えられる。
さらに、このことに加えてパラグアイにおける上下水道などを含む生活関連インフラの重要性も指摘しなければならない。これはパラグアイの特に貧困層の生活環境改善に不可欠であるのみならず、中長期的にはパラグアイの環境汚染を抑制し、「持続可能な環境保全を損なわない成長」を実現するために、欠かせないと考えられるのである。
インフラ整備の展望に関しては、現状の詳細については第4章に述べた通りであり、これまでに進められてきているインフラ整備をさらに継続するとともに、既に整備されたインフラの管理や補修の不足により、劣化してきていることも指摘されており、このようなインフラを管理・維持する能力を高める支援も必要となろう。また、このことと関連して、商業的に採算可能な分野に関しては、民間活力の導入を積極的に推進する必要がある。このことによって、それ以外のインフラ整備に公的資金や外国の国際機関からの協力を有効に活用する必要があるからである。この意味で民営化の基本的枠組みや、それを監視するためのレギュラトリィー・フレームワークの整備を急ぐ必要がある。
さらに長期的には、これまで開発が殆ど進められていないチャコ地方や北東部地方における開発のためのインフラの整備を、環境に十分に配慮しつつ行っていくことも必要であろう。そのためのインフラ整備は、これらの地域の開発の総合的プランのもとで行われる必要がある。
(1) 職業訓練への協力
職業訓練に対するこれまでの協力の成果に立ち、第4章の検討課題で述べたような環境変化を考慮に入れつつ、初級・中堅技術者の育成に対する協力を進めていくことが必要である。
(2) 教育分野への取り組み
人的資源の開発において、現在パラグアイ政府が最も重視し、改革の重要性について広くコンセンサスのあるのは、一般教育の改善である。とくに民主化と市場化、また貧困の改善を支援するという観点からも、教育の改善強化が望まれるところである。この分野への協力は、日本のODA大綱とも合致するものであり、何らかの形で検討すべき時期にきている。
これまで日本は、教育分野への協力は協力隊を通じて行い、理数科や体育、音楽といった学科に教帥を派遣してきた。教育改革の一環でも、教員養成校や教育監督官事務所などに協力隊員が配属されているにすぎない。
初等・中等教育の改革には、IDB、世銀による援助が行われてきたが、1994年から始まった初等教育の改革は1998年に6年次生まで一巡する。改革の第一段階の終了にともない、一定の評価が出されることになっている。これまでのIDBによる経過的な援助評価によれば、改革対象校は全体からみれば大海の島に等しく、改革が全体に浸透するには時間を要することが浮き彫りにされている。教科書自体の配布が遅れているという初歩的な問題から、二重言語教育を担える教師の不足などさまざまな点が指摘されている。教育分野がかかえる課題は大きく、改善が容易ではないということを物語るものといえよう。改革は緒についたばかりである。
ドナーである国際機関の援助の評価を踏まえて、教育の近代化への支援を具体的に考えていくべきであろう。IDB、世銀の援助がカリキュラムから教員の再教育、教育行政全般に及ぶ総合的な内容を含んでいること、米ハーバード大学HIIDの協力で、教育改革の戦略的プラン(「パラグアイ:2020」)を策定していることに鑑み、わが国の協力に当たっては、政府、文部宗務省はもとより、IDBなど他のドナーとの綿密な協力調整関係を踏まえた支援となることが必要である。
新規案件として、初等中等教育の教員の再教育についてすでにプロ技協が要請中といわれているが、新しいカリキュラムや授業方法に沿った教員の再教育が必要になってくる。すでに提示されている教育改革の枠組みの中で、どの領域に対する、どのような協力が効率的で可能かを十分検討すべきである。わが国としては、草の根無償や協力隊員の派遣との有機的連携を図り、とくに貧困層居住区への教育施設の改善や教育の普及についても考慮すべきであろう。
また国際機関が行っていない義務教育以外の高等教育、大学教育への協力の可能性についても協力の方途を探るべきである。これまでわが国が行ってきた高等職業訓練の実績を踏まえて、高等教育との連携を発展的に図っていくことも案である。
(3) 行政機構支援:公務員の資質強化
人的資源の開発については、すでに述べたように(第1章)、公務員の再訓練、能力開発を通じた行政機構の強化も視野に入れる必要がある。政府部門における全体的な合理化や効率化に関する指針や計画がない中で、どこまで協力が可能かの問題は残るものの、安定し効率的な行政を構築することは、パラグアイが直面する民主化や社会開発にとって不可欠な要件であり、協力案件の実効性、自立発展性および波及効果の拡大を根本的に左右する課題である。政府の政策立案能力や調整・運営能力などを向上させるためにも、行政能力の向上に資する協力が必要となっている。
たとえば文部宗務省の教育行政の強化などは国際機関も協力内容に取り組んでいるが、わが国も、農牧省など、これまで密接な協力関係を築いてきた部門において、農牧行政全般の能力向上にむけた協力が考えられる。
保健医療分野への我が国の協力は、概して、パラグアイの政策、現状にあった妥当な内容で実施され、その目的を達成しつつ、十分その効果を発揮したといえよう。
現在、厚生省は現状の課題と我が国の協力による効果を十分把握しているものと考えられ、今後も、厚生省は現在の政策である地域保健の開発・改善を推し進めるものと考えられる。我が国の協力も、基本的には、この厚生省の政策に沿って実施することが望ましいと考えられるが、これまでの協力の実績を通して推測される課題としては以下のような点であろう。
更に、今後我が国が保健医療分野に協力を行うに当たっては、USAID、世銀、GTZなどの国際機関、他の援助機関の積極的展開も考えられるところがら、他の援助機関の動向を把握しながら、当該分野における我が国の協力の適切な内容を策定していくことが望ましい。
特に、USAIDは保健分野を重点セクターとして捉えており、なかでもリプロダクティブ・ヘルスを中心に保健婦の養成、教育・啓蒙、避妊具普及などに援助を行っている。更に、この分野においては、我が国とのコモン・アジェンダの枠組みによる協力も期待している。