(現地調査期間:1995年9月25日~10月14日)
<評価調査団の構成>
(米国側)
ジョウン・ラローザ 米国国際開発庁(USAID)ナイロビ事務所
人口・保健課課長代理
ジェイコブ・ゲイル USAIDワシントン本部エイズ室室長
マリア・グティェレス 財務管理コンサルタント
エリザベス・マルム 米国疫病管理・予防センター
エイズ技術アドバイザー(ウガンダ駐在)
ヴィクトリア・ウェルズ USAIDナイロビ事務所
エイズ地域アドバイザー
マーク・アンソニー・ホワイト USAIDザンビア事務所
(日本側)
棚橋 啓世 東京経済大学経営学部教授
帖佐 徹 国立国際医療センター国際医療協力局派遣協力課医学博士、他
プロジェクト名 | 協力形態 | 協力期間 | プロジェクト概要 |
エイズ予防プロジェクト |
技術協力 無償資金協力 |
1992年~ | ザンビアにおけるエイズ感染を減少させるために、保健省やNGOを通じて、技術協力を行うとともに、人材育成及び物品の供与のための資金を提供する。 |
(注)日米合同評価は米国側案件についての評価調査と日本側案件についての評価調査の2度に分けて実施された。本稿は、そのうちの米国側案件についての報告書(要約)である。
USAIDザンビア事務所が行っている「エイズ予防プロジェクト」についての本件評価は、地球的展望に立った協力のための日米共通課題(日米コモン・アジェンダ)の精神の下、日米合同の評価チームによって行われた。USAIDザンビア事務所は、本件プロジェクトの中間評価を要請してきており、目的達成度の評価、予算と経費の見直し、協力機関の財務管理の査定、プロジェクト実施の制約の特定、プロジェクト実施の改善のための勧告、今後のUSAIDによるエイズ予防活動への資金提供のための勧告などを求めてきていた。
USAIDは、ザンビアの保健・人口部門の支援に関心を持ち、1992年に本件プロジェクトを策定した。USAIDがザンビアでのエイズ予防を優先事項と考えた理由は、エイズ感染がかなり広がっているにもかかわらず、エイズ予防のための資金が不足しており、エイズ対策に経験のある専門家も少ないためである。本件プロジェクトの目的は、保健省、NGOなどを通じて、技術協力、人材育成及び物品の提供を行い、地域住民のエイズ感染率を低下させることである。
(1) 政策策定
本件プロジェクトの下での資金協力により、政策策定顧問として働く現地コンサルタントのサービスを得ることができるようになり、政策策定部門がプロジェクトに含まれた。政策策定部門は、以下の三つの目標を設定した。(イ)政府の省庁を援助してエイズの拡大をコントロールするための政策を策定する。(口)エイズ政策の実施のために教会、NGO及び民間部門からの支援を動員する。(ハ)ザンビア政府を援助してエイズが与える影響を監視する。
この部門の成果としては、まず、1994年にザンビア政府の28の省庁及び機関でエイズの活動責任者が任命され、各省庁がエイズ・プログラムを策定するための研修を行った。労働・社会保障省、ザンビア経営者連盟は、雇用に係わるエイズ問題に取り組み、ザンビア・キリスト教会議は、現在、エイズと闘う中でそれぞれの役割を討議するために、教会及び宗教団体のための全国的なワークショップを主催している。
現地調査により、この部門の活動が順調に実施されており、1996年9月までにこの部門の目標が達成されることが明らかになった。ただ、政策部門の今後の作業は、コンサルタントではなく、ザンビア政府の職員が行うのが適当である。この活動に対するさらなる資金援助は行わないことを提言するが、他のUSAIDのプロジェクトにおいては同様のエイズ政策に取り組んでいく必要があると考える。政策策定顧問が行ってきた活動は非常に価値のあるものであるので、その責任を拡大させることを提言する。
(2) 職場におけるエイズ予防
この部門の活動には、管理者と労働者向けのエイズ教育集会、同僚教育員への研修、コンドームについての教育と配布が含まれる。これらの教育活動を支援するために、ビデオなどの優れた教材が開発された。また、教育や研修の質は非常に高かった。一方、この活動は、比較的少数の職場に焦点を当てた集中的なものであり、それらの職場では高い効果があった。
この活動の実施は1順調に行われていると言えるが、活動する職場の範囲を拡大する必要がある。USAIDはこの活動に資金を提供し続ける必要があるが、今後は、民間セクターとの間で費用を分担することに力を入れる必要がある。
(3) 伝統的な治療者
ザンビアにおける「伝統的な治療者」は、助産婦、信仰治療師又は心霊術者、占者、薬草医の四つのグループに分類される。この部門の活動は、分娩や伝統的な治療の際に感染することを防ぐための研修として始まったが、その後、患者に対する情報提供、地域社会の教育、さらにコンドームの使用促進と販売までも含むようになった。「伝統的な治療者」が3日間の研修へ参加することを促す手段として、研修を修了した証書の授与、日当の支給が行われている。研修修了者は、いかなる伝統的な習慣がエイズ感染を助長することになるのか、いかなるアドバイスを患者に行うべきなのかについての十分な知識を有していた。
この部門の実施状況は1順調である。こうした活動は本件プロジェクトが満足すべき効果を達成するためには潜在的に重要な役割を果たすと考えられる。現在は研修に参加する「伝統的な治療者」に日当を払っているが、研修への参加費を徴収する可能性を検討するべきである。
(4) 若年層のエイズ感染予防
エイズは、ザンビアの若年層、特に少女と若い女性にとって重大な脅威である。1992年のザンビア人口・保健調査によれば、ザンビアの少女の半分は、16歳までに性的関係を経験する。この部門の対象となったグループは、13歳から25歳までの若年層で、特に若い女性に重点が置かれた。
この部門の実施機関として、この分野の活動をすでに開始していたが、資金難に陥っていたYWCA(キリスト教女子青年会)が選ばれた。この部門の目的は、エイズ感染の知識を広めることにより、若年層が危険な性行為を行うことを抑制することである。若い成人150人を訓練し、彼らにそれぞれ150人の若年層の男女を教育させるシステムとなっている。この部門では、若年層を対象としたビデオや若者向けの雑誌を製作する活動に対しても資金を提供している。
これらの活動は、順調に実施されている。この部門においては、実施機関であるYWCAの能力と指導力を高めることに力を注ぐ必要がある。また、YWCAとの協力はエイズ教育の枠を越えて行われるべきである。USAIDがザンビアで行っている「家族計画サービス・プロジェクト」の技術協力チームとの間で、若年層に対する活動について調整を図ることが求められる。
(5) メディアを通じたエイズ予防
エイズ感染に関する社会的・文化的要因に取り組むには、個人や社会全体に対し、その行動や態度を変えさせるための広範なメッセージを展開することか不可欠である。この部門は、エイズ関連の報道などを量と質の両面で改善しようとするものであり、ザンビア・マスコミ研究所を通じて活動が行われている。四つの重要な活動分野として、(イ) エイズに関連した問題を扱うことのできる記者を養成すること、(口)メディアがエイズ関連の問題を多く取り上げるよう編集者と協力すること、(ハ)関係省庁のエイズ活動責任者に対し、エイズに関する情報をメディアに提供するよう指導すること、(二)記者、編集者、関係省庁の三者の協力関係を促進すること、が設定された。
この部門の実施も順調である。ただし、メディアは新しい統計や最近の政府発表を報道するだけではなく、これらを掘り下げて報道することができるよう記者に対する訓練の方法を再検討する必要がある。また、エイズ問題の原因となっている経済・社会問題や、エイズ危機がもたらす問題など、広い視野に立った報道もなされるべきである。実施機関であるザンビア・マスコミ研究所は、優秀な組織であり、「伝統的な治療者」などの教育にも適している。また、この分野の活動は、エイズを越えた保健分野全般についても有用なので、対象の拡大を検討すべきである。
(6) 任意のエイズ検査及びカウンセリング
希望者にエイズ検査を行い、エイズ感染者に対するカウンセリングを行うことについては、これまでエイズの予防措置としては、あまり有効でないと考えられていた。これは、エイズ検査の結果として感染が発覚した者がその行動を変えるかどうかについて十分な調査結果がなかったことにもよる。この部門の活動は始まったばかりであり、現在はエイズ検査を受ける人の数が少ない原因についての調査が行われているところである。
この部門の活動が持つ潜在的な意味は大きいと思われるが、まず、エイズ検査についての理解を促進する作業が必要である。また、カウンセリングが持つ意味についても、十分に理解させる努力がなされなければならない。USAIDは、この活動に対し今後とも資金供与する必要がある。
(7) 性病の管理プログラム
ある都市部の調査では、妊娠で入院中の女性の16%が梅毒のテストで陽性を示した。また、別の調査では、性産業に従事する女性のほとんどすべてが性病の治療を必要としていた。このような高い性病感染率と、これがエイズ感染を助長することを考えると、この部門の活動は、エイズ感染の予防に与える潜在的な効果があると考えられる。
実施機関である保健省が行っている活動の一つは、性病の臨床サービスの強化である。指定された診療所に性病関連の新しい設備と医療用品が支給され、性病治療の医薬品とコンドームがストックされた。そして、これらを使った研修コースが実施された。もうひとつの活動は、性病についての知識を広め、改善された診療所を利用する方法について地域住民を教育することである。地域教育員を養成して、ビデオテープや教材、コンドームを支給した。
しかし、ザンビアでこのようなプログラムを実行することは、コストがかかりすぎ、困難である。高価な医療機材には、使われていないものもある。医療機材を中心にすべきでなく、研修の実施と医薬品の提供に重点を置いた活動に変えることも検討すべきである。また、USAIDが調達する医薬品は米国から供給される規則になっているが、手続きに時間がかかりすぎる上、医薬品の費用を非常に高くしている原因となっている。
この部門については、コストが高く、医薬品の入手にも困難が伴うことから、USAIDとしてこの活動を継続すべきではないと考える。特に、医薬品の提供は1ヨーロッパや国連機関を通じれば、低コストで購入できるはずである。もし、USAIDが、この分野の活動を継続する必要があると判断する場合には、現状における問題点を徹底的に検討することを提言する。
(8) 少額贈与
この部門の目的は、地域社会のエイズヘの対応を支援することであり、これまで、研究や研修に関わっている地域組織に対して、32件、合計約22万ドルの少額贈与が行われてきた。贈与申請に対する決定は、一組織あたり1万ドルを限度として、モアハウス医科大学によりUSAIDの承認を得ながら行われてきた。
少額贈与の資金援助は、他の活動を補完するのに有効と考えられる。しかし、いかなる組織に贈与するかの選択基準については、再検討する必要がある。この部門の活動は、すでに予算額を使い果たしているので、この時点で終了させるべきであり、さらなる活動は必要ないと考える。
(9) コンドームの社会的普及
コンドームが正しく継続的に使用されれば、エイズ感染を減少させる効果が大いに期待できる。この部門は、全国においてコンドームをより手頃な値段で容易に購入できるようにすることを目的としている。具体的には、マーケティング、消費者調査、広告・宣伝活動、製造、包装、販売などの活動に対して資金を供与する。また、コンドームの正しい使用法を徹底するための教育活動もこの部門の一部である。
こうした活動の結果、コンドームの月間販売目標の60万個は達成されつつある。特に、「伝統的な治療者」やNGOを通じた売り上げの増加が顕著である。今後は、他の部門の活動と連携しつつ、コンドームの使用法についての教育をさらに強化する必要がある。
USAIDは、この活動にさらに資金をつぎ込むべきである。
(1) 家族計画サービス・プロジェクトとの統合
エイズ予防と家族計画は、性の概念や性の習慣に関連した問題を扱っているので、エイズ感染者の割合の高いアフリカ諸国の多くでは、両分野について公共部門におけるカウンセリングやサービスの活動を統合している。ザンビアの若い女性は、エイズなどの性病感染よりも避妊に対して注意を払っているとの調査結果も出ている。本件「エイズ予防プロジェクト」とザンビアでUSAIDが行っている「家族計画サービス・プロジェクト」についても、必要な統合を図るべきである。特にコンドームは、家族計画とエイズ予防の双方の目的に使用できるものであり、コンドームの普及に関する活動を統合することによる利点は大きい。
(2) 統合された戦略目標の策定
USAIDのザンビアでの活動のうち、保健分野では、エイズ、家族計画、子供の健康についての三つの個別プロジェクトが作成されており、ザンビアの国別プログラム戦略計画においても、三つの戦略が個別に記述されている。現在、ザンビア政府は優先事項として保健改革を進めているが、USAIDがこうした改革努力に意味のある貢献をするためには、USAIDの三つの活動を一つの戦略目標の下で検討し直し、ザンビア政府が行うべき三つの分野の政策をパッケージとして提示すること必要となる。そうすることによって、ザンビア政府の保健政策に対する米国政府の支援活動のあり方全般についても検討することが可能となる。