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2.開発援助に関する途上国NGO等の意識調査

FASID(国際開発高等教育機構)

(調査期間1996年1月11日~1月26日)

I 調査の目的

 本調査は、途上国の草の根レベルにおいて開発・援助に携わる個人の、開発・援助に対する基本的な認識を把握し、併せ、草の根無償資金協力並びに我が国の開発援助全般が、草の根レベルで如何に認識、評価されているかについて客観的なデータを得ることを目的として実施したものである。

II 調査方法

 本調査では、平成3年度から6年度までの、我が国の在外公館が所在する国における草の根無償資金協力の被供与団体813団体に対し、在外公館を通じて調査票を配布し、草の根無償資金協力に係わった個人に回答を依頼することとした。意識調査という本調査の性格上、調査内容は対象団体に所属する個人の見解を尋ねることとし、組織としての意見は求めていない。また、母集団を草の根無償資金協力の被供与団体に絞ったが、これは我が国の開発・援助に全く関わりのない草の根レベルの個人を対象とするよりも、何らかの形で関わったことがある個人を対象としたほうが、我が国の援助に対する問題意識が反映され、調査票の回収率も高いと期待されたためである。期限内の回収率は6割を上回った。

 草の根無償資金協力制限そのものの評価は、以前にも実施されているが、本調査の様に、我が国の開発・援助全般に係る意識調査が、草の根レベルの個人を対象に合計47カ国・5地域と広範囲にわたり実施されたことは初の試みである。

III 調査事項

調査事項は大きく、

 A 開発・援助に対する基本的考え方

 B 草の根無償資金協力に対する意見

 C 日本政府の現地政府に対する援助についての意見

の三つから構成される。(表1)

 

大分類 小分類 概要

A.開発援助に対する基本的考え方

(1)所属する組織の活動分野
(2)開発とはなにか
(3)活動において直面している問題
(4)活動における基本的考え方

(雇用促進、難民救済・人権擁護等)
(資金面、人材面、住民ニーズの吸収等)
(誰の価値観を重視するか、開発と環境保全についてどのように考えるか、どのような地域での活動を重視するか等)

 B.草の根無償資金協力
に対する意見

(1)草の根無償資金協力を最初に知ったきっかけ
(2)草の根無償資金協力によってなにが整備されたか
(3)稼働、利用状況が芳しくない理由
(4)望ましい機材調達とその理由
(5)所属する組織の年間事業予算に草の根無償資金協力が占める割合
(6)所属する組織の年間事業予算に公的資金が占める割合
(7)草の根無償資金協力の評価
(在外公館の広報、他のNGOからの伝聞等)

(建物、機械、消耗品等)

(技術レベル、メンテナンス体制等)

(現地製・日本生産等)

(品質、価格、アフタケア等)

(援助供与決定の迅速性、意思決定の透明性、プロジェクト申請手続きの簡便性等)

 C.日本政府の現地政府に対する援助についての意見

(1)日本のODAの理念の在り方について
(2)日本のODA事例の認知度
(3)日本のODAの実施体制に対する意見(優れている点、改善すべき点)

(4)日本のODAの問題点
(5)問題点解決のための方策

(6)日本のODAの改善の方向性

(7)日本のODAによる効果
(人道的考慮、世界の平和と繁栄、環境保全等地球規模の問題への取り組み等)

(援助理念の明確さ、相手国の開発ニーズの把握の的確さ、要請主義、地域社会の制度・慣習への配慮等)
(大規模プロジェクト中心、環境の配慮不足等)
(日本政府による積極的な案件発掘、NGO等との連携強化等)
(援助額と質のバランス、ソフト面への支援強化等)
(経済基盤の整備、教育水準の向上、民主化・市場経済化等)

 

IV 調査結果

 回答者は、草の根無償資金協力の供与対象となったローカルNGO、地方公共団体、教育・研究機関、医療機関の責任者及び国際的なNGOの現地担当者などであり、草の根無償資金協力の最終的な受益者ではない。従って、本調査は、裨益住民に個別インタビューしたという草の根に密着した意識調査ではなく、途上国のコミュニティーに根づいた組織で活動する人々の意識調査である。これらの人々の見解がそのまま最終稗益者である住民の見解と一致するか否かは、本調査の結果のみでは判断し難いが、これらの人々が一般住民の啓蒙に果たす影響力は看過できないことは事実である。ともあれ、回答者の視点がどのレベルに設定されているかをあらかじめ念頭においたうえで本調査の統計結果をみていくことが重要である。

 本調査の分析結果は、単純集計を行ったのち、回答者の活動地域(アジア、中近東、アフリカ、中南米、大洋州等)、組織の活動分野(保健医療、教育研究、農村・地方開発、難民救済・社会福祉、環境保全等)、組織の属性(国際的なNGO、ローカルNGO、その他)によってクロス集計した統計結果及び回答者の自由回答をもとに導き出されたものである。

1 開発援助に対する基本的考え方

(1) 開発とは何か

 全体として回答者が「開発」という概念をどのようにとらえているかという質問(複数回答)では、「人材の育成」(67%)、「貧困の克服」(39.5%)、「生産性の向上」(32.2%)が回答の上位を占めている。

 これを組織の活動地域別にみると、「中南米」において「人材の育成」、「生産性の向上」、「アフリカ」において「貧困の克服」、また「アジア」において「医療・衛生の改善」と回答した者が他の地域と比べて相対的に多く、地域によって「開発」に対するパーセプションが異なることを示唆している。一人当たりGNPが比較的高いアジア及び中南米諸国で活動している組織の回答者は、ある程度「貧困を克服」した次のステップとしての開発を、「医療・衛生の改善」に求め、あるいは「人材の育成」により「生産性を向上」させるというところに設定していることが推測される。「貧困の克服」が緊急課題であるアフリカとは対照的である。

 他方、組織の活動分野別に「開発」という概念のとらえ方をみると、ほとんどの組織が、自己の活動分野に相応する概念が第1位となったことは当然の結果といえよう(例えば、「保健・医療」の分野で活動している組織は「医療・衛生の改善」が第1位に、同じく「教育・研究」の分野で活動している組織は「人材の育成」が第1位に、「農村・地方開発」の分野で活動している組織は「貧困の克服」が第1位になっている)。ただし、「人材の育成」は、第1位に該当しなくても必ず第2位に位置しており、組織の活動分野にかかわらず「人材の育成」が重視されていることは興味深い。

 なお、組織の属性別の結果で注目すべき点は、「ローカルNGO」あるいは「その他」の組織に比べて、「国際的なNGO」は「開発」を「貧困の克服」、「医療・衛生の改善」と考えている傾向が看取されることである。他方、「その他」の組織は、経済開発に直結する六つの選択肢(「雇用促進」、「所得の向上」、「生産性の向上」、「民主化促進・市場経済への移行」、「産業基盤の整備」、「社会セクターの基盤整備」)総てにおいて、「国際的なNGO」あるいは「ローカルNGO」よりも回答の割合が高い。

(2) 開発において直面している問題

 「開発援助において、回答者の活動が直面している主要な問題」は何かとの質問(複数回答)に対して「活動資金をどう確保するか」(78.8%)、「有能な人材をどう確保するか」(43.6%)、「現地政府やドナーに対して援助の必要性をどう伝えるか」(4α9%)の順で回答を得た。これは、途上国の現場においてNGO等の組織が継続的に活動する場合、先ず組織としての資金的、人的基盤を安定させ、次いで資金源となる政府あるいはドナーに対して組織の活動への理解と支持を求めていくことが必要であると一般に認識されていることを示している。

 組織の属性別で見ると、「国際的なNGO」が「現地政府やドナーの意向と自らの考えをどう整合させるか」(38.3%)、「事業の効率と手続・会計のバランスをどうとるのか」(35.8%)、「現地のニーズをどう吸収するか」(32.1%)を問題としている傾向が、特に「ローカルNGO」と比べて強く、他方「ローカルNGO」は、「現地政府やドナーに対して援助の必要性をどう伝えるか」(448%)を強く問題視しており、両者間の問題認識の差が顕著に現れている。これにより、組織として既にある程度確立された「国際的なNGO」が、地域社会への適応、効率的な事業管理といった問題を重視しているのに対し、「ローカルNGO」は何より組織の資金的基盤の脆弱性を問題にしていることがうかがえる。

(3) 活動における基本的考え方

 開発・援助に関する活動に従事するに際して、「誰の価値観を重視していかなければならないか」という問いに対して「地域社会の価値観」(64.4%)が、また「どのような価値を重視していかなければならないか」という問いに対しては「経済的価値と社会的価値の両立を重視」(79.6%)がそれぞれ高い回答率を得ている。「地域社会の価値観」(64.4%)を重視しているからといっても「社会・文化的価値を重視」(15.7%)することには必ずしも結びついていない。但し、「社会・文化的価値を重視」すると回答した者は、組織の活動分野別にみた場合「農村・地方開発」に従事している者(22.7%)に多く、組織の属性別にみた場合、「ローカルNGO」(17%)において若干多くなっている。主な活動地域別でみた場合、「中南米」で活動している組織の回答者の約半数が「所属する組織の価値観」(47.5%)を重視していかなければならないと回答しており、また「社会・文化的価値を重視」(25.8%)していかなければならないとの回答率も比較的高く、他の地域とはやや異なった傾向を示している。

 「所属する組織の意向に加えて、だれの意向を重視していかなければならないか」という問いに対し「現地住民の意向」(67.4%)と回答した者が多い。活動分野別に見ても「現地住民の意向」と回答した者がいずれも5~7割を占めているが、「現地政府の意向を重視せざるを得ない」と回答した者が、「難民救済・社会福祉」(31.3%)、「保健・医療」(21.8%)の分野に多い。「現地政府の意向を重視せざるを得ない」との回答は活動地域別では「中南米」(21.7%)に、組織の属性別では「国際的なNGO」(17.3%)に比較的多い。また、「ドナーの意向を重視せざるを得ない」と回答した者(全体で159%)が、活動分野としては「環境保全」(19.2%)に比較的多くなっている。

 「開発と環境保全」についての考えを質した問いに対しては、「開発と環境の保全は両立可能」と回答した者が全体の88%を占めている。これを地域別に見ると、「中南米」において「開発を優先せざるを得ない」(6.7%)と「環境の保全を優先」(11.7%)が共に他地域より高く、考え方に多様性が見られる。なお、「環境保全」に従事している回答者の96.2%が「両立可能」と考えており、開発よりも「環境の保全を優先」(3.8%)としてはいないことが注目される。

 「いかなる地域での活動を重視していかなければならないか」という質問に対しては、「大都市圏と地方圏の均衡のとれた活動」(56.4%)が「地方圏での活動」(36-7%)を上回っている。組織の活動分野別に見ると、「地方圏での活動」を「農村・地方開発」(66.7%)と「環境保全」(61.5%)の分野で活動している組織の回答者が重視しており、全体の傾向と逆転している。「活動による稗益の対象層について」の考え方は、開発援助活動を実施するにあたり「効果の大きさよりも稗益の幅の広がりを重視」すると答えた者が、全体の50.9%、「裡益の幅の広がりよりも効果の大きさを重視」すると答えた者が44.4%であり、意見が分かれている。但し活動分野別で見た場合、「環境保全」(65.4%)において「効果の大きさを重視」との回答が多く、全体とは逆の傾向を示している。

2. 草の根無償資金協力に対する意見

(1) 草の根無償資金協力を最初に知ったきっかけ 草の根無償資金協力を最初に知ったきっかけは、「日本国の在外公館・国際協力事業団の現地事務所などによる広報によって知った」(34.2%)が最も多い。属性別に見ると、「ローカルNGO」は、「他の組織(NGO)から聞いた」(19.5%)と「活動上の仲間や友人から聞いた」(29.5%)が多く、個人的な情報網を通じて草の根無償資金協力の存在を知った者が「日本国の在外公館・国際協力事業団の現地事務所などによる広報によって知った」(24.5%)者より多い結果となっている。なお、「国際的なNGO」は、「その他」と回答した者が4分の1を超えているが、自由回答を見ると、この中には“本部からの情報で知った"とする者もかなり含まれる。

(2) 草の根無償資金協力によってなにが整備されたか(複数回答)草の根無償資金協力によって「機械・備品・資材」が整備されたと回答した者が63.7%、「建物・不動産・設備・その他定着物」が整備されたと回答した者が33.4%となっている。そのうち「当初の目的通り順調に稼働・利用された」(79.4%)、「ほぼ目的通り稼働・利用された」(15.7%)と評価している回答者が全体の95%以上を占めている。

(3) 望ましい機材調達とその理由

 草の根無償資金協力によって供与される機材の原産地に関して質したところ、「日本製の機材が望ましい」(42.8%)が最も多く、その主な理由は「品質が良い」(82.9%)であった。「現地製の機材が望ましい」とする者は全体の23.2%であり、その主な理由は「現地のニーズに最も合っている」(58.8%)となっている。なお、「その他の外国製の機材が望ましい」と答えた者は全体の4.3%にとどまっている。但し、三つの選択肢より択一するのは難しいとしている者も全体の19.1%を占め、“一律に何処製が良いとは言えない"、あるいは、“現地製と日本製の組み合わせが望ましい"としている意見もみられる。組織の属性別にみると、「ローカルNGO」(41.8%)や「その他の組織」(47.8%)の方が「国際的なNGO」(28.4%)よりも「日本製の機材が望ましい」と回答している割合が高い

(4) 所属する組織の年間事業予算に草の根無償資金協力が占める割合

 実施された草の根無償資金協力の、被供与団体の年間事業予算に占める比率は、「1%以上10%未満」(29.5%)がもっとも多く、次に「10%以上25%未満」(20.2%)となっている。但し、「アフリカ」で活動する組織、あるいは「ローカルNGO」のなかには、年間事業予算に占める比率が「50%以上」と回答した者も2割以上いる。

(5) 所属する組織の年間事業予算に公的資金が占める割合

 所属する組織の年間事業資金に占める公的資金(国際機関やドナー国政府の支援等)の割合は、「事業資金全体の25%未満」が31.0%、次いで「事業資金全体の75%以上」が24.8%で、大きく2分していることが判明した。現在の公的資金の比率別に、適正な公的資金の比率に対する意見をみると、概ね現在の比率が適正とする回答が多い。但し、「ローカルNGO」及び「その他」の組織に比べ「国際的なNGO」のほうが、公的資金に依存する比率が高くてもよいとする傾向が見られる。

(6) 草の根無償資金協力の評価

 草の根無償資金協力に対する評価を「優れている」、「劣っている」、「他のドナーと同じ」、「わからない」という選択肢で尋ねたところ、「援助供与の迅速性」(81.3%)、「意思決定の透明性」(77.6%)、「プロジェクト申請手続の簡便性」(79.8%)、「援助供与の際のコンディショナリティーの度合い」(73.1%)、必要性に見合った援助」(77.0%)、「広報姿勢」(70.5%)において7割以上が「優れている」と答えている。一方、「日本政府の案件発掘体制」(63.5%)、「援助実施後のフォローアップ体制」(57.O%)、「他の援助との組み合わせによる相乗効果の追及」(53.4%)については、何れも過半数以上が「優れている」としているものの、相対的に評価が低くなっている。組織の属性別に見た場合、「ローカルNGO」が、全般的に高く評価しているのに対して、「国際的なNGO」では、「他のドナーと同じ」と回答する者が他と比較して多い。

 「必要性に見合った援助」として「優れている」との評価は、「ローカルNGO」(77.6%)、「その他」(80.9%)の組織において、「国際的なNGO」(66.7%)より相対的に高くなっている。これは、特に「ローカルNGO」の置かれている立場は対象国により異なっているが(例えば、多種多様なNGOが存在して、ある程度社会的にその開発関連活動が評価されている地域、または、近年まで反抗分子としてNGO活動が現地政府により制限されていた地域、「国際的NGO」を母体とした「ローカルNGO」が実際の活動に多様従事している地域等)、概して「ローカルNGO」は地域住民への密着度が比較的高く現地のニーズを的確に踏まえた協力要請を行い得る立場にあるためと推測される。また、南アフリカ共和国のように、2国間援助スキームが導入される以前、草の根無償資金協力が、黒人社会への援助のために適用された公的資金援助の主流形態であった国や、フィリピンのように多くの援助が供与されている中、それを補完する形で今までの援助で手の届かなかったNGO等への支援として実施している国もあり、受入国によって本スキームが担う役割が異なるところも「必要性に見合った援助」としての評価が高い所以であろう。

 なお、他のドナーからも援助を受けている組織の回答者にそれらの援助と比較した草の根無償資金協力の最も優れた点と、最も改善すべき点を選んでもらったところ、回答にばらつきが見られるものの、最も優れた点としては「援助供与決定の迅速性」(16.9%)、「必要性に見合った援助」(11.4%)となっており、最も改善すべき点としては「人材育成等ソフト分野への援助」(13.4%)を挙げるものが多い。

3 日本政府の現地政府に対する援助についての意見

(1) 日本のODAの理念の在り方について

 「日本のODAはどのような理念・方針でおこなわれるべきか」という問い(複数回答)に対し、「被援助国の自助努力の支援」(50.9%)、「人道的考慮」(44.0%)、「環境保全など地球的規模の問題への取り組み」(26.3%)という回答が得られた。地域別に見た特徴は、「中南米」が先ず「環境保全等地球的規模の問題への取組」(41.7%)、次に「人道的考慮」(36.7%)と回答し、援助理念の順位が他の地域と異なる。また、「国際的NGO」が「人道的考慮」(63.0%)を選択した割合は、「ローカルNGO」(38.6%)、「その他」(391%)の組織と比べて高くなっている。

(2) 日本のODA事例の認知度

 「日本政府が行った開発援助の他の具体例を知っているか」という問いに対し、「1~2のプロジェクトを知っている」(42.2%)、「いくつかのプロジェクトを知っている」(39.9%)の順で回答があり、全体の82.1%が、日本政府が現地政府に対して行った援助を認知している。但し、「全く知らない」とした者も16.3%いる。

(3) 日本のODAの実施体制に対する意見

 日本のODAの実施体制について優れている点、改善すべき点をそれぞれ上位三つまで選択肢より選ぶようにして、その回答結果を、第1位に挙げられた場合は3点、第2位に挙げられた場合は2点、第3位に挙げられた場合は1点として総点数を算出、さらにこれを回答者数で除し、回答者1人あたりの各選択肢に対する評価点を求めた。

 上記の方法によると、すぐれた点として、「意思決定・実施手続きの迅速性」(1.08点)が最も評価が高く、「援助理念の明確さ」(1.03点)、「相手国の開発ニーズの把握の的確さ」(0.82点)と続いている。草の根無償資金協力に対して最も優れていると評価された項目と、本設間の回答との関係をみると、草の根無償資金協力に対して、「援助供与決定の迅速性」を最も優れていると評価した者の39.8%が日本のODAの「意思決定・実施手続きの迅速性」を最も優れている点として挙げており、草の根無償資金協力に対して、「意思決定の透明性」を最も優れていると評価した者の24%が、日本政府の「案件選定手続きの透明性」を最も優れている点として挙げていることがわかる。

 改善すべき点として、「援助のフォローアップ」(0.84点)が最も高く、「モニタリング・事後評価能力の高さ」(0.54点)、「相手国の開発ニーズ把握の的確さ」(0.51点)、「地域社会の制度・習慣への配慮」(0.51点)と続いている。草の根無償資金協力に対して、「援助供与決定の迅速性」を「最も改善すべき点」とした者の45.8%が、日本のODAの「意思決定・実施手続きの迅速性」を最も改善すべき点として挙げており、草の根無償資金協力に対して「援助の実施後のフォローアップ体制」を最も改善すべき点とした者の42.4%が、日本のODAの「援助フォローアップ」を最も改善すべきとしている。これより、草の根無償資金協力に対する評価と、日本のODAに対する評価との間に相関関係があることがわかる。

 組織の属性別にみると、「ローカルNGO」(0.84点)、「その他」(0.99点)の組織が、「援助のフォローアップ」を実施体制の改善すべき点として挙げた点数が「国際的NGO」(0.66点)に比べて高くなっている。また、「国際的NGO」は「相手国の開発ニーズ把握の的確さ」(0.85点)、「援助理念の明確さ」(0.40点)を改善すべき点として挙げた点数が、それぞれ全体の傾向(0.51点、0.29点)よりも大きい数字となっている。

(4) 日本のODAの問題点

 日本政府が行う現地政府への援助の問題点にっき質問したところ、最も改善すべき点として「プロジェクトが特定分野に偏っている」(22.8%)が多く、「大規模プロジェクト中心で一般住民の稗益を十分考慮していない」(21.8%)「現地住民の声を十分反映していない」(10.4%)と続いている。

(5) 問題点解決のための方策

 これらの問題点を解決する方策としては、「日本政府がNGOとの連携を深めその意見をできるだけ吸収する」(35.2%)という意見が最も多く、「日本政府が基本調査を十分に行い、住民ニーズを反映させる」(21.0%)、「現地政府の行政能力を高める人材教育と制度改革を図る」(13.O%)と続く。

 援助の問題点とその解決方策との関係をみると、「大規模プロジェクト中心で一般住民の稗益を十分に考慮していない」、「他の援助との関係に欠ける」を問題点とした者の半数以上が、「日本政府がNGOとの連携を深めその意見をできるだけ吸収する」をその解決策として挙げている。「現地住民の声を十分反映していない」ことを問題点とした者の半数近くが「日本政府が基本調査を十分に行い、住民ニーズを反映させる」をその解決策として挙げている。

(6) 日本のODAの改善の方向性

 日本政府の援助額は132.4億ドル(1994年実績)と世界1位であり、今後とも援助額を伸ばしていくべきか否かについて:「先ずは援助の効果的・効率的な実施を通じて援助の質的な向上を図るべきで、援助量はその結果にすぎないと考えるべき」と、「国際機関や欧米は援助疲れを起こしているので、日本がリードして全体としての額を確保すべきである」の2つの選択肢より、前者(67.2%)を選んだ者は、後者(30.3%)を選んだ者を大きく上回っている。特に、「国際的NGO」は、前者を選んだ比率(72.8%)が他の組織に比べて高い。

 「日本政府は、開発援助全体に占める人材育成、技術移転等ソフト面の援助の比率を今後増やしていくべきか」という設間に対し、「ソフト面への援助の比率を高めていくべきである」(50.9%)との回答が半数を超えるが、「先ずは資材・機材・施設建設等物的援助を確保していくべきである」(36.3%)との回答も多い。なお、「国際的NGO」が「ソフト面の支援の比率を高めていくべきである」(72.8%)と回答した割合は全体の傾向と比べてかなり高い結果となっている。

(7) 日本のODAによる効果

 日本政府の開発援助の被援助国の開発・社会福祉の向上にもたらしている現状での効果と今後重視すべき効果について、選択肢の中から上位三つまで選んでもらった結果、現状での効果は「技術レベルの向上」(0.76点)が最も高く、「経済基盤の整備」(0.73点)、「保健・医療の改善」(0.70点)の順になっている。今後重視すべき効果は、「人的資源の開発」(0.61点)が最も高く、「貧困の撲滅」(0.52点)、「自助努力の促進」(0.51%)と続いている。

 

V 調査結果を踏まえた今後の政策的課題

1.開発・援助に対する基本的考え方

(1) 「開発」という概念を「人材の育成」と共に「貧困の克服」と「生産性の向上」と捉えている。特に国際的なNGOやアフリカ地域では「貧困の克服」という共通認識の下に「開発」をとらえている傾向が強く、貧困の克服に焦点を絞った援助が求められている。

(2) 開発・援助に携わる者が直面している問題として、「活動資金の確保」と共に「有能な人材の確保」が挙げられており、途上国におけるNGOを含む被援助団体のキャパシティービルディング等への協力に対する検討が望まれる。例えば、NGOスタッフの国内外の教育・研修コースヘの参加に対する支援等。

2 草の根無償資金協力に対する意見

(1) 草の根無償資金協力は「援助供与の迅速性」、「意志決定の透明性」、「申請手続きの簡便性」といった面で高く評価され、今後も基本的には拡大が望まれる。ただし、「ソフト分野への援助」、「援助実施後のアフターケア、フォローアップ」、評価体制、継続的支援といった点において更に改善の余地がある。

(2)草の根無償資金協力は日本の援助のイメージアップや認知度の向上に繁がっており、その効果は注目に値する。

3 日本のODAに対する援助に対する意見

(1) 日本の援助の改善すべき点として「プロジェクトが特定分野に偏っている」、「大規模プロジェクト中心で一般住民の稗益を十分考慮していない」、「現地住民の声を十分反映していない」が挙げられており、NGOとの連携や基本調査により住民のニーズや意見を適格に把握しプロジェクトに反映させるような更なる努力が望まれる。

(2) 「日本のODAの額を確保すべき」という援助金額自体の増大よりも「援助の効果的・効率的な実施を通じて援助の質の向上を図るべき」といった被援助国の人々が稗益する開発効果に対する期待が大きく、援助の質をさらに向上させるためにも評価の必要性はますます高まっていると言える。

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