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2.現地調査における効果の評価

 今回の現地調査においては広範な関係者の尽力により、案件別、セクター別に効果や認知度をヒアリングすることができた。今回調査の目的はさまざまな方面で従来幾度も実施されてきた個別プロジェクトの効果を逐一まとめることではない。
 むしろ、案件の違いを超えて認識されている全般的効果を中心に日本の援助案件であることの認知度、留意点、今後の展望といったものを把握することであった。
 この観点から現地調査の結果を総論的にまとめると以下のようになる(案件別の各論は別添資料「プロジェクトの個別、波及効果、日本の援助の認識」参照)。

(1)円借款案件の全般的効果

 円借款の全般的な効果の特徴としてはその大きな裨益者数と地域再開発へのインパクトがあげられる。また、インフラ計画上の象徴的な案件が多く、日本の援助であることが広く認知されている。大プロジェクトが大きいだけに円借款は貴重な長期・低利の原資として注目を浴びているようである。

 北京首都国際空港の年間利用者2600万人、上海浦東国際空港の利用者2000万人という中国全土にわたる裨益者数の大きさもさる事ながら、西安上水道(調査時点未完成)の供水対象700万人などはほぼ同市の全人口が裨益対象になっているという意味で地域の稗益効果が極めて大きいものといえる。

 また、地域の再開発に大きな役割を果たしている例としては北京上水道がある。北京市市街区の南部および周辺4県の地域に供水するものであるがこれによって、北京市全市供水量300万立方メートルの半分を占める上水を供給が達成されている。

 重慶市上水道においては、市内供水総量103万立方メートルが19.41%増加した。具体的には2083戸の家庭が新たに供水を受けるようことができるようになった。民用水の供水能力増加によって、都市再開発が容易になっている。

 円借款は、資金調達が難しい案件にとっての重要な資金源であるということ自体が大きな貢献になっているとも言える。例えば、21世紀に重要な役割を果たす情報化に関わる案件である国家経済情報システムに対しては円借款による資金が所要資金の70%以上をカバーするなど、案件の実現に大きな推進力となったということができる。

 この国家経済情報システムは、最近の世界的なIT化、グローバル化に即応するために中国経済にとって非常に重要なプロジェクトとして、12省市、21の政府部門にわたる全国的な情報システムでマクロ経済管理をするものである。このプロジェクトは青島市(市内ネットワーク基盤整備完成)、済南市(市場経済情報ネットワーク完成)等地方のIT化推進の引き金にもなっている。


調査団が訪問した有償資金協力案件の主な直接効果
 北京首都空港
 -年間2600万人のキャパシティー(旧空港の3倍以上)

 上海浦東空港
 -年間2000万人のキャパシティー(旧虹橋空港は1300万人)

 大連大窯港
 -取扱貨物量年間310万トン拡大

 北京地下鉄
 -現在1日6万人の利用客が11万人に増加見込み

 南寧-昆明鉄道
 -貨物運搬量が2871トン→5110トンに増加(過去2年間)

 北京上水道
 -北京市全体の上水需要300万平方メートルのおよそ半分を供給

 西安上水道(訪問時:工事中)
 -2002年までに700万人市民の用水需要110万平方メートル供給可能

 白石ダム(訪問時:竣工式直前)
 -農業用水2.7億立方メートル、家庭・工業用水1.5億立方メートルを供給可能
 -年間発電2000万kwh、洪水制御、貯水池での養魚


 こうした案件は裨益者数および地域経済へのインパクトが大きかったり、国家の開発計画の実現に大きな役割を果たすものであるだけに全国メディアあるいは地域メディアには取り上げられ、その関連で日本の援助対象案件であることも認識されている。中には看板や記念碑を設置を予定する案件すらある。

 円借款の完成案件が蓄積されるにつれ、中国全体として鉄道電化総延長の約35%、港湾における1万トン級以上の大型バースの約13%、発電設備容量の3%など開発計画上の重要なプレゼンスを占めていることが改めて知られるようになっている。

 また、円借款は中国の援助全体のなかでも国家経済情報システムに見られるようにまとまった長期・低利の資金源になりうる数少ないスキームである。とりわけ世界銀行(IDA)が中国を対象にしなくなる今後においては円借款の果たす役割はますます大きくなると思われる。

(2)無償資金協力の全般的効果

 援助効果としては地域住民の社会生活(医療、衛生、教育、労働)に対する地に足のついた着実な裨益効果が目立っている。特に、最近の都市住民ニーズを反映した環境問題への取り組み(手をつなぐ地球村)や企業改革に伴う失業者サポートを目指す再就業施設(鞍山市再就業センター)、市場経済に取り残されて発展が難しい遠隔地での基礎的社会インフラ(小学校建設、給水プラント、山間部橋梁建設)、障害者リハビリ施設(四平市視聴覚障害センター)など時代や地域によってバリエーションがあるニーズに木目細かく応えている。

 例えば、再就業センターでは5.2万人への就職斡旋、3700名への職業訓練が実施された。また、橋梁建設では村中心部への所要時間の大幅短縮、農産物コスト削減による村民収入の増加(村民平均収入30元増加)が実現した。

 一般的に無償であることに起因する感謝の度合いが高く、対象地域の関係者においては引き続きに援助を求める声も大きかった。例えば訪問した第2次少数民族中学校(重慶)においてはコンピュータ教育が充実し、コンピュータ・クラスが週1時間から3時間に大幅に増加した。また、受入生徒が2860名から3025名に拡大するなど顕著な変化が現れていた。同じように草の根無償における小学校建設(南寧・民仁小学校建設)も受入生徒が103名から138名に拡大した。こうした遠隔地における教育の質は確実に向上したといえる。

 特に草の根無償においては今まで中国の行政ですら満足に対応できなかったケースを対象に現地のニーズを聞いたうえで供与を決定したところも多く、現地住民の感謝の度合いは極めて大きかった。

 地域住民に密着している援助案件であるがゆえに地域住民の認識は感謝という形に昇華している場合が多く、したがって、日本の援助であることを示す看板やプレートが目立つところにおかれていたり、日本の援助関係者との定期的な交流(中日友好病院)に発展したりして具体的な協力関係がわかるようになっている。

 このような交流への発展によって、施設の管理ノウハウの伝播がスムーズかつアップデートされ、時代に即応した、しかも自発的な施設の活用のされ方にもつながっていると推察された。

 案件のなかには、施設の管理運営がしっかりしていて、より多くの住民に使用を開放するなど、裨益効果が波及し、当初の見込みよりもさらに大きくなっているものも見られた(具体的には第二次少数民族中学校のパソコン施設および放送施設など)。


調査団が訪問した無償資金協力案件の主な直接効果
 第二次少数民族中学校
 -コンピュータ・クラスの拡張:週1時間→3時間
 -受入生徒数増加:2,860名→3,025名

 民仁小学校建設
 -受入生徒数増加:103名→138名
 -国語コンクールでの入賞など基礎学力の向上

 中日友好病院
 -治療患者数累計600万人、1,900人の研修医
 -地方へのITを利用した遠隔医療など自発的な先進試行

 ポリオ対策プロジェクト(無償+技協)
 -1995年以降、中国における野生株ポリオ発生せず。
 -周辺省から遠隔の南部・西部の省へ効果拡大

 白城地区農村給水計画
 -フッ素病地区30万8000人(総人口の約2割)の飲料水問題解決
 -疫病の流行予防、生活の利便性向上、農業生産拡大

 龍州県金龍給水プロジェクト
 -水汲み労働軽減により、村民収入10%増加
 -疾病率の低下により、村で1,500元の節約

 林県飲料水・電力供給および橋梁建設プロジェクト
 -4村1,180人の用水、電力を供給
 -消化器系の疾病率が80%減少
 -村から県庁までの所要時間:120分→40分
 -輸送コスト低減により農産物売上増加(平均30元増加)

 手を繋ぐ地球村(北京)
 -100ヶ所の小学校で環境教育実施
 -北京隣接の河北省に100ヶ所建設

 四平市視聴覚障害センタープロジェクト
 -設立以来264名の患者受け入れ(訪問時現在)

 鞍山再就業センター
 -5.2万人に職を斡旋。3,700人に職業訓練

(3)技術協力の全般的効果

 援助効果は日本からの専門家という人を介して行われているだけにその専門家の力量に左右される面がある。しかし、逆に具体的な人との交流が行われ、その結果、中国側のカウンターパート側での中国内での異動や派遣を通じて、ノウハウや技術が周辺地域や国全体にスピルオーバーしているという効果の広がりを見せている(ポリオ対策、天津酪農業発展計画、日中友好環境保全センター、労働部職業訓練指導員養成センター)。例えば、ポリオ対策プロジェクトはその効果が周辺省のみならず、南部・西部の省にも効果が拡大している。

 人材の育成を行うタイプの協力形態であるだけに、その個人が伝授された技術やノウハウをその後、努力によってさらに向上させ、外資系企業での貴重な人材になったり、地域産業へ大きく貢献している(労働部職業訓練指導員養成センターの人材の外資系自動車メーカーへの供給、天津酪農業発展計画における地域の畜産の生産性向上)。

 言うまでもなく日本人専門家との人間的関係の深まりに応じて、地域における日本の援助案件としての認知度は非常に高い(全て日本の援助を示す看板が存在した)。逆にいえば、供与する施設の性能よりもむしろ派遣する日本側の専門家の行動、実績が日本の技術協力案件への評価、認知度、感謝度を大きく左右するといっても言い過ぎではない。

 また、日本人専門家が任期を終えて帰国した後に自立的な運営が行われ、技術移転が継続され、さらに案件が発展的に活用されれば効果はより一層向上する。


調査団が訪問した技術協力案件の主な直接効果
 天津酪農業発展計画
 -市内の畜産の生産性向上(乳牛生産78,480頭→12万頭)

 灌漑排水技術開発研修センター
 -全国300モデル都市で当センターの技術活用

 日中友好環境保全センター
 -地方技術者への1ヶ月研修プログラムに発展(酸性雨関係)

 労働部職業訓練指導員養成センター
 -地域企業従業員への研修に発展(5年間に549人)
 -日系自動車企業等への指導員が就職(累計709人)

(4)調査団が特筆する援助への中国側の対応

 円借款、無償資金協力、技術協力を通じて確認されたことは、中国側の高い実施能力によって効果が左右されうるということである。この点に関しては上海市などの人材が豊富なところでは特に中国側の実施能力の高さが見受けられた。たとえば上海浦東国際空港などである。

 また、内陸の経済的後進地域においては円借款がまとまった貴重な資金ソースとして、非常に感謝されている。こうした地域では資金調達のための時間の空費を防ぎ、タイムリーな案件の具現化を推進していると受け取られているからである。したがって、こうした例においては供与金額が必ずしも大きくないにも拘らず、認知度や感謝度が高いことが感じられた。

 近年、日本の援助が地域住民のニーズに木目細かく配慮する姿勢に変わってきていることも、中国側の感謝の度合いを向上させている要因の一つである。

 一般無償、技術協力、草の根無償に代表される木目細かなニーズへの対応はもちろんであるが、それに至る案件の発掘に小さな村まで足を運んで事情を把握する大使館、総領事館職員の日々の地道な努力が中国側にも好感をもって受け止められ、日本の援助「活動」への認識向上に一役かっている。

 無償であることに対する感謝の声が大きいことは一般論として当然であるが、感謝の声が具体的であるのはこうした住民に接した形の案件形成の過程での対話が寄与していることと思われる。

(5)今後の対中援助の役割にかかわる展望について

 今後中国側の実施能力が高まるにつれて援助効果はその金額の多寡に拘らず向上していくであろう。加えて木目の細かくニーズを発掘し、案件形成することによって、援助効果は感謝という意味も含めて向上するであろう。円借款+無償資金協力+技術協力のメニューの柔軟な組み合せや有機的な活用でニーズに柔軟に対応し、より大きな効果が期待できる。

 特に世界銀行のソフトな資金(IDA)が継続されないなかで、中国の援助の現場では日本のODAへの必要性やニーズはますます高まる。必要性やニーズのあるところに十分な対話とタイムリーな供与を行えば、感謝の度合いは必然的にさらに高まると考えられる。



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